「これからは誰の背中を追いかければいいの?」って不安だった
──実際に結婚と出産を経験した、ななせさんはいかがでしたか?
ななせ 耳に入るのは祝福する声が圧倒的に多かったんですけど、私の結婚と出産を受け入れられない人も中にはいたと思うんです。でも、そこで祝福しないで悲しむという感情も間違いではないと思う。そういう感情になること自体、愛があったからだと思いますし。私自身、悲しむ人がいるという現実から目を背けたくないんですね。何を言いたいかというと、自分が結婚したからといって自分だけ勝手におめでたくて、他人に「応援してよ」って押し付けるのは違うということなんです。
──古川さんは“現役アイドルの結婚・出産”という意味で先駆者的な存在ですよね。
古川 日和りましたよ、正直言って。最初に頭に浮かんだのは「未鈴ちゃんが結婚発表すると売上が下がるから、ちょっと考え直してよ」とかスタッフさんに止められること。だけどレーベルの人たちは「いいじゃん、いいじゃん!」って手放しで応援してくれたから逆に拍子抜けしたんですけど。
甘夏 さすがの未鈴さんでも覚悟が必要だったんですね。
古川 私、実際に伝えたんですよ。「このたび結婚することになりました。つきましては年内で活動に区切りを付けたいと思います」って。そうしたら「へ? 辞めなくてもよくない?」ってキョトンとされちゃった(笑)。
──しかし、古川さんがそんなふうに考えていたのは意外です。
古川 確かにそれまで私は「結婚してもアイドルは続けたーい!」とか言いながら突き進んできましたよ。でも、いざ実際にそういう立場になってみると、いろんな人に迷惑をかけちゃうし、契約のこととかもどうなるかわかならない。それに将来は子供だってできるかもしれない。「こんな一個人のわがままで周囲を振り回していいのか?」という葛藤が出てきたんです。
鈴姫 でも結果的に未鈴さんが結婚発表したことで、新たにリスペクトしてくれる人が増えたじゃないですか。
古川 けれど、あのときはファンの人が0人になる覚悟でステージで発表したというのが本当のところ。ワーッと祝福されて本当にホッとしました。「カネ返せーッ!」と怒声が響き渡る光景も想像していましたので(笑)。
大桃子 いやあ、それを聞くと考えさせられますね。というのも私たちも同じメンバーで11年続けていますけど、でんぱさんの背中を追いかけてきた部分があるんですよ。「先輩たちについていきます!」みたいな感じで。でも、新たに道を切り開くって改めて大変なんだなとしみじみ感じました。
甘夏 ある意味、日本のアイドルの歴史を変えた部分もあると思いますし。
大桃子 でんぱさんがエンディングを迎えて、すごく不安だったんですよ。「これからは誰の背中を追いかければいいの?」って。でも、こんな言い方をしたらおこがましいけど、でんぱさんのDNAとかキラキラした感情とか情熱とか全部を受け継いでいきたいという気持ちに今はなっています。
古川 ウフフ。ありがとうね。
やりたいことが延々と出てくるから、やめるにやめられない
──通常、アイドルは運営サイドに言われたことをこなすのが仕事だとされています。その点、バンもん!は自主性を非常に重んじていますよね。作詞、MV撮影、トラックダウン、振付、衣装コンセプト……すべてメンバーの意思が反映されたものですし。その点もグループの活動を長続きさせている理由なのかなと思ったのですが。
鈴姫 私たち、最初からプロデューサーがいないアイドルだったんです。そもそも最初がバンドでしたし。
大桃子 少なくとも私とゆずポン(甘夏)が加入したときは、すでに完全なセルフプロデュース体制でしたね。メンバーが私たちをオーディションしていましたし。
甘夏 確かに。音楽も衣装もビジュアルも、自分たちで全部を決めていました。
望月 そもそも所属しているパーフェクトミュージックがバンドしかやったことがなかった音楽系の事務所ですからね。リリイベのやり方がわからないんですよ。チェキも撮れないし(笑)。
ななせ うちのスタッフさんは本当にアイドルに慣れていなかったですよ。とっくに終電が終わっている時間なのに、新宿の繁華街でいきなり「はい、解散」とか言って放り出されました(笑)。
望月 しかも、スタッフさんは「明日の詰め込みがあるから帰ります」とか言って先に帰っちゃったという(笑)。
恋汐 自分たちでやらないと何も進まないから、やるしかないという状況。でも、私たちにはそれが合っていたんだと思う。ヘアメイクとかも自分たちでやるから上手になったし、自分が自分らしくいるために必要なプロセスだったのかも。
鈴姫 そうだね。結果オーライってところかもね。
大桃子 普通はアイドルってプロデューサーの方がいて、しっかりしたコンセプトがあるものじゃないですか。バンもん!は自分たちがプレイヤー兼プロデューサーだから、客観的に見えないところがあるんですよ。それで今までも、ひたすらがむしゃらにがんばってきたわけです。逆にもしプロデューサーさんがいて、その人の考える完成形になっちゃったら、そこからもう続けさせてもらえなくなっていたかもしれない。
鈴姫 そこ、めっちゃデカいよ! バンもん!って「次はこれやりたい!」「これをやるまでは死ねない」っていうのが延々と出てくるじゃん。だからこそ、やめるにやめられないんですよね。
──自分たちで決めていくということは、結果に責任も伴うはず。そのあたりの怖さはないんですか?
甘夏 6人でしっかり意見をぶつけ合った結果ですから。不安というのはないですね。
望月 ラッキーなのは、6人の個性が見事なくらいバラバラなこと。得意な分野に関してはセンスも含めて信頼していますからね。
鈴姫 とはいっても、重要な部分の話し合いで意見がズレるということはまったくないんですよ。バチっと合致するイメージで。
大桃子 みさこの歌詞が好きという点は全員が共有しているので、みさこの行きたい方向があれば私たちも歩調を合わせますよ。でも、決してワンマンという感じではないです。みさこの書いた歌詞を6人で歌い続けて、日本中、世界中の人たちに元気になってほしい。その考えがバンもん!の根っこの部分ですね。
100年後、1000年後も続くようなグループになれるんじゃないかな
古川 面白いなあ。話を聞いていると、でんぱ組.incにはない部分がたくさんあるなってすごく感心します。文化圏が似ているようで全然違いますよ。特にすごいのは、とにかく当事者意識が強いこと!
望月 本当ですか?
古川 でんぱ組の場合、もふくちゃんのやりたいことがたくさんあるからね。例えば私、おしゃれなことにすごく疎いんですよ。もふくちゃんにテンション高めで「オザケン(小沢健二)のカバーやるよ!」とか言われても、オザケンがわからないから「はあ……」としか答えられない(笑)。そんな調子だから、クリエイティブ面に関しては最初から全面的にプロデューサーであるもふくちゃんに頼りっぱなしでした。でも、でんぱ組.incはそれが合っていたとも思う。そして、バンもん!はセルフプロデュースだから10年以上も同じメンバーで続けられてきたんだなって。
──続けるということに関して言うと、よくあるバンドの解散理由で「このメンバーでできることはやり尽くした」というパターン。11年もやってきて、マンネリは感じないんですか?
大桃子 むしろ「やり尽くした」という状態がうらやましい! 私たちもすごくがんばっているつもりだけど、すべて100%満足できる日が来るなんて想像できないです。ライブにしても楽曲制作にしても、終わったら必ず改善点が見つかるんですよ。
恋汐 「この6人なら、もっとできる」という気持ちが常に消えないんです。もっと人気者になりたいし、もっと轟きたい!
──モチベーションは、日本武道館とかオリコン1位を目指すということでもないんですよね?
ななせ そこは未鈴さんに相談したいです。私たち、何を目指せばいいんですかね?
古川 それは今のペースでがんばっていたら、自然と見えてくるんじゃないかなあ。今日、この取材場所に来るまでバンもん!の新譜「SIXTH SENSE」を聴いてきたんですよ。
ななせ ありがとうございます!
古川 感想を言わせてもらうと、とにかくかわいかった! 全曲、かわいさが詰まっていた!
甘夏 かわいい……ですか?
古川 そう。今のアイドル界って「かわいい」という方向に全振りしているグループが目立つじゃないですか。バンもん!ちゃんは今のかわいいブームが来るはるか前から徹底的にかわいかったんですよね。かわいいの深みが違うと言いますか……。11年もかわいいことをやり続けてきたわけですから。このピースフルな感じは一朝一夕では出せないし、取ってつけたように出そうとしても見透かされると思うんです。今日話してみて改めて思ったけど、バンもん!ちゃんは考え方もすごく大人。でも、大人ならではのかわいさってあるんですよね。
恋汐 そこまで言っていただけるとは……。
──ほかにミニアルバム「SIXTH SENSE」の特徴はありますか?
望月 今回は「肯定」という共有テーマがあるんですよ。これまでも私たちは選択を肯定しながら「合ってるよ」「大丈夫だよ」「一緒に行こうね」というメッセージを伝えてきたのですが、今回は5曲すべて肯定で貫かれています。
甘夏 その一方でサウンド的にはすごくバラエティ豊か! 前からやりたかったORANGE RANGEさんのカバー「ビバ☆ロック」や、メンバーが作詞した新曲も満載です!
恋汐 今回は個人的に自分のルーツである音楽も詰め込めた手応えがあります。電波ソングもあれば、東方Projectっぽい曲もありますし。人によっては、ちょっと懐かしい感じも味わえるんじゃないかと思います。
──かしこまりました。では、最後に古川さんからバンもん!にメッセージをお願いします。
古川 さっきバンもん!ちゃんと楽屋が一緒だったんですけど、あまりの仲のよさにビックリしたんです。なんというか、マジの“仲間感”があったんですよね。だからバンもん!ちゃんに望むのは「ずっとかわいくいてほしいし、ずっと仲よくしてほしい」ってこと! バンもん!ちゃんなら、100年後、1000年後も続くようなグループになれるんじゃないかな。くれぐれも無理しない範囲で、これからもがんばってほしいなと思います!
バンもん!一同 ありがとうございました!
公演情報
バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI「やばい(^_^)vかわいいツアー!!~青春のフォーエバーヤング♡今がナウジャストモーメント学園~」
- 2025年1月11日(土)神奈川県 新横浜 NEW SIDE BEACH!!
- 2025年2月11日(火・祝)千葉県 KASHIWA PALOOZA
- 2025年3月1日(土)大阪府 OSAKA MUSE
- 2025年3月22日(土)北海道 KLUB COUNTER ACTION
- 2025年3月29日(土)埼玉県 西川口Hearts
- 2025年4月5日(土)群馬県 Club JAMMERS
- 2025年4月6日(日)宮城県 仙台MACANA
- 2025年4月11日(金)福岡県 DRUM Be-1
- 2025年4月12日(土)広島県 Live space Reed
- 2025年4月27日(日)愛知県 新栄シャングリラ
- 2025年5月18日(日)東京都 東京キネマ倶楽部
- 2025年5月25日(日)沖縄県 Output
プロフィール
バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI(バンドジャナイモンマックスナカヨシ)
神聖かまってちゃんのみさこ(のちにこのグループにおいてのみ「鈴姫みさこ」に改名)を擁する、女性ドラマー2人組ユニットとして2011年初頭に結成。ツインドラムでアイドルポップスを歌う独特なスタイルで話題を呼ぶ。2012年10月にワーナーミュージック・ジャパンのunBORDEよりメジャーデビューミニアルバム「バンドじゃないもん!」を発表。翌2013年に新メンバーが加入したことをきっかけに、本格的なアイドルグループへと進化していく。2014年4月からは鈴姫みさこ、恋汐りんご、ななせぐみ、望月みゆ、甘夏ゆず、大桃子サンライズの6人で活動。2016年5月にシングル「キメマスター! / 気持ちだけ参加します。」でポニーキャニオンから“再メジャーデビュー”を果たした。2018年11月にグループ名を「バンドじゃないもん!」から「バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI」に改名。2023年11月にテイチクエンタテインメントより“3度目のメジャーデビュー”をすることを発表した。
バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIの記事まとめ
古川未鈴(フルカワミリン)
9月19日生まれ、香川県出身。2008年にでんぱ組.incの前身ユニット・でんぱ組のメンバーとしてアイドル活動をスタートさせた。でんぱ組.incではセンターを務め、キャッチフレーズは「歌って踊れるゲーマーアイドル」、担当カラーは赤。2019年に結婚、2021年に第1子を出産しながら、2025年1月のでんぱ組.incの“エンディング“まで精力的にグループアイドルとしての活動を続けた。3月14日には初の著書「ツインテールの終わりに、 #未鈴の自伝」を刊行した。
古川未鈴 (@furukawamirin) | Instagram