この音楽のよさを多くの方に味わってほしい
──音楽性の話が出ましたが、グループ全体のイメージで言うと結成当初と現在では確実に大きな違いがありますよね。BATTEN Records発足以降は九州の歴史や伝統をモチーフにした独自のダンスチューンを発表し続けていて、独創的で洗練されたグループというイメージがアイドルシーンに浸透しているのかなと。ここ数年でばってん少女隊としての新たなアイデンティティが確立されたように思います。
上田 私たちがこの路線で活動し始めたのとほぼ同時くらいに、世間的にはかわいらしい“ザ・アイドルソング”な楽曲がどんどん増えていって。「私たち真逆にいってるけど……?」と感じることも多いんですけど(笑)、ばっしょーの音楽性に対する抵抗みたいなものはまったくなくて、逆にこれでよかったと思っています。私たちの雰囲気に合っている楽曲ばかりですし。
希山 「OiSa」以降はアイドルファン以外の方もライブに来てくださることが多くて。ばっしょーの曲を有線で聴いたことがきっかけで私たちのことを知って、初めてアイドルのライブに来たという方もいたり。それはすごくうれしいことですね。
春乃 海外でライブをしたときも、ばっしょーのパフォーマンスを初めて観るお客さんばかりなのにすごく盛り上がってくださって。海外の皆さんにも私たちの曲が伝わってるんだなと実感しました。
上田 初期のスカコア路線の頃に、それまで全然聴いてこなかったバンドさんの曲を聴くようになって。そこからメンバーの音楽の趣味がそれぞれ広がっていったんです。だからダンスミュージック路線に移っても、自然に音楽自体を楽しむことができました。「音楽って楽しいよね」という考えがもともと身に付いてたのは大きいのかなって。それプラス、海外の方やアイドルに触れてこなかった方がアイドル文化にはないライブの盛り上げ方をしてくれたことで、「音楽で盛り上がる方法ってまだまだいろいろあるんだ!」と隊員の方も含めて気付くことができたと思います。
瀬田 アイドルフェスに出るときは、「この音楽のよさを多くの方に味わってほしい」と思うようになりました。
希山 「伝わるかな……?」ってドキドキすることもあるけどね(笑)。
上田 きゅるきゅるの笑顔で歌って踊るより、すんとした表情でパフォーマンスする曲のほうが多いので。だからこそ、アイドルフェスに出るときはより上手に真顔になれる気がします(笑)。
春乃 わかる!(笑)
上田 「これがばってん少女隊ですよ」という気持ちで、より曲に入り込めます。
ばっしょーの新たなキラーチューン誕生
──ニューアルバム「九伝」はばってん少女隊の現在のモードをより深く突き詰めた、非常にクオリティの高い作品だと感じました。収録曲のうち新録曲についてお話を聞ければと思いますが、まずは2トラック目のリード曲「My神楽」について。この曲は大分県日田市と神楽文化がテーマで、前作アルバム「九祭」の収録曲「御祭Sawagi」を手がけたASOBOiSMさんとPARKGOLFさんによる提供です。
希山 結成10年目、そしてこの6人最後の作品というタイミングで、この曲を歌えるのがうれしいです。「1000年先までワハハハ」という歌詞があるんですけど、たとえ違う場所に行ったとしても笑顔でいたいなと思えるし、背中を押してくれるような感覚があります。
上田 PARKGOLFさんは前回楽曲を提供してもらって以降、私たちのライブにも出演していただく機会もあって。そういう関わりがあるPARKGOLFさんならではの楽曲だなと感じました。あと、コロナ禍を経て今はコールが解禁されてはいるけど、ライブで声を出す勇気が出ない、その一歩が踏み出せないという人も意外といると思うんですよ。「My神楽」は私たちが隊員さんを煽ったりするパートもあるので、この曲をきっかけにライブで声を出す楽しさに気付いてもらえたらうれしいです。
瀬田 以前、PARKGOLFさんがばっしょーの周年ライブを観に来てくださったことがあって。ライブ後にお話ししたときに「ばっしょーで次に作りたい曲のイメージがもう湧いてる」とおっしゃっていたんですよ。私たちのライブや隊員さんの雰囲気を近くで感じながら曲を作っていただけるのは、すごくありがたいことだなと思います。
春乃 「My神楽」はすでにライブで披露しているんですけど、初披露のときからお客さんの一体感や盛り上がりがすごくて。
上田 隊員さんの対応力の早さにびっくりしました(笑)。
春乃 これからの成長が楽しみな曲でもあります。ばっしょーの新たなキラーチューンになるんじゃないかなって。
上田 振付は、振付稼業air:manさん担当していただきました。air:manさんの振付は真似しやすかったり、一緒に踊りやすかったりするのが特徴だと思うんですけど、今回は見て楽しんでもらうタイプの振付なのかなと感じています。もちろん手振りとかを真似していただくのは大歓迎なんですが、パフォーマンスをじっくり見ることに徹しても面白い曲だと思います。振付を覚えるのはすごく大変でしたけど(笑)。air:manさんの振付は簡単そうに見えて難しいんですよ。
瀬田 でも、うまく踊れるとパフォーマンスに勢いが付いて気持ちいいです。
──アルバム3トラック目の「it's 舞 calling」も新曲で、鹿児島県と宮崎県の境に位置する高千穂峰を舞台とした神話「天孫降臨」をテーマに、グループの未来を祝福するナンバーです。メジャーデビュー曲「おっしょい!」や「OiSa」をプロデュースしたASPARAGUSの渡邊忍さんが作詞作曲を手がけました。
上田 これまで忍さんにはばっしょーが節目を迎える時期に楽曲を書いていただいてきましたし、今回のタイミングでも提供していただけたことがうれしいです。「it's 舞 calling」も忍さん節がさく裂しているというか、アイドルソングにあまりないようなリズムの刻み方をするんですよ。歌詞の言葉遊びも面白くて、忍さんの曲は英語と日本語で韻を踏んだり、日本語詞なのに英詞っぽく歌ったりするのが特徴で。難しいけど、うまく歌えるととすごくカッコいいです。今回、歌のディレクションも忍さんが担当してくださって、おしゃれな曲なのに、1つのパートを録り終えるたびに爆笑するようなすごく楽しいレコーディングでした。
瀬田 忍さんはばっしょーのイメージに合わせつつも、その1つ先へ進んだ楽曲をいつも作ってくださる印象があって。そこに私たちが対応していくというか、忍さんのプロデュースによって新たな道を進んでいるような、不思議な体験をいつもしています。
上田 私たちの声質を完全に理解してくださっているし、メンバーそれぞれの成長したところも把握してくださっているんです。
春乃 ばっしょーはグループとしてこの先も進み続けるメンバーと、自分の新しい夢に進んでいくメンバーに分かれるわけですが、「it's 舞 calling」の歌詞はそのタイミング、状況に当てはまりすぎていて、なんだか怖いくらいです。歌詞を読むと「確かに、こういうふうに感じてるな」と共感するんですけど、その思いを誰かに話したこともなければ、自分の中でも強く思っていたわけでもないんですよ。そういう深層心理が歌詞になっているという現象が忍さんの曲では毎回起こります。心を読まれてます(笑)。
上田 ぱっと聴いただけだと、普通におしゃれな曲なんですけど、じっくり歌詞を読んだら隊員さんの方は泣いちゃうかもしれないです。いい意味で重くないというか、絶妙なバランスの表現になっています。
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どんどん進化していく「でんでらりゅーば!」