昨年メジャーを果たしたBimiが挑戦したいことを語る|1st EP「心色相環」でさらけ出した等身大の自分

2023年10月にKING RECORDS内レーベル・EVIL LINE RECORDSから、メジャーデビューしたBimi。彼は廣野凌大として「『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage」「舞台『鋼の錬金術師』」をはじめとした舞台を中心に活躍している俳優だが、多くのステージに立ち、人気を集める一方でフラストレーションを抱えてきたという。その溜まった感情を発散すべく、また俳優活動とは別の表現をすべく、2021年にBimiとして産声を上げた。

そんなBimiの1st EP「心色相環」が3月13日にリリースされる。EPにはBimiが自身の激情を吐き出すべく作り上げた6曲が収録され、彼の等身大の思いを感じられる1作となっている。音楽ナタリーではEPのリリースに際してBimiにインタビューし、アーティスト活動への思いやEPの制作エピソードについて聞いた。

取材・文 / 高木“JET”晋一郎撮影 / 後藤倫人

世間に認めてもらうのが役者、仲間に認めてもらうのがアーティスト

──Bimiさんは、アーティストプロジェクトとしてのBimi、俳優としての廣野凌大と、表現者として2つの名義を持っています。その2つを統一せずに、別々の名義で活動される理由は?

ある種のジレンマだと思いますね。俳優活動は、自分の人生に自分ではない人物をあてがったり、キャラクターを自分に投影したり、何かと何かを組み合わせる化学式のような部分があると思うんですね。特に2.5次元の世界は、キャラクターになりきって、自分ではないものを評価してもらう意味合いの強い世界。しかも、そのキャラクターにふさわしい行動を求められるから、演じたキャラクターのイメージが壊れるようなことはやりにくい。自分としても、誰から見てもキャラが立っていて、気持ちよくお金を払ってもらう……そういう“像”を作ることを、以前はがんばっていたんです。俳優業で満足する瞬間も、心が満たされたときもあったんですが、ただそれを超えて、誰かを喜ばせるための「像」を作っている自分や、行動のすべてが好感度を上げる作業になってしまうことに病んでしまったときがあって。

──それが俳優活動でのフラストレーションだったと。

でも、アーティストはどれだけ好感度が下がっても、それが生き様になる。そして、もっと自分が自分のまま、“元素”としてあるために、アーティストとしてのBimiという存在が必要だった。本当の意味で自分で自分を認めるためにも、役者の自分と、Bimiをすみ分けないといけなかったんです。

Bimi

──Bimiというアーティストネームはありつつも、それがオルターエゴではなく、もっと本質的な自己に近いということですね。

そもそも僕は音楽が好きだし、音楽をやりたい、音楽で稼ぎたいという気持ちが強かった。だから、等身大の自分で立つことができて、自分の人生を反映させて、面倒臭い自分をそのまま表現して、さらに金を稼げるという挑戦をBimiではしたかったんですよね。もっと簡単に言えば「世間に認めてもらうのが役者」「仲間に認めてもらうのがアーティスト」だと思ってて、仲間に認めてもらってその仲間を増やしていきたい。僕は身近なやつらのためにがんばりたいし、仲間と一緒に金を稼ぐのが、一番いい形だと思うんですよね。

──それはヒップホップ的なイズムとも通じますね。

僕はそういうヒップホップのフックアップとか、仲間で上がっていくみたいな文化が好きなんですよね。

──ただ、役者の仲間もいるわけですよね。

役者仲間やスタッフから評価されるのはすごく好きだし、うれしい。ステージの世界を否定してるつもりもまったくないんです。でも、俳優としての自分のことをファンにアイドル視されると、正直キツい。「アイドルみたいな応援をしたいなら、アイドルのファンになれば?」と思っちゃうし。

──手厳しいですね。

舞台や劇場には伝統があるし、そこでのルールがあることもわかってるんですけど、ファンが歓声を上げるにしても、拍手をするにしても、すごく規律正しく動くことが求められてるし、なんか学校にいるみたいで、馴染めなかった。もっと自分の感情が湧き上がったときに声を出したり、感動したときに拍手すればいいじゃん、みたいな。

カリスマにはなれないと思うし、なりたくもない

──そう考えると劇場よりも、ライブハウスやクラブのようなフロアに活動の場を求めることになりますね。

そうですね。ライブハウスやクラブは、欲望が渦巻いてる感じが好きなんですよね。踊ってるやつ、歌ってるやつ、ナンパしてるやつ、泥酔してるやつ……みんな心の底から自由に行動してると思うし、人間そのものが色濃く出る場所なんじゃないかなって。僕は人間への興味が強くて、人間が好きだから、ライブハウスやクラブが大好きなんですよ。Bimiとしても、人間を大事にしたいし、自由に動く自分を大事にしたい。そして、Bimiを見てる人もそれぞれの人生を大事にしてほしい、という気持ちがあります。アーティストである自分にとっては、自分が主役だし、自分が売れるためにがんばってる。誰かのための活動じゃない。だから、Bimiとしては誰かにとっての“中心”になりたくない。

──なるほど。

もちろん、音源は買って聴いてほしいし、ライブにも来てほしい。でも、Bimiはそういったリスナーの人生を彩る一部であって、その人の人生は、その人自身が中心であるべきだと思うし、自分の人生を遊んでほしいんですよね。ツキまくってめちゃくちゃ楽しい日、フラれて友達と泣きながら飲む夜、仕事に打ち込んでる日、失敗も成功も含めて、それぞれの人に生活があるし、自分はそれを少し手助けするぐらいになればいいなって。結局、僕に限らずアーティストも役者も、ファンは自分の中に作り上げた偶像を見てるんですよ。もしその像が自分の意にそぐわなかったとしても、その役者やアーティスト自体を変えることはできないから、そこにズレが生まれたときに観客には対処法や逃げ場がない。だからイメージが崩れたときに、攻撃したり、危害を加えたりするんだと思うし、その結果ファンが孤立してしまう場合もある。

Bimi

──特に“信者”と呼ばれるような熱狂的なファンは、そういった状況に陥りやすいですね。

だから、陶酔しないで適切な距離を置いてほしいし、これで僕へのイメージが崩れたとしたら、Bimiの曲が好みじゃなかったなら、「じゃあ別の人に行くわ」ぐらいであってほしいんですよね。本当に音楽は娯楽の1つでしかないと思うし、僕の表現する喜怒哀楽を感じてはほしいけど、リスナーの心の一部に響けばよくて。俺が誰かにとっての主役にはなりたくない。

──カリスマにはなりたくない?

自分にコンプレックスがある以上、そうなれないというか。

──コンプレックス、ですか。

「楽しいところに自分が混ざってないこと」にすげえコンプレックスを感じるんですよ。なんていうか……俺がいないところでみんなが楽しくやってると、「いや、俺も混ぜてよ!」みたいな(笑)。自分は人を楽しませたい気持ちがとにかく強くて、それが目的のすべてと言っていいぐらいだし、音楽の楽しみ方がわからない人を、楽しませたいとずっと思ってます。でも、そういう人はカリスマにはなれないと思うし、なりたくもないんで。

Bimiとしての活動はとにかく楽しい

──今までのお話は過激な発言とも感じましたが、ファンやリスナーと向き合ってるからこその誠実な言葉だとも思いました。

俳優として楽しませることが、集金作業みたいになることにすごく疲弊してたんですよ。だから、それを止めてBimiとしても活動できている今はとにかく楽しい。でも、心が満たされることで、その反動で創作ができなくなる不安はあります。自分の表現は、満たされなさ、ネガティブな気持ちをデトックスするための部分があるんですけど、そういう負の感情がなくなったり、満たされたときに何を書けばいいのかわからなくなるかもなって。それに、そういったネガティブな感情を解消するために書いた曲を、不満がなくなった人間が歌う権利があるのかな、曲の純度が下がってしまうんじゃないかなという怖さもある。だから、最近は断食とかもしてて(笑)。

Bimi

──物理的に飢えようと(笑)。第三者的ではなく、非常にパーソナルな感情から湧き出るものを、自分として歌うからこそ、そこに齟齬を生みたくないというか。

役として歌おうと思えばできるし、技術的には可能です。でも、逆に自分にはそれができる役者という面があるからこそ、Bimiでは等身大で歌いたいし、マインドと表現が密接じゃなければ、やる意味はない。だから、自分が無理をしてると思う曲はライブでは歌わないんです。

──今回のEPに収録された「babel」は、メジャーデビューを発表された昨年10月開催の「Bimi Fes turn 1」以降は歌われていないそうですね。

そうですね。自分の人生を振り返る曲だし、「Bimi Fes turn 1」は歌うべきタイミングだと思ったから歌ったんです。でも、今はそのターンを過ぎたから、歌わないし、歌えない。求められるのはわかるんですよ。自分でも自信がある曲だし。だけど、今はできない。

──では、メジャーに進出しての変化は感じていますか?

曲制作に対するマインドは変わってないですね。ただ、レーベルに所属したことで、会社が金を出してくれるようになったのが大きい。事実、今までは僕とDJ dipの2人で曲を作ってたんですけど、予算が増えたことで、エンジニアリングやミックスのような部分にも金がかけられるようになって、そこで自分たちの表現したかった音質や、サウンド感の幅も広げられるようになってきた。曲の調理の仕方が変わったことで、それに自分の感性も負けないようにしないといけないみたいな、そういう相乗効果が起こっていると思います。でも焦りもありますね。早く金を稼げるように、売れなきゃっていう。