たなかり、いこたんの楽器遍歴
──現状、たくさんが作詞作曲した曲の数が多いですけど、たなかりさんといこたんさんも作詞作曲されますよね。
たく インディーズで最初に出したアルバムの「夢の中で、夢から醒めて」という作品から、2人も曲を書くことになって、それがすごくよかった。僕からは出てこないような曲を書いてきてくれるので、面白くて。その頃から3人それぞれの曲作りは続けていきたいと思ったんですよ。
──「白昼夢、結んだ言葉は花束に」のCD盤にはボーナストラックでいこたんさんが作詞作曲した「願い事」、たなかりさん作詞作曲の「約束」というまったくカラーが違う2曲が収録されています。
たく 僕は2人を人間性から知っているので、それがそのまま曲に出てるなあと思います。いこたんの曲はストレートに突き刺してくるような純な思いが伝わってくる。かりちゃんは、自然の中にいる妖精みたいな(笑)。穏やかで平和な曲を書くんですよね。
──いこたんさんとたなかりさんは、どういうふうに音楽に目覚めて、今担当している楽器を選んだんですか?
いこたん 私は最初ピアノを習っていたんですけど、中学生の頃に吹奏楽部に所属してドラムを始めたんです。そのあと、高校ではたなかりと同じギター部に所属していて。学校に軽音楽部がなかったのでドラムから1回離れたんですけど、そのあと大学でたなかりが誘ってくれて、ドラムを再開しました。中学時代から、自分が叩くリズムに誰かがノってくれることがうれしかったんですよね。今、berry meetで叩いているドラムは単純なリズムパターンではなく、ちょっとメロディアスなドラムを叩いていて、それが自分にとっては心地いい。
──曲を聴いていても、いこたんさんのドラムはボーカルと一緒に歌っているような音だなと思います。
いこたん そうなんです。そこがberry meetの魅力の1つだと思います。
──たなかりさんはどうですか?
たなかり 私もピアノを習っていたんですけど、中学で部活に入るために辞めてしまって、高校生でいこたんと同じギター部に入ってギターを始めたんです。それから、たくちゃんと「大学生になったらバンド組まない?」という話をしていたんですけど、よく考えたら、たくちゃんギターだし、それならうちはベースか、と思って。
たく ごめん(笑)。
たなかり 「ベースやりたいんだよね」という話を父にしたら、父がいきなり買ってきてくれて。そのあと、いこたんを誘ってberry meetを組んで、今はこの中でベースを弾いている自分がすごくしっくりきます。たくちゃんの曲は、内面をさらけ出しているからこそ聴いてくれる人が親近感を持てるんだと思うんですけど、私自身も「心の距離が近い」と感じる音楽が好きなんです。私はずっとsumikaさんが好きで、sumikaさんの音楽にもリスナーのそばにいてくれるような素敵な魅力がある。それと通じるものを、たくちゃんの曲には感じるんですよね。
──なぜ心の距離が近い音楽に惹かれるのだと思いますか?
たなかり 例えば、運動もできて勉強もできる、才能に恵まれた人っているじゃないですか。でも、私はもうちょっと親近感を持てる人が好きなんだと思います。そういう好みが、音楽にもつながっているのかもしれない。
たくちゃんの回りくどさは、優しさだった
──たくさんは、「音楽で生きていきたい」とずっと思っていたんですか?
たく 小学校6年生の頃にSEKAI NO OWARIさんに出会ったときに、「人前で歌いたい」という気持ちが芽生えていたと思うんですけど、berry meetを始めるまでは医学部を目指して浪人していたので、ブレブレだったなと思います(笑)。「歌手になるぞ!」とまっすぐに思っていたわけではなかったですね。でも、berry meetとして1曲目に出した「あのさ」がいろんな人の耳に留まってくれたから、「自分がやりたいのは音楽だ」と気付いたし、音楽を続ける決心がつきました。
──「あのさ」は本当に名曲だと思うし、今回のアルバムの中での存在感も際立っていますよね。その前に収録されている「結婚式には呼ばないで」は疾走感のある1分30秒のショートチューンで、そのあと、まるで時が止まってまた動き出すように「あのさ」が始まる。「あのさ」は、書こうと意識したというより自然に生まれた曲でしたか?
たく そうですね。自分が感じたことを、ただ言葉にする作業というか。「最近はイントロが短い曲のほうがウケがいい」とか、そんなことも一切考えずに、ただ自分の好きなように、気持ちいいところに言葉を当てはめていく。そういう作り方でした。
──「あのさ」という言葉の質感自体もそうですけど、嘘がない曲ですよね。本当の気持ちを見つけるために、自分の心を掘っている。そういう過程がそのまま曲になっているような印象があります。飾り立てることなく、「寂しい」とか「悲しい」とか、自分の心を象る言葉はそのくらいシンプルでもいいんだ、という思いに行き着くまでの道筋を描いている。素朴だけど革命的な1曲、という感じがします。
たく 自分の気持ちをそのまま歌いたかったので、嘘をつく必要もなくて。それに普段から僕は「~みたいな」とか、「~的な」って言いながら、答えをはっきり出さないのが好きなんです(笑)。もしかしたら、そこが共感しやすさにつながっているのかなとも思います。
──安直に答えを出さず、周りを旋回するようにしながら本質にたどり着こうとすることって、まさに芸術や表現がやるべきことだと思うし、すごく尊いことだと思います。berry meetがそこに向き合っていく一番の原動力になっているのは、たくさんの性格ということですよね。
たく そうなんですよね。
いこたん たくちゃんの優しさでもあるなと思っています。否定的にならず、「それでいいんじゃない?」と言ってくれる。それが、今こうして3人で楽しくバンド活動をできている要因の1つだなと感じるんです。曲作りのときも、私からのどんな提案でも、たくちゃんは「それは絶対に違うよ」とは言わず、「なんで、いこたんはそれがいいと思ったんだろう? じゃあ、この部分は取り入れてアプローチしてみようか」というふうに受け止めてくれるんですよね。
──そんなたくさんの性格ゆえに、berry meetの音楽性が広がっている部分もありそうですね。たなかりさんはどう思いますか?
たなかり 「たくちゃんの回りくどさは、優しさだったんだな」と改めて実感しました(笑)。
たく (笑)。
いこたん でも本当に、たくちゃんの中に音楽においても答えというか、「この音楽は嫌」みたいなものがないから、いろいろな音楽を吸収できているんだろうなと思いますね。
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過去と決別することに限界を感じた