今年デビュー30周年を迎えたシンガーソングライター⾺場俊英が、ベストアルバム「UP ON THE ROOF EARLY DAYS – RECORDINGS 2001-2004」「BABA TOSHIHIDE ALL TIME BEST 1996-2025 風の中のアイラブユー」を同時リリースした。
馬場のキャリアをたどりつつ、ストーリー性や共感性の⾼い歌詞、幅広い⾳楽性、そして人間味と温もりにあふれた歌声をたっぷりと堪能できるこの2作。音楽ライターの森田恭子氏がベストアルバムの聴きどころを紹介しつつ、彼のシンガーソングライターとしての魅力を深掘りする。
文 / 森田恭子
30周年という年月の重み
1996年にデビューし、今年で30周年を迎えた馬場俊英。その軽やかで柔軟な佇まいは、今もおよそ貫禄とは無縁の清々しさを漂わせている。
デビュー前はバンド経験もあり、ソロになってからはインディーズとメジャーレーベルでの活動をそれぞれ経験。豊富な音楽経験を含む30年という年月の重みは確かに存在していて、それらを証明するように、このたび馬場自身の選曲によるベストアルバムが1月28日に、2作同時にリリースされた。インディーズ時代の作品を収めた「UP ON THE ROOF EARLY DAYS – RECORDINGS 2001-2004」と、在籍したレーベルの楽曲から厳選された「BABA TOSHIHIDE ALL TIME BEST 1996-2025 風の中のアイラブユー」である。
“2001-2004”盤には、インディーズ3部作と言われる「フクロウの唄」「鴨川」「blue coffee」から選ばれた楽曲たちが肩を並べる。原点であるフォークソングと憧れのロックミュージックの融合が彼のオリジナルとしてすでに確立されており、はつらつと歌う声とクリアに聞こえてくる歌詞が印象的だ。まっすぐに景色が浮かんでくる。プレス資料の中で馬場は「聞き手のことをほとんど意識していません。作りたい。歌いたい。それだけしかできない。考えられない。そんな精一杯の時代の楽曲群です」とコメントしているが、のちに代表曲として知られる「ボーイズ・オン・ザ・ラン」でも、時代をひとまたぎするような新鮮かつ素朴な歌が響いている。必聴だ。リリースに合わせて行われたラジオキャンペーンで、馬場は“2001-2004”盤のリード曲として「鴨川」をかけたところ、リスナーからの反響もあり、改めて手応えを感じたという。自身の過去作に新たな刺激を受けているようだ。
さまざまな年齢のさまざまな馬場俊英
インディーズ活動の前に彼は一度メジャーレーベルからのデビューを果たしている。1996年、30年前のことだ。“1996-2025”盤に収録されている最古の曲は1998年リリースの「ダウン・ザ・リバー」。20代の馬場が、最新曲やそうそうたるミュージシャンとの共演曲の中でさっそうと雄叫びを上げている。時系列ではない、さまざまな年齢のさまざまな馬場俊英がほほえましくも頼もしい姿で、この2枚組アルバムに収められているというわけだ。
リスナーを魅了してやまない「君が僕の元気」「ケムシのうた」「今日も君が好き」のほか、馬場の音楽的才能と誠実な人柄を感じさせるコラボ曲も実に豪華。「ボーイズ・オン・ザ・ラン」はコブクロとのコラボVer.として収録されている。ほかに根本要(スターダスト☆レビュー)、杉山清貴、佐藤竹善(SING LIKE TALKING)、KAN、池田綾子、森大輔、ミトカツユキらがゲストアーティストとして名前を連ねる。ミトカツユキとは過去の提供曲の中から「Can't Stop Lovin' You」を新規でレコーディングしている。
KANとのコラボはここに収められている「スマホになりたい」のほか数曲が発表されており、KANのアルバム「6×9=53」(2016年発表)に収められている「ロックンロールに絆されて」も名曲の1つ。中でも「胸を張って誇れるのは / ジョンとポールと同じ職業」というフレーズは彼らのスタンスを端的に表していて、思わず拳を突き上げたくなる、この楽曲のクライマックスだ。作曲はKANで、作詞はKANと馬場の2人の名前がクレジットされているが、「いいなと思うところはだいたいKANさんの歌詞(笑)」と、こう言い切ってしまえる馬場の懐の深さにも、ふと、音楽を愛する純粋さを感じてしまうのである。
桜井和寿の会話に出てきた馬場俊英の名前
彼が音に乗せて放つ言葉たちは、日常的で、ロマンチックで、ひたむきだ。何かを押し付けようともしないし、誰かを諭そうともしていない。30年もの長いキャリアの中で、常に飄々と生きてこられたわけではないだろうけれど、彼は歌の中で生活しているかのように自然な視線で今日の風景を切り取っていく。それらをオーディエンスの手のひらに運んでくれるのは、心地よいリズムを宿した声だ。
これは余談だが、筆者はあるとき桜井和寿(Mr.Children)と「歌がうまい人」と「いい歌を歌う人」は違うという話をしたことがある。要は「うまけりゃいいってもんじゃないよね」という質問をおこがましくも日本を代表するボーカリストに投げかけてしまったわけだが、彼もすぐさま同意して、「歌がうまいとメロディはきれいに流れるけど歌詞が響かなくなる場合がある。逆に、すごくうまいというわけじゃないけど、むしろ言葉が入ってくることがある。例えば……」と、何人かミュージシャンの名前を挙げた中に馬場俊英がいた。
なるほど、と膝を打った。もちろんヘタなわけではない。歌を振りかざさないということだ。わざわざ歌詞カードを読みながら声を追わなくても、いつのまにかスッと言葉が耳に舞い込んだりにじんだり刺さったりするのは、歌詞を大事にするボーカリストに共通することなのかもしれない。レコーディングでも、ライブでも、もしかしたらそのへんに置いてあったギターを手に取って好きな歌をちょっと歌ってみるなんて場面でも、嘘のない、ありのままの歌を聞かせてくれる。「今日も地球を回しているのは / 平凡な僕たちじゃないのか」と。そうだよね、と素直にうなずきたい。
ちなみに、この歌詞が登場する「平凡」という曲は2012年、TOKYO FM「桑田佳祐のやさしい夜遊び」の「桑田佳祐が選ぶ邦楽ベスト20」で見事第1位を獲得している(が、今回のベストアルバムには収録されていないので、別途聴かれたし)。
また、“歌を振りかざさない”という話で思い出されるのが、馬場が毎年スターダスト☆レビューとともに出演しているイベント「靭公園MUSIC FESTA FM COCOLO~風のハミング」だ。数年前のその日はどしゃぶりの雨が降り続き、音楽の高揚とは裏腹に、冷たい雨が観客のビニールのレインコートを容赦なく叩きつけていた。そんな中で馬場は出番を迎え、観客は震えながらも彼の歌に耳を傾けていたのだが、彼は弾き語りの曲を少しテンポを上げて歌い出したのだ。自ら生み出した曲をそんなふうに、半ば乱暴に、けれど観客のことを考えたら少しでも早く出番を終わらせようとしたのだった。
てらいのない思いやりの深さは自身の楽曲にも向けられ、ベストアルバムの“2001-2004”盤にはボーナストラックとして、1995年制作のデモトラック「28」が収録されている。「あらためて再録音するほどの楽曲でもないけれど、このまま誰にも聴かれず闇に葬られたままではもったいない曲かな」と、熟考のうえで収録を決めたとか。この曲に対する温かい気持ちも含めて耳に留めておきたい曲である。
穏やかな物腰から言われがちな、「優しい」などという漠然とした形容はむしろ彼に似つかわしくないと思えてきた。とても具体的で個人的で正直な、果てしない音楽の旅を続けるシンガーソングライター、それが馬場俊英だと、今回のボリュームたっぷりのベストアルバム2作が証明している。過去作を多く含む内容でありながら「今」が表現されているのだ。
プロフィール
馬場俊英(ババトシヒデ)
1967年、埼玉県生まれのシンガーソングライター。1996年にメジャーデビューし、2001年に自主レーベル・UP ON THE ROOF RECORDSを設立した。2007年に「NHK紅白歌合戦」に初出場し、「スタートライン~新しい風」を歌唱。2009年に初のアリーナ規模のコンサートを大阪・大阪城ホールで開催した。これまでに15枚以上のアルバムをリリースし、音楽活動と並行してラジオDJやテレビ番組のパーソナリティを務めるなど幅広く活躍中。2026年1月にデビュー30周年を記念してベストアルバム「UP ON THE ROOF EARLY DAYS – RECORDINGS 2001-2004」「BABA TOSHIHIDE ALL TIME BEST 1996-2025 風の中のアイラブユー」を2枚同時リリースした。
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