センチミリメンタル「カフネ」インタビュー|“区切り”を経て紡ぐ愛のアルバム (2/2)

“愛”のアルバムを総括する曲

──4曲目の「正義のすみか」という曲は、アルバムの流れの中でも、センチミリメンタルのディスコグラフィーの中でも尖っているタイプの曲だと思います。これを書いたときはどういうことを考えていたんでしょうか?

正義というものの不安定さというか、バランス感のなさについて、正義の面から意見を主張する人々が多すぎるのではないかと思っていて。僕はそのことに対して恐怖心があるし、危ういと思うんです。社会が多様化しているはずなのに、視野が狭くなっていく。情報が錯綜する時代だからこそ、細かく見えちゃう部分も多いと思うんですよ。正しくても正しくなくても、なんでも情報を共有できる時代で。解像度だけはすごく高いので、それが真実であるという感覚が研ぎ澄まされていく。そういう危うさに対して言葉を発しておきたい、という感覚で作った曲でした。

──続く5曲目の「ツキアカリ」に関してはいかがでしょう? これはどういうモチーフをもとに書かれた曲でしょうか。

この曲は相当昔に作ったんですけど、当時知り合いだったバンドのボーカルで「明日はもういらない」みたいなことを叫びながら歌っている人がいて。それを観たときにすごく生命を感じたんです。力強さや勢い、エモーショナルなものを感じたときに作りました。それからだいぶ時が経って、もう一度この曲に、違う目線で向き合おうと思って。今までセンチミリメンタルはサウンドプロデュースまで含めてすべて1人でやってきたので、ここで別の人とタッグを組んで、違う目線でサウンドを構築してもらおうと考えたんです。どういう影響を与えてくれるか?という興味やチャレンジの面も込めて、シライシ紗トリさんと協力して作り直した曲ですね。

──では、ラストの「愛の証明」はどういうふうに作っていきましたか?

これは、センチミリメンタルのキャリア史上一番、制作に時間がかかった曲です。これもインディーズの頃に書いていた曲なんですけど、作り始めから完成までに1年以上かかってしまった。生みの苦しみというか、制作の絶望みたいなものがすごく込められています。でも逆に言えば、その1年という時間を通して、人とつながることとか、人を愛するというのはいかなるものか?ということを考えて結論を出したからこそ完成した曲だと思うので。タイトルで「愛の証明」と言っているぐらいなので、「愛」を全体のテーマとしたアルバムにおいては、この曲で総括をして終えるのが一番ふさわしいのではないかと思って、収録することを決めました。

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キモい曲を書いていこう

──温詞さん自身はプロデューサー目線の持ち主であるわけですよね。でも、歌い手としては俯瞰で見るよりどれだけ自己陶酔できるかというところが、アーティストとしての強さや魅力を左右すると思うんです。そこに関してはどう思っていますか?

僕は物事を俯瞰で見るプロデューサー目線がもともと強いので、無邪気な主観は正直薄いタイプです。それだとボーカリスト、表現者としての自分が色濃く出ないと思う。なので楽曲では、とにかくパーソナルな部分、偽りのない生々しい部分を表現するように心がけていますね。楽曲制作の段階で、人に言いづらいこととか、言葉にするのもはばかられるような部分を書こうという作業は意識的にしています。インディーズの頃、サポートとして手伝ってくれていた子に「温詞さんの書く歌詞はキモいですね」って言われたことがあって。

──というと?

「なんで?」って聞いたら、本来触れてほしくない部分とか、自分でも蓋をしてるような部分にズケズケと踏み込んできて、土足で入り込んできたのに、そこを抱き締められたような感覚が怖いと言うんです。「理解されすぎてキモい」ということを、冗談混じりに言われて。僕はそれが腑に落ちたのと同時に、いいなと思ったんです。ラフな言葉で言うなら「キモい曲を書いていこう」と明確に思えた。人間誰しもが持っている感情として、公の場で言いづらいものってたくさんあると思うんです。でも、本来自分が持っている核の部分の感情とか、大事に思ってるものとかって、人に言うのがはばかられるようなものばかりじゃないですか。友情関係でも恋愛関係でも家族関係でもそうですけど、人に全部それを披露するのはあまりにも生々しかったり、キモくなったりする。でもそれが本当の自分であり、一番大事にしてる部分で。その生々しさとかリアルさみたいなものを自分は表現をしなきゃいけないと思うんです。特に作詞ではそこを心がけることによって、表現者としての主観がちゃんと表せるんじゃないかとは考えています。

──いい意味での「キモい」というのは本当にセンチミリメンタルのアーティスト性の根っこの大事な部分にある感じがしますね。

そうですね。生々しいことを歌いたいなと思います。

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リアルさ、生々しさをライブの中でも表現したい

──ライブについても聞かせてください。今年はアジアツアーとヨーロッパツアーを開催されましたが、海外のライブはどんな感じでしたか?

海外のライブは面白いですよ。日本のライブとは全然空気が違って。日本は言葉がストレートに届くので、じっくり咀嚼して受け止めてくれる感覚があるんです。でも海外は、もちろん歌詞も翻訳したり調べたりしてくれているのか、思ったよりは理解してもらってるんですけど、日本より音として楽しんでくれてる感覚が強くて。すさまじくパワフルなシンガロングが終始生まれている。そういう感じがすごく楽しいですね。「ギヴン」という作品をきっかけに僕のことを知ってライブに来る方が多いんですけど、それ以外の曲もたくさん歌ってくれたり楽しんでくれたりする様子が見られるので。そこは喜びでしたし、自信にもつながりました。

──アジアでもヨーロッパでも変わらず熱量が届いているんですね。

そうですね。僕もあまり国内だから海外だからと考えていなくて。もちろん楽しみ方や捉え方は違うでしょうけど、同じようにセンチミリメンタルの音楽を楽しんでくれてる人たちが、たまたま違う国や違う地域にもいる。そこに届けに行く、会いに行くというような感覚でいますね。

──7月には「センチミリメンタル Acoustic Live "Atelier C"」としてアコースティック編成のライブを行いましたが、こちらはどういう試みだったんでしょうか。

インディーズ時代、バンド活動で苦労してうまくいかなかったときに助けてくれたというか、拾い上げてくれた地元のライブハウスの方がいて、そこでかなり弾き語りでライブをしていたんです。そのときにたくさん学ぶことがあって。サウンド面を全部1人で作り上げる人間だったからこそ、サウンドの力に依存する部分が強かった。だから、シンプルな表現になったときの言葉とメロディのリアルなパワー、飾らない魅力をすごく学んだんです。なので、その感覚をずっと大事にしたくて。生身の人間としての音楽や感情を届けられるのがアコースティックだと思うので、それは今後も大事にしたいなと思っています。

──9月からの全国ツアーに向けては、今どんなことを考えていますか?

国内外の差はないとはいえども、同じ言語を共有できる母国でのライブというものは、何よりも大事にしたい部分ではあるので。まずは自分が日本語で表現した音楽を余すことなく届けたいと思っています。リアルさとか生々しさみたいなものをライブの中でも表現したいですね。

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公演情報

センチミリメンタル LIVE TOUR 2025 “カフネ”

  • 2025年9月14日(日)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2025年9月27日(土)宮城県 Rensa
  • 2025年10月18日(土)大阪府 BIGCAT
  • 2025年10月25日(土)広島県 広島セカンド・クラッチ
  • 2025年10月26日(日)福岡県 BEAT STATION
  • 2025年11月9日(日)神奈川県 KT Zepp Yokohama

プロフィール

センチミリメンタル

作詞、作曲、編曲、歌唱、ピアノ、ギター、プログラミングのすべてを担う温詞(あつし)によるソロプロジェクト。2019年9月に1stシングル「キヅアト」でメジャーデビュー。以降、アニメ「ギヴン」シリーズをはじめとした数々のアニメの主題歌、テーマソングを担当。さまざまなアーティストへの楽曲提供も行っている。2025年8月に2ndアルバム「カフネ」をリリース。9月には全国6カ所を巡るツアー「センチミリメンタル LIVE TOUR 2025 “カフネ”」がスタートする。