Bialystocks菊池剛(Key)&甫木元空(Vo)ソロインタビューで紐解く3rdアルバムの世界 (4/4)

未来は無限に続く合わせ鏡

──「空」は甫木元さんのお名前でもありますけど、「空も飛べない」や「虹」の歌詞にこの言葉が出てきますよね。ご自身のお名前であることは意識されていましたか?

いや、何も考えていなかったです。でも確かに、今回よく「空」が出てくるんですよね。「空を飛んでみたい」と思ったりするような、人間の願望の象徴として、という部分はあるかもしれないです。

──「虹」は甫木元さんにとってどんな曲ですか?

この曲は、虹を虚ろなもの、「わかっていそうでわかっていないもの」の代表として描いている感じがありますね。例えば、みんなすぐに忘れてしまうけど、死は誰しもに訪れる。誰にもその時期はわからないし、人が死んだらどうなるかも誰にもわからない。虹という存在も、それに近いと思ったんです。わからないけど隣り合わせで生きている、ある種、幻想的なものというか。確か詩人の言葉で「人は未来に向けて背中向きに進んでいく」みたいな言葉があって(ポール・ヴァレリーの詩)、「そういうものだな」と思ったんですよね。未来は目の前にあると思って生きている人が大半だと思うけど、現実はみんな後ろ向きに歩いている。人は見えていないものに向かって進んでいくじゃないですか。

甫木元空(Vo)

甫木元空(Vo)

──確かに。

人って、あらゆることがわかっているようでわかっていないんだと思うんです。宇宙のことだって、「幸せ」という言葉のことだって。言葉は人に固定観念を植え付けて、わかったようにごまかしてしまう……それはそれですごく幸せだと思うんですけどね。「幸せとは?」なんて考え始めるとみんなぶっ壊れちゃうのかもしれない(笑)。だから言葉で抑制するにしても、今作では移ろいゆくものを移ろいゆくままに、幻想を幻想のままに、並べてみたかったというか。

──言語で断定せずに、ということですね。「Songs for the Cryptids」は、その「わからなさ」を受け入れようとしているアルバムなんですね。

そうですね。本当は世の中わからないことが多いから。

──「虹」「聞かせて」「Mirror」というアルバムの中盤に収められた3曲にはすべて歌詞に「未来」という言葉が出てきますが、お話を伺っていると、改めてこのアルバムを象徴する言葉のように感じます。後ろ向きに未来に向かっていく歩調そのものが、このアルバムであるような。

「Mirror」は菊池曲で、菊池が英語で歌ったものを日本語に変換していく作業をしました。菊池バージョンの時点で「Mirror」と歌っていたんですけど、「Mirror」と「未来」が音として掛かるのが面白いなと思ったんです。未来って、合わせ鏡が無限に続いていくようなイメージもあって。未来に向かうことはその鏡を割ることのような気がするし、鏡に自分を映し出して現在地を明確にして、そこから過去や未来を想像できるような気もする。その点を打つような作業が、「Mirror」と「未来」という言葉からイメージできるのが面白いなと。この曲は「ル―ト29」というロードムービーの主題歌ですけど、ロードムービーってだいたいさまよっていますよね。自分が今どこにいるのかわからなくなくなっていくし、ゴールがあるようでなかったりする。「ルート29」も、目的に向かうというより、さまよう過程で他者と触れ合い、そして鏡を見るように現在の自分を見つめ直し、未来を想像していく、そういう映画で。ロードムービーの在り方としてすごく純粋な映画なんです。

甫木元空(Vo)

甫木元空(Vo)

──僕も拝見しましたが、「純粋」という言葉はものすごくしっくりきます。

ピュアですよね。自分が近所を散歩しているような感覚にすごく近かった。「自分探しの旅」というものの、すごく根源的な部分を表現している映画だと思いました。

一見無駄な話を「聞く」だけで存在証明になる

──「聞かせて」は甫木元さんにとってどのような曲ですか?

この曲こそ、アルバムを作る前の段階で考えていたことがそのまま書いてある曲かもしれないです。この曲も、この世にいない人に問いかけているように聞こえてもいいし、目の前にいる人に向かって「聞かせて」と言っているだけと捉えてもらってもいい。この曲で歌っていることは「聞く」ということだけなんですよね。答えを見出そうとはしていない。僕らが生きているのは虚ろな日々なんだということ、そのうえで「世の中を歩いていくためには、こういう生き方がいいらしい」みたいな答えや近道じゃない、一見無駄なような、どこかの誰かの最近起きた話なんかを「聞く」だけで、自分の個性の存在証明になっているということ。ビキニ被ばくのことで高知県の人たちに聞き取りをしたときに、そういうことを感じたことがあって。

──甫木元さんは1954年にアメリカの水爆実験によって起きた「ビキニ事件」についての証言を集めた映像インスタレーション「その次の季節」を2021年に開催していますね。

“ビキニ被ばく者”という、いわば被害者のような言葉を使うと、みんな同じ人に見えるんですよ。でも聞き取りをしていく中で「なんで漁師になったんですか?」みたいな話を聞くと、それぞれの個としての魅力が浮かび上がってくる。漁師になる前の話なんて、本人には「こんなの聞いてもしょうがないだろ?」と言われるような、なんてことのない話だけど、それはその人にしかない人生の話で。そういう話を聞いているときが僕はうれしかったんです。ビキニ被ばくという事件の被害者というレッテルを貼ると遠い世界の話のような気がするけど、その人たちは事件に巻き込まれただけであって、幼少期の話なんかを聞くと、全然遠くない。自分と同じ世界の人たちの話なんだということに気付かされる。そして、いろんな人たちに話を聞いていると、付箋を貼られたページを開くように、みんなビキニ事件の話を始めるんです。

──「聞かせて」の「また雨音聞いて窓辺に返る 言葉で紡いでく日々も / すべて音楽となって喋り出す 日々は泡となって」という歌詞の「音楽」という言葉は、どのようなニュアンスを持っていると思いますか?

音楽の定義の仕方も人それぞれによって違うと思っていて。例えば「雨の音」って雨自体に音はなくて、跳ね返っている音を「雨の音」と思っているわけですよね。だから、みんな同じ雨の音を聞いているように見えて、家の中にいる人、傘を差している人、車の中にいる人で「雨の音」は全然違う。それと近くて、音楽もその人が音楽だと思えばそれが音楽なんだと思います。誰かにとっては雨の音も音楽かもしれないし、それはその人の捉え方次第で。たとえ言葉で定義されていても実は実体のない、曖昧なものなんだ、ということです。そういう意味では音楽も、未来や人が死ぬこと、そういう虚ろなものに近い感じがします。

──アルバムは「Branches」で締めくくられますが、「話はまだ終わらない」ということ、それに「出口まだ見えていない 例えはまだ浮かばない」という実感でアルバムが終わっていくところにも、今まで甫木元さんがお話してくださったことが集約されている気がしますね。

自分個人の解釈としては、「幸せのまわり道」が本編の終わりで、「Branches」がエンドロールという感じです。今考えると、「聞かせて」「Branches」の歌詞に、このアルバムでやりたかったことが書いてあると思います。「Branches」は嵐が来ることを感じながら、何かが起こるのか起こらないのかわからない、その予感で終わっていくところが面白い。そもそもこのアルバム自体が、予感や気配を感じながらずっと進行しているので。言い換えれば、話としては全然前に進んでいないとも言えるんですけど(笑)。

──でも今回はその状態を作品化することが大切だったわけですよね。ゴールにたどり着いた姿や、その方法を見せるより「どう進むのか?」という問い自体を作品化しているというか。

そうですね。祈りとか、願望とか、誰かを勇気付けるためとか、みんな音楽にいろんなものを込めていると思うけど、僕らはそこから1歩引いた、別の部分を歌うにはどうしたらいいんだろう?と考えた。そういう感じだと思います。

──Bialystocksとして5年ほど一緒に活動されてきた中で、甫木元さんから見て、菊池さんが変化した部分はありますか?

いい意味で変わらない部分のほうが多いんじゃないですかね。もちろん音楽的な引き出しは増えているでしょうし、創作の自由度は増していると思うけど、人としては、いい意味で変わらないなと思います。

──最後に、本作には「Branches」をはじめ印象的なアウトロを持っている曲が多いと思いますが、甫木元さんにとって、こうしたアウトロには何を感じますか?

歌で終わらないというのは、「どこに行っちゃうんだろう?」という感じがあって面白いです。これもまた定義しないことにつながっているんじゃないでしょうか。

Bialystocks

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公演情報

「Songs for the Cryptids Tour」

  • 2024年10月20日(日)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2024年10月26日(土)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2024年11月1日(金)宮城県 Rensa
  • 2024年11月2日(土)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2024年11月9日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2024年11月17日(日)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2024年11月29日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

Bialystocks(ビアリストックス)

甫木元空(Vo)と菊池剛(Key)からなる2人組のバンド。映画監督でもある甫木元の初監督作品「はるねこ」の生演奏上映をきっかけに、2019年に結成された。2021年にインディーズ1stアルバム「ビアリストックス」を発表。2022年11月にメジャー1stアルバム「Quicksand」をポニーキャニオン内のレーベルIRORI Recordsよりリリースした。2023年に初の全国ツアーを5都市で開催。2024年4月にドラマ「RoOT / ルート」のオープニングテーマ「近頃」をリリース。同年10月に通算3枚目となるアルバム「Songs for the Cryptids」を発表した。10月から11月にかけて7都市を回るアルバムリリースツアーを実施する。

2024年10月16日更新