世界、待っとれよ!CHAIの海外活動遍歴、そして日本人としての挑戦

2017年の「SXSW」出演以降、数多くの海外公演を行い、ワールドワイドにその名を広めてきたCHAI。2020年の新型コロナウイルス感染拡大後にはツアーが行えない状況にもかかわらず、GorillazやDuran Duranといった大御所とのコラボ、アメリカの有名レーベル・SUB POPとの契約など、立て続けの大ニュースでファンを驚かせた。

そんな中CHAIにとっておよそ2年ぶりとなるニューアルバム「CHAI」がリリースされた。2022年のアメリカツアー中に制作されたという本作は、これまでのCHAIらしさを残しつつ、国内と海外両方のトレンドを大胆に取り入れたサウンド、よりストレートなメッセージが込められた歌詞が特徴。長年海外を巡り続けてきた彼女たちならではの作品に仕上がっている。音楽ナタリーでは2017年から2022年までのCHAIの海外活動をツアー、作品をベースにした年表とともに振り返りつつ、アルバム「CHAI」の制作背景やコンセプトについてインタビュー。さらに各メンバーがセレクトした、海外活動での思い出の写真も紹介する。

取材・文 / 高橋拓也撮影 / 堀内彩香

海外活動振り返り

2017年

3月

アメリカ・オースティンのフェス「SXSW」に初出演&アメリカツアー実施。

ユナ(Dr, Cho) 懐かしいねー!

マナ(Vo, Key) 「SXSW」はオーディションを受けて出演が決まったんだよね。

──2016年にソニーミュージックと「SXSW」の日本人アーティストを集めた「Japan Nite」が共催したオーディションがあり、CHAIはグランプリを獲得しました。当時の記事を見返してみると、路上ライブのルールやお酒をたくさん勧められること、食事についてなど現地で苦労したさまざまなことがつづられています。初海外ツアーということもあり相当大変だったようで。

カナ(Vo, G, Key) ホントにね(笑)。

ユウキ(B, Cho) 当時のことは今でもよく覚えてるよ。

マナ 「SXSW」は「Japan Nite」への出演は決まっていたけど、現地に着いても1週間近く予定がなくて。何もしないまま本番を迎えるのは心配だったから、プロモーションも兼ねて路上ライブをしたんです。そうしたらすぐ警察に見つかっちゃって。

ユナ 「ここで音を出すな」って注意されちゃった。

CHAI

CHAI

マナ あとはバーに行って、自分たちで直接出演の交渉をしたり。日本のライブハウスとは全然環境が違うから、すごく声が枯れちゃったのを覚えてる。

ユナ 人生で初めてモーテルに泊まったのも、このときだったんですよね。初めて泊まった日……初夜って言うの?

マナ 初夜って(笑)。

ユナ お風呂に入ろうと思ったら、シャワーのお湯が出なくて。仕方ないから蛇口に土下座スタイルで髪を洗ったの、今でも忘れられないよね。

カナ 宿泊施設のことも慣れてなかったから大変だったな。

マナ そこも日本とは全然違うんだよね。ドライヤーとかスリッパみたいなアメニティはないから、持ってなくてすごく困ったり。

──ライブ周りでほかに印象的だったことは?

ユウキ おかめのイラストとライブスケジュールが書かれたフライヤーを配ったりしました。日本のバンドだとわかるようなものを作ったら、面白がってもらえるかなって。

マナ ほかのミュージシャンはやってなかったから、けっこう受け取ってもらえた気がする。

カナ 「Japan Nite」は特定のミュージシャンではなく、「日本のアーティストをいろいろ観てみたい」という人向けのイベントなんですよね。だから会場にはお客さんがいっぱいいるけど、そこからどうやって注目されるかは自分たち次第で。

──現地で必ず各出演者がプロモーションされる、というわけではないと。

カナ そうそう。私たちはオーディションで1位になって、あくまで出演権を得ただけで。とにかく自分たちで動き回ってた。

カナ(Vo, G, Key)

カナ(Vo, G, Key)

2018年

3月

「SXSW」に2度目の出演。アメリカ西海岸ツアーを実施。

10月

多国籍バンド・Superorganismのイギリスツアーにゲストアクトとして出演。

マナ アメリカのBurger Recordsからリリースされたコンピ「Burger World Japan」に楽曲を収録してもらって、それを聴いたミュージシャンが「SXSW」でのライブを観に来てくれたんです。そのあと一般のお客さんにも知られるようになって、やっと流れを作れたと思った。前年は先行きが全然見えなかったけど、このとき「アメリカでやっていけるかも」と実感しましたね。日本に帰るとき、みんなでめっちゃ泣いとった。

ユナ Superorganismとのツアーも懐かしいね。

マナ すごい影響を受けたし、この頃から一緒に曲を作ってたよ。

──Superorganismとの出会いはいつ頃だったんでしょう?

マナ 確かスペースシャワーTVだったかな? Superorganismの初来日を記念した番組にゲストとして呼んでくれたんです。そこでオロノ(Vo)が「CHAIが好き」と言ってくれて、イギリスのツアーにも誘ってくれて。ツアー中、Superorganismはバスの中でもずっとレコーディングしてたのが印象的だった。みんなナチュラルに曲を作っとったね。

マナ(Vo, Key)

マナ(Vo, Key)

──オロノさんはステージでの佇まいはクールですが、来日公演でCHAIがゲストとして登場したとき、真っ先にメンバーとハグしていたのが印象的で。「すごく仲がいいんだな」とわかる瞬間でした。

カナ オロノはかわいいよね(笑)。

ユナ ツアーのときには当時Superorganismのみんなが住んでいたお家にも遊びに行ったよね。ごはん食べたり、のんびりしたな。

2019年

1月

中国&台湾ツアーを実施。

3月

アメリカツアー実施。「SXSW」だけでなくボイジーのフェス「Treefort Music Fest」にも出演。

5月

イギリス&ヨーロッパツアーを実施。フェス「The Great Escape」「London Calling Festival」「This Is Not A Love Song Festival」「Primavera Sound」に出演。

7月

年内2度目のアメリカツアーを実施。シカゴの「Pitchfork Music Festival」に出演。

9月

アメリカの公共ラジオ・NPRのスタジオライブ番組「Tiny Desk Concert」に出演。

10、11月

年内2度目となるイギリス&ヨーロッパツアーを実施。

11月

タイのフェス「Maho Rasop Festival」に出演。

ユナ 2019年はとにかく忙しかった。1年の半分くらいは海外に行ってたもんね。

マナ すごかったよね。「Primavera Sound」と「Pitchfork Music Festival」でのライブはかなり盛り上がったから、めっちゃ覚えてます。ただ、ライブに来てくれる人は増えたけど、ストリーミングでの楽曲再生数が伸びなくて悩んでたな。だから制作に対する考えも変わって、「もっと聴いてもらいたい」という気持ちが強くなってた。

──楽曲でバンドを知り、ライブを観に行く……という流れが一般的だと思っていたのですが、逆なんですね。

マナ よくも悪くもライブでの印象が先行していたんだと思う。いろんなフェスに呼んでもらって、ライブで名前を広めていったイメージですね。

──2回目のイギリスツアーの模様を追ったドキュメンタリー「PLAN B」ではユウキさんが体調を崩し、ライブを欠席する場面がありました。スケジュールが充実していた分、肉体的にも精神的にもかなりハードだったようで……。

ユウキ 海外に行って、日本に帰ってきて、また海外に行って……というスケジュールだったからね。やっぱり慣れも必要だし……。

マナ それこそ体力勝負だからね。

ユナ 1回海外に出ちゃうと1、2カ月は日本に帰ってこないし。

──フェス以外にも、「Tiny Desk Concert」への出演は日本でも話題になりました。

カナ 日本のアーティストで出演していたのって、当時はCorneliusだけじゃなかったかな? 大好きな番組だからものすごい緊張した。「Tiny Desk Concert」は普通のオフィスの一角で収録するから、出音がすっごいちっちゃいし、セッティングもコンパクトにしないといけなくて。

──スタジオライブやインストアライブとはまた違った環境で。

マナ 「THE FIRST TAKE」のオフィス版って言えばわかりやすいかな(笑)。全然違ったね。

CHAI

CHAI

2020年

1月

カナダ出身のシンガーソングライター、マック・デマルコのオーストラリアツアーにゲストアクトとして出演。

1、2月

シカゴのバンド、Whitneyの北米東海岸ツアーにゲストアクトとして出演。

6月

イギリスの音楽フェス「Glastonbury Festival」のバーチャルイベントに出演。

8月

スペインのバンド、Hindsとのコラボ曲「UNITED GIRLS ROCK'N'ROLL CLUB」を発表。

10月

Gorillazのアルバム「Song Machine: Season One - Strange Timez」収録曲「MLS」にフィーチャリングゲストとして参加。
アメリカのレーベル・SUB POPに所属することを発表。

12月

88rising主催のデジタルフェス「Double Happiness」に出演。

──3月以降はコロナ禍に突入したため、海外だけでなく国内でもライブができない状況になりました。そんな中HindsやGorillazとのコラボ曲発表、SUB POPへの所属と大きなニュースが続きました。SUB POPとの契約はどのように決まったんでしょうか?

マナ SUB POPのスタッフが「SXSW」でのライブを観に来てくれて、それがきっかけだったんだよね。前年にかなり海外活動を行っていたおかげで、2020年につながった感じ。

──HindsやGorillazとのコラボ実現の経緯は?

マナ Hindsは最初Instagramで知り合って、「一緒に曲作ろうよ」って連絡してくれたんです。お互い好きだったし、海外ツアー中に直接会いました。Gorillazについては以前からインタビューで「影響を受けた」と話していたんだけど、それを知っていた友人がつなげてくれたんだよね。デーモン(・アルバーン)は「自由に作っていいよ」と言ってくれたので、私たちが参加するパートの音源を送って、それを彼にまとめてもらいました。それで完成した音源を聴いたら、ジェイペグマフィアも参加しててびっくりした(笑)。ほかに誰が参加するか全然知らんかったから、すごいコラボになっちゃった。デーモンとはまだ直接顔を合わせたことがないから、いつか会いたい。

──ところでデーモン、今年の「SUMMER SONIC」にBlurで出演しますよね(※取材は8月中旬に実施)。

ユナ 私たちも出るけど、出演日が違うんだよね。

マナ 難しいと思うけど、そのタイミングで会えたらうれしいね。

2021年

2月

楽曲「チョコチップかもね」にシカゴのラッパー、リック・ウィルソンがフィーチャリングゲストとして参加。

4月

ニューヨークのグループ、Michelleの楽曲「FYO」にフィーチャリングゲストとして参加。

5月

アメリカのラジオ局・KEXPのYouTubeプログラム「Live on KEXP at Home」に出演。

3rdフルアルバム「WINK」収録曲「IN PINK」にマインドデザインがフィーチャリングゲストとして参加。

8月

Duran Duranの楽曲「MORE JOY!」にフィーチャリングゲストとして参加。

──2021年は前年以上に楽曲コラボが増えましたが、Duran Duranとのコラボは相当インパクトがありました。

ユナ Duran Duranのほうからオファーしてくれたんだよね。

マナ でもDuran Duranのメンバーともまだ会ったことがない(笑)。これもリモートで作りました。

──一連のコラボは国外に出られない状況だったからこそ実現できたところはあったのかもしれませんね。

マナ 確かに。フィーチャリングゲストを迎えて楽曲を作ることは、コロナ禍前からいろんなアーティストがやってたけど、CHAIは2020年以降一気に増えたな。

──この時期からソロ活動も活発化しました。ユウキさんはクリエイティブプロジェクト・YMYMをこの年に立ち上げ、ポップアップストアや展示会を行っています。このプロジェクトはどのような流れで始動したんでしょうか?

ユウキ 私の絵を見た友人が「服とか作ってみない?」って誘ってくれたんです。服作りについてはあまり知識がなくて、最初は悩んじゃったけど、「人に対して何かを提供するツールが1個増える」と考えてみたら、すごく面白そうだと思って。音楽とか絵では表現できないことがあるし、服は着る人の生活に密着したものだから、「そこに私の絵が入ったら、どういうふうになるんだろう?」みたいな感じで興味を持ったんです。

ユウキ(B, Cho)

ユウキ(B, Cho)

──CHAIのオフィシャルグッズもユウキさんがデザインしたものがたくさんありますが、YMYMとはどんなところを区別していますか?

ユウキ そうだな……YMYMは副業チームって言えばいいのかな。ほかのスタッフは私と同じく、別の活動をしている人がほとんどで。「YMYMという新しいブランドを通して一緒に活動しよう!」という考えから始まって、ファッションをお仕事にしている人もいれば、まったく違うジャンルで働いている人もいるんです。YMYMを立ち上げてからは「こんな生き方をしている人に届けたい」「こういう仕事をしている人にも届けたいな」とか、音楽活動に対する意識も変わって、面白い発見になりました。

──YMYMの作品を経て、CHAIの楽曲を聴き始める人も出てきそうですよね。

ユウキ これまでとは違う文脈からCHAIにつなげたいと思っていたし、CHAIのみんなも服が好きだしね。ファッションはCHAIにとっても重要なポイントだから、大事にしていきたいです。

──さらにCHAIの動画には、ジャーナリストの……。

ユナ ユナジャナですね(笑)。

──そう、ユナさんそっくりの“ユナジャナ”という方が出てくるようになって。

ユナ ユナジャナはまさにコロナ禍に誕生したキャラクターで。ライブ活動が止まっちゃって、スタジオにも入れなくなったとき、セルフプロモーションで何かできないか考えていたんです。それでメンバーのお家に「ユナジャナですー」ってお邪魔しに行って、新曲について質問したんだよね。

カナ 家が近所だったから、遊びに来る感じでね(笑)。

ユナ そこからCHAIを広めるジャーナリストとして活動しています。

──翌年にはPodcastの番組「ゆなのみたい!しりたい!ききたい!」もスタートしました。

ユナ Podcastは番組スタッフの方が誘ってくれてスタートしたんだけど、実はしゃべるの、めっちゃ苦手だったんだよ。

──あるインタビューでも「もともとトークは得意じゃなかった」とお話していましたね。それを克服したかったという発言も見かけました。

ユナ 自分の考えていることをちゃんと言えなくて、それがコンプレックスだったんです。いろんな取材を重ねて、だんだん「ありのままのことを言っていいんだ!」と思い始めたとき、ちょうどPodcastのオファーがきて。ディレクターさんも「ユナさんが『そのままでいいんだよー』って話している声が聴きたい」と言ってくれてね。自分が考えていることをどう伝えたらいいか、毎回学んでるよ。

ユナ(Dr, Cho)

ユナ(Dr, Cho)

2022年

1月

国内ソニーの洋楽レーベル・Sony Music Japan Internationalに所属。

2月

リミックスEP「WINK TOGETHER」にConfidence Man、ビンジノ、ビジー・ピー、Scoobert Doobertが参加。

2、3月

約2年ぶりとなるアメリカ(北米)ツアー開催。
ニューヨークのシンガーソングライター、ミツキのワールドツアーにゲストアクトとして出演。

6月

オーストラリアのフェス「VIVID FESTIVAL」「RISING FESTIVAL」「DARK MOFO 2022」 に出演。

7月

Superorganismとのコラボ曲「HERO JOURNEY」を配信リリース。Superorganismのアルバム「World Wide Pop」に参加。

8月

Confidence Manの楽曲「Angry Girl」にフィーチャリングゲストとして参加。

9~11月

年内2度目となる北米ツアーを実施。さらに北米だけでなく中南米でもライブを行う。

──2022年は2019年の勢いを取り戻すような海外公演数になりました。この中でやはり触れておきたいのが、2月のアメリカツアー中に発生したトレーラーの盗難被害で……(参照:CHAIがアメリカでトレーラー盗難被害、クラウドファンディング実施)。

マナ あれは焦った! しかも盗まれた次の日、ミツキのライブにゲストアクトとして出演することが決まっていて。絶対に飛ばすことはできない公演で、代わりの衣装を探してもいいものが見つからなかったんだけど、ふと「自分たちで作ればかわいいかも?」と思いついて。スタッフの中にたまたまミシンを使える人がおったんだよ。

CHAI

CHAI

──PAの方ですね。Instagramで黙々と服を縫っている動画を見かけました(参照:CHAI (@chaiofficialjpn) | Instagram)。

マナ そう、彼(笑)。毎回ライブが終わるたびに破れちゃうから、何度も縫ってもらったな。あとはミツキがクラウドファンディングを立ち上げてくれたり、いろんな人が助けてくれたおかげでツアーを続けられました。盗難被害は「SURPRISE」のミュージックビデオの題材にできたしね(参照:CHAIがアメリカツアー中の盗難被害をポジティブな「SURPRISE」に昇華)。

──ほかには9月から11月まで、およそ2カ月にわたる北南米ツアーもありました。

マナ このタイミングで初めてSUB POPのチームに会えたし、合間にアルバムを作ったり、楽しかった。海外のいろんな場所でレコーディングしてみたかったんだよね。それでツアー中にいくつかのスタジオを借りました。やっぱり乾いてるというか、スカッとした音になっとったね。