HoneyWorksがサウンドプロデュースを手がけ、今年2月にメジャーデビューを果たした10人組アイドルグループ・高嶺のなでしこ。まだ結成3年目ながらアイドルシーンの中心で活躍している彼女たちは、日頃のライブ活動の傍ら、酪農応援アンバサダーとしての役割にも尽力している。
飼料価格高騰などで厳しい状況に直面しているという日本の酪農。その現状を広く伝えるとともに、安全安心でおいしい牛乳の魅力を訴求し、消費量拡大を図る「酪農応援プロジェクト」の一環として、高嶺のなでしこは牧場で自ら酪農を体験したり、学校を訪問して講師として酪農に関する特別授業を実施したりと、エンタメ業界の中から趣向を凝らした発信を行ってきた。
音楽ナタリーでは高嶺のなでしこの橋本桃呼、春野莉々、東山恵里沙、星谷美来と、中央酪農会議の菊池淳志専務にインタビュー。日本の酪農の現状について聞きつつ、メンバーが酪農応援アンバサダーとして活動する中で気付いたこと、今後「酪農応援プロジェクト」で挑戦してみたいことなどを語ってもらった。2023年10月16日「世界食料デー」に酪農応援プロジェクトが発足してから1年。酪農応援アンバサダーの活動にかけるメンバーの思いを紹介する。
取材・文 / 左藤豊撮影 / はぎひさこ
酪農が危機に直面しているなんて知らなかった
──現在、日本の酪農が苦境に立たされていると聞いています。最初に、中央酪農会議の菊池専務に酪農の現状を伺わせてください。
菊池淳志(中央酪農会議) まず、ウクライナ侵攻と新型コロナウイルスの蔓延によって物価が大きく上がり、酪農の生産コストも上昇しました。さらに、コロナ禍によって牛乳がなかなか売れなくなり、現在酪農家の戸数減少に拍車がかかっています。もしこのまま減少が続けば、いずれ国内だけでは牛乳の生産をまかなえなくなってしまいます。厳しい状況にある酪農を応援していただくには、酪農を取り巻く現状や酪農家の思いを多くの方に知ってもらいご理解いただく必要があると考え、酪農応援プロジェクトを立ち上げました。
──酪農応援アンバサダーに高嶺のなでしこが就任したのはどういう経緯だったのでしょう?
菊池 ほかの世代と比べて、特に若い人たちの牛乳、乳製品の消費量が少ないんです。そこで、若い人たちに酪農の現状を知っていただきたいと考えました。その世代は主に情報をSNSから得るので、XやYouTubeを通して発信していただける方が適任だと思い、高嶺のなでしこさんにアンバサダーをお願いしました。
──高嶺のなでしこの皆さんは、酪農応援アンバサダー就任の話を聞いたときにどう思いましたか?
橋本桃呼 「まさか!」と思いました。そもそも牛乳やチーズといった乳製品は身の回りに当たり前にありますし、今回のお話をいただくまで酪農が経営危機にあるなんてまったく知りませんでした。
星谷美来 私はそれまで「小さい頃に家族で牧場に行って乳搾りやバター作りを体験した」くらいの経験しかなかったので、アンバサダーに選んでいただいた当初は「私たちが酪農のことをきちんと発信できるのだろうか?」という不安もありました。
──高嶺のなでしこは昨年10月に酪農応援アンバサダーに就任。そこから実際に牧場へ足を運び、酪農の現場を体験されました。そこで初めて知ったことや学んだことがたくさんあったと思います。
橋本 私は北海道の牧場を訪問し、餌やりや牛さんの寝床掃除を体験しました。酪農家さんは牛さんの栄養のことをすごく考えて、自分たちの畑で作ったものと輸入したものを餌として混ぜてあげていました。そして、「輸入飼料の価格が高騰していて大変なんだ」というお話も伺いました。私が体験を通して感じたのは、酪農家さんは牛さんと消費者のことを本当に深く考えて酪農に取り組んでいるということ。酪農家さんの思いを直接聞いて、自分たちもアンバサダーとしての発信をがんばらなきゃいけないなと思いました。
東山恵里沙 私は岐阜の牧場に伺ったんですけど、そこで酪農家さんが毎日数時間おきに牛さんの様子を見ているという話を聞いて驚きました。酪農を続けることの大変さを感じましたね。そして、私たちに何か協力できることはないかなと思うようになり、酪農体験以降、「アンバサダーの私たちができることってなんだろう」と普段から考える機会が増えました。
星谷 私も同じく岐阜の牧場に伺ったんですけど、まずびっくりしたのが牧場のきれいさでした。手入れが隅々まで行き届いていて。そのおかげか牛さんの毛並みもすごくよかったんです。酪農家さんの愛情を実感しました。またその地域では牧場がどんどん減っていて、「自分がここで続けていかなきゃいけないという使命感を背負っている」というお話を聞いて心を打たれました。
春野莉々 私は神奈川県の牧場に伺いました。酪農家さんたちがとても優しく、牛さんのお世話の手順をイチから細かく教えていただきました。「餌ももちろん大事だけどブラッシングなども味に関わってくる」と教えていただいて。アンバサダーとして牛乳のよさを広めていけたらと思っています。
乳搾り、酪農授業、ニュースのキャスター体験も
──酪農体験の映像の中には、春野さんが乳搾りをするシーンもありました。体験してみていかがでしたか?
春野 初めてだったんですけど、(乳を搾る手の動きを再現しながら)教えていただいた通りにやったらすぐに出ました!
橋本 上手なんだ!?
春野 上手なのかもしれない(笑)。そして、牛さんの体が温かくて、当たり前のことなんですけど「わあ、生きてる!」と感じましたね。自分の心まで温かくなりました!
──また、春野さんと東山さんは都内の学校を訪問し、酪農について学ぶ「ミルクの時間~酪農特別授業~」で講師役を務めました。
東山 授業ではユニークなクイズ形式で生徒さんに酪農についてお伝えしました。皆さん楽しそうにお話を聞いてくださったのが印象的でしたし、同時に酪農の現状を知って驚いている生徒さんもすごく多くて。わかりやすい形で発信することの大切さを感じました。
春野 生徒の皆さんと一緒に「牛乳の消費量を増やすにはどうしたらいいか?」という問題を考えたところ、自分だけでは思い浮かばなかったような案がたくさん出てきてとても興味深かったです。今回は1クラスだけだったんですけど、さらにいろんな場所で特別授業ができたらいいなと思いました。また、この授業では酪農応援プロジェクトのテーマソングである「いつか私がママになったら」を弾き語りで披露しました。とても緊張しましたが、皆さん優しい目で聴いてくれたのがうれしかったですね。
──さらに橋本さんと星谷さんは気象情報番組「ウェザーニュースLiVE」に出演し、「酪農応援ニュース」のキャスター役を務めましたが、いかがでしたか?
星谷 日頃から自分が観ていた番組だったので、呼んでいただけてうれしかったです。カメラの前で酪農の現場についてお伝えしたことで、改めて自分の中で理解が深まりましたし、生放送という形で視聴者の方に伝えられたのもよかったなと思っています。そして、お天気お姉さんになったつもりで「ホットミルク指数」をお伝えできたのが楽しかったです! 興奮してテンションが上がっちゃいました(笑)。
橋本 ファンの方からのお便りを読むコーナーがあり、「たかねこをきっかけに、牛乳や乳製品を摂って酪農家を応援したいと思うようになりました」「牛乳を使って料理を作りました」といった声をいただきました。アンバサダーとしての行動が皆さんに伝わっていると実感できて、すごくうれしかったです。
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衝撃が大きかった酪農応援プロジェクトのイメージソング