Kitri×金澤ダイスケ│大橋トリオを敬愛するピアノ連弾姉妹

4人のキュレーターがそれぞれ話を聞きたい次世代アーティストとトークする「Coming Next Artists」シーズン2の対談企画。第6回ではキュレーターの金澤ダイスケが京都出身の姉妹からなるピアノ連弾ユニットのKitriを指名し、Mona(Vo, Piano)、Hina(Piano, Cho, G, Percussion, etc)の2人にピアノ連弾というスタイルに至った経緯や1月23日にリリースされた新作CD「Primo」について話を聞いた。

取材 / 近藤隼人 文 / 酒匂里奈 撮影 / 星野耕作

Coming Next Artists シーズン2

Kitri(キトリ)
Kitri
京都在住の姉妹からなるピアノ連弾ボーカルユニット。共に幼少期よりクラシックピアノを学んでおり、姉のMona(Vo, Piano)はセコンド(低音側)、妹のHina(Piano, Cho, G, Percussion, etc)はプリモ(高音側)を演奏している。2015年、京都を拠点にユニットとしての音楽活動を開始。2016年には自主制作盤が大橋トリオに評価され、大橋が手掛けた映画「PとJK」の劇伴音楽に参加した。2019年1月23日には日本コロムビア内のレーベル・BETTER DAYSより、大橋プロデュースによる5曲入りCD「Primo」でメジャーデビュー。同年1月から2月にかけて初のワンマンツアー「キトリの音楽会#1」を開催した。

父が事務所に渡した音源

──「Coming Next Artists」シーズン2は金澤さんをはじめとするキュレーターの方々が話を聞いてみたいアーティストと対談する企画です。今回、金澤さんがKitriさんを指名されたのはどうしてですか?

金澤ダイスケ  Kitriさんのことは前から知っていたんですけど、「Primo」を一聴して「どんな人たちなんだろう?」と気になったんです。ピアノはダビングをしているのか、連弾なのか、とても興味が湧きました。いろいろな記事を読ませていただいて前情報を仕入れてきたんですが、姉妹で活動されているんですよね? 2人は何歳のときにピアノを始めたんですか?

Kitri。左からMona(Vo, Piano)、Hina(Piano, Cho, G, Percussion, etc)。

Mona(Vo, Piano) 私は4歳のときにピアノの音楽教室に通い始めました。

Hina(Piano, Cho, G, Percussion, etc) 私は姉に憧れて、6歳のときにピアノを始めました。

金澤  そうなんですね。僕がピアノを始めたのは小学4年生の頃だったかな。でも中学に入ってサッカーを始めて、あまりピアノの練習に行かなくなってしまって。その間にバンドに目覚めてしまったタイプです。あと僕には弟がいるんですけど、兄弟でバンドを組んだとしても性格上の問題で成功しないと思うんですよ。2人は音楽の好みなどは似ているんですか?

Hina 似ていると思います。

Mona 同じテレビ番組を観たり、同じ本を読んだりしているし、価値観がけっこう似ていますね。

金澤  いいですね。「Primo」はお二人が尊敬する大橋トリオさんがプロデュースされていますが、もともと大橋さんに憧れていたんですか?

Hina 家族で大橋さんのファンなんです。大橋さんに私たちの曲を聴いていただけたのも、父が大橋さんの事務所の社長さんに自主制作音源を渡してくれたからで。

Mona 当時私は大学4年生で、周りの友達が就職活動をしていた中、自分は音楽で生きていきたいと思っていたんです。でもいろんなところに応募をしても何も引っかからなくて、父にその悩みを相談した直後のことでした。

金澤  バンドで言うと、自分たちでレコード会社の人とつながっていくことはありますが、お父さんが音源を渡すっていうのは聞いたことないな(笑)。

Mona 家族はいろいろな部分でサポートしてくれていていますので、期待に応えられるようにがんばらなければと思っています。

母がごみ箱から見つけた曲

Kitri

金澤  曲はMonaさんが書かれているんですよね。曲作りはいつからされているんですか?

Mona 小学校低学年の頃テレビから流れている音楽を真似してメロディや歌詞を作ってましたが、あくまでも趣味の範疇でした。大学ではクラシックピアノを専攻したくて、受験のために毎日朝から晩までピアノを弾いていました。でもあるとき「これって私がやりたい音楽なのかな?」と行き詰まってしまって。その時期に家族には内緒で曲を作って自分の考えを吐き出したり、自分の作った世界観の中に逃げ込んだりしていました。

Hina そしたらある日、母が「パソコンのごみ箱にMonaちゃんが歌っている曲があって」と姉が自作した曲を歌っている音源を聴かせてくれたんです。

金澤  え、ちょっといいかな?(笑) お母さんがごみ箱から見つけたの?

Mona たまたまです(笑)。受験中は家族と離れて住んでいたのですが、母から電話がきて「あの曲、何?」と聞かれました。「バレてしまった……」という気持ちと申し訳なさで、泣きながら「受験のためにピアノを練習しないといけないのにごめんなさい」と謝ったら、母が「そうではなくて、すごくいい曲だったから、がんばって」と言ってくれたんです。

金澤ダイスケ

金澤  僕はパソコンのごみ箱に捨てたデータをすぐ空にするんですが、今の話を聞いたら少しの間は残しておこうかなと思いました(笑)。

Mona そのあと無事に大学には受かったのですが、ピアノの世界で上には上がいると思い知らされて。どうしても音楽で生きていきたいと悩んでいたとき、子供の頃にHinaとピアノの連弾をしていたことを思い出したんです。Hinaとは声が似ているから2人で歌いながら連弾すれば面白くなりそうと思って、Hinaに「ユニットを組もう」と言ったらすぐに賛成してくれました。

金澤  Hinaさんは誘われたときに迷いはなかった?

Hina 「面白い!」と思って、すぐにやりたいと返事をしました。

金澤  そのタイミングには“ごみ箱の曲”以外にも曲はできていたのですか?

Mona そこまで多くはありませんが、いつか連弾できるかもしれないと思って連弾用の曲を少しずつ書いていました。

金澤  ちなみに “ごみ箱の曲”はホントに捨ててしまったんですか?

Mona いえ、「リズム」という曲名で2017年に配信限定でリリースしています。

金澤  ごみ箱を感じながらもう1回聴こう(笑)。

Mona ありがとうございます(笑)。