ナタリー PowerPush - 馬場俊英
17年の音楽人生で奏でた“あのメロディ”を総括
馬場俊英がキャリア初となるオールタイムベストアルバム「BABA TOSHIHIDE ALL TIME BEST 1996-2013 ~ロードショーのあのメロディ」をリリースする。「スタートライン -Album version-」「いつか君に追い風が」「ボーイズ・オン・ザ・ラン-2002 Version-」など人生や生き方をテーマにした楽曲を集めた「THEATER1 ROAD MOVIE」と、「三つ葉のクローバー ~ババコブ(馬場俊英×小渕健太郎)」「世界中のアンサー -Single Version-」「ロードショーのあのメロディ -2013 Version-」といったラブソングを中心とした「THEATER2 LOVE STORY」の2枚組による本作は、17年におよぶ彼のキャリア、そこに込められたさまざまな思いが強く反映された作品となった。
音楽とリスナーに対して真っすぐに向き合いながら、不遇だった時代を経て、確固たるポジションを獲得するに至った馬場。今回のインタビューでも、その真摯な姿勢をしっかりと感じることができた。
取材・文 / 森朋之
ベスト盤をシアターに見立ててサウンドトラックみたいに聴いてもらう
──初のオールタイムベスト「BABA TOSHIHIDE ALL TIME BEST 1996-2013 ~ロードショーのあのメロディ」、じっくりと楽しませてもらいました。「THEATER1 ROAD MOVIE」「THEATER2 LOVE STORY」という2枚に分けることで、楽曲の魅力がしっかりと際立って、新鮮な気持ちで聴くことができて。
ありがとうございます。選曲や曲順に関してはけっこう悩ましかったんですけど、「馬場俊英の中にある(音楽的な)傾向で分けてみたら?」というアイデアをもらって、いろいろ考えていくうちに“シアター”というモチーフが出てきたんですよ。それは「ロードショーのあのメロディ」という曲がきっかけだったんですけど、ベスト盤をシアターに見立てて、そこにお客さんが来てくれて、いろんな音楽をサウンドトラックみたいに聴いてもらうっていう。そこから「ROAD MOVIE」と「LOVE STORY」に分けて選曲してみたんですけどね。
──「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「世界中のアンサー」など、馬場さんのキャリアを代表する楽曲もきちんと網羅されてますね。
最初は自分自身の思い入れがある曲をわりと多く選ぼうとしてたんです。でも、途中で「ちょっと違うな」と思い始めて。代表曲ってなんだろう?って考えたときに、自分が好きな曲っていうのもあるんですけど、それよりもお客さんに支持された曲や、結果というか客観的な目線で浮かんでくる曲だよなって。だから、あんまりマニアックな方向には行かなかったんですよ。今のライブでも歌い継がれているリストも反映されてますね。
──なるほど。選曲する過程で、楽曲を作っていた当時のこともいろいろと思い出したんじゃないですか?
ありましたね、それは。そのときに一緒に制作していた人だったり、アレンジャーの方やディレクター、プロデューサーと交わした会話を思い出したり。自分の中のストーリーというか、「この頃はこんなことを考えてたよな」ということもよみがえってきて。
──馬場さん自身のドキュメンタリーに近い手触りがあるかもしれないですね。
ええ、そうなんですよね。その時期に思っていたことがわりとダイレクトに曲の中に出ているというか。それはね、自分でも改めて感じました。
“なりたい自分”と“自分らしさ”
──自分自身のリアルな思いを曲に投影するというスタイルは、デビュー当初から目指してたんですか?
20代のときはそうじゃなかった気がしますね。なんていうか、ちょっとプラモデルを作るような感覚に近かったんですよ。モノができるのがうれしいっていう。特にデビューしてからの4年間(1996~2000年)はあんまりCDを聴いてもらえなかったし、ライブにもあんまり人が集まらなかったんです。だから、自分の中で完結するしかなかった。「この曲を作った。自分ではよかったと思う。終わり」って(笑)。でも、少しずつお客さんが増えていくにつれて、“聴いてくれる人に届ける”ということの大切さに気付き始めて。
──できあがる曲の傾向も変わってきたんですか?
そうですね。自分が作りたい味もあるんだけど、それをおいしいって言ってくれるお客さんが少ないんだったら、それを強引に出すわけにもいかないじゃないですか。そこはやっぱり、みんなが喜ぶようなものを作っていかないと……。やっぱり「おいしいね」って言われたほうがうれしいですから。ちょっと抽象的な言い方になっちゃいましたけど、その意識の変化は大きかったですね。例えば歌詞のことで言うと、それ以前は何かを言い切るスタイルではなかったんです。「こういうこともあるけど、こんな考え方もあるよね」っていう感じだったんですけど、いろんなことをいっぺんに言っちゃうと、なかなか届かないんですよね、お客さんに。結果的に「よくわからない」とか「まあ、悪くないんだけどね」みたいになることも多くて。でも、「スタートライン」では「チャンスは何度でも 君のそばに」って言い切ってる。「もしかしたらチャンスもあるかもね」ではなくて、「チャンスはあるんだ」ってハッキリ歌っている。そうやって、しっかり選ばなくちゃダメだって思ったんです、その頃。意見をいくつも並べるんじゃなくて、ひとつの答えを選ぶことが作品を作るということなんだな、と。
──サウンドについても、同じようなことが言えるんでしょうか? 馬場さんはもともと、ソウルミュージックやブラックミュージックに傾倒してたそうですが……。
はい。あの、自分自分に対する希望的なイメージってあるじゃないですか。「もっとできるはずだ」とか「こういう自分でありたい」とか。僕は若い頃、ロックスターと言われるようなボーカリストになりたかったんですよ(笑)。でも、続けているうちに「これはどうも違うな」っていう。
──理想のイメージと現実の自分のあり方の違いに気付くというか。
そうですね。20代前半でバンドをやっていたとき、ウルフルズと対バンしたことがあって。まだ彼らが有名になる前だったんですけど、トータス(松本)さんがものすごくカッコよかったんです。サム・クックみたいなスタイルで歌ってて、とにかく強烈で。僕も同じようなことをやりたいと思ってたんだけど「こんなすごい人がいるんだったらダメだな」って。そうやって「これもダメ」「あれもダメ」って剥がされていくうちに“自分”になっていくんですよね。で、最後に残ったものが自分のスタイルになっていくんだなって。
──最後に残ったものを受け入れられるかどうかも重要じゃないですか? もし、やりたいこととできることがまったく違っていたら……。
ホントですよね。ちょっと違う話になっちゃうんですけど、僕、野球が好きなんですよ。特にジャイアンツが好きなんですけど、川相選手ってわかります?
──バントの名手として知られた川相昌弘選手(現在は読売ジャイアンツの1軍ヘッドコーチ)ですよね。
そうそう。川相選手は高校時代、4番でピッチャーだったんです。しかもドラフトでジャイアンツに入るなんて、野球選手としてはヒーローなんですよね。でも、上には上があるというか、ジャイアンツでは4番も打てないし、ピッチャーにもなれなかった。そこで挫折があったと思うんですけど、川相選手はバント王として活躍するようになって、第一線の選手になっていった。僕らミュージシャンにも、そういうことがあると思うんですよ。ミック・ジャガーやスティーヴン・タイラーみたいになりたいと思っていたけど、どうも違う。そこから少しずつ「自分にできることはなんだろう?」と考えて……。それを教えてくれるのは、お客さんだったり、メディアのパブリックイメージだったりするんですけど、それは受け入れるしかないですから。何もなくなって、ペンペン草も生えないような場所で、自分の力で打ち立てるもの──それが自分らしさだと思うんですよね。
- オールタイムベストアルバム「BABA TOSHIHIDE ALL TIME BEST 1996-2013 ~ロードショーのあのメロディ」/ 2013年5月15日発売 / Warner Music Japan
- 初回限定盤[CD2枚組+DVD] 3990円 / WPZL-30606~8
- 初回限定盤[CD2枚組+DVD] 3990円 / WPZL-30606~8
- 通常盤 [CD2枚組] 3465円 / WPCL-11411~2
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CD収録曲THEATER1 ROAD MOVIE
- スタートライン -Album version-
- いつか君に追い風が
- 君の中の少年
- ボーイズ・オン・ザ・ラン -2002 Version-
- 向かい風は未来からの風
- 青春ラジオ
- スニーカードリーマー
- オセロゲーム -2013 Version-
- 平凡 -Edit Version-
- 悲しみよ、明日の星になれ
- 君はレースの途中のランナー -Single version-
- 働楽 ~ドウラク
- 勝利の風
- 弱い虫
THEATER2 LOVE STORY
- ただ君を待つ
- 一瞬のトワイライト
- 三つ葉のクローバー ~ババコブ(馬場俊英 × 小渕健太郎)
- 今日も君が好き -Album version-
- 小さな頃のように
- 世界中のアンサー -Single version-
- 明日の旅人 ~Live at 大阪城野音
2010.06.27~ - 君がくれた未来
- 二十年後の恋
- 鴨川
- 待ち合わせ
- 明日に咲く花
- 遠くで 近くで
- ロードショーのあのメロディ -2013 Version-
初回限定盤DVD収録内容THEATER3 OUTTAKES
「BABA TOSHIHIDE ALL TIME OUTTAKES 1996-2013 ~ダンボールの中のあのメロディ」
馬場俊英が秘蔵デモテープを聴きながら17年間の音楽生活を振り返り、当時の楽曲制作への思いや今だから語れるエピソードを自ら解説!
馬場俊英(ばばとしひで)
1967年埼玉県生まれの男性シンガーソングライター。1996年にメジャーデビューし、2001年より自主レーベルでの活動に移行。ライブ活動を中心とした地道な活動が実を結び、2005年に再びメジャーシーンに復帰する。2007年にはNHK紅白歌合戦に出場し、「スタートライン ~新しい風」を歌唱。デビュー15周年を迎えた2011年、音楽プロデューサーの須藤晃と出会い、タッグを組んで制作活動をスタートさせる。2013年5月には、キャリア初のオールタイムベストアルバム「BABA TOSHIHIDE ALL TIME BEST 1996-2013 ~ロードショーのあのメロディ」をリリースした。