今のBuzz72+を凝縮した「world」
──新作「world」はエモーショナルな松隈節満載という感じで、多彩な作品だと思いました。
轟 多彩って感じましたか? 俺は「今できるBuzz72+はこういうものだ」というのを自分なりに考えて詰め込んだので、統一感があるというか、ギュッと詰まっている印象ではあります。
北島 インディーズのときにやってた感じに近いものが出せたかな。俺はBuzz72+が解散したあとも轟くんと一緒にバンドをやってたんですよ。リズム隊はずっと俺たち2人でやってたんで、以前より太いグルーヴになってると思います。
松隈 2人は俺がレコーディングに行かなくてもいい感じで録ってくれますから。仕事で別の場所にいたから、リズム隊のレコーディングは5月の連休中にスクランブルズの72時間生配信で観てました(笑)。ドラムとベースのレコーディングをYouTubeで生配信してしまうという企画をやりましてね。YouTubeのコメント欄から指示を出したんですけど、そんなディレクションの仕方は前代未聞(笑)。
北島 RECの様子を見られるって地獄ですから(笑)。
──そのとき録った音源は実際に使われてるんですか?
松隈 「月光」「僕らは星をみている」のあたり。メジャーバンドでこんなやり方したらレコード会社の人に怒られると思いますけど、これがアマチュアのいいところですね(笑)。
──作品の統一感の話ですけど、やっぱり振り幅が広いというか、1曲ごとに違う雰囲気だなと感じてまして。バンド然としている曲もあれば、壮大なアレンジの曲もあり。
井上 みんなの個性を持ち寄って作るカラフルなアルバムだけど、そんなにバラバラじゃない。Buzz72+というバンドの色がしっかり出てるというか。
北島 インディーズ時代に「JUNCTION」ってアルバムを作ったんですけど、それは本当にジャンルがバラバラでしたからね。
井上 あれはみんなで集まってそれぞれの色を持ち寄って作ったアルバムだったけど、あのときはそれこそ「ジャンルはなんなんだ?」って言われるくらい、いい意味でカラフルな感じ。今回もそんな感じではある。
俺らでやったらなんでもいいんじゃね?
──今作はこれまで以上に幅広いアレンジですよね。
松隈 おっしゃっていた“多彩さ”というのはそういうところでしょうね。俺たちが言っている「Buzz72+らしさを凝縮した」というのは自分たちが演奏している部分の話だから、完成した音源を聴けば確かにバラエティに富んでる(笑)。いきなりシンセの音で始まる作品ですし。
──バンドサウンドを飛び越えて、実験的な側面もあるなと。
松隈 そうですね。前作は「俺たちはこうあるべき」というBuzz72+像を示さなきゃいけないし、少し気を張っていた部分があって。今回はインディーズ時代のわちゃわちゃ感というか、いい意味で枠にハマらず「俺たちが変わっちゃえ」ということがテーマなので、「こんなのもありかな?」なんて確認しながらメンバーに聴かせました。
井上 「僕らは星をみている」は俺が一目惚れしたというか、聴いてすぐ好きになった曲で。松隈は「あんまりBuzz72+っぽくないよね?」と言ってたんですけど、ぜひやりたいと。
松隈 そうね。Buzz72+っぽくないとは言いつつ、心の底では自信があって、いい曲だなとは思ってはいるんですよ。「僕らは星をみている」は、確か別のグループに提供しようとした曲だったけど、採用されずに眠っていたんですよ。
井上 そんな中で、「僕らは星をみている」は絶対やりたいと。“Buzz72+の松隈ケンタ”では出さなかったアプローチがあるよね。“プロデューサー松隈ケンタ”の曲としてはよく耳にするアプローチだと思うんですけど、今回それをこの4人でどうしてもやりたかったんです。
轟 コロナの影響であんまりコミュニケーションが取れず、やり取りは全部オンラインでした。俺らはこういう打ち込み曲だったり壮大な曲だったりもいいし、せわしい感じの昔っぽい曲でもなんでも、俺らでやったらいいんじゃないか?って思いもあったし、今作はスクランブルズのクリエイターが参加している部分もあるから、その点は新しいと思う。復活したときみたいに、俺たちだけでやらなきゃいけないっていう考えはこの1年でなくなりました。
松隈 前作はあえて俺たちの音だけでやったもんね。
轟 そう。今回はよりカッコいいものを作れたんじゃないかな。俺はその中のドラマーでいられるから幸せです(笑)。
作曲=脚本、サウンドプロデュース=演出
──松隈さんはバンド用とそれ以外のアーティスト用で、作曲のスイッチが違うんですか?
松隈 作曲のスイッチはまったく一緒で、どのグループを作るときもほぼ一緒。ただサウンドプロデュースっていう仕事の部分が違う。作曲というのは、映画やドラマでいう脚本とか原作の部分ですね。サウンドプロデュースは映画監督の部分。演出する役割ということです。俺はサウンドプロデュースによってグループの個性を変えてるんですよ。Buzz72+の作曲作業があれば、もちろんサウンドプロデュースの作業もあります。ただしBuzz72+の場合、サウンドプロデュースの部分がすごく緩くなっていて、メンバーがこうしたいってプレイをしてもらっています。この2人のリズム隊から楽器を録るので、ベースとドラムに自分のギターを合わせる形になりました。BiSHのレコーディングでは絶対にそうならないです。なぜなら各パートがこう弾く予定だから、ここのドラムはこうしてという形でオーダーを入れるので。
──そこが違うんですね。Buzz72+はやはりバンドだなという。
松隈 Buzz72+のときはほとんど指示しないですね。ここだけこうしたいってパートは最初に説明するようにしてます。だからリズム隊のトラックを聴いて「こんな感じになったんだ! 変なの!」って笑ってる。
轟 そう来たかー!ってね(笑)。
松隈 「そこでスネア入れまくっちゃったか! うるせえな!」とか(笑)。もっとうるさくしてやろう!って追加でギター入れたりできたから楽しかったよ(笑)。
──デモをもとに各々がアレンジして完成するんですか?
松隈 俺としてはデモはデモだから、メンバーにはもっと好きにやってほしかったのに、最初は2人がきっちりコピーしてきた。だから「デモと一緒になってるやん! 変えてくれ!」って。
轟 松隈くんから来るデモはきっちり作られてるんですよ、最近は(笑)。ちゃんと作り込んできてるんだろうなと思って、しっかり16分のスネアとかも再現してたら「違う違う違う!」って(笑)。
北島 デモを作ってる本人が「違う」って言うのも変な話だ(笑)。
轟 それはわからんわな(笑)。
北島 自分はあんまりビロビロ弾くタイプじゃないのに、デモにはめっちゃ動くフレーズが入ってたんですよ。そう弾いてほしいのかと思ってそういう感じで弾いたら「違う!」って。いや、けっこう練習したよ!(笑)
松隈 「いらんいらんいらん!」ってな(笑)。それを先に言わないといけなかったですね(笑)。
北島 まあ俺らは俺らで松隈くんを背負ってる感じもあるから。
轟 うん。恥をかかせるわけにはいかないよね。
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歌で大切なのはリズム感