ナタリー PowerPush - カーネーショントリビュートアルバム「なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?」

直枝政広×岡村靖幸

カーネーションの結成30周年を記念して、トリビュートアルバム「なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?」がリリースされた。

このアルバムは澤部渡(スカート)と佐藤優介(カメラ=万年筆)が発起人となり、森高千里、曽我部恵一、山本精一らベテラン勢から大森靖子、ミツメ、森は生きている、Babiといった若手まで計14組が参加した1枚。カーネーションが生んだ名曲を各アーティストがそれぞれの個性で鮮やかに料理している。

今回このアルバムの完成を受けて、ナタリーではカーネーションの直枝政広と、アルバムに参加している岡村靖幸へのインタビューを実施した。2人による熱のこもった音楽談義をたっぷりと楽しんでもらいたい。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 福岡諒祠

「家庭教師」に受けた衝撃

直枝政広

──まずはトリビュートアルバム発売おめでとうございます。

直枝政広 感謝してます。30年やってるとこんないいこともあるんだなって(笑)。

──岡村さんは今回「学校で何おそわってんの」のカバーで参加されてますが、お2人の交流はいつ頃からですか?

直枝 交流というか、最初の接点は岡村さんのトリビュート盤に僕が参加したときですね。

──朝日美穂さんが発起人となってリリースされた「Tribute To Yasuyuki Okamura EP」(2001年7月リリース)と「どんなものでも君にかないやしない」(2002年4月リリース)で、直枝さんは岡村さんの「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」をカバーしていますね。

直枝 そう、それがきっかけで僕の音が間接的に岡村さんのところに届いたのが最初じゃないかな。

岡村靖幸 そうですね。

直枝 僕は1990年頃、自分の音楽に全然納得いってないときに岡村さんの「家庭教師」(1990年11月リリース)を聴いて心の底から驚いたっていう経験があるんです。ガツンと来て、そのとき以来もう本当に大好きになって。

──カーネーションの作品で言うと「天国と地獄」(1992年8月リリース)の前くらいですか?

直枝 そうですね。当時は周りの期待している音と自分たちが鳴らせるものとがゴチャゴチャになってきてて、自分自身なんかすごく閉じてるなって感じてた。そんなときに「家庭教師」を聴いて、この想像力と開放感はなんなんだろうって。なんだ、こんなに自由にやりたいことをやってる人がいるんだと気付かされたんですよね。

──岡村さんは直枝さんの音楽との出会いは?

岡村 きっかけはそのトリビュートで聴かせていただいて。とっても素晴らしかったです。その後さらに直枝さんの音楽を聴いて、直枝さんが出した本を読んでたいへん感銘を受けました。

──本というのは?

直枝 「宇宙の柳、たましいの下着」(2007年11月発売)っていう、自分なりの音楽史をまとめた本ですね。

岡村 読んだときに熱とかロマンみたいなものを感じたんです。直枝さんが音楽を介しての自分史を書かれていてとっても面白かったし共感もしました。僕が全然詳しくないフランク・ザッパとか、いろんなアーティストについてもたくさん書かれてたし。直枝さんは文才もすごいし、もちろん歌詞も素晴らしくて。で、それをコンサートに来ていただいたときに伝えたんです。そこから僕がラブコールを送って、僕のDVDボックスの解説を書いてもらったり。いろんな形でサポートしてもらっています。

日本語の歌詞へのこだわり

──お2人の音楽的な共通項についてはどう感じていますか?

岡村 直枝さんもそうだと思うんですけど、僕はThe Beatles周辺にものすごく影響を受けているし、好きですね。直枝さんがずっと好きだって言ってる「Ram」(ポール&リンダ・マッカートニー)とか僕もすごい好きだし。あと2人とも歌謡曲とか日本のポップスにすごく影響を受けていると思います。

──日本の音楽の影響というのはどのあたりに?

岡村 やっぱり歌詞は大きいですよね。直枝さんの歌詞はユーモアもあるし、オリジナリティもあるし、言葉の乗せ方もすごくこだわってる。僕が今回トリビュートで歌った曲もそうですけど。

直枝 僕は80年代は混沌としてたんで。正直1990年ぐらいから日本語っていうものがようやく見えてきた。岡村さんの活動を見て突き抜けたところがすごくあるんですよね。「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」とか、やっぱりああいう情景が歌になるってこと自体がショックだったのかな。たぶんかなりそこらへんに僕の変わり目があると思います。

──じゃあ直枝さんの歌詞にも岡村さんの影響は少なからずありますか?

直枝 完全にありますね。歌っていただいた「学校で何おそわってんの」。これはそもそも僕が「家庭教師」みたいな曲を作りたいと思って書いた曲ですから。それを今回何も言っていないのに岡村さんが取り上げてくれて歌っているっていう。この精神のキャッチボールみたいなの、すげえなって思ったんです。

トリビュートアルバム「なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?」2013年12月18日発売 / 2940円 / P-Vine Records / PCD-28023
収録曲
  1. 夜の煙突 / 森高千里 with カーネーション
  2. YOUNG WISE MEN / ミツメ
  3. からまわる世界 / シャムキャッツ
  4. The End of Summer / 大森靖子
  5. 学校で何おそわってんの / 岡村靖幸
  6. ダイナマイト・ボイン / ブラウンノーズ&梅津和時
  7. Edo River / 曽我部恵一
  8. トロッコ / カメラ=万年筆
  9. グレイト・ノスタルジア / 失敗しない生き方
  10. 60wはぼくの頭の上で光ってる / Babi
  11. 月の足跡が枯れた麦に沈み / スカート
  12. 未来図 / 山本精一
  13. Bye Bye / 森は生きている
  14. Edo River / うどん兄弟 with カメラ=万年筆
カーネーション

1983年に直枝政広(当時は政太郎 / Vo, G)を中心に結成されたロックバンド。1984年にシングル「夜の煙突」でデビューを飾る。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在のメンバーは直枝と1990年加入の大田譲(B, Vo)の2人。緻密に練られた楽曲やアンサンブルはもちろん、直枝による人生の哀楽を鋭く綴った歌詞や、濃厚な歌声、レコードジャンキーとしての博覧強記ぶりなどで音楽シーンに大きな存在感を示している。他アーティストからの支持も厚く、2013年12月には彼らの結成30周年を祝うべく14組が参加したトリビュートアルバム「なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?」が発売された。

岡村靖幸(おかむらやすゆき)

1965年生まれ、神戸出身のシンガーソングライター。作曲家としての活動を経て1986年にシングル「Out of Blue」でデビュー。R&Bやソウルミュージックを昇華したファンキーなサウンド、青春や恋愛の機微を描いた歌詞などが支持され、熱狂的な人気を集める。90年代以降は作品発表のペースを落とし表舞台から姿を消すが、他アーティストへの楽曲提供やプロデュース活動は継続する。2004年には約9年ぶりのアルバム「Me-imi」をリリースし全国ツアーも実施。2011年8月にアルバム「エチケット」を2枚同時リリースし、2013年10月に6年ぶりのニューシングル「ビバナミダ」を発表した。