HoneyWorksがサウンドプロデュースを手がける10人組アイドルグループ・高嶺のなでしこ。今年9月に千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールでのワンマンライブを控えるなど、人気上昇中の彼女たちは、アイドル活動と並行して酪農応援アンバサダーとしても活躍している。
飼料価格高騰による経営難など厳しい状況に直面している日本の酪農。その現状を広く伝えるとともに、国産の牛乳および乳製品の魅力を訴求して消費量拡大を図る「酪農応援プロジェクト」の一環として、これまで高嶺のなでしこは牧場で自ら酪農を体験するなど、積極的に現場に赴きながら発信を行ってきた。そんな中、彼女たちが今まで触れる機会がなかったのが、牛乳が酪農家から店頭に届く過程。先日YouTubeで公開された新たな映像「ミルクの旅路」には、ミルクが届くまでの“旅路”をさかのぼり、安心安全なミルクを送り出すために日々取り組んでいる人たちと出会う様子が収められている。
音楽ナタリーでは前回の特集(参照:“酪農応援アンバサダー”高嶺のなでしこ、楽しく学びながら発信する酪農家の思いや牛乳の魅力)に続き、高嶺のなでしこの酪農応援アンバサダーとしての活動をフィーチャー。「ミルクの旅路」に出演した涼海すう、葉月紗蘭、東山恵里沙と、映像のディレクションを担当した安田真奈監督にインタビューし、撮影を振り返っての感想や視聴者に伝えたいことを聞いた。
取材・文 / 左藤豊撮影 / はぎひさこ
「ミルクの旅路」の映像は、3月6日にTOKYO MXと「ウェザーニュースLiVE」で生放送・生配信された「5時に夢中!」スピンオフ特番「ミルクにモ~夢中!」の中でダイジェスト版が初公開された。高嶺のなでしこは生放送中、「ミルクの日のミルクの時間」である3月6日午後9時にミルクで乾杯。牛乳のおいしさを視聴者にアピールした。
「ミルクの旅路」には伝えたいことが詰まっている
──牛乳の生産、流通過程を紹介する「ミルクの旅路」が公開されました。まず、安田監督がこの映像作品を手がけるに至った経緯を教えてください。
安田真奈 私はこれまで、上野樹里さん主演の「幸福(しあわせ)のスイッチ」(2006年公開)では電器屋さん、小芝風花さん主演の「TUNAガール」(2019年公開)ではマグロの養殖、片岡千之助さん主演の「メンドウな人々」(2023年公開)ではうどんと、食や仕事に関する作品を撮ってきました。食べるものと働く方々にスポットを当てる酪農応援プロジェクトの趣旨と親和性があるということで、前回制作した映像「ミルクの時間」に続いてオファーをいただきました。
──安田監督はもともと酪農や乳業に関して詳しかったのでしょうか?
安田 いえ。本当に申し訳ないのですが、酪農応援プロジェクトに関わるまではまったく詳しくなくて。「コロナの影響で牛乳の消費が減っている」というニュースを耳にしたことがある程度だったので、たくさんの酪農家さんが経営で苦しんでいる現状を知り、衝撃を受けました。そこから「応援したい」という気持ちが沸々と湧いてきました。
──高嶺のなでしこの皆さんは2023年に酪農応援アンバサダーに就任し、全国の牧場を回るなどの活動をされています。今回「ミルクの旅路」という作品が制作されると聞いたとき、どう思いましたか?
東山恵里沙(高嶺のなでしこ) 私たちも酪農応援アンバサダーのお仕事をさせていただくまで、酪農家さんたちの苦しい状況を知りませんでした。作品を通して酪農家さんたちの力になれたらいいなと思い、ロケに行かせていただきました。
涼海すう(高嶺のなでしこ) 私は昔から牛乳が大好きなんですよ。牛乳に関するお仕事をされている方の助けになれたらとてもうれしいと思いましたし、「私たちでも役に立てるんだ!」という喜びもありました。
葉月紗蘭(高嶺のなでしこ) まず、ミルクの旅路をたどっていくというコンセプトが興味深かったです。牧場には以前お邪魔しましたけど、そこから乳製品として加工されて私たちの手元に届くまでの過程には触れていなかったので、新しい面を見られるのが楽しみだなと思いました。
──安田監督は、高嶺のなでしこを通してどのように「ミルクの旅路」を見せようと考えましたか?
安田 皆さんは私よりも長く酪農の応援に携わっていらっしゃいますから、私から何かを指示するのではなく、そのままの姿を撮れば素敵な映像になるだろうと思っていました。実際に皆さんは、自ら進んで明るく挨拶をしたり、酪農に携わる方々の努力に純粋に感動したり、感謝の言葉を発したりされていて。命と向き合っている酪農業界の方々と同様に、高嶺のなでしこの皆さんも命をすごく大事にしていることが撮影を通して伝わってきました。
──完成した「ミルクの旅路」の映像をご覧になった率直な感想を聞かせてください。
葉月 体験させていただいた2日間の出来事がギュッと詰まっていて。私たちが感じたことや伝えたいこともきれいに収めてくださって感動しました!
涼海 牛乳に関するお仕事をされている方の思いも映像から伝わってきて、素敵だなと思いました! スーパーマーケットから順番に工程をさかのぼっていくのも、わかりやすい構成だと感じました。
東山 実際に現場で働いている方がお話をされていて、説得力のある映像だと思いました。皆さんの笑顔も映っていて、愛のあるお仕事なんだと伝わってきました。
安田 ありがとうございます。働いていらっしゃる方々の真摯な姿勢に、私も心を打たれました。そして、2日間かなり忙しいスケジュールにもかかわらず、3人は疲れた表情も見せずにはつらつとがんばってくださって、本当に助かりました! 皆さんとても感度が高いと思いましたね。「わ、タンク大きい!」などといった反応も素直ですし、働いている方々を尊敬の眼差しで見ている姿がさわやかで、心が洗われました。視聴者の皆さんもぜひ高嶺のなでしこの皆さんと同じ気持ちになって、「酪農家さんはすごいな」「工場やクーラーステーションで働く方もすごいな」と感じてもらえたらうれしいです。
現場の皆さんのおかげで安全に牛乳を飲めている
──「ミルクの旅路」では牛乳の製造過程をさかのぼる形で、乳業工場、クーラーステーション、牧場を訪ねました。それぞれの場所で感じたことや撮影時の裏話などを聞かせてください。まず、牛乳を製品にして出荷する工場を見学してみていかがでしたか?
東山 工場ではまず、白い衛生服を着たのが印象に残っています。一度着てみたかったのでうれしかったです(笑)。
葉月 衛生服を着たらみんな卵みたいになって、楽しかったよね(笑)。
東山 うん! 服もそうですし、工場に入るときは風(エアーシャワー)で服に付いた塵や埃を取り除くことが必要だったり、衛生管理が徹底されていることも知りました。
葉月 工場内はとても広く、しかも暖かくて。ここでずっと働いている皆さんはすごいなと感じました。職員の方が「こういうふうに作っているんだよ」と間近で丁寧に教えてくださって、勉強になりました。
涼海 機械の音がとても大きくて、工場内でコミュニケーションを取るのも大変だろうなと感じました。あと、パッケージがすごい速さで流れていくところは見ていて楽しかったです(笑)。
安田 働いている皆さんが「安全、安心」という言葉を繰り返しおっしゃっていて、安全性を絶対に守らなければいけないという使命感や緊張感が伝わってきました。工場だけでなくクーラーステーションや牧場も同様ですが、牛乳は栄養価が高いため細菌が増殖しやすく、ありとあらゆる場所で徹底的な品質管理が行われていて。皆さんの細やかなお仕事のおかげで私たちは安全に牛乳を飲めている。改めて「ありがとうございます」と思いました。
──続いて皆さんが訪れたのがクーラーステーション。酪農家から生乳を集め、工場へ届ける作業を行う施設です。
東山 クーラーステーションでは現場も拝見したのですが、少しでもミスをしたら牛乳を届けられなくなってしまうというシビアな状況の中で、皆さんお仕事をされていました。この作業を365日毎日されていると知り、尊敬の思いが湧きました。
涼海 検査をされている場面も拝見しました。「やっぱり緊張感でピリピリしているのかな」と思ったら、皆さんとても仲がよさそうで温かい雰囲気だったんです! すごく素敵な場所だなと心に残りました。
葉月 アットホームな雰囲気なのも理由があって、何かトラブルが起きたときに迅速に対応できるように普段から密にコミュニケーションを取っているそうです。
──葉月さんは顕微鏡を覗いて検査を体験したんですよね?
葉月 はい。ただ、「こういう形のものを見つけてカウントしていくんです」と教えていただいたものの、いざ顕微鏡で見てみると例外が多すぎて……形が微妙に違ったり、色の濃さもいろいろあって、どれをカウントしていいのかわからず難しかったです。これを瞬時に判断して検査をされている皆さんは本当にすごいなと思いました。
安田 クーラーステーションは私も初めて伺いました。緊張感を持ちつつも、和やかにお仕事をされている姿を見て驚きましたね。牛乳の生産工程の中でも、クーラーステーションのような施設はなかなかスポットが当たりづらいと思うんです。だからこそ今回、酪農業界を裏側から支えてくださっている皆さんを撮らせていただけたのは、すごく意義があることだと感じています。撮影を受け入れていただいてありがたかったです。
酪農家と牛の信頼関係が見えた
──牧場では搾乳を体験するなど乳牛と触れ合ったと思いますが、いかがでしたか?
涼海 私は動物との触れ合いが大好きなので、牧場では牛さんをなでられて楽しかったです! ものすごく甘えてきてベロンベロンしてくる子もいれば、ツンとすました子もいて、牛さん1頭1頭の個性を感じました。酪農家さんにお話を聞いたら、「その子は甘えてくるけど、そっちの子はなかなか難しいね」とおっしゃっていて。たくさんの牛さんがいる中で、それぞれの性格を把握されているのはすごいと思いました。牛さんへの愛情に感動しました。
東山 今回伺った牧場は、「牛のためのホテル」というコンセプトで牛さんを飼育されている牧場でした。牛さんがストレスを抱えないように畜舎の温度を調節したり、環境や食事に重点を置いて工夫をしながら牛さんを飼っているのが素敵だなって。酪農家さん自身も牛さんのことが大好きなことが伝わってきて、ほっこりした気持ちになりました。
葉月 搾乳を体験させてもらう際、ちょっと落ち着かない牛さんがいて。私はびっくりしてどうしたらいいかわからなかったんですけど、酪農家さんがすぐに牛さんの状態を確認して「大丈夫だよ」と落ち着かせていました。酪農家さんと牛さんの信頼関係が見えた瞬間でした。
安田 牧場で搾乳の風景を見て、母牛が子牛に与えるミルクを我々人間が分けていただいているんだなと改めて感じました。我々が普段口にしている牛乳や乳製品の“源”はここなんだなと。各施設、ご多忙にもかかわらず、「私たちの仕事をぜひ撮って発信してください」と撮影を快く受け入れてくださいました。高嶺のなでしこの皆さんも、心から酪農を応援する気持ちを持って撮影に臨んでくださいました。本当に感謝しかありません。
──映像の最後には3人でディスカッションする様子も収められています。
東山 酪農応援プロジェクトのイメージソング「いつか私がママになったら」に「温めたミルクを飲みながら話そう」という歌詞があるんですけど、まさに歌詞の通りだなって。監督さんとも意見を交換しながら、温かい空間でみんなと楽しくお話しできました。
涼海 2日間で撮った写真を見ながら、素敵な思い出ができたなと感じました。最後に飲んだホットミルクはとてもおいしかったです!
葉月 ずっと牛乳を飲みたかったので、撮影の最後で飲めてよかったです(笑)。3人でのトークは全然話題が尽きなくて、ずっと話していました。たくさん学んで濃い2日間になったと思います。
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ポジティブに「牛乳を飲んでみよう!」と思ってもらえたら