Buzz72+|松隈ケンタ率いる福岡発ロックバンド、14年ぶり復活ライブに向けて

歌で大切なのはリズム感

──松隈さんはボーカルのディレクションも?

松隈 全曲俺がやります。今回は特に「world end」がよかった。ハルさんは40歳過ぎて進化しましたよ。

井上 新しい歌い方をしました。

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松隈 もうASPのナアユとかユメカ・ナウカナ?を相手にする感じで、「お前うまくなったじゃん!」なんて思わず言っちゃいました。若いアイドルならまだしも、40歳過ぎて進化するのはすごいと思いますよ。

井上 松隈とボーカルレコーディングするときは雑談半分レコーディング半分くらいのバランスで、リラックスしてできるんです。

松隈 しゃべり疲れて帰っちゃうこともあるもんね(笑)。うちのスタジオ、うちのスタッフで全部やるから納得いくまでできるんですよ。だから俺とハルくんはコミュニケーションを細かく取れてて、リズム隊の2人に対してはおろそかになっているんだろうね(笑)。昔なら俺とハルがコミュニケーション取れなかったから。

井上 冗談混じりで「こんなのもどう?」「これはやりすぎ」みたいなやり取りをしつつ、「world end」の歌い回しはいつもよりもちょっと歪んだ感じの声を出す形になった。

──がなる感じの歌い方で力強いですね。

松隈 12、3回はボーカル録ったよね。

 そんなに録ったんだ?

井上 その歌い方をちゃんとつかみたかったから。

松隈 10本ぐらい録って「これだ!」って2人の中で納得できたんだよね。この歌い方がいいと。でもそのときはもう疲れていたから、1週間後くらいにその歌い方を覚えたうえで録り直した。

井上 何がいいか最初は自分の中でわからなかったので、探って、見つけて、ちゃんとその手法を習得してから歌えたのはよかった。

──井上さんの歌い回しについてはディレクションもあると思いますが、松隈さんの仮歌に少なからず影響されてるような気がします。

松隈 ああ、言いたいことはわかります。アイナ・ジ・エンド(BiSH)とか月ノウサギ(PARADISES)とかネオ・トゥリーズ(BiS)とか、WACKはみんなそうなんですけどね。今、歌い回しっておっしゃいましたけど、ハルも昔はそれを誤解してたんだと思うんです。仮歌の歌い回しをマネしてほしいわけじゃなくて、俺は音符の位置に対して強いこだわりがあるんですよ。ドラム、ベースとかリズムが好きなので。音の高低よりも横軸の音符(リズム)が大事。例えば歌い方の1つに“しゃくりおろし”っていうのがあって、音を伸ばして最後の音程を下げるクセが特にアイドルは多いんですけど、別に下げてもいいんですよ、ニュアンスとしては。ただ音程を落とすタイミングが何拍目なのかっていう。

──下げるときもリズムを刻めていればそれでよしと。

松隈 そう。早めに落とすと音符が増えちゃうんですよ。ギタリストならチョーキング、ハンマリング、スライド、どれもニュアンスが違うじゃないですか。これをボーカリストが適当にやるのがマジでムカつくんですよ!

一同 ははは(笑)。

松隈 例えばボーカルのメロディラインをハンマリング想定で作曲したのに、スライドで歌いよる人がいるから。それは違う!(笑) 昔ハルくんに対してもっと言いたかったんですけど、ボーカリストとギタリストで言葉が違うというか、うまく言えなかった。もっとデモを聴いてきてくれよ、なんで聴いてきてないんだよって思っちゃってました。逆にハルはハルで“歌い回し”をマネしてほしいものだと思っていたから、「なんで違うって言うのか?」という食い違いが生まれてましたね。

井上 今は言ってることがわかるんですよ。

松隈 お互い成長して、ハルは今ではボイトレの先生も経験してるから、子供たちに同じようなことを言ってるでしょう。「ビブラートしてごまかすなよ!」なんて(笑)。そういう意図が通じるようになったのは大きいですよね。

井上 松隈に“こだわりの塊”みたいなイメージがあるかもしれないけど、こだわらないところは全然こだわらないから拍子抜けすることもある。

松隈 ははは(笑)。豆柴の大群のメンバーが「松隈さんの仮歌とこのメンバーの音程、違います」って言ってきたんだけど、「別にいいよ、そこはどっちでも」って答えたらびっくりしてました(笑)。こだわりポイントじゃないところは、ドでもレでもどっちでもいいです。

井上 仮歌を聴いた時点でそのこだわりポイントがちょっと見えるようになってきたんですよね、前作から。

松隈 作曲って鼻歌で誰でもできちゃうんで、リズムをしっかり刻まないとメロディがぬるくなるんですよ。ちょっと話がそれちゃいますけど、特にJ-POPは作曲家とボーカルディレクションする人って別の場合が多いんです。そこでまたズレたり、歌詞が入ることによって言葉のニュアンスに引っ張られて音符が増えたり減ったりする。でも自分がプロデュースするときに歌詞でメロディが変わるのはマジで許せない。どんな歌詞であろうと、メロディは先に決まっているから。歌詞の譜割りに違和感が出るんですけど、そこがクセになって松隈節だと感じてもらえる、そこが売りになってるんです。だから俺の曲でも違う人がディレクションしたら違うものになりますよ。

混沌としたメッセージが2021年らしい

──作品の話題に戻りますが、「world end」に関してはどんな思いで書いたんですか?

北島 「サンライズ」「Don't be afraid 」「world end」は、松隈くんから「歌詞を書きたい人は書いて」と呼びかけがありました。俺はジョギングしてる間に3曲分くらい思い浮かんでその場で書いてという感じでわりとすぐ書けちゃうんです。最初に歌詞を見せたらその印象が強く残ると思うから、そういう作戦で(笑)。サビの最後に「world end」って言うんですけど、このフレーズがパっと出てきたから、そこから全体の歌詞を考えました。俺は書くの速いけど、辻褄が合ってないところがあって、それをハルくんがまとめてくれるから歌詞については共作ですね。作詞にあたって「world end」というフレーズが浮かんだのは、今の社会のごちゃごちゃしている感じを受けてなんですけど、そういうのはどうでもいいから、うまく突き進んでいこう、みたいな内容です。

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松隈 コロナ禍の今、俺たちだけじゃなくて世の中的にいろんな意見がありますよね。コロナウイルスに対してだけじゃなくて、オリンピックに対してもいろいろな意見があって、ぐちゃぐちゃ。仲いい同士でも思ってることが違うし、喧嘩になることもだってあり得る。ワクチンを打つ、打たない、コロナウイルスは風邪だ、風邪じゃないとかそういうのばっかり。ちょっとしゃべっただけでも若干の認識の違いがある。今回のアルバムの歌詞の方向性に関しては、あえてすり合わせなかったです。本当ならこういうアルバムにしようって決めてから作るべきですけど、それぞれが思うことをはっきりと示すほうが強いので。そのおかげで混沌としたメッセージのアルバムになりましたけど、それが2021年にぴったりなのかなって思ってます。

ホークス優勝してくれ!

──コロナ禍に思うこともありつつですが、福岡ソフトバンクホークスの公式中継テーマソング「Don't be afraid」「サンライズ」は前向きなメッセージが込められています。

松隈 この曲は、もう「ホークス優勝してくれ!」って気持ちですね(笑)。「パ・リーグTV」(動画配信サービス)では「Don't be afraid」が多く使われてるんですけど、実は「サンライズ」がバンドとしてはメインの応援歌として作った曲です。野球に限らず、スポーツや仕事でがんばっている人たちに向けた応援歌です。

──松隈さんの作詞で、野球愛を感じます。

井上 “パスボール”(捕球ミスで走者を進塁させること)とか野球の要素が詰まった歌詞で。

 実は俺、野球をやっててキャッチャーだったんですよ。だからこれは俺のことを歌ってるんです。

一同 (笑)。

松隈 轟さんパスボールばっかするから(笑)。

 これは松隈くんの皮肉と愛を感じましたね。

松隈 これはピッチャーがストライクゾーンに投げてるのに捕球できずパスボールを繰り返している男の歌(笑)。さすがにパスボールなんて歌詞に使ったらホークスサイドに怒られるんじゃないかと思ったんですけど、OKでした(笑)。

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井上 下北沢のスタジオで歌詞を仕上げてたよね。

松隈 俺が「パスボール面白くない!?」なんて思い付いて(笑)。レコーディングの日にハルのところまで駆け寄ったよね。

井上 「これは轟くん喜ぶぞ!」って。

 キャッチャー的にはうれしくないよ(笑)。

松隈 ただ明日もがんばろうっていう歌詞ですよ!

──今作の中で、「月光」は過去曲のリアレンジバージョンです。この曲を入れようと思った理由は?

松隈 俺らにとって大事な曲だったんですけど、「13」には入らなかった。尖った曲なので前回のアルバムに入れずにリアレンジしたかったんです。昔のバージョンだと今の俺たちにしっくり来てなくて。時間をかけて今回リアレンジしてやっとしっくりしたバージョンができました。元バージョンはAメロが特にまだ青臭かったというか子供っぽさがあって。40歳になった雰囲気だとこういうアレンジだろうなということで、今作ではほかの曲との兼ね合いも含め、うまくハマったと思います。

俺たち自身がBuzz72+を見たい

──7月23、24日にはDRUM Be-1、Zepp Tokyoで約14年ぶりの有観客ライブとなるイベント「JUNCTION 2021」を開催します。東京公演にはPEDROがゲストで参加しますね。

松隈 やっと有観客ライブができます。

井上 Buzz72+は松隈の成功がありつつ、音楽を続けていた俺らがいて、いろんなことが重なり合って今ここにいるバンド。ビジネスとか利益みたいな目的があるわけでもなければ、ただ趣味で一夜限りの復活をすればいいというものでもない。だからと言って気負ってもいない。さらにコロナ禍でお預けを喰らったこともあって、俺の中ではドラマができてしまっている。この自然体の4人からこの先どういうものが生まれるのか、俺もわかっていないけど、この4人で楽しんでやっていますよ、俺らは幸せですよということをライブでも伝えたい。気負ってたらBuzz72+のライブ予定がある今を未だに受け入れられてないと思う(笑)。今のBuzz72+のライブをぜひ観に来てほしいです。

北島 確かにこの4人でもう1回ステージ立つとは思ってなかった(笑)。2007年くらいに、これからBuzz72+でライブはできないんだろうな、というところで終わったから、今回、復活ライブが実現するのは本当に楽しみです。

 今は松隈くんがたぶん一番重い思いを背負ってると思うんですよ。それをしっかり支えたいし、俺自身はすごくいいドラムを演奏したいと思います。それだけです。

──東京公演の対バン相手、PEDROについては?

 後輩バンドが相手だと思ってやりますよ。PEDROが武道館をやっていたとしてもあんまり気にならないかな。

松隈 究極に我々は普通のバンドと違うんですよ。もうホークスの主題歌歌ったんで夢は叶ってるから(笑)。

北島 満足度としてはね?(笑)

松隈 そう(笑)。PEDROとの対バンについて感慨にふけることもなければ、その先にどういうライブをしたいかもない。4人とも意見は一緒で、何よりも俺たち自身がBuzz72+を目撃したいんです。13年前になくなってるはずの俺たちがどんなライブするのかを。

ライブ情報

「JUNCTION 2021」
  • 2021年7月23日(金・祝) 福岡県 DRUM Be-1 OPEN 17:00 / START 18:00 <出演者> Buzz72+ ※オープニングアクトあり
  • 2021年7月24日(土) 東京都 Zepp Tokyo OPEN 17:00 / START 18:00 <出演者> Buzz72+ / PEDRO ※オープニングアクトあり
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