Passion Pitとミーカが音楽の新しい切り口を見せてくれた
──5曲目はミーカの「Relax, Take It Easy」(2007年リリースのアルバム「Life in Cartoon Motion」収録曲)。ミーカもPassion Pitと同じく、2000年代前半に登場したポップアーティストです。
Passion Pitとミーカは僕にとって、音楽の新しい切り口を見せてくれたアーティストなんです。ずっと80年代、90年代の音楽が好きだったんですが、そのスタイルをそのまま持って来ても、自分が目指している世界観を作れないし、楽曲に伝えたいことを落とし込めない。そういう時期に「こういうやり方があるんだな」と思わせてくれたのが彼らなんです。ミーカの音楽はおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがありますよね。Queen、エルトン・ジョン、Pet Shop Boysなどがルーツにあり、それを彼自身のフィルターを通し、現代的な音楽に変換していて。その方法は参考になったし、インタビューなどを読んでも、僕の考え方と近いなと感じていました。僕自身、ずっと試行錯誤していたんです。グラムロックに焦点を絞ったり、Queenのようなオペラチックな音楽をやろうとしたこともあったんですけど、なかなかしっくり来なくて。ミーカのようにいろいろな音楽を混ぜ合わせて提示するようになって、ようやく納得できる音楽が作れるようになりました。
──6曲目は大江千里さんの「Rain」(1988年リリースのアルバム「1234」収録曲)。2013年に秦基博さんが新海誠監督の映画「言の葉の庭」の主題歌としてカバーしたことでも注目されました。
日本のニューミュージックも好きなんですよ。80年代の松任谷由実さん、山下達郎さん、岡村靖幸さんの楽曲もよく聴いていますが、大江千里さんはピックアップされることが少ない気がしていて、今回のプレイリストに入れさせてもらいました。本当にセンスのあるアーティストだと思うんです、大江さんは。ジャズ的なコード進行やメロディライン、歌詞を含めて、エバーグリーンな楽曲が多いんです。今のシティポップスにつながるところもあるし、どこか湿った感じがするのもいいんですよ。特に「Rain」はしっとりした感じがすごく出ているし、秦さんのカバーも映画によく似合ってましたよね。
──大江さんの歌詞の表現についてはどうですか?
すごくしっくりきますね。語感を重視して、英語的に構築された歌詞も好きなのですが、大江さんの歌詞には風景や心象風景が描かれていて、それが心に突き刺さるんですよね。俯瞰して上から眺めてるのではなくて、あくまでも自分自身の目線で描いているところも影響を受けていると思います。
ブラックミュージックに影響を受けた白人の音楽が好き
──7曲目はジョージ・マイケルの「Amazing」。これは2004年リリースのシングルで、彼のキャリアとしては晩年の作品になります。
最後のオリジナルアルバム「Patience」(2004年発売)に収録された楽曲ですからね。Wham!時代の楽曲やソロデビュー作「Faith」(1987年リリースのアルバム)も聴きましたが、「Patience」ではいろいろなことを乗り越え、シンプルなダンスミュージックに帰着した印象があって。80年代後半のジョージ・マイケルは革ジャンにジーンズというスタイルもそうですけど、時代のアイコンとしてのイメージが強過ぎるんですよ。そのせいか今ひとつ自分の中に入って来なかったんですが、「Patience」はすんなり楽しめたんです。時代性に捉われず、ソウルフルでファンキーで、でもポップスであるという彼の音楽のよさがしっかり感じられたと言うか。
──ジョージ・マイケルはブラックミュージックの影響を強く受けていたわけですが、BRIAN SHINSEKAIの場合はどうですか?
ソウルミュージックやモータウンの音楽などを本格的に聴いていたわけではなくて、そういう音楽に影響を受けた白人の音楽、ブルーアイドソウルのほうが近いと思います。もちろんブラックミュージックは大好きですが、ああいうレイドバックしたリズムを自分の音楽に取り入れることはないんです。日本のポップスを聴いて育っているので、歌ありきの音楽が沁み付いているんですよね。アメリカのブラックミュージックはビートの変化と共に発展したと思いますが、その音楽性は自分に100%なじむわけではなくて。その上辺だけをおしゃれに取り込んだブルーアイドソウルには共感できるし、自分もそういう音楽をやっていきたいと思います。
──8曲目はデヴィッド・ボウイの「Little Wonder」。1997年のアルバム「Earthling」収録曲ですが、当時はドラムンベースが流行っていて、それをボウイが取り入れたという印象でした。
リアルタイムで聴いていると、そういう受け取り方になるでしょうね。デヴィッド・ボウイはグラムロック時代、ソウルミュージックに傾倒した時代、“ベルリン3部作”(1976~79年にデヴィッド・ボウイとブライアン・イーノが共同制作した3枚のアルバム)も聴きましたし、直接的な影響を受けていますが、90年代の作品も大好きなんです。「Earthling」ではドラムンベースやインダストリアルロックなど電子音を導入していますが、根本にあるのはボウイ独自のメロディで。最新のカルチャーやサウンドを取り入れながら、その中で自分自身を惜しげもなく表現する、そのバランスが素晴らしいんですよね。特に90年代の後半はいろいろなサウンドに挑戦していた時期だし、インタビューを読むと「一番デスクトップに向き合っていた」と話していて。BRIAN SHINSEKAIのサウンドメイクにも参考になっています。
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今届けたい場所に向け、音楽を再構築するアーティストに共感
「CICADA」
- BRIAN SHINSEKAI「Entrée」
- 収録曲
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- 首飾りとアースガルド
- TRUE/GLUE
- 東京ラビリンス ft. フルカワユタカ
- FAITH
- ゴヴィンダ
- バルバラ
- ルーシー・キャント・ダンス
- CICADA
- クリミアのリンゴ売り
- Loving the Alien
- 2045(Theme of SHINSEKAI)
- トゥナイト
- BRIAN SHINSEKAI(ブライアンシンセカイ)
- 2009年、17歳のときにブライアン新世界名義で出場した「閃光ライオット」でファイナリストに。2011年に1stミニアルバム「LOW-HIGH-BOOTS」、2012年に2ndミニアルバム「NEW AGE REVOLUTION」を発売した。2013年にはバンドBryan Associates Clubを結成してライブ活動を展開。2016年11月に活動を休止したのち、2017年9月に新プロジェクトとしてBRIAN SHINSEKAIを始動させた。2018年1月にビクターエンタテインメントよりデビューアルバム「Entrée」をリリース。収録曲をアルバムの発売に先駆けてサブスクリプションサービスで順次先行配信するという試みで話題を集めている。
2018年1月24日更新