映画「バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~」Creepy Nutsインタビュー|主題歌を担って見えてきたそれぞれの“帰る場所”

Creepy Nutsが映画「バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~」の主題歌「Who am I」を書き下ろした。

「バイプレイヤーズ」は田口トモロヲ、松重豊、光石研、遠藤憲一ら名脇役たちが本人役で出演する人気ドラマシリーズ。劇場版となる本作では、映画制作というテーマを主軸に、100人の俳優陣による群像劇が繰り広げられる。その映画に対して、Creepy Nutsは「自らの帰る場所」をテーマにした新曲を提供し、映画に華を添えた。

R-指定、DJ 松永ともに俳優業に進出し、ドラマ「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」にはそろって出演しているCreepy Nuts。音楽ナタリーでは「Who am I」制作に至る道筋から映画への感想、そして自身たちの俳優業まで幅広く話を聞いた。

取材・文 / 高木“JET”晋一郎 撮影 / 堀内彩香

R-指定

DJ 松永

ヒップホップ要素も感じた

──まず映画「バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~」をご覧になっての感想は?

R-指定 純粋に面白かったし、物作りに関する、スムーズに行かない部分や不測の事態が発生するところは、すごく共感できましたね。それから、演者同士の関係性は普段からこうなのかなとか、本人を演じてはいるんだけど、本人そのままではないデフォルメやブーストされたキャラクター性だったり、そういう虚実の入り混じった感じが興味深くて。

DJ 松永 木村多江さんが、岸井ゆきのさんにキレるパートはめちゃくちゃ面白かったですね。

R-指定 あれはめっちゃオモロかった。木村さんが最初はおしとやかな言い方だったのに、どんどんキレていって。

DJ 松永 最後に木村さんが岸井さんの首根っこつかんで連行していくのはめちゃくちゃ笑っちゃった。

映画「バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~」より。

R-指定 撮影班のシーンのアンサンブルもすごくよかったですね。濱田岳さんと柄本時生さんのバディムービーみたいな感触があって。濱田さんが「釣りバカ!」って呼ばれる部分にはヒップホップ的な感性も感じたんですよね。そういう“称号”はラップで言えば「代表作=クラシック」があるってことだし、その代表作って、ラッパーが首から下げてるゴールドチェーンとかブリンブリンみたいな役目になるんだろうなって。

DJ 松永 いろんな映画のオマージュとかが出てくるのもヒップホップっぽい感じがしたよね。

4、5年ぐらい温めていた

──そして主題歌となる「Who am I」ですが、制作はどのように進めていきましたか?

R-指定 そもそもこの映画の主題歌を作ってほしいというお話をいただいて。だから映画自体も完成する前段階から拝見させてもらって、その中でイメージを膨らませていった感じですね。ただ、雛形となる部分は少し前からあったんですよ。

DJ 松永 R-指定のソロアルバム「セカンドオピニオン」(2014年4月発売)に収録された、I-DeAさんがトラックを制作した「使えない奴ら」っていう曲があるんですが、それはCreepyのライブでも重要なファクターになっていて。そういう曲をCreepy Nutsとしても作りたいなと思って、ずっと温めてたトラックがあったんですね。今回のお話をいただいて、それがやっと完成形にできるんじゃないかなってところからスタートしました。

──「Who am I」と「使えない奴ら」のトラックは6/8拍子という部分で共通してますね。

R-指定 映画の中で、SL(蒸気機関車)が1つのファクターになっていて、SLの輪転音とワルツのリズムは近かったりするので、それもイメージ源ではありますね。

──同じ6/8拍子としてCreepy Nutsには「月に遠吠え」(2018年4月発売「クリープ・ショー」収録)がありますが。

DJ 松永 実は「月に遠吠え」よりも先に「Who am I」の雛形のほうがあったんですよ。だから4、5年ぐらい完成に至らなかった曲で。

──その意味でも、もともとあった種がこの映画によって発芽して花開いたというか。ではなぜ開花までそんなに時間が?

R-指定 もともと「地元の曲を作ろう」というテーマがあったんですが、それがイマイチ面白い着地点にならなくて。だけど4、5年温めてる中で、俺たちもいろんな経験をさせてもらって、そこで地元や“帰る場所”の見え方が変わってきたんですよね。俺は大阪、松永は新潟出身なんで、やっぱりお互いにそこが地元だし、東京は“戦いに来る場所”。だから傷付くし、大変な思いもするから、その場所を仮想敵にしてしまいがちなんですけど、でも東京が帰る場所であり、地元だという人も当然いて。

DJ 松永 それこそ、俺が中学校のときに聴いてたRHYMESTERのラジオ「WANTED!」で、宇多丸さんがそういう話をしてて。東京を特集する回があって、「だいたい東京っていうと薄汚れた街、悪の街みたいに言われますけど、ここに住んでる人もいますから!」って(笑)。

R-指定 「生まれ育った人の気持ちも考えてください!」ってやつな(笑)。

DJ 松永 「そんなこと言われたら、こっちも条件反射で『この田舎モンが!』って言い返しますよ」って(笑)。

Creepy Nuts

──宇多丸さんは渋谷のような新興都市としての東京よりもっと歴史深い千駄木育ちだから、余計にそういう感覚があるのかも知れませんね。

R-指定 俺も東京に来て、宇多丸さんみたいに“東京生まれ東京育ち”の人にたくさん出会うことで、自分の考え方が変わっていったというか。俺らみたいな田んぼが原風景の人じゃなくて、でかい高層ビルが自分の故郷の人も当然いる。そして、その帰る場所、戦う場所っていうのは地域性だけじゃなくて。例えば役者さんにとっては撮影現場や映画、ドラマがそうやと思うし、俺らにとっては音楽業界がそう。そこで汚い部分を見たり悔しい思いをしたりすることがあるから、仮想敵にもしがちだけど、そういうネガティブな気持ちにさせるような事柄は実はほんのわずかで、大半は純粋にその場所をよくしようとしたり、かけがえのない場所として愛したり、生活したりしてる。そういう面を見る視点が生まれたことで、この曲が書けたんじゃないかなって思いますね。俺とはかけ離れてると思いつつ、敵だと思ってたものの中に自分を見つけて、そこで気付けたというか。それは経験によるものだと思いますね。

──Creepy Nutsは「助演男優賞」(2017年2月発売のアルバム表題曲)で、自分たちは「主役のたまじゃない」と歌いました。ただ同時に「時として主役を喰っちまう」というリリックもありましたが、その部分の意識は変化しましたか?

R-指定 僕らの活動状況が変わっていくにつれて、考え方は変わりましたね。「バイプレイヤーズ」もそうなんですが、例えば、脇役の人の視点、人生ではその人が主演だし、どんな主役だって、脇役の人の視点からすればバイプレイヤーというか。だから、全員が全員、主演であり、同時にバイプレイヤーやって思うようになりましたね。

DJ 松永 ただ、Creepy Nutsの曲にとっては、自分はバイプレイヤー的な役割かなって思います。「Rが一番カッコよくラップできるための土俵を作る」というのが自分の使命だと思うし、それができたときはメチャクチャ快感なんですよ。その意味でも、主役を立たせるバイプレイヤーでいたいなって。

Creepy Nuts

竹原ピストル、10-FEETによって上がったハードル

──「バイプレイヤーズ」のドラマシリーズと劇場版では竹原ピストルさんと10-FEETが楽曲提供を行っています。

DJ 松永 だからめちゃくちゃハードルが高いですよね。ファンの方に「なんかよくわかんねえヒップホップが来たな」とか思われたらどうしようって(笑)。

──急な自虐が(笑)。

DJ 松永 僕らはピストルさんの曲も10-FEETさんの曲も好きだし、その2組がドラマのテーマソングを作って、そのバトンを僕らが受け取った形で映画の主題歌を書き下ろしたんで、なんだか緊張します。

R-指定 イメージとしては、オープニングを飾る10-FEETさんの「アオ」が、広い視点から演じることやモノを作ることをテーマにしていて、終盤で流れるピストルさんの「今宵もかろうじて歌い切る」が、より生き様とか人生にぐっとフォーカスしてるんですね。だからエンドロールで流れる「Who am I」は、より広いイメージで自分の居場所みたいな部分を形にしようと思って。その2曲からの影響も「Who am I」にはありますね。

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Creepy Nutsの逃げる演技