茅原実里「Re:Contact」インタビュー|歌手活動休止前最後の作品でみんなに届けたい“未来への希望”

今年の12月31日をもって歌手活動を休止する茅原実里が、自身の誕生日である11月18日にミニアルバム「Re:Contact」をリリースした。

2007年に発表されたランティス移籍後初のアルバム「Contact」からつながる、「Re:Contact」というタイトルが冠されたこのミニアルバム。本作には畑亜貴、菊田大介(Elements Garden)、奥井雅美、俊龍、松井洋平、藤末樹、こだまさおり、黒須克彦、須藤賢一といった茅原と縁の深い作家陣が参加した全5曲が収録されている。

歌手活動休止前最後となる音楽作品に茅原はどのような思いを注ぎ込んだのか? 音楽ナタリーでは、メールインタビューで彼女の言葉を届ける。

取材 / 須藤輝

みんなの背中を押せる作品を最後にプレゼントしたいと思った

──今回のミニアルバムのタイトル「Re:Contact」は、2007年にランティスからリリースされた1stアルバムのタイトル「Contact」に呼応していると思いますが、「Re:Contact」にはどのような意味を込めたのでしょうか?

2007年にランティスさんで本格的に音楽活動をスタートさせて、1stアルバム「Contact」をリリースしてから今に至るまで、本当にたくさんの音楽やたくさんの人に触れ合いながら充実した毎日を過ごさせてもらいました。今回の作品で音楽活動を締めくくることにはなるけど、これからはまた新しい世界にコンタクトしていく始まりという意味を込めて「Re:Contact」というタイトルになりました。ランティスさんから提案されたものだったんですけど、とても前向きなメッセージになると思ったし、素敵な提案をいただけてうれしかったです。

──「Re:Contact」はラストアルバムであり、気持ちの面でも歌唱の面でもこれまでの制作とは異なる部分があったのではないかと思います。何が一番違いましたか?

もともと作る予定のなかったアルバムだったので、事務所の方やプロデューサーに相談させてもらって、時間をかけて受け入れてもらいました。休止の発表をして静かに2021年を終わらせようと思っていたけど、ファンのみんなから届く温かいお手紙やメッセージに心が揺さぶられて……。「さよなら」を告げるような作品を作りたかったわけではなくて、未来のみんなの背中を押せる作品を最後にプレゼントしたいと思ったんです。これまでファンのみんなに支えられてきたからこそ、作品作りやライブを続けてこれた。そのお礼をファンのみんなが一番求めているもので返したいと思ったんです。制作過程では「最後」という寂しさよりも、いい音楽ができあがっていく興奮のほうが強くありましたね。ディレクションは各曲の作曲家さんにしてもらったり、行ける限りすべてのトラックダウンにも立ち会ったりと、いつも以上に1つひとつの作業を丁寧に過ごさせてもらいました。最後のマスタリングのときに「Sing」で涙が出ましたね。あのときに、これで最後なんだなって思いました。

──「Re:Contact」にはこれまでの茅原さんの楽曲群とゆかりの深い作家が参加しています。その人選はどのように?

これまでの活動の中で本当にたくさんの作家の皆さんにお世話になってきたので、プロデューサーと意見交換しながらじっくり決めさせていただきました。とはいっても意見はほぼシンクロしていて、迷う部分では最終的に私の希望を叶えてもらう形で着地しました。会える方にはお会いして直接お話をさせていただいたんですけど、笑いあり涙多めの打ち合わせばかりでした~(笑)。客観的にファンのみんなが喜んでくれるような楽曲を、逆に私にプレゼントしてほしいっていうようなわがままなお願いをさせてもらいましたね……(笑)。サウンドの方向性は初期の「Contact」のイメージを織り交ぜながら作ることになっていたんですけど、基本的には曲も詞も具体的な希望は出さずにふわっとしたイメージをお伝えするだけで、お任せするような形にしました。これは信頼がある方々だからこそできたことだったし、皆さんのおかげで茅原実里の歴史が凝縮された作品が完成したのですごく感謝しています。

1.「Re:Contact」
作詞:畑亜貴 / 作曲・編曲:菊田大介(Elements Garden)

──ここからは各収録曲における作家とのやりとりや曲に込めた意志や感情、レコーディングでのエピソードなど、印象に残っていることをお聞かせください。リードトラック「Re:Contact」の作詞の畑亜貴さんと作編曲の菊田大介(Elements Garden)さんは、1stシングル表題曲「純白サンクチュアリィ」をはじめ数多くの楽曲に携わってきたお馴染みのコンビであり、「Re:Contact」も“The 茅原実里”なナンバーに仕上がっていると思いました。歌詞も「飛ぼう」「S.I.G.N.A.L」といったワードが、やはり畑さん作詞、菊田さん作編曲の「Contact」および「Contact 13th」を思い起こさせます。

「Re:Contact」は、「Contact」を彷彿とさせる打ち込みとストリングスが絡み合う曲で、茅原実里の楽曲といえばコレだよね!っていう王道です。過去に菊田さんが作ってくれたいろいろな楽曲の欠片がちりばめられているので、その時代を思い出してすごく懐かしくもなるし、畑さんが紡いでくれた歌詞からは、これまで私がContactしたものすべてを抱きしめながら、何があっても前に進みなさいという力強いメッセージを受け取ったような気持ちでいます。私は畑さんの言葉を歌にしながら育ててもらった感覚でいるので、畑さんのエールとともに旅立てることに幸せを感じています。この2人が茅原実里の音楽の土台を作って揺るぎないものにしてくれたと思っているし、「Paradise Lost」のようにライブで掛け合いをするきっかけを作ってくれたのもこの2人のおかげなので、音楽を通して育ててもらったし、ファンのみんなとの結びつきも強くしてもらったので本当に感謝しています。

2.「a・b・y」
作詞:奥井雅美 / 作曲:俊龍 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)

──「a・b・y」はアップテンポかつドラマチックなデジタルサウンドで、「Re:Contact」と同様に茅原さんのパブリックイメージに合致する楽曲だと思いました。しかし歌詞は非常にシリアスで、曲名が示すようにいわば贖いの歌であり、ボーカルにも悲痛さが滲んでいるように感じます。

俊龍さんとは養成所時代からずっと一緒で、デビュー前からの長い付き合いなんです。昔から彼の作る楽曲が私好みだったので、実際にお互いにプロとして一緒にお仕事できるようになったことがうれしかったし、最後の作品にはぜひ参加してもらいたいと思っていました。今回も情熱的で切ないメロディから伝わってきたのはまっすぐな応援のメッセージのような気がしました。大先輩の奥井さんは私のことを知り尽くしているので、私の気持ちやファンの気持ち、奥井さん自身の願いも投影しながら作詞してくれました。タイトルは“贖罪”という意味を持っているそうです。受け取ってからレコーディングが終わるまで、一番咀嚼するのが難しかったです。向き合って唄うことがとても苦しかったです。きっとそれだけ核心を突かれているのかもしれないとも思ったし、言いたくても言えないような心の奥にある感情を歌で吐き出させてくれたようにも思います。

3.「FEEL YOUR FLAG」
作詞:松井洋平 / 作曲:藤末樹 / 編曲:藤末樹、XELIK

──“FLAG”は茅原さんにとって重要なアイテムであり、作詞は過去に“パレード”をモチーフにした「FLAGSHIP FANFARE」を手がけた松井洋平さん。「a・b・y」とは対照的ともいえる希望的なメッセージソングであり、ポップなEDM調のトラックもアガります。

私、実は松井さんとの打ち合わせではずっと泣いていたんです……(笑)。あまりにも優しい言葉をたくさんくれるので……。これまではパレードの先頭で旗を振っていた私に、今度はファンのみんなが旗を振って私の船出を応援してあげる、見送ってあげる、そんなイメージで希望のある歌詞にしたいって言ってくれて。詞の中にはこれまでのアルバムタイトルのすべてを示すワードが刻まれているので茅原実里の歴史をたどる旅のような歌だなと思って大きな愛情を感じました。藤末さんにはキラキラした希望を感じてもらえる“旗曲”をお願いしました。私は藤末さんがこれまで作ってくれた楽曲が大好きなので、今回も楽しみにしていたんですけど、初めてデモを聴いたときはイントロからみんなが旗を振っている景色が想像できて涙が出ました。とってもドラマチックな楽曲で、楽しさや切なさや美しさ……とにかくいろんな要素が詰まっていて、あっという間に聴き終わってしまうんです。「KEY FOR LIFE」のメロディも刻まれていて、私自身も背中を押される希望にあふれた素敵な曲です。

4.「いつだって⻘空」
作詞:こだまさおり / 作曲・編曲:黒須克彦

──「いつだって⻘空」はデジタルな音作りをしていた前3曲とは打って変わって、温もりを感じるバンドサウンドのミディアムチューンになっていますね。ストレートに感謝と喜びを伝えるこだまさんの歌詞も非常に前向きで、茅原さんのボーカルも優しく温かいです。

黒須さんが作ってくれる曲にはいつも大きな愛があふれていて大好きなんです。「いつだって青空」も、本当に温かくて純粋で透明感があって。デモを聴いたときは自然と涙があふれて、自然と笑顔になっていました。これまで「purest note ~あたたかい音」で私とファンの心をつないでくれたような、みんなの心をひとつに束ねてくれる幸せな曲を作ってほしいってお願いしたんです。私が私でいられる曲をプレゼントしてくれました。作詞してくれたこだまさんとのご縁もとても長くて、打ち合わせのときにひさびさに会ったらボロボロ泣いてしまって……(笑)。ランティスさんで走り出した頃から、こだまさんの歌詞に支えられていました。今の私の姿を見て、私の話を聞いて、私へのメッセージを書いてくれたんだなあ……って。これから先の未来にもまだまだたくさんの喜びがあふれているんだよ、大丈夫だよって、優しく励まされているような気持ちになって肩の力が抜けちゃいました。

5.「Sing」
作詞:茅原実里 / 作曲・編曲:須藤賢一

──今、茅原さんがファンの皆さんに届けたい言葉は「笑って」であると受け取りました。素敵です。CMB(バックバンドのChihara Minori Band)の初期メンバーであるキーボーディストの須藤賢一さん作編曲のピアノバラード(当然、伴奏もされていると思います)というのもポイントなのかなと。

アルバムの中で自分の気持ちを伝えられる曲が作りたいな……と思ったときに思い浮かんだのが、2007年からバンマスとして私を支えてくれたケニーこと須藤賢一さんでした。どうしてもケニーに作ってほしかったのでOKをもらったときはうれしかったです。最後の河口湖ステラシアターでのライブを終えてから作詞しました。ケニーの人柄があふれる素敵なメロディと温かくて優しいピアノ。スタジオでデモを聴いたときは、みんなへ書いた私のお手紙がメロディに生まれ変わっていたのですごく感動してしまいました。ボーカルレコーディングを終えたあとに、ケニーが自分でコーラスを入れてくれたんですけど、それがまたすごく素敵で!! 一緒に作れた過程も含めてすべてが幸せでしたね。「Sing」にはそのまんまのまっすぐな自分の気持ちを綴ったのでみんなに届くといいなって思っています。私は「唄うこと」と「みんなの笑顔」が大好きだったから、これからもみんなにはいつも笑っていてほしいなって心から願っていて。離れていてもいつも同じ空の下にいるよ!って。みんなのこと大好きだよ~~~!!!って。いつまでもそのことを忘れないでいてほしいなって思うんです。

ここまで唄い続けてこれて本当によかった

──本作の豪華盤には8月に山梨・河口湖ステラシアターで行われたライブイベント「SUMMER CHAMPION 2021 ~Minori Chihara Final Summer Live~」(参照:茅原実里、河口湖ステラシアターで過ごした最後の夏「私はこの場所が大好き」)の舞台裏を含むドキュメンタリー映像「Message05」が同梱されます。「サマチャン」に関してはコロナ禍で、しかも台風の接近の恐れがある中での開催でしたが、晴天に恵まれ、ライブ中のMCでは「奇跡の天気」「夢じゃないんだよね」といった言葉も飛び出しました。その「サマチャン」の感想ほか、映像の見どころを教えてください。

今回ひさびさに「Message」 の撮影が始まったのでワクワクしていました。2007年から「Message」シリーズの撮影を始めて定期的にリリースしてきましたが、それも“04”で止まったままだったので、こうしてまた最後にファンのみんなに制作の裏側の模様をお伝えできることがうれしくて。河口湖のファイナルライブのリハや現地での出来事や私の気持ちもアレコレ包み隠さずに話しているし、スマホの自撮り映像もチョコチョコ詰まっています! 河口湖円形ホールで撮影収録した「Sing」も必見です。とってもお素敵な場所で生ピアノとともに生声がホールに響き渡ってなんとも幸せな空間でした。ぜひお楽しみください~!

──12月26日に予定されているラストライブ「Minori Chihara the Last Live 2021 ~Re:Contact~」への意気込みをお聞かせください。

まず、ラストライブを開催させていただけることに心から感謝しています。これまで音楽を通していただいたたくさんの愛情を返す時間にしたいと思っています。ラストアルバム「Re:Contact」やこれまで作ってきたすべての楽曲たちとともに、応援してくれたみんなに感謝の気持ちを歌にして届けたいと思います。限られた時間の中で過去すべての楽曲を唄うことはできないけれど、そのくらいの気持ちを胸に茅原実里のライブを存分に楽しんでもらえる内容にするつもりなので、ぜひ期待して待っていてください。 コロナウイルスの感染防止のための制約もありますが、お互いに守りながら最後のライブを一緒に楽しみましょう。精一杯唄いますのでぜひ会いにきてくださいね!

──歌手活動休止前に音楽ナタリーの特集にご登場いただくのは最後になります。読者の方々にメッセージをお願いいたします。

改めて、これまで茅原実里の音楽に触れてくださったすべての皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。これまで音楽ナタリーさんにも、私の音楽や気持ちをたくさんの人に届けていただき、本当にありがとうございました。高校時代から歌手になりたいという夢を抱いて、ここまで唄い続けてこれて本当によかったです。音楽活動の中で出会ったものすべてが私の人生の誇りです。これまで私を支えてくれたみんなに感謝しながら「Re:Contact」を人生の新たな始まりのアルバムにしたいと思います。未来への希望がたくさん詰まっている1枚なので、ぜひ聴いてください。よろしくお願いします!!

ライブ情報

Minori Chihara the Last Live 2021 ~Re:Contact~
  • 2021年12月26日(日)神奈川県 神奈川県民ホール
茅原実里(チハラミノリ)
2004年4月にテレビアニメ「天上天下」棗亜夜役で声優としての活動を始め、同年12月にはアルバム「HEROINE」で歌手デビュー。2006年4月より放送されたテレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の長門有希役で一躍注目を浴び、平野綾、後藤邑子とともに歌った同アニメのエンディングテーマ「ハレ晴レユカイ」は大ヒットによりゴールドディスクに認定された。2007年1月にランティスよりシングル「純白サンクチュアリィ」を発表したことを契機に、本人名義による音楽活動を再開。以降、アニメソングを中心とした楽曲を数多く発表し、声優アーティストとして高い評価を集める。2010年5月には初の日本武道館ワンマンライブを大成功に収め、2011年3月には「第5回声優アワード」歌唱賞を受賞した。2020年2月にシングル曲とキャラクターソングを収録した15周年記念ベストアルバム「SANCTUARYⅡ~Minori Chihara Best Album~」を発表。2021年8月に毎年恒例の山梨・河口湖ステラシアターでのライブ「SUMMER CHAMPION 2021 ~Minori Chihara Final Summer Live~」を行った。11月にミニアルバム「Re:Contact」をリリース。12月に神奈川・神奈川県民ホールでワンマンライブ「Minori Chihara the Last Live 2021 ~Re:Contact~」を開催したあと、12月31日をもって歌手活動を休止する。