ピアノが主になる瞬間も作りたい
金澤 Kitriさんはこれまでずっとクラシック音楽を演奏されてきたんですよね。僕はクラシックとポップスを別ものとして考えてしまうことが多いですが、Kitriさんはクラシックをベースにうまいバランスでポップスを取り入れていますよね。
Mona 幼い頃からクラシックピアノを弾いてきて、私にはこれしかないからこそ、自分が演奏できるクラシック音楽をベースにして新しいことをしたいという気持ちがありました。
金澤 僕はどちらかと言うと自分にないものを取り入れるタイプなので、自分がすでに持っているものから新しい何かを作ろうと考えたKitriさんはすごいなと思いました。そこから音大を出て、クラシックが血肉になっている大橋さんに憧れて、一緒にアルバムを作って、よくできた1つのストーリーのようですね。あと僕が2人の連弾を聴いて感じたことがあって、ピアノだけのパートでもほかの楽器の音が鳴っているような不思議な感覚がしたんです。
Mona ピアノがすべてのオーケストラの楽器の音域を補えるからかもしれません。私たちの音楽はあくまで歌が主ですが、ピアノが主になる瞬間も作りたいと思っています。
金澤 なるほど。演奏するときは主にMonaさんが歌って低音側を弾きながら、Hinaさんがリードギタリストのように高音側を弾いていますよね。YouTubeでKitriさんの動画を観ていて、Monaさんの右手とHinaさんの左手の連携から「ここで手は離れて、ここで手をどかすんだ」という緊張感を感じました(笑)。
Hina それでも、手がぶつかることはけっこうありますね。同じ音を弾く瞬間もあるので、ズレないように集中して弾いています。
金澤 それぞれが弾く鍵盤の住み分けがよく考えられているなと思いながら観させていただきました。
Kitri ありがとうございます。
金澤 ライブではピアノ以外の楽器を弾くこともあるんですか?
Hina 私がギターやパーカッションも担当しています。先日初めてのワンマンライブがあって、14曲演奏させてもらいました。
Mona 金澤さんにライブを楽しめるコツを伺いたいです。ライブでは楽しさよりも緊張が上回ることがあって。
金澤 なんだろうなあ。ちなみにライブではMCで話しますか?
Mona はい。緊張で曲の雰囲気を壊してしまうぐらい話してしまうこともあって、なかなかうまくいかないんです。
金澤 最近気付いたことですが、お客さんは自分たちを写す鏡だと思うんです。だからお客さんを緊張させないことが大事。自分たちが緊張すればお客さんにもそれが伝わって、会場中が固まってしまう。自分たちがリラックスしていれば、お客さんも同じ気持ちで観てくれるだろうからライブを楽しめると思います。でも緊張感があったほうがいい場合もあるから、そのときは自分たちから「今日のライブはこういうモードだよ」という雰囲気を出すといいかもしれません。
Mona ありがとうございます!
Hina 勉強になります。
可能性を感じる1枚
金澤 「Primo」はKitriの全部を詰め込んだというよりは、Kitriがどんなアーティストでどんな演奏をしているのかがわかる1枚ですね。特に「羅針鳥」は「この曲はなんだろう?」と引っかかる曲になっているし、ゴンドウトモヒコ(Horns, Sequence / METAFIVE、anonymass、pupa)さんもユーフォニアムやフリューゲルホルンで参加されていますよね。聴いた人が可能性を感じるような大成功の作品だと思います。
Kitri ありがとうございます。
金澤 全体的にハイセンスなのに聴きやすいし、間口が広いから引き込まれる。「細胞のダンス」も好きです。頭の中で別アレンジが鳴るくらい。ミュージシャンが聴いたら「僕ならこうしたい」という考えが浮かんでくると思います。
──金澤さんがKitriさんの楽曲にアレンジを加えるとしたら、どんなイメージの曲にしますか?
金澤 ピアノの音を別の音に置き換えるだけで世界が変わるし、曲の中に詰まっている壮大さを後押しするようなアレンジになるのではないかと思います。
「これがKitriです」と言える曲
──Kitriさんはどんな思いを込めて「Primo」を制作されたんですか?
Mona メジャーデビューが決まる前からコツコツと作っていた曲の中からいくつかを選んで「Primo」を作りました。「羅針鳥」はメジャーデビューが決まったときに「これがKitriです」と言えるような曲を作りたいと思って書いた曲です。
金澤 「Primo」の歌詞カードを拝見したんですが、言葉が絵本のように色彩的ですよね。「私はこうなんだ」と強く主張しなくても、いろいろなものが伝わってきます。ちなみに、Hinaさんは作詞作曲はされるんですか?
Hina 最近、歌詞を書き始めました。大学卒業後は作曲もしたいです。
金澤 2人の曲や詞が融合したら、さらにえらいことになりそうですね。最近歌詞を書くようになって感じたことはありますか?
Hina 姉が作ったKitriの世界観を壊さないように、違う色も入れつつも同じ色にしたいと思っています。そういった意味では作詞は難しいですね。でも姉と相談しながら作っているので、これからもっと新しい世界を見せていければと思っています。
金澤 歌詞にもいろいろなカラーが見えてきて、今後どんな形にも変わることができそうでとても未来を感じます。
Hina ありがとうございます。
金澤 Monaさんは歌詞を書くとき、どういったことを意識しているんですか?
Mona もともと物語を作るのが好きで、自分が感じたことや体験をもとに物語を考えるイメージで歌詞を書いています。でも、ときどき作った曲がちゃんとKitriの世界観に合っているかどうかわからなくなるときがあって。金澤さんは曲を作る際に意識されていることはありますか?
金澤 メンバーとはデビュー当時から「作詞も作曲もフジファブリックがやらないようなことをやっていこう」と話していますね。「若者のすべて」もその例で、意外とうちがやらないようなことを取り入れた曲が、最終的に“フジファブリックっぽさ”になることもあります。Kitriが将来どんな選択をしていくのかはわかりませんが、自分たちがやらないようなことにトライしたとしても、最終的にそれが“Kitriっぽさ”になると思うし、それがユニットやグループの強みだと思います。
Kitri ありがとうございます。
金澤 とんでもないです。ひと言ひと言「ありがとうございます」って返してくれるから不思議な感覚になりますね(笑)。
Hina 1つお聞きしてもいいですか? 私は作詞するときに抽象的な書き方をしてしまうことが多いんです。金澤さんが作詞された「恋するパスタ」のような歌詞を書きたいのですがうまくいかなくて……金澤さんは歌詞を書く際はどういったところから発想を得られていますか?
金澤 この曲ヤバいよね(笑)。実は僕、健康オタクで、自分の血糖値が気になった時期に血糖値測定器を買ったんです。その測定器を着けてパスタを食べたら、驚くべき血糖値になって。確かにパスタを食べているときは少し高揚している感じがして、「この高揚感は恋に似ているな」と思い付いた勢いで書きました。
Hina では、実体験をもとに書かれることが多いんですか?
金澤 「恋するパスタ」の歌詞は実体験をそのまま書いたわけではないですが、普段感じたことを何かに置き換えて書くことはよくあります。この曲の「くらくらしちゃう」という歌詞とか、実は血糖値の話なんです(笑)。
Hina そうだったんですね(笑)。ありがとうございます。
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大橋トリオのひと言アドバイス