過去と決別することに限界を感じた
──アルバムの「白昼夢、結んだ言葉は花束に」というタイトルは、インディーズ時代にリリースされていた「夢の中で、夢から醒めて」や「昼下がりの星、続く旅路」といった作品のタイトルとの連続性を感じさせますよね(参照:berry meetの2ndミニアルバム「昼下がりの星、続く旅路」を全曲レビュー、メンバーそれぞれが作詞作曲した意欲作)。
たく 「夢の中で、夢から醒めて」を出したのが20歳の頃なんですけど、バンドに夢を見ながら、現実も受け入れていかなきゃいけない……そういう気持ちを込めて「夢の中で、夢から醒めて」というタイトルを当時付けたんです。「昼旅(昼下がりの星、続く旅路)」も、昼に星は見えないけど、見ようとしている、そんな自分たちのことを思ってタイトルを付けました。夜になれば星は輝くから、それまで旅を続けようって。僕は物語がある音楽が好きなんですよね。今回のタイトルも、前作と前々作のタイトルにある言葉をそれぞれ入れたくて「白昼夢」、それに1stワンマンのタイトルが「結び」だったのでそれも入れたくて、「結んだ言葉は花束に」。これまで作っていたものを結んで、1つの花束にまとめて、アルバムにしました。
──過去を切り離すのではなく、連続していくものとして、たくさんは人生やバンド活動を見ているということですよね。過去があるから今がある、という視点というか。アルバムの1曲目が「旅路」であることもそれを象徴していると思います。
たく 過去と決別することに限界を感じたんだと思います。それは恋愛もそうだし、今までの人生の失敗や、後悔していることに対してもそう。完全な決別は無理だし、無意味だなと思うんです。「過去があるから今があるんだ」と感じながら、進んでいかないといけない。もちろん、何にでも終わりはあると思うから、「終わりがある」という感覚もすごく大事にしていて、どんな曲でも「終わり」を表現したい。例えば「溺愛」みたいに明るい曲でも、終わりについて書く。いろいろな後悔や失敗はもう過ぎ去ってしまったものだから、そのうえにもっときれいなものや素敵なものを積み上げていけば、何事もよりよくなるんじゃないかな……バンドを始めてから、そういう前向きな気持ちになれたんです。
──バンド活動がたくさんの意識に何かしらの変化をもたらしたということですか?
たく バンドを始めたタイミングが大失恋と重なったこともあります。あとはやっぱり、詞を書きながら自分と対話することで、自然とポジティブな気持ちになれたんだと思います。
──「過去との決別は無理だし、無意味だ」とはっきりと言えることが、バカみたいな言い方ですけど、すごくカッコいいなと思います。お二人も、たくさんのこの感覚に共感しますか?
いこたん 私は「続いていく」感覚を大切にしているたくちゃんを見て、「素敵だな」と思いながら、影響を受けていますね。応援してくれている人たちを大切にしながら活動できているのは、最初からずっと、どんな過去も捨てずに、すべて持って行こうとするたくちゃんの姿勢を見ていたからだと思います。
たなかり 私も過去の大切さを改めて考えるようになったのはバンドを始めてからだと思います。バンドを始めて結成1周年、2周年と迎えるたびに、「この1年はどうだったっけ?」と3人でなんとなく振り返るんです。みんなでお肉を食べながら、写真フォルダを見返したりして(笑)。
──いいですね(笑)。
たなかり でも、そうやって1日1日を大事にしてきたからこそ、今の私たちがあるということはすごく実感してます。
berry meetというバンド名が決まったとき
──「白昼夢、結んだ言葉は花束に」は「旅路」で始まり、本編が「花だより」で終わる構成がとても素敵だなと思いました。「この音楽は人生なんです」「これは、生きているということなんです」としっかり提示する曲順だと思います。
たく 前作「昼下がりの星、続く旅路」の最後の曲が「旅路」だったんですけど、「メジャーから新しい一歩を踏み出します」じゃなくて、「これまでの道のりを踏まえた一歩です」ということを示したくて、インディーズアルバムの最後の曲を、1曲目に持ってきました。「花だより」は、僕らがメジャーデビューを発表した3月のZepp DiverCity(TOKYO)公演のテーマソングとして、おとなりさん(berry meetファンの呼称)への感謝を形にしたくて作ったんです(参照:berry meetがZeppワンマン メジャーデビューに感極まり、おとなりさんから「泣くな、たく!」)。あの日、僕らにとって最大キャパのワンマンで、berry meetを好きで観に来てくれたお客さんの顔を見ながらメジャーデビューを発表できたことが僕にとってすごく大きなことで、「花だより」はこのアルバムの最後にふさわしいなと思ったんです。
──「花だより」はバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」がイントロとラストで引用されていて、よりいっそうの祝祭感をこの曲に与えていると思いました。
たく 「主よ、人の望みの喜びよ」にはお祝いのイメージがあるんです。僕がこの曲を知ったのは「名探偵コナン」の「戦慄の楽譜(フルスコア)」だったんですけど、あの映画で聴いて、「きれいだなあ」と思って。「花だより」はきれいな思い出とともに次に歩んでいくことを表現したい曲だったから、ふと「あの曲の旋律がいいな」と思ったんですよね。いつも、自分の大事な瞬間に「主よ、人の望みの喜びよ」が流れているような気がする……そういう曲なんですよね。僕がずっと歌詞に書いている好きな人は小学校の同級生なんですけど、小学校の卒業式で卒業証書を受け取るときも、「主よ、人の望みの喜びよ」が流れていたんです。
──歌詞で描かれる対象となるのは、その方なんですね。
たく 失恋の曲はそうです。
──berry meetの曲はどの曲も「人と人」のことを歌っていますよね。人と人が、愛し合ったり、傷付け合ったり、許し合ったりしながら生きていく──そういう景色がberry meetの曲には描かれていると思うし、特に、傷付け合い、許し合う、そんな営みを大事に描いているような気がします。
たく 誰かを傷付けてしまったこと、裏切ってしまったことは自分の心にずっと残っていて、「許されたい」「謝りたい」という気持ちがすごくあるんです。前はそれで悩んでいたし、そういうことってきっと誰しもにあることなのかなと思うんですよね。それでもまずは、自分で自分を許してあげることが大事なのかなと思って。きれいごとな気はするけど、僕ら表現者がそれを言わないで、誰が言うんだ?と思うので。たとえ「イタい」と思われても、僕は誰かの希望になるためにこっ恥ずかしいようなきれいごとも、声を大にして叫べる人間でありたいと思います。
──今の時代に、傷付け合う人間関係の中からでも「許し」を浮かび上がらせようとする、そんな音楽があることがとても希望だと思います。あと、これを今さら聞くのかと言われそうな質問なんですけど、berry meetというバンド名は最高ですよね。
たく ありがとうございます(笑)。
──音だけで聴くと「果物とお肉」みたいなイメージもあるけど、文字で見ると「berry meet」で、名は体を表すというか、「たくさん会いに行く」というバンドコンセプトとも見事に合致している。ファンとの“待ち合わせ場所”として、とても素敵な名前だなと思います。このバンド名はどういうふうに生まれたんですか?
いこたん 最初は3人の共通点とか、いろいろ考えていたんですけど、私とたくちゃんはバンド結成時に初めて会ったくらいだしお互いのことも全然知らなくて、「どうしよっかな」と思っていたんです。「ライブをして、目の前にいる人に音楽を届けたい」という思いから、ぽっと出てきたバンド名だったと思う。
──直感的だったんですね。
いこたん ほかに考えていたバンド名はしょうもないものばかりだったんですけど(笑)、だからこそ「berry meet」が候補に挙がってきて「これしかない!」と思いました。ただ、そのときはたくちゃんがその場にいなかったんですよ。でも、私とたなかりの中では「これで決定!」と勝手に盛り上がっちゃって(笑)。
たく そのとき僕はシャワーを浴びる瞬間だったんですよ。全裸でいるところにLINEで「berry meet、どう?」って来て、「いいよ」って。その頃はまだ探り探りの関係だったから、「考えてくれたし、いっか」くらいの感じでした。でも、今はberry meetの名前がしっくりきていますね。「berry meetしかないでしょ」と思う。
いこたん 私たちはコロナが明けてからバンドを組んだんですけど、コミュニケーションを取るのはSNSばかりで、「会える機会って貴重なんだ。当たり前じゃないんだ」という感覚があって。こっちから会いに行かなきゃいけないし、ファンの方にも会いたいと思ってもらわないと、会えない。仲よくなれない。だから、私たちもバンドとしていろいろなところに足を運びたいし、お客さんにも「berry meetならライブに行きたいな」と思ってもらいたいですね。
──あと最後に1つ、「あなたを酔て」の歌詞の「帰り道は忘れないし 改札行く前にSuicaチャージ」というフレーズがすごく好きなんです。リズム感も素晴らしいし、描かれる心情がとてもリアルだなと思って。
たく ありがとうございます(笑)。本当に酔っ払っていると、事前にチャージできないんですよね。ほろ酔いだったら、まだギリ、意識は保てているっていう。このラインをうまく描けたらなと思って、「Suicaチャージ」を歌詞に書きました(笑)。