BLUE ENCOUNTがニューシングル「囮囚」(ばけもの)を9月8日にリリースする。
表題曲の「囮囚」は、日本テレビ系列で放送中のドラマ「ボイスII 110緊急指令室」の主題歌。BLUE ENCOUNTはドラマの前作にも主題歌「バッドパラドックス」を提供しており、「ボイス」とタッグを組むのは今回が2度目となる。
音楽ナタリーではシングルの発売を記念してメンバー全員にインタビュー。昨年11月に行われた配信ライブや神奈川・横浜アリーナ単独公演の所感や「囮囚」の制作エピソードについて語ってもらった。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / NORBERTO RUBEN
2日間で96曲演奏した“オンライン47都道府県ツアー”
──少し前の話になりますが、昨年の11月28、29日、「Q.E.D」(2020年11月リリースのアルバム)の購入者を対象に配信ライブ「BLUE ENCOUNT TOUR2020 -sing for『1/WORLD』-」が行われました。“オンライン47都道府県ツアー”と銘打っていましたが、どんな内容だったのでしょうか?
田邊駿一(Vo, G) 簡単に言うと、1本15分程度の配信ライブを48本行ったんです。48という数字は、47都道府県+1公演というところから来ています。例えば、1公演目は“北海道”と銘打って、10時からライブを配信するんですけど、その時間帯に都合が悪かった人は、違う県のときに観てもらう感じで。アルバムに封入されているチケットさえ持っていればどの県のライブも観られるよ、オンラインで遠征ができるよ、みたいな触れ込みでやっていました。
高村佳秀(Dr) 1県につき2曲演奏したんですけど、県ごとに選曲も変えて。それを2日間、10時から23時ぐらいまでやりました。
──ということは、2日間で96曲ですか。
田邊 そう考えるとヤバいですね。ライブとライブの間も10分ぐらいしか空かないんですよ。休むと逆に僕の喉が固まっちゃうから、もうどんどん歌っていくみたいな。歌って、休んで、歌って……というのをずっと繰り返して。
高村 田邊が一番大変だったと思うし、だからなのか、朝メシを山ほど食ってたよね。
田邊 そうそう。高村と一緒に近くのジョナサンに行ったんですけど、俺は1人で2人前ぐらい食って。本番始まったら食えないですからね。
──どうしてそんなに過酷な企画をやろうと思ったんですか?
田邊 僕ら昨年の7月に生配信ワンマンをやったんですけど、たくさんの人が観てくれた一方で、「その時間はどうしても観られない」という声も多く届いたんですよ。そのとき、配信ライブって結局観られない人も多いんだなとわかったんですが、アーカイブは極力残したくなかったので、「じゃあ全員が観られる方法を考えよう」ということになって。なので、「この2日間はいつでもライブやってます」「各々好きな時間帯に来てくれ」という環境を作ろうと思ったんですよね。
──アーカイブを残したくないのはなぜですか?
田邊 ライブと呼ぶものに関しては、やっぱり、そのときにしか出せない声や音、MC、空気感でやってきたという自負があるので、それを何回も見せるのは、自分たちの“バンドマン美学”には反していて。あと、去年って、配信ライブが普及したのはよかったですけど、みんなが始めたものだから、「みんなやっているんだからやるっしょ」という空気になっていったというか。今やっているツアーに関しても「行けないので生配信してください」と言われたんですけど、「それ、コロナ禍以前でも同じこと言えたか?」みたいな気持ちが正直あって。
──「配信してよ」と気軽に言われる環境ができてしまったこと、そのようにサービスを求められることに対して、抵抗を感じるということですか?
田邊 そうですね。俺たちがやっているのは慈善活動ではないし、1つの配信ライブにしても、たくさんの方のお力添えで成り立っているので。そういうふうにいろいろと思うことがあったので、アーカイブは残さないことにしているんですけど、その分やれることをやろうということで、“オンライン47都道府県ツアー”に至ったという。
──理屈は理解できましたが、2日間で96曲演奏するのはかなりハードなので、それを実際にやってしまえるのがすごいなと思いました。
田邊 ぶっ飛んでますよね。すげえ楽しかったですけど、かなり大変だったので、またやりたいとはちょっと言えないです(笑)。
憧れの地で聞こえたファンの声
──今年の4月17、18日には横浜アリーナでのワンマンライブがありましたね。
田邊 2年前に初めてホールツアーを回ったとき、「アーティストとしてどっしりライブをやれるようになったな」という自信が自分たちの中に生まれて。そこから横浜アリーナワンマンが現実的な目標として見えてきたんです。
辻村勇太(B) 僕は横浜出身なので、横浜アリーナは昔から憧れていた場所で。
江口雄也(G) 上京組の3人(田邊、江口、高村)は横浜に住んでいた時期がけっこう長くあったし、僕は昔バイトに行くときに横アリの前を通っていたので、そういうところで2日間ライブができたのは本当にうれしかったですね。
──今振り返ってみて、どんなライブでしたか?
辻村 個人的には“地元への恩返し”みたいな気持ちでステージに立っていました。あと、今はお客さんが声を出せないので、ライブをどう楽しんでいいのかわからないという人も中にはいると思うんです。なので、みんながちゃんと楽しめるライブにすることを特に意識しましたね。僕らとしては「みんなが求めているのはいつものブルエンだよな」と思ったので、これまでと変わらずにお客さんを煽って。そしたら、お客さんは当然声を出していないはずなのに、「あれ? なんか声が聞こえる?」みたいな現象が起こったんですよね。
田邊 幻聴なのかわからないですけど、聞こえたということは、お客さんの声が自分たちの求めているものなんだなということも改めてわかりました。
江口 そういった意味では、このご時世の中でもやれてよかったなと思います。アリーナでのワンマンは今回が3回目で、今回は「しっかりやりきったな」という達成感があったものの、これまでの日本武道館や幕張メッセは不完全燃焼でした。最初に武道館に立ったときは、アリーナでライブをするということに対して、右も左もわからない状態だったので、「とりあえずトライしてみようか」という部分もあって。それで実際にやってみたら「やっぱり違ったね」という部分もあったけど、ライブを重ねるごとにそういうところが少しずつ修正されていき、だからこそ横アリでは、武道館や幕張とは違う達成感を得られたんだと思います。
──武道館や幕張での経験があったからこそ、横アリが成功したと。
江口 もちろんです。俺らは最初からスーパースターのような完璧なライブができたわけじゃないし、ただの一般人から始まっているので。だから今振り返っても、恥ずかしいライブもたくさんしてきたなという自覚はありますが、ステップアップを経て、自分たちのやりたいライブをアリーナでもできるようになったなあと思っています。
高村 思えば過去2回のアリーナライブは、裸の自分たちで勝負すればいいのに、身の丈に合ってない武器を無理やり持ってきて、それに頼ろうとしてしまっていた感じでした。でも今回の横浜アリーナに関しては、素の自分を隠す鎧のようなものは最初から用意せず、ありのままの自分たちでステージに立つことができて。たぶんそれが、終わったあとの達成感につながったんじゃないかなと思いますね。
──なるほど。横アリの2日間では「Q.E.D」の収録曲も多く演奏されましたが、最近のブルエンは、新しくリリースした曲がちゃんとバンドの顔になっている印象がありますね。
田邊 今年の頭にやった「ONAKAMA 2021」もそうでしたけど、今までだったら当たり前のようにセットリストに入れていた推し曲たちを使わないこともあるくらいで。「今回はこの曲を使わないでいこうよ」という話をしているわけでもないんですけど。
──中でも、日本テレビ系土曜ドラマ「ボイス 110緊急指令室」の主題歌「バッドパラドックス」は、バンドのキャリアにおいても重要な曲になったのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
田邊 本当にそうですね。「バッドパラドックス」でさらにいろいろな層の方がBLUE ENCOUNTを聴いてくれるようになりましたし、ドラマの撮影現場を訪問させていただいたり、出演者の唐沢寿明さんと真木よう子さんのお二人とお話させていただいたりと、すごくありがたい経験ができて。ドラマのディレクターさんが「バッドパラドックス」のことをすごく愛してくださっていて、「この曲をメインにしてシーンを作ることもある」という話を聞いたときはうれしかったです。
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“バッドパラドックスⅡ”は絶対に作らない