ナタリー PowerPush - CARNATION
眼前に広がる夢幻の音楽的風景 3年ぶりフルアルバムがついに完成
年々荒っぽくなるライブとバンドの膨大なトータリティ
──歌詞の世界がガチッと決まってからの歌入れはスムーズでしたか?
直枝 たいていの曲はスムーズでしたね。ただ、言葉がシンプルで単純な繰り返しの「Velvet Velvet」が実は一番苦労しましたね。この曲は今回のテーマソングっていうか、普遍的なカーネーションワールドを表す曲だと思うんだけど、色や光、見えてくる世界観っていうかな……それをすごく抽象的に短い間に集約させた曲になっている。歌っていて「これは試練だ」と思いましたね。苦労したけど、逆に「これを乗り越えれば俺は抜ける」とも。そういう重い曲が1曲目に入っているということが今回のアルバムの一番特殊なポイントだし、いいところじゃないかな。
──「SUPER ZOO!」のときも、1曲目の「SUPER ZOO!」が最後まで苦労されて、その中から突き抜けて出てきた曲だとおっしゃってましたけど「Velvet Velvet」とは質が違うんでしょうね。
直枝 あぁ、あれはもう一番きついときの曲だからね。精神的に怒ってたでしょ。ケンカ売ってるみたいな。ああいうのは、良くない(笑)。
──(笑)。
直枝 ただ、あの曲、ライブでは気持ちいいんだよね。ライブではそういうアドレナリンが多少出てるぐらいがお客さんも楽しいだろうし。ライブって架空のケンカの場だからね(笑)。
──カーネーション、年々荒っぽくなってますよね、ライブが(笑)。
直枝 なってるね!(笑) この間(頭脳警察と突然段ボールと対バンした「DRIVE TO 2010」)のライブは特にね。
──あのイベント、本当に良かったですね。最初は「この3組ってどんな組み合わせだよ!」とか思ったんですけど。
直枝 段ボールなんて俺21歳ぐらいのときに観にいってて、で、まだずっとあれが続いてるわけでしょ。
──突然段ボールのライブ観て思ったのが、アート・ロックというか、ああいうニュー・ウェイヴのところから来た人の音楽って古びないんだなっていう。今聴いても全然かっこいいみたいな。
直枝 そうそう。でね、ちゃんと自分たちのやり方があるんだよね。あの人たちは、言葉の持ってき方、置き方、繰り返し方を外さない。それがすごいなぁと思った。
──「DRIVE TO 2010」もそうでしょうし、今度BOXが発売される耳鼻咽喉科(1981年に結成されたカーネーションの前身となるアヴァン・ポップ・バンド)の感動的なイベントもこの前ありましたし、それに加えて今回はコロムビア時代の音源も再発されますよね。それらがクリエイティブに、並行的に動いている感じや、そうしたカーネーション以外のプロジェクトから刺激を受けた部分はありますか。
直枝 あまり余計なことやってたつもりもないし、全部カーネーションの活動にかかわってると思ってます。1981年の耳鼻咽喉科の音源・映像と同時に2009年11月のカーネーションの新譜、そしてコロムビア時代の再発が出てくる。今朝ファンクラブの会報用に文章を書いてて感じたことなんだけど、これだけ作品をいっぺんに出せる膨大なトータリティに驚いたというか、「これはもう人生そのものだな」という感じを受けまして。課外活動的なことも含めて、この1年の活動はカーネーションにとって非常に大きかった。全部つながってるし、そこにまったくブレはない。あとは僕たちがこの1年をいい感触でちゃんと終えられるように、責任持ってライブで演奏することができればって感じです。ライブっていうのは、必ず後に何か返してくれるからね。
細かいことは指定せずにバンドっぽいやり方で作った
──「Velvet Velvet」はゲストミュージシャンも豪華でバラエティにあふれていますが、このあたりはどうやって決まっていったんですか。
直枝 困ったときの大野由美子。昔からそうなんですよ。「天国と地獄」のときから大野さんにはライブでお世話になってて「EDO RIVER」では一緒にデュエットしてもらったり。まぁ女神なんですよ。音楽の女神。そういう僕らの歴史上縁起のいい人とどうしてもやりたくなる。ほかの人が縁起悪いってわけじゃないんだけど(笑)。宮田(繁男)くんとは松尾清憲さんのバックで20代の頃一緒にやってたんです。僕はキーボードとコーラスだったんだけど。彼がそのときにソウル・ミュージックの楽しみを教えてくれたんですよ。レコードを未だに借りっぱなし。彼のイメージは僕の中で「ノーザン・ソウルを熟知したリズム感」だと思っているから、今回の曲でノーザン・ソウル的な「Songbook」と「この悲しみ」は「宮田くんを呼んでやりたい」って僕から言いました。彼なら一言で伝わると思ったので。
──「Annie」のピアノもいいですよね。
直枝 あれはシュンちゃん(渡辺シュンスケ)です。シュンちゃんも困ったときにいつも助けてくれる人で、今回は家で打ち込み作業をやってくれたり、僕が「ちょっとこれヴィオラでフレーズ作ったんだけどまとめてくれる?」みたいな素材をファイルで送ってやり取りして、最終的にスタジオで流し込んだりしました。レコーディング現場でも楽器をたくさん借りておいて「次はあれ弾いて、これ弾いて」みたいな感じ。奥野(真哉)くんは、ノーザン・ソウルもそうだけどUKソウル解釈の方がピッタリ来るんじゃないかと思って頼みました。なおかつ彼はニュー・ウェイヴ的な感じがあるから、そこも面白いんじゃないかと思って。いずれにせよゲストの人にはフレーズやアレンジは指定しないで「あなたはこの楽器弾いてください」とだけ言って弾いてもらう。一緒にセッションしてみんながやりたいことをやってもらった上で、相談しながらバンドっぽいやり方で作っていきましたね。
──最近のカーネーションの楽曲の特徴って、そういうソウルっぽい楽曲もあれば、ニュー・ウェイヴっぽい曲もあるし、もっと荒っぽいストレートなロックもある。このアルバムには全部入っていると思うんですが、曲のバランスはどのように決めているんですか。
直枝 そのへん全然気にしてないんだよね。自然とどこかで計算してるのかもしれないけど。曲もこれ以外にもいろいろあったけど、直感で選んで最終的にこの12曲になってます。
──12曲っていうのはやっぱりこだわりというか?
直枝 最初は11曲ぐらいでいいかなと思ってたんですけど、作ってるうちにどんどん欲が出てきてね。俺が「詞ができないできない」って悩んでるときに横尾さんから「『砂丘にて』入れましょうよ」「12曲入りにしたいんです」みたいな要望があって。僕も元々濃いアルバムが好きなんで12曲ぐらいあればいいかなって。最初は「ジェイソン」は入れない方向で考えていたんです。
──そうなんですか!? 絶対入っていて良かったと思いますよ。
直枝 入れどころが難しかったんだよね。作ってから時間が多少経っていることと、もっとフレッシュ感を出すために「『ジェイソン』外すって案もあるよね」っていう話も出た。昔の曲でもあるし。ただ、これはリメイクして魂を吹き込んで今の曲になってるわけだから、これを入れたほうがアルバムとしては楽しめるかなということで入りました。
CD収録曲
- Velvet Velvet
- さみだれ
- 田園通信
- Annie
- この悲しみ
- Willow in Space
- ジェイソン
- For Your Love
- 砂丘にて
- Songbook
- Dream is Over
- 遠い空 響く声
初回盤DVD収録内容
- 「ジェイソン」Promotion Video
- 「Velvet Velvet」Promotion Video
- アルバムレコーディングのドキュメント映像
カーネーション
1983年に前身バンド・耳鼻咽喉科のメンバーで直枝政広(当時は政太郎/Vo,G)を中心に結成。1984年にシングル「夜の煙突」(ナゴム)でデビューを飾る。現在のメンバーは直枝と1990年加入の大田譲(B,Vo)の2人。幾度かのメンバーチェンジを経て、数多くの名作を発表し続けている。緻密に作られた楽曲や演奏力抜群のアンサンブルはもちろん、直枝の人生の哀楽を鋭く綴った歌詞や、圧倒的な歌唱、レコードジャンキーとしての博覧強記ぶりなどで、音楽シーンに大きな存在感を示している。2008年に結成25周年を迎え、2009年1月、1986年加入以来不動のドラマーだった矢部浩志が脱退。現メンバー、直枝政広(Vo,G)と大田譲(B)の2人にサポートドラマー中原由貴(タマコウォルズ)を迎え、2009年4月に約2年半ぶりの新録作品となるシングル「ジェイソン」をリリースした。