バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI×古川未鈴インタビュー|アイドルへの道を決意させた先輩から熱いエール

バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIのミニアルバム「SIXTH SENSE」は、4つの新曲すべてに各メンバーが作詞で参加。さらに彼女たちがかねてからリスペクトを表明していたORANGE RANGEの楽曲「ビバ★ロック」のカバーも収録されている。「SIXTH SENSE」というタイトルの通り、6人のありのままの感性が反映された1枚だ。

そんなミニアルバムの発売を記念して音楽ナタリーでは、今年1月に“エンディング”を迎えたでんぱ組.incの古川未鈴を交えて計7人でのインタビューを実施。経営統合したディアステージとパーフェクトミュージックにそれぞれ所属する先輩・後輩であり、古くからお互いの活動を近くで見てきた両者に、お互いについての思い出話や、各々が考えるアイドル観などについて話してもらった。

取材・文 / 小野田衛撮影 / はぎひさこ

でんぱ組.incとの出会いが、アイドルという道を選んだ決定的な瞬間だった

──3月26日にバンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIのミニアルバム「SIXTH SENSE」がリリースされますが、今回はそれを記念し、今年1月に“エンディング”を迎えたでんぱ組.inc・古川未鈴さんとの特別対談を行います。

望月みゆ 同じ事務所の先輩・後輩という関係ですね。

恋汐りんご 意外と長いんですよ、でんぱさんとバンもん!の関係は。そのへんは最初期からいるみさこに話してもらったほうがいいかもしれないな。

鈴姫みさこ バンもん!が結成されたのは2011年で、メジャーデビューが12年。最初は純然たるアイドルではなく「あいどる風ユニット」として活動していたんですけど、そのうちに「ツインドラムあいどる」を名乗るようになりまして。当時はメンバーも2人だけで、持ち曲もあまりないような状態でした。

古川未鈴 でんぱも、その頃はまだ持ち曲が少なかったよ。ピンキー!(藤咲彩音)とか、もがちゃん(最上もが)が入る前のLantis時代だから。

バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIと古川未鈴。

バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIと古川未鈴。

鈴姫 でも、でんぱさんの存在は当時の私たちにとってものすごく重要な意味を持っていたんですよ。一緒にやった原宿のライブハウス。えっと……。

古川 アストロホールね! 今はなくなっちゃったけど。

鈴姫 そう! あの頃、でんぱさんは秋葉原のディアステージでファンになってくれた人がすでにけっこういたんだけど、私たちときたら無名中の無名。それなのに、でんぱさんのほうから「ご挨拶させてください」って声をかけてくれたんですよ。それにビックリしちゃって。

古川 覚えていないなあ(笑)。

鈴姫 あとでもふくちゃん(でんぱ組.incプロデューサーの福嶋麻衣子)に聞いた話だと、でんぱ組.incは「最初からアイドルとしてはイレギュラーだったからこそ、逆にアイドルらしいことをしっかりやろう」と決めていたらしいんですけど。いずれにせよ、そのアイドルが「ご挨拶させてください」と裏でもちゃんとアイドルしているスタイルを見て、「これが本当に私のやりたいことかも……」とひらめいたんです。

──となると、でんぱ組.incのメンバーはバンもん!の歴史にとって最重要人物じゃないですか!

鈴姫 いや、ホントそうなんですよ! アーティストじゃなくてアイドルという道を選んだ決定的な瞬間が、でんぱさんとの対バンだったわけですから。

大桃子サンライズ そんなことがあったとは……。

鈴姫 ついでに言うと、その日は罰ゲームみたいな企画もありまして。それで急遽ラップバトルを始めることになって、みんな段取りを何も聞いていなかったから、「え……本当に?」という空気感だったんです。そんな中、えいたそ(成瀬瑛美)ちゃんが「私がやる~!」って超ハイテンションで手を挙げて、そこで生まれたのが「えい☆ラップ」!

古川 あった、あった(笑)。そう考えると、でんぱ組.incにとってもなにげに重要な1日だったかもしれないね。

左から鈴姫みさこ、古川未鈴。

左から鈴姫みさこ、古川未鈴。

──逆にでんぱ組.imcサイドから見たバンもん!はどんな印象だったんですか?

古川 「神聖かまってちゃんのドラムの子が、なにか新しいグループをやっているな」と見ていました。同じ匂いも感じましたね。スタイル自体はでんぱとまったく違うんだけど、「とにかく自分たちのやりたいことを絶対やり通すんだ!」と突き進む勢いは共通していたといいますか。

鈴姫 言っちゃえば、サブカル枠ですよね。王道路線から外れたアイドル。実際、私たちは「でんぱの妹分」とか記事に書かれたこともありますし。

ディアステージの舞台は自分を育てていく修行の場だった

──鈴姫さん以外のバンもん!メンバーは、でんぱ組.incに対する印象はいかがですか?

恋汐 時系列に沿ってお話しすると、2013年に入ったのがしお(恋汐)と(ななせ)ぐみちゃんと、辞めちゃった(水玉)らむねちゃんだったんです。この中で“ぐみしお(ななせ&恋汐)”はディアステージにも所属したので、でんぱさんは“一番売れている大先輩”という位置付けでしたね。

古川 しおちゃんとぐみちゃんがディアステージに入ってきたときはインパクトがあった! まず、ぐみしおという呼び方がハロプロでいうところの辻加護(辻希美&加護亜依)っぽくて最高だなと思ったんです(笑)。双子みたいだし、ビジュアルもかわいいし、すごい逸材が来たぞって驚きました。

ななせぐみ えっ、うれしい……。私、あの頃は1人で人前に立ったりするのがマジでできなかったんですよ。それでも振り絞るようにして「おジャ魔女カーニバル!!」(MAHO堂)を歌ったことがあって、そのままディアステージから消え去りたかった(笑)。今でもトラウマとして思い出すことがあるくらいです。

恋汐 やっぱりディアステのステージは独特の雰囲気があるんですよね。オタクと出会って、自分を育てていく修行の場でもあるので。憧れの場所だったからパフォーマンスできることはうれしかったたけど、同時に間違いなく緊張感がありました。

左から恋汐りんご、古川未鈴。

左から恋汐りんご、古川未鈴。

ななせ あそこのステージに立つ人は、全員、自分のやりたいことが明確にあるんですよ。本物のプロフェッショナル集団だなって圧倒されました。そんな感じだったから、「何を歌います?」とか聞かれても「あ……今日は大丈夫です」とか怖気づいちゃって。

古川 特に浅い時間帯だと、お客さんが2、3人しかいないということもよくあったからね。それでもその2、3人に喜んでもらうためには何をすればいいのか考えたものだし、みんな自分なりに一生懸命だったんだと思う。私なんて歌はボロボロで下手糞だったけど、「何がなんでも絶対アイドルになってやる!」という覚悟だけでがんばっていましたから。

──ディアステージが青春を燃焼させる場だった?

古川 確かにそういう面はありましたね。

鈴姫 私がカッコいいなと思ったのは、「Yumiko先生に振付をお願いしたい」って未鈴さんが直談判したときのこと。

古川 その件に関しては、もふくちゃんに言われた言葉を一字一句覚えている。「CDが1000枚も売れないようなアイドルに振付師を雇うお金なんてない」って。確かにその通りなんですよ。だからといって、私も「はい、そうですか」と引っ込めるわけにもいかなかったですからね。だから、お金を集めるためにイベントをやることにしたんです。私がブルマ姿になり、23時から朝の5時までなぜかおいなりさんを握るという謎イベント(笑)。

鈴姫 昨今、アイドルが肌を露出することに対して「どうなんだ?」という意見も増えているじゃないですか。うちらもリリイベではセクシー衣装の回を設けているんですけど、正直、来てくださる方も別にそこまでエロ目的というわけではないんですよ。それよりも“一肌脱いだメンバーの覚悟”と言えばいいんですかね。「そこまでして上を目指したいのか」「だったら応援するしかないな」みたいな気持ちの部分が大事だと思うんです。

時代に合わせてアイドルのあり方を変えていきたかった

──さて、甘夏ゆずさんと天照大桃子さんが加入したのが2014年のこと。そこからバンもん!は実に11年もの間、同じメンバーで活動しています。これはアイドル界では本当に珍しいことだと思うのですが、なぜこのようなことが可能だったのでしょうか?

甘夏ゆず メンバー仲がいいというのはもちろん大きな理由ですけど、決してそれだけではなくて……やっぱり女の子がアイドルを続けようとすると、結婚とか、出産とか、“女性としての夢”とどう折り合いをつけるのかという問題に突き当たるんですね。そこで私たちの場合、途中から「アイドルではあるんだけど、アイドルじゃない」という宣言をしたんです。これが決定的に大きかったと思う。

左から古川未鈴、甘夏ゆず。

左から古川未鈴、甘夏ゆず。

鈴姫 「女の子は自分の好きなことをしているときが一番かわいい」というのがグループ結成当初からのポリシーですから。そこは、どうしても崩したくなかった。

甘夏 そうするとアイドルという枠にとらわれず、女性が人生を謳歌する方向に向かっていくのが自然ですよね。現に、ぐみさんは元気なベイビーを出産していますし。

鈴姫 18年に私たちは現在の「バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI」に改名したんです。これは単にグループ名が長くなったという話ではなくて、自分たちの決意表明だったんですよ。それが改名と同時に発表した“ポスト・アイドル宣言”。

大桃子 ポスト・アイドル宣言はホームページで発表したあと、ステージでも読み上げました。簡単に説明すれば、「メンバーはアイドルをやりながらお母さんになったり、個人で自分の夢を追いかけることもありますよ」という内容なのですが。

──バンドスタイルから始まったグループが、アイドルとして活動するようになり、やがてアイドルを超えた存在になっていく。これは、どう解釈すればいいのでしょうか?

鈴姫 理念は一貫して変わっていないんですよ。碓かに活動形態は変化し続けるグループではありますけど。

大桃子 「バンもん!を守りたい」という気持ちが当時はありました。メジャーデビューしてから何年かして、だんだん私たちの考え方と世間が私たちに求めるものがズレているような気がしたんですよね。

鈴姫 わかりやすい例で言えば“恋愛禁止”。もちろん恋愛禁止を売りにするアイドルがいても全然いいと個人的には思います。だけどアイドル界全体でそれを共通ルールみたいにして、うっかり熱愛が発覚したらとてつもない過ちを犯したみたいに叩かれているのを見て、ものすごく違和感を覚えたんです。少なくても「女の子が好きなことをして一番かわいくなる」というバンもん!のポリシーとは相容れないなと。

──そのあたりの価値観は時代によって変化するものかもしれません。

鈴姫 そう。変化するべきでしょうしね。アイドルというのはステージから夢や希望を届ける存在。それは今までも今後も変わらないと思います。でも、それ以外の部分は時代とともに今までも変えてきたんですよ。森高千里さんが等身大の目線で歌詞を書いたり、秋元康さんが普通の女の子をスターにしたり……。要は私たちも時代に合わせてアイドルのあり方を変えていきたかったんですね。お母さんになる夢もあきらめなくていい。アイドル以外の夢も同時にどんどん叶えていっていい。そういうメッセージだったんです。

恋汐 これは恋愛禁止の話だけじゃないんですよ。バンもん!が「自分のアパレルブランドをやりたい」「女優になりたい」「写真集を出したい」といった夢を全部叶えられる場所になればいいなって。きっとそれが誰かの希望になるはずですから。