BRAHMAN「viraha」TOSHI-LOWソロインタビュー|結成30周年、手に入れたのは“開き直った強さ” (2/3)

必要なものしか残ってないのがハードコアパンク

──今回のアルバムの制作が本格的に始まったのはいつ頃でしたか?

全然わかんない。ちょろちょろも作ってなかったかな。「Slow Dance」を作ったあとはほぼ何も作ってなかった。年に1、2回合宿して、みんなで3日間ぐらい飲み狂う、みたいなのはやっていたけど。やっぱりコロナ禍、俺が1人でパソコン使ってデモを作ることを覚えたのは大きかったな。イメージを伝える速度が速くなったし、みんなもそこにやりたいことをスパスパ入れてくるし。みんな優しいから、なるべく俺のイメージに付き合ってくれるんだけど、やっぱ、以前は形にするまで時間もかかったんだよ。今回は揉めることもなく、ね。

──アレンジで揉めるときもあったんですか?

揉めるというか、理解の行き違いかな。それがデモという下書きのおかげでちょっと簡潔になって。

──OAUの活動を通して、新たな思いで楽器と向き合ったことで得られた成果も少なくなかったのでは?

むちゃくちゃ大きかったよ。個人的にちゃんと音楽と向き合えて、それがOAUにもいい形で表れたから、コロナの中でもベスト盤が作れたし。ほら、なんで音楽用語を使うかって、一緒に作ってる相手と早くつながれるからでしょ。俺は読めないけど、音符を読めるのもそういうことじゃん。俺たちはその簡単さを嫌って、ある意味、無駄に揉めたりしながら何周かして、みたいなこともあったんだけど。

TOSHI-LOW(Vo)

──そういう時間も、別に無駄なわけじゃないと。

もちろん。そういう時間は無駄じゃないし、またそういうやり方もやると思うよ。俺たちの場合、4人で黙って、考え込んだまま4時間が過ぎるとか曲作りの中では普通にあるから。でも疲れるんだよ(笑)。今回はそういうのがなかったのがとてもよかったかな。熱量は何も変わらないまま、4時間黙ってる時間だけがなくなったというか。

──TOSHI-LOWさんの中で、今回の仕上がりはこうなりそうだな、こうなるんじゃないか的な目算って、どこかの時点で見えていたんですか?

別に想像できても見えてもなかったけど、重い曲とか、ミッドなバラードなんかは最初から作る気はしてなかったかな。

──アルバムの資料の説明文では“ストレート”という言葉が用いられているけど、そこもある種の“抜けのよさ”みたいなアルバムの性格につながっているのかしら?

抜けのよさを狙ったわけでもないんだけどね。例えば2分の曲で「あと一展開欲しいか?」と聞かれたら「2分でよくね?」ってなる。ハードコアパンクの面白さって、「ここでサビが来てここでCメロが来て」みたいなよくある邦楽のフォーマットみたいなのを剥ぎ取った先にあると思ってるから。必要なものしか残ってないというか、余韻を求めるより「もう1コーラス聴きたい!」で終わるほうがいいし。

──それ、とてもわかりやすい説明だと思います。そういう根幹も今回、メンバー間では暗黙の了解で共有されていた、ということでしょうか?

多分そうだったと思う。演奏が上手になることで小難しくなることもなかったし。楽器が本当にうまい人って、そうじゃない? 俺もこの10年、特に震災以降、けっこういろんなセッションに参加したけど、本当にうまい人は余計なことをしない。でもすごい。カースケ(河村智康)のドラムとか、派手なことしていないのにめっちゃ歌いやすくて、「すごっ!」って思うもん。ギターなんかでも「“我が我が”って歌いづらいわ。曲を歌うんだよ」とか思っちゃうような人、いるもん。気の使い方1つで、自分を見ているのか全体を見ているのかがわかるじゃん? そりゃ全体に気を使える人は方々で呼ばれるだろうし、本質が見えている人たちってのはやっぱ素晴らしい。うまい人とやらせてもらうのは本当、勉強になるよ。

開き直った強さは身に付いた

──今回、すごくいいアルバムですね。BUNTAIの終演終了直後の会場で流れた「順風満帆」のミュージックビデオからも感じられましたが、先程も言った、ある種の“抜けのよさ”がまず全体のトーンとしてあって。

やった!(笑) その“抜けのよさ”を、言葉のプロとしてもうちょい説明してもらうと、どういう感じ?

──開けている。ただ、それは“ポップ”ではないし、メジャー感 / マイナー感ということでもない。地平が開けているというか、どこかに連れていってくれそうな“頼もしさ”もあって、希望を持てるというか。

それ、俺がひと言でまとめると……“抜けた”っていうんだよ!

──合ってるじゃん!(笑)

すげえ合ってる(笑)。そう、こじ開けるでもなく、抜けたんだと思う。迷いや苦しみや葛藤はもちろんまだまだたくさんあるし、それも思いの一部としては入り込んではいるんだろうけど、30年もやってきたんだから「ダメな俺だけどなんとかがんばってます」「死んでもやります」みたいな“みそっカス感”はもういらないなって。本当にダメなら30年はできないじゃん?って。BRAHMANは圧倒的にラッキーに恵まれてきたこともたくさんあったけど、ちゃんと闘い続けてきたから。もういちいち自分たちを卑下するのも面倒臭いし、かと言って「これが最高」とも思っていない。悪い言い方をすれば「おう、好きにしろよ?」みたいな。開けたというか、開き直った強さは身に付いたと思うんだよね。

──と、いうと?

ほら、チンピラよりも本当のヤクザの人のほうがやっぱすごいじゃん? 「腹を括る」とか「覚悟」という言葉もあると思うけど、ちょっとした諦観込みの開き直りがあると思う。どうしようもないことは必ずあるし、それが来たらしゃあない終わり。それまでは全力尽くしてやるわ、と。ダメなことだってたくさんあったし、贖罪の意識もそれはそれで一生続くんだろうけど、それと向き合うことだって「生きていく」という選択だから。もし本当にダメなら最期に天罰が下るだけなんだろうし、ずっと「生きててすみません」とか言いながら生きていくのは、何かアホらしいなと思えてね。そういう意味でも、今までとは違うかもしれない。

──そこが“頼もしさ”に通じる“強さ”なのかもしれない。曲によるのかもしれないけど、収録曲の完成形は、デモの段階と比べて変わりました? それとも変わっていない?

「順風満帆」は、ほぼ俺が作った拙いデモのまんま。あとは「SURVIVOR'S GUILT」もそうかな。もちろん、俺のデモってそんなちゃんとしたクオリティじゃないから、みんなの抜き差しが入ってできあがるんだけど。俺がデモでつなぎ方を間違えて、ちょっと食い気味に入っちゃったところまでみんなコピーしてくれて、けっこうそれに近い形で仕上がったりしたね(笑)。「charon」は、俺が1回しのコード進行を作って、そこからみんなで。「笛吹かぬとも踊る」は最初のドラムをちょっと叩いて、それをRONZIがブラッシュアップしてくれるところから始まったり。面白かったな。

──デモの段階ではリリックは?

入れてない。今回もメロディと歌詞は最後。曲の青写真がある程度できてくると、そこに情景が見えてくるから、言葉もテーマみたいなのもどんどん決まっていくというか、ヒントの宝箱がどんどん出てくるダンジョンという感じ。「最後の少年」なんかは、なぜか「少年」って言葉が出てきて。俺、“少年”なんて歌詞でほとんど使ったことないのに。

──珍しいなあと思いました。

自分でも「青くせえ」と思ったんだけど、出てしまった以上は、何で俺はここに“少年”が欲しかったんだ?っていう紐解きを逆にしていくというか。