BiSの歴史と「HiDE iN SEW」
──ではここからは収録曲について詳しく聞かせてください。1曲目の「HiDE iN SEW」は英語詞ですが、最初はカタカナに書き起こしたそうで。
トギー 渡辺さんが歌詞を送ってくれた時点で、そのまま読めば英語の発音っぽく聞こえるようにカタカナで書いてあって、優しさを感じました(笑)。私たちが英語を読めないだろうということで。
──カタカナだと意味を理解するのが難しいですよね?
イトー 最初はカタカナ表記のものしか渡されてなかったんですが、やっぱり歌詞の意味を知りたかったし、レコーディングで気持ちを込めたかったので、あとから英語で書かれた歌詞をもらいました。
──この曲からどういうメッセージを受け取りましたか?
トギー 渡辺さんの心の中というか、渡辺さんとBiSの関係も感じられる自伝的な内容だなって。
チャント 確かにうちら3期BiSというより、初期から3期まで全部通してのBiSと渡辺さんの物語という感じがしました。
──この曲は初期BiSの「Hide out cut」(2014年発表)とほぼ同じコード進行になっています。どことなく物悲しさのある歌詞の内容ですね。
ネオ はい。ちょっと悲しさを感じました。本当に渡辺さんの心の奥底に触れられているというか。内面をさらけ出しているからこそ、あえて英語詞にしたのかなとも感じました。
イトー 「渡辺さん大丈夫かな……」って思っちゃった。「I'm always sleepy and tired(いつも眠いし疲れている)」とか書いてあって「渡辺さーん!!」って泣きそうになった。
──英語詞を歌うのは難しかったですか?
トギー 私はアヴリル・ラヴィーンさんを聴いて勉強しました(笑)。でも私の場合、英語の発音とは違う歌い方をしていて、指で口を開きながら歌ったりもしたから、自分でも何を言ってるかわからなくて(笑)。
イトー 楽器みたいだったね(笑)。あと「I couldn't do」を「アイクドゥン “ジュンジュン”(渡辺淳之介のあだ名)」って歌ってるところもあったし。
トギー 「『ジュンジュン』と歌ってみて」ってサウンドプロデューサーの松隈(ケンタ)さんから指示があったんですよ。でもまさかそのテイクが使われるとは。すごいディレクションでした。
イトー あとね、モンちゃんは英語の発音褒められてたよ。松隈さんが「発音うまいな」って。
チャント え、褒められてた? 英語の授業は真面目に受けてたってだけのレベルですよ(笑)。
ネオ えらい。
トギー えっ、私も真面目に受けてたよ?
イトー 私も受けてたよ! 英検3級取ったもん!
チャント 私も同じ(笑)。中3で取れる資格だよ……。
ネオ そうなの? どんなレベルなのかもわかんない(笑)。
──「HiDE iN SEW」のミュージックビデオは山田健人(yahyel)さんの監督作品で、歌詞の世界観とはまた別のストーリー性のある映像になっていました。いわゆる“百合”っぽいシーンもあって。イトーさんは「I WANT TO DiE!!!!!」のMVでのアヘ顔に続き、今回の内容もハマってましたね。
イトー うれしいです。百合系の作品が好きなので褒め言葉です(笑)。
チャント MV撮影で「大歓喜、最高!」って言ってたもんね。
──メンバー同士、キス寸前でしたけど抵抗はなく?
ネオ 全然なかったです。ティ部との接近シーンは笑わなかったんですけど、モンちゃんとのシーンで笑っちゃった。
チャント ヤバかった(笑)。
ネオ 「キスしてもいいよ」と言われてたし、うちらも「全然いいよね」って感じだったんだけど、急にちょっと引かれて、「やっぱりダメ……」みたいな謎の恥じらいが(笑)。
トギー あとモンちゃん、花を食べてたよね。
チャント 食用の花だったんですけど、すっごいマズかったです。噛めば噛むほど苦くて(笑)。
──山田さんはTwitterでMVのヒントを出してましたね。それぞれのシーンに出てくるモチーフには意味があるみたいで。
チャント 花を食べてたのは確か花吐き病というのがモチーフ。
ネオ おばけもそうだよね。映画(2017年公開の「A GHOST STORY」)からのオマージュで。
松田奈緒子さんの花吐き乙女
— 山田 健人 せ (@dutch_tokyo) November 24, 2020
かなり好きな漫画の一つですhttps://t.co/1gZuf9NZPI pic.twitter.com/rdsWkcmFMs
「外国人風のあえぎ声」でイトー、やらかす
──2曲目の「COLD CAKE」は最初はゲームセンターのクレーンゲームの景品として発表されたあと、タワーレコード限定シングルとしてゲリラ的にリリースされて、マリリン・マンソンをオマージュしたジャケットも話題を集めました。作曲は松隈さんと渡辺さんの共作ですね。
トギー 最初は一気に盛り上がるサビパートの仮歌しかなくて、それ以外のパートはほぼメロディのないインストだったんです。そこに渡辺さんがラップパートにメロディも付けてくれたっていう、初めてのパターンです。
チャント 最初に歌詞に目を通したときは衝撃を受けました。送られてきた歌詞を読み終わったあとにボロボロ泣いたのは初めて。歌詞の内容が自分のことにしか思えなかったんです。「自分はこういうことを思ってたんだ」と初めて気付いたこともあったし、自分で思っていても自分では書けない表現だなって。
──低めの声や落ち着いたトーンで歌うパートがあって難しそうだなと思ったんですが、レコーディングは滞りなくできたんですか?
ネオ 難しかったです、とても……。
──例えばイトーさんが低い声で「yeah」と歌っているパートや、ネオさんの「糞だな」といったフレーズの歌い回しが劇的というか、ボーカルの表現力が問われるなと思いました。
イトー 途中から「yeah yeah」の発声を「外国人風にして」と言われたので、海外のアダルト動画に出てきそうな声の上げ方をイメージしたんです。
ネオ 松隈さんに外国の方のそういう行為を想像してと言われたんですけど、私は全然わからなかった。「観たことないよ!」って感じだったので苦戦しました(笑)。
トギー 外国と日本で声の出し方が全然違うんだよ。
ネオ わからんて(笑)。
チャント へえ、そうなんだ! 逆に観たことあるの?(笑)
トギー 外国人は「オーウ!」って言ってるよ。
イトー それを大げさにやったら「イトー、お前バカだな!(笑)」って言われたから、私だけ方向性を勘違いしてたのかと思ったわ(笑)。結局、ラッパーさんとかORANGE RANGEさんをイメージして歌ったらそっちがOKだった。
トギー 1人だけ解釈が違った感じはしたけど、無事に採用されてよかった(笑)。
──3曲目の「GOiNG ON」は過去を振り返りながらも前を向いていくという内容の曲です。青春パンク風のこの曲からどんなことを思い浮かべましたか?
チャント 私は渡辺さんって過去を振り返らない人だと思ってたんですけど、「過去なんか見ないようにしているはずなのに」という感じで、珍しく思い出に浸っている曲だと思いました。私は過去を振り返りがちなんですよ。だから渡辺さんでもこういう気持ちになることがあるんだと思ったし、「毎日を繰り返しながらずっとずっと歩き続けていこうぜ」のあたりでは、過去を振り返りながらもその先の未来を見ている感じがします。思い出に浸ることがあっても、それでも一緒に進んでいきたいという、眩しいぐらいの気持ちが詰まった歌だと思いました。
イトー 私はこの曲で今までのライブの記憶が走馬灯みたいな感じで蘇ってきました。思い出す“濃い毎日”はBiSになってからのものばかりで、自分からやってみたくてアクションを起こしてBiSに入って、ライブをしたっていう記憶が一気に浮かんだんです。でも過去の自分にはもうなれないし、そのときにしかなかった思いもあって。あの頃には戻れないけど、戻れないっていうのは自分が前を向いてたからなんだなって。ただやっぱり切ない。結局「やがて時が過ぎたら僕たち変わってしまうから」というのが、よくも悪くもずっとこのままではないっていうことかなって。今を大事にしなきゃいけないというメッセージをこの曲から受け取りました。
ネオ 「ずっとずっと歩き続けていこうぜ」ってすごい前向きなところと、サビの「どんなだっていい」と寄り添うようなメッセージに私はギャップを感じて、「ああ、好きだなー」って感じました。この曲では、今までの人生に対して思うことがあって夕日が見える土手で泣きそうになっているけど、涙をこらえてがんばるぞ!っていう気持ちにさせてくれる。けっこう前向きで背中を押される曲だなって。終盤にすごく寂しく感じるところもあるけど、最後の最後には「続けたい!!」って歌ってるから。
落ち込んでしまった自分を救うために
──次のネオさん作詞の「I ain't weak maybe..」は、落ち込むことがあってもそれを受け入れて今を生きるという内容を歌っています。吹っ切れたような印象を受けたんですがどうでしょうか?
ネオ そうですね。この曲は自分を認めたうえで書きました。私は気分の上がり下がりが激しくて、この歌詞を書いている時期は気分がものすごく落ちちゃってたんです。そのときに今の気持ちを全部出そう、さらけ出そうと思って書いたこの歌詞が、そのときの自分を救うためのものでした。私は会話するときの言葉だとうまく表現できないことがたくさんあるんです。だけど歌うことはできるから。
──ネオさんの中にある「歌への思い」がこの曲で表現されている感じもします。「歌詞のようにはいかないのさ」というメッセージもすごくリアルで。
ネオ 世の中にはたくさんの音楽があって、「一緒に行こうよ」みたいに歌った前向きな曲があっても、正直なところ「いや、歌のようにうまくいかないよ」って思うことがあるんです。だけど結局、自分の歌詞でも「泣きたいだけ泣けばいいんだ」って書いてるけど、歌詞のようにはいかないって思う部分もある(笑)。矛盾してるかな?って思いながら書いてたから。
イトー まっすぐに伝えてきたなって思ったし、このフレーズに救われる人がいると思う。「ポジティブなことを歌っている人たちがいるから自分もそんな気持ちになりたい」と思ったとしても、そうはなれない状況の人だって絶対にいるはずから。そういう気持ちがあってもいいんだっていう。
チャント 「ドラマのように」とかはよくある表現だけど、「歌詞のように」っていうのは初めて見たかも。音楽が好きでも音楽すら聴きたくないときってありますよね。そんなときにふと、こういう曲が耳に入ってきたら響きそう。
ネオ 気分が落ちてたから書けたことで、何もせずに生きていたらこの言葉は出てこなかっただろうなって思います。「本当に嫌だ! もう無理だよ! うまくいくわけないよ!」みたいに思う時期があったから出てきた歌詞なので。
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うちらはプリキュア