自分を出していかなあかんな
──「'88」はヴァースの部分が全部ラップですよね。これはベリーグッドマンとしては珍しいんじゃないですか?
HiDEX 2、3曲あるかないかですね。
MOCA アルバムにアッパーソングが1曲はあったほうがいいと思ったんで。前回作った「1988」がまったり寄りだったから、今回は「アガる感じでできたらいいな」とか言ってたら、HiDEXがトラックでまずアゲてくれて。いい感じになりました。
Rover ドンズバですね、これは。ばっちりハマってるやつです。
──HiDEXさんのトラックは今回、全体に冴えていると思います。
Rover 冴えてますよ。「CLASSIC」に始まり。
HiDEX 2人がメインで作ってくる曲って、前は「こういうのがやりたい」というのが明確にあったんですけど、最近あんまりなくて。「どうしたらええんやろ」と戸惑っていたんですけど、最近は「もっと自分を出していかなあかんな」と思うようになりましたね。
Rover HiDEXに委ねてるというか、こっちがつべこべ言うのも失礼かなと思う節もあるし。よくよく考えたら19歳ぐらいからHiDEXが作ったトラックに歌を付けるということをやってるんですよ。でも最近はHiDEXがトラックをあまり聴かせてくれなくなって……。
HiDEX そんなことないよ(笑)。
Rover もっと聴かせてくれたらその場でメロディ付けるのに(笑)。
MOCAのデモは基本的にめっちゃ暗い
──「Luv Story -Berry Mix-」はMOCAさんのソロ曲(2013年4月発売のソロアルバム「原始人の歌」収録)のリメイクですよね。
MOCA そうです。リリースされたオリジナルバージョンはバラードっぽいんですけど、最初にHiDEXに作ってもらったものはレゲエっぽかったんですよ。それがめちゃめちゃ気に入ってて、ライブでもよくやってました。だから今回「もう1曲アッパーソングが欲しい」という話になったとき、「あの感じで作り直せたら面白いんじゃない?」って。
──当然、お二人が加わると、リリックもメロディも変わりますしね。
HiDEX でも、Roverが書いた歌詞が、MOCAが想定してたのとちょっと違ったみたいで。
MOCA 僕的には「君がいるから最高」みたいな、どっちかというと付き合ってる体のストーリーのつもりだったんですよ。
HiDEX ハッピーラブソングやってんな。
Rover なのに僕は片思いっぽい感じで作っちゃって(笑)。レコーディング当日に発覚したという。
MOCA 僕が作るデモが基本的にめっちゃ暗いせいなのもあるんですけどね(笑)。人生で初めて作った曲が「My Life」っていうんですけど、「My life 終わらない夢物語」という歌詞なのにトラックは真っ暗で、Roverに死ぬほどイジられました。
Rover めっちゃ暗いのにピコピコ系なんですよ(笑)。ちょっとヤバい人やなと思った。逆に売れてほしい、応援したくなる。
MOCA 僕の原点に寄せてきたのかもしれないです。
Rover だって「君の事でいっぱいになった胸が 張り裂けそうで どうしようもなくて」って、ハッピーなときはあんまり言わへんし、片思いやからそんなことになったって思うやん。
MOCA 好きすぎてそうなったことない?
Rover 片思いのときにはあるけど、付き合えてからはあんまりないかも。
MOCA リア充やな。例えば付き合ってる相手に「バイト先まで迎えに来て」って言われて行ったときに、自分とおるときよりも楽しそうにキャピキャピしてる瞬間見たことない?
HiDEX え、そういう曲なん? めっちゃキショいやん(笑)。
MOCA カラオケで働いてた時代の。
HiDEX 嫉妬で張り裂けそうなんや。おもろ。全然知らんかった。
MOCA そういうこと聞いてよ、作る前に。
Rover 原曲の歌い出しも「恋なんてもうしないと決めた クリスマスはsilent night」みたいな寂しい感じやったやん。
MOCA そう。恋なんてしないと決めてたのに出会ってしまってん。
Rover 出会って、恋に落ちて、付き合えてからのストーリーなん? 怖いわ(笑)。
MOCA 「君と居れればWonderland」やから、一緒におんねん。
Rover あれは片思いデートやないんねや。
MOCA 片思いやったらハーバーランドやで。
Rover なんで神戸やねん(笑)。
MOCA 結局、片思いの曲に仕上がりました。
完璧主義なHiDEXの「ハナウタ」
──「ハナウタ」はHiDEXさんの歌でスタートして、「ハナウタがこぼれてる」のパートから鼻唄というかフェイクにいくのが印象的です。
HiDEX しんどいときって、鼻唄は出ないじゃないですか。楽しかったり、うれしかったり、幸せなときに出るものなんで、不意に出たとき「あ、今幸せなんやな」って思える。そういうことが歌えたらなと思って。
──素敵です。ということはこれはHiDEXさんが中心の曲?
Rover そうです。僕とMOCAは歌ってません(笑)。
HiDEX 僕は頭の中に描いてるものを1回出してからじゃないと人に伝えられないんですよ。だからトラックまで作っちゃうんです。
MOCA 途中、全然聴かせてくれないんですよ。
Rover 楽屋で1回歌ってくれただけ。
HiDEX なんか変な完璧主義が出ちゃうんですよね。
「土になれ」の難しさ
──今作にはタイアップ曲がたくさん収録されていますよね。
Rover 納期やワードが決まっているような戦いも、当然プロとしてはしないといけない。でもアーティストとして自分の作品を届けたい。タイアップに限らず、そのジレンマは一生続くんですけど、その作品も全部ベリーグッドマンなんで。条件を苦悩として捉えるとしんどいから楽しんでいこうっていう話なんですけど、音楽は音楽なんで、どこまでいっても。ただ、ここだけは間違えたらアカンというポイントがあって。それは各々が出したアイデアに残りの2人がワクワクしないとか、気持ちが入らなかったら失敗だということ。そういう曲が過去に1つもなかったかと言われたら、あったかもしれませんけど……。
MOCA 2、30曲あったかな。
──(笑)。
Rover そこは大いに反省しながらも、「それも楽しんでいけるようにがんばろう」と言えている今、僕はすごく幸せな仕事をさせてもらってる感じはあります。実は昔、失恋ソングを書くために彼女を振ったことがあるんですよ。
MOCA 変態やん。
HiDEX えぐいな。
Rover 経験から書かなあかんっていうこだわりがどこかにあるのか……。僕らはけっこうリアルを歌っているし、知らないことを書いたら嘘になる。例えば「花よりも花を咲かせる土になれ」は、僕の中では死ぬほど難しかったんですよ。
HiDEX 僕も難しかったですね。
Rover 「花よりも花を咲かせる土になれ」と歌うには、自分がまずそうじゃないといけないと思って、「土ってどんな感じなんかな」って言いながら庭の土を1回見ましたし。
MOCA そういう意味とちゃうで(笑)。
HiDEX 「だって今、俺らは花目指してない?」とか「むしろ花やないとあかんのとちゃう?」っていうのはあるよな。
Rover そう。世間から見ると我々は花なんで、「土になれ」って言うのは違うんじゃないかと。
HiDEX 「土になれ」という歌詞は僕が書いたんですけど、そもそもその内容を自分の中で消化して書いたわけじゃなくて。作りながらずっと腑に落ちたくて、納得しようと思って考えて考えて出した答えが、輝いてる花をまっすぐにきれいだと言える心が「土になる」ということなんじゃないかということだったんです。
──「花を綺麗だって 思える君が綺麗だ 心からそう言いたくなった」。いいラインだと思いました。
Rover このヴァース、ホンマ好きよ。
HiDEX やっぱり誰もが花になりたいと思うんですよ。土になるには苦悩や葛藤があるはずで、それを乗り超えてやっと花がきれいだと言えると思うんです。そういう気持ちの流れを書けたと思いました。
Rover そうなんですよ。難しかったけど最高だと思います。それで、ちょっと僕のヴァースも褒めてもらっていいですか(笑)。「頑張って 頑張ってんのに 見向きもされないのはなぜ」というところまでは、今の僕みたいに褒めてほしい自分なんですよ。でも、誰にも褒められなくても前に進まないといけなくて。「まさに踏み込んだ足元はとっくに泥んこに もうやけくそになりそうさ」の部分では、やっぱり大事なのは足元、目の前のことなんだと言いたかったんです。「土になれ」とか「強くなれ」は自分に言ってるんです。
──大事ですよね。こういう力強い言葉って、だいたい自分自身に言い聞かせて、目標にしてがんばるようなものですもんね。
MOCA どの曲もそうやんな。経験から自分が思ってることを自分に言って、人に共感してもらえるかどうかという。
愛と感謝を届けるツアー
──最後に4月に始まるツアーへの意気込みを聞かせてください。
Rover 今回はバンド編成でのライブとDJスタイルのライブ、2パターンあるんです。どっちも楽しみです。
HiDEX バンドといってもギター、ベース、ドラムの最小編成で、音はトラックと半分ずつにして、グルーヴと勢いを合わせるイメージですね。僕はもともとバンドをやってたんで、そこで培ったエッセンスも出したいですけど、トラックを生かしたパフォーマンスを重ねてきたベリーグッドマンとしては、その魅力も消したくない。でも、さっきMOCAが言っていたようにベリーグッドマンが2周目に突入しているのであれば、新たな側面も出していきたいし、何より自分たちがライブを楽しみたいので半々にしました。
MOCA 初めてのことなんで「2度とやらんとこ」ってなるかもしれないけど、確かめにいく感じですね。やってみないとわからないし、よりベリーグッドマンがよくなる可能性を秘めてると思うんで。
HiDEX あと、Def Techがトラックとバンドの融合スタイルなんで、昔から憧れもありましたね。
Rover 看板に背負ってる作品は「サンキュー」ですし、「愛と感謝を届ける」というテーマでやろうと思います。シンプルやけど一番熱いツアーにしたいですね。
ツアー情報
ベリーグッドマン “サンキュー” TOUR 2025
- 2025年4月12日(土)大阪府 枚方市総合文化芸術センター
- 2025年4月20日(日)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
- 2025年4月26日(土)広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
- 2025年4月27日(日)岡山県 倉敷市芸文館
- 2025年4月29日(火・祝)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)小ホール
- 2025年5月10日(土)神奈川県 海老名市文化会館 大ホール
- 2025年5月11日(日)茨城県 取手市民会館
- 2025年5月17日(土)滋賀県 大津市民会館 大ホール
- 2025年5月18日(日)奈良県 なら100年会館
- 2025年5月24日(土)鹿児島県 川商ホール(鹿児島市民文化ホール)第2ホール
- 2025年5月25日(日)福岡県 福岡国際会議場 メインホール
- 2025年6月14日(土)静岡県 グランシップ静岡 中ホール・大地
- 2025年6月15日(日)兵庫県 アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)大ホール
- 2025年6月21日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2025年6月28日(土)熊本県 熊本城ホール シビックホール
- 2025年6月29日(日)宮崎県 野口遵記念館
- 2025年7月5日(土)宮城県 SENDAI GIGS
- 2025年7月11日(金)石川県 金沢市文化ホール
- 2025年7月13日(日)愛知県 名古屋市公会堂
- 2025年7月20日(日)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)メインホール
- 2025年7月21日(月・祝)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)メインホール
- 2025年7月26日(土)沖縄県 沖縄県男女共同参画センター てぃるる
プロフィール
ベリーグッドマン
Rover、MOCA、HiDEXの3人により2013年11月に大阪で結成されたボーカルユニット。2014年3月に配信シングル「コンパス」でデビューし、同年4月に初のアルバム「SING SING SING」をリリースした。その後も精力的にライブや楽曲リリースを続け、2016年3月にシングル「ありがとう~旅立ちの声~」でメジャーデビューを果たす。2020年8月にレーベル・TEPPAN MUSICを設立し、10月に第1弾作品となるアルバム「TEPPAN」をリリースした。2023年8月に結成10周年を記念したベストアルバム「GOOD GOOD GOOD」を発表。同年4月から9月にかけて全国47都道府県ツアーを行い、11月には念願の兵庫・阪神甲子園球場でワンマンライブを行った。2025年2月に通算12枚目のオリジナルアルバム「サンキュー」をリリース。4月から同作を携えた全国ツアーを開催する。
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