音楽ナタリー PowerPush - cali≠gari
第8期メンバーの腹の内
cali≠gariが一番力を入れていない
──「12」についてお伺いしていきたいんですが、今回のアルバムには4人のドラマーが参加していますね。いずれも個性の強い方々ですが、どういった理由でそれぞれの方にお願いしたんでしょうか。
桜井 アルバムの曲のテイストを踏まえつつ、実現性がありそうで、コネクションがある方にオファーしましたね。もちろんこの人たちにお願いすれば、絶対いいものができるという確信があった上ですけど。
石井 上領(亘)さんの場合はタイトで正確なドラミングを求めてお願いしました。上領さんが叩くって決まってから、上領さんのプレイが生かせる楽曲を選んで。
──cali≠gariの後輩バンドとも言えるムックのSATOちさんがダイナミックかつ高速な「脳核テロル」を叩いていたり、確かに曲のタイプに合わせて異なるドラマーを迎えてますよね。
桜井 今回参加してもらったドラマーは全員そうなんですけど、音を聴いたら誰なのか一発でわかる人にお願いしてますね。「颯爽たる未来圏」「あの人はもう来ない」を叩いてもらったTetsuさんは抒情的なものが合うんだろうなって思って曲をお渡ししました。そう言えばTetsuさんのドラムが乗ってから構成を変えたりもしましたね。
石井 そもそもcali≠gariのレコーディングはドラムから録らないし、再始動以降は事前にスタジオに入ってプリプロをすることもなくなったから、あとで曲の構成を変えたりするんですよね。
桜井 まあ、制作中にメンバーに会うこともないし、会うつもりもないし。基本的にデータだけのやり取りだけなんで。で、ある程度完成したらレコーディングに入るみたいな。
──その作業のスタイルは時間がかかりそうですね。
桜井 でも我々にとってみたら週に1~3回スタジオに入って、プリプロしてっていう作り方のほうが面倒くさいんですよ。
村井 それこそレコーディング合宿なんかやったら解散しちゃうんで(笑)。合宿所付きのスタジオなんて行った日には、面倒くさくて崩壊するかもしれない。
石井 それぞれやってる音楽活動の中でcali≠gariが一番力を入れてないですからね(笑)。まあ2009年の復活以降いい距離感でやれてると思いますよ。
桜井 そもそも再始動したときはレコーディングをする予定はなかったし。復活しても、それこそ“消費期限”付きにしてすぐやめるつもりだったんですよ。でも始めてみたら、自分たちが想像していたよりもゆるやかにできているし、プリプロしなくても作品は作れるようになったんで続いている感じですね。
石井 それぞれ別の形で音楽活動をやってる上で再結成するから続いているんだと思いますよ。昔は1つのバンドに所属したら、そこがすべてになりがちでしたけどね。
居場所がある幸せ
──お話を伺っている限りcali≠gariは第8期としてこのあとも活動を継続していくと思うのですが、今後の具体的なビジョンはありますか?
桜井 特にないですね。
石井 ただ、やめることも今は頭にないですね。っていうか、いつバンドを解散するか考えてやってるバンドっているんですかね?
──若いうちに一気にスターダムを駆け上がって、人気があるうちに解散することを考えて活動しているバンドやグループは少なからずいると思います。
石井 東京ドームを目指して、そこでライブをやったら解散とか?
桜井 バンドに美学を感じている人はそういう考えを持つかもしれませんね。
村井 昔はさておき、この歳になるとそういう考えもありませんよ(笑)。
桜井 幸か不幸かcali≠gariは続けていける体力もあるし、聴いてくれるファンもいるんで。一部は除いて、キッズが思い描く最終型がcali≠gariのような形である気もするんですよね。好き放題できるし。まあ僕の場合は単純にお金のためにしか音楽をやる気はないですけど。あえて言うなら一番楽しいのはお酒を飲んでるときだし。
村井 まあ、それぞれ思いはありますけど、もはやcali≠gariを続けない理由がないんですよ。お客さんが作品を待ってくれていて、ライブに来てくれる現状があるんで。あとこの歳になっても居場所があるのって、とても幸せなことなんですよね。それをまっとうするのがごくごく自然な考えだと思うんです。
──3人にとってcali≠gariとして活動していることが自然ということでしょうか?
石井 そうでしょうね。この編成になってから。まあcali≠gariでやってる音楽が、必ずしもそれぞれが本当に好きな音楽ではないんですよ。音楽の趣味も活動に対する考え方も違うし。
──では皆さんが考える、cali≠gariがやるべき音楽とはどんなものでしょうか?
桜井 お客さんが求めているcali≠gari像に応える曲ですよね。お客さんが聴きたいと思う曲を作って、ライブをするという。“仕事”をしている感じですよ。若いバンドはさておき、僕たちみたいなバンドってそういうものだと思いますよ。本当に好きなものはそれぞれソロのほうでやってますからね。
石井 俺、今の時代だったら、絶対にバンドなんてやらないですよ。我々の世代だったら、バンドブームもあったし夢もありましたけど。
──今だとバンド1本で活動するというよりは、別に仕事をしながらバンドをやる“二足わらじ”の方も増えてますよね。
村井 ああ、確かに。保険を持つ人は増えてるでしょうね。
桜井 本音を言えば、cali≠gariを作った頃は僕も保険が欲しいと思ってましたからね。でも当時はそれが許されなかったんですよ。
村井 そうそう。俺らの世代はバンド以外の仕事だったり、ダメになったときの保険を用意してたとしても、ロック一筋の怖い先輩たちの手前それは口が裂けても言えない風潮だった。ロックなフリをしなきゃいけないのがあったんですよ。今の子たちは保険を用意しながら、バンドをやっていけるような風潮がある。それは世代の違いでしょうし、いいことだと思いますよ。
「村井さんってcali≠gariの人なんですか?」
──cali≠gariは再始動以降、着実にファンが増えている印象があるんですが皆さんはどう感じていますか?
村井 うーん……まあ自分が知らないところで、知ってる人が増えている感じがありますね。この前自宅に冷蔵庫を搬入してくれた男の子と話してたら、「最近ハマってるバンドがcali≠gari」って言ったんですよ。だから「俺cali≠gariなんですよ」って言ったら、「え、村井さんってcali≠gariの人なんですか?」って驚かれるという。
──(笑)。
村井 あと知る人ぞ知る存在っていうのがいいなと。前に人と話していたときに「自分の周りにSTARDUST REVUEのファンの人っている?」っていう話になって。確かに「STARDUST REVUEのファンです」っていう人に身近で会ったことはないけど、彼らはファンに長い間支持されていて、ライブをやればアリーナ会場も埋まる。cali≠gariも彼らと同じように、支持する人がどこかしらにいて、ひっそりと長く音楽シーンにいられる存在でありたいなと。
──村井さんの言葉とは裏腹に、外から見ていると日本の音楽シーンの中でものすごく強烈な存在感を放っていると思いますが……。
村井 はははは(笑)。あと俺、音楽専門学校に教えに行く機会がときどきあるんだけど、若い男の子が「実は俺、cali≠gari好きなんです」って言ってくる子がいて。「実は」ってなんだよと(笑)。「そんなに恥ずかしいことじゃないよ。周りに堂々と言ってよ」って言っても、「周りにわかる人がいなくて……」って遠慮気味に返してくるんですよ。
桜井 「cali≠gariが好き」って言ったときに「誰それ?」って言われるだろうし、曲を聴かせてもちょっとコメントに困るような音楽をやってる自覚はありますよ。僕らルックスもこういう感じですから、男の子だったらなおさら言いづらいでしょうね。
村井 でも最近若い男性ファンが増えた感じはあるよね。どうやって知ったのかわからないですけど。ただ自分が学生だったとして、cali≠gariの音楽を好きになってたかどうかって考えたら……気持ち悪いって思ってたかもしれないですね(笑)。
桜井 僕は好きになってるかもしれないな。
- ニューアルバム「12」2015年3月11日発売 / 日本コロムビア
- 狂信盤 [CD+DVD] 4320円 / COZP-1021~2
- 良心盤 [CD] 3240円 / COCP-39034
CD収録曲
- わるいやつら
- 脳核テロル
- 颯爽たる未来圏
- セックスと嘘
- トゥナイトゥナイ ヤヤヤ
- ギムレットには早すぎる
- とある仮想と
- 紅麗死異愛羅武勇
- バンバンバン
- フィラメント
- あの人はもう来ない
- さよならだけが人生さ
狂信盤DVD収録内容
- メンバー×ゲストドラマー対談、メンバーインタビュー、ジャケット撮影メイキングなど
cali≠gari(カリガリ)
1993年に結成。パンク、ニューウェイブ、歌謡曲、ジャズなど多彩な音楽性を内包したサウンド、ド派手なビジュアルやパフォーマンスを特徴とする。2003年より活動休止するも、2009年より“消費期限付き”で活動を再開させる。2012年に期限付きでの活動を撤回し、以降もコンスタントに作品のリリースやライブ活動を続けている。メンバーが変わるごとに活動期間を「期」で区切っており、2015年1月より石井秀仁(Vo)、桜井青(G, Vo)、村井研次郎(B)という3人で第8期として活動中。