「KiLLKiSS」
まさしく、これぞ「ザ・Ave Mujica」と言えるような説得力と、これまでのテーマすべてを代表していくような総合力が必要だと考えていました。
タイトルについては、ストンと腑に落ちるわかりやすさ、ありそうでなかった感覚、とにかくキャッチーな語感、をもちながらバンドイメージコンセプトを全方位に総括できるもの、というのをベースに考えたところ、パッと最初に思いついたのがこれでした。
とてもナチュラルでいい予感がしたので、これをアイコニックなキーワードとして用いながら、一貫した品格と緊張感をもって、詩や音楽で揺るぎない世界観を作っていけたらと。
そして、新たな幕開けに相応しいインパクトや華やかさをアピールしながらも、かつて「黒のバースデイ」から始まったストーリーとキャラクター性をよりあからさまにしていく上で、同時にまた、ゴシックとその背景の隠喩をともに引き継いでいくことも重要に考えていました。
「弄られて垂れ流す 音のない音」
第一声のサブリミナルワードでその生々しさを突きつけ、消せない過去、逃れられない人間本来の孤独や、やがて無理やり自立しようとする壊れた心を暴いていきながら、表現は、その「悲哀」がここから人知れず逆上していく形をとっていきます。
名前を捨てても、何を遠ざけようとも、元来の真実は一定であることも強調しました。
また一方では、かけ離れた途方もない概念を置いておいています。
「エネルギーはサイクル」
宇宙の一部であるという潜在的な感覚、「それがそうだ」という思想は、前作の「Ether」にも及んでいく精神世界です。
ただ、ここでの‘completeness’は、「Ether」的な「因果の完全性」という意味合い以外に、人がイメージして作り上げていくストーリーやキャラクター性の、ある種の「到達」を示すような意図もあります。
過去からの束縛、支配的なものや裏切り、蘇る場面場面を振り切って、月夜に己を映し出していくような絵を想像しました。
Hook(サビ)のパートで一気に言葉を覚醒させていきます。
ここで描いた「接吻」が暗示するところに、ひとつ、聖書であまりに有名な題材をもイメージしていますが、そういったヴィジョンの中で連発させていくワードに対して、同じ意味を持たせながらスペリングを変化させ、3つのリズムをもって歌唱時の語呂や発音とともに文字通りHookできるようなインパクトを構成していきました。
「時とともに在るもの」「言動の表裏」「心情の陰と陽」などと、人格の多面性を表現しつつ、こうして羅列して記号化することにより、直接的な背景モチーフは、裏で見え隠れしながらも、聴き心地や表面上ではそれを「オリジナル/Ave Mujica」の詩の世界を軸としたアートの中に閉じ込めて、あくまで「音楽的な語感」としても成立できるようにしています。
これは、自分の基本的な作詞手法の一環です。
「手を挙げ 希え」
人とは、卑しくも傲慢な理想を掲げたり、はたまた幸せを願い、それを掴むため、もがき、何かに媚び、抗い、時に血をも流しながらこの惑星に影を伸ばしていくもの。
理解し得る者、はたまた、そういうこととは無縁の者、運命はそうしたポイントに於いて数多に分かれていくことに。
欺き、抱きしめ、泣き、笑う。複雑性の一面、一面、大いに矛盾を孕んでいる「私」。
人間の性(さが)と歴史、次第に甚だしくなる心の叫びを露わにしていきながら、「KiLL」と「KiSS」の両面を抱いて歪んでいく、ある意味、正直過ぎるとも言える命の本音「この世界の‘声’」を聴いて、没入してくれたらと思います。
「Georgette Me, Georgette You」
ドラマタイズされた感情の物語を、白銀のジョージェットに例えながら表現できたらいいなと思って書いていきました。
また、たびたび登場する「月」が比喩する対象というのも、それぞれの楽曲の中でさまざまなイマジネーションをもたらすように使っていけたらと。
この楽曲では特に、美しい絵画を描くように、一語一句を丁寧に紡いでいきました。
「拒絶すること」「受け入れていくこと」
人は、「人生の回り舞台」でひたすらに己を演じていきます。ともすればはたまた、自分でない誰かを生きていったりもします。
「コントロールし得ない導かれていく運命が在ることを、どこかで我々は知っている」というふくみも表現できたらと思っていました。
本当に不思議なことに、相反するものを人は常に両立しています。
大事なのは、「微妙である」ということ。「こわいくらいデリケートである」ということ。
これまでの共通項として、2番でほのかに宗教的な背景を想像させるようなフレーズも入れました。
訪れるターニングポイント。
人生のあらゆる意味に於いて、「喪失」というものの後に「初めて始まる」と考えることができます。
「あなたが触れたわ この傷口に」
いろいろなことが少しずつわかっていく、及んでいく哀しみに人生を知っていく、というように捉えるならば、幾重にもなって輝くその光とは痛みでもあり、闇が深さにその光はより輝きを放ちます。
ひたすら「言葉の描写」に拘った1曲。
また、この楽曲では、アニメとは別の「独立性」を成立させていく中で、人が懸命に命を繋いでいく美しさや、恋愛における関係性表現とも解釈できるような側面をも併せ持つような形式をとっています。
「Imprisoned XII」
「監禁」「所有」
理想を抱くが故の嫉妬、願望の歪曲、支配的な独占欲、そういったエゴイズムを描くに当たり、この曲では、敢えて文字通り歪(いびつ)な言葉尻、直接的過ぎる物言いを使いながら、狂気ともとれるその理不尽な側面、「強引さ」のようなものを表現していきました。
そうしたワードの連続性がもたらす不安定さは、リスナーみなさまの想像の余白になる気もしました。
「告解」という側面に於いて背景的な要素も併せて踏襲しようとも思いましたが、この曲ではそういったものより、ストーリーそのもののイメージを優先させる形をとることで、あくまで人物の心模様のドラマにフォーカスがいくよう完結するようにしています。
「Crucifix X」
世界観の強いゴシックバンドとしてのヴィジョンに振り切りました。
相応しい立ち位置の曲で、このバンド自体の「禍々しいイメージ」をよりフックアップするためにこういったアプローチを組み込みつつ、ある意味で少し大袈裟にしていきたいなと考えていました。
「素晴らしき世界 でも どこにもない場所」「Angles」ではトーマス・モアやアン・ブーリン、「ELEMENTS」では人物だけでなくシェイクスピアのテンペスト他、さまざまな神話や戯曲の断片を、
などと、これまでにもかなり複合的に多種多様のモチーフをミックスさせて織り成してきているもうひとつのストーリー性とその解釈は、彼女たちが表現する「ゴシックバンドとしてのAve Mujica」の世界観を煽っていく実質的な要素の一部なので、あらためて、折々そんな裏付けと脚色を施して、常々当たり前にならない描写や肌感を仕立てていけるよう心掛けています。
そんな着想としておおよそこれもまた王道なところで、16、17世紀辺りの欧州にイマジネーションを馳せ、色付けしていっているので、上記のそういった楽曲らとも密接しています。
ロザリオの十字架に接吻をするような場面が仄(ほの)めかす人生の「瞬間」。メアリーとエリザベスのような時代を代表する女王を思い浮かべ重ねたりしながら、さまざまなメッセージを込めて「Scene」へのフォーカスを強調し、物語の緊張感を演出しています。
「宿命を全うするそのとき」、もしくは「運命に翻弄されていくこととなるような選択、岐路」
回り出す歯車と、狂い出す歯車
といった感じです。
余談ですが、実はこの曲には結果的に途中でボツにした別の構想がありました。
当初これを作るに当たり、メアリーが幽閉生活を送る中で創作したと伝えられる編み物に描かれたフェニックスを題材にイメージを膨らませ、全く異なったアングルで書いていました。
そんな関連でさらに言うと、「ELEMENTS」の「Symbol I : △(Fire)」との繋がりもあったりします。
そこでの「火」のエレメンタルはサラマンドラなので、もちろんフェニックスは関係ないのですが、当時まだ「ELEMENTS」として、はっきりテーマや進行が決まっていない時期に、この辺りのノートのメモはすでにあり、結局、整合性の取れる部分のみ。それらは「△」で少し昇華され、そのまま進めていく中で、国や時代も異なるモデルとしてジャンヌ・ダルクや他、さまざまな背景なども掛け合わされたりして、おおよそ見てもわからない程度や塩梅で多様に混ぜられ、「ELEMENTS」のコンセプト上にある「Symbol I : △」として、それはそれで出来上がっていきました。
また、この「Crucifix X」は、「Imprisoned XII」と直接的に‘対’になるような形を考えていたりもしました。ただ、ここはアニメも走っているので、いろいろなバランスを見る中で、相互関係を意識しながらも途中で切り離す部分は切り離し、双方Bestな着地ができるようシフトしていきました。「Imprisoned XII」のほうは、記号化された暗示的なタイトルだけをそのまま残すことにしたのですが、こういったことを含めたいろいろは、一連の中の感覚的な部分でもあるので、今となってはそれらも自分の創作プロセスにあるひとつ俯瞰の「気まぐれ」や「タイミングの妙」かなと捉えて、一興です。
「八芒星ダンス」
これは「サーカス」というテーマでした。
極めて個人的なイメージの中で、サーカスの放射状の天井が見上げる者をベツレヘムの星へと誘(いざな)うような、そんな想像を一番最初に巡らせました。
クリスマス的な意味合いは排除して、「オクタグラム」がもつ、もっと不思議な感覚のほうにシフトしていきます。
暗示的なadvertising
赤い塗料で描かれた象、獅子、熊
演劇、風刺、イリュージョニスト、土埃、事件、デスマスク
また、古代ギリシャの劇場シンボル、喜劇と悲劇の仮面なども浮かんで、混在しながらこんな感じで次から次へと無数に連想していきます。
扉の奥が本当のlife
法則、アート、逆さまに覗き込む天使
天井を貫いて星につづく、セリフの中にドラマは在らず、ミスは命取り、振り落とされぬようしっかりと掴んで
生きることの奴隷
当初、ノートのメモでそんなようなことを書いていました。
「顔」
遊び心重視です。
アルレッキーノやコルセットなど、序盤のワードチョイスで世界観の統一感だけサラッと。あとは小気味良いフレーズのインパクトをひたすらに狙っていきました。
歌のグルーヴで印象が全然変わる曲なので、その辺に関係してくるアレンジメントと、マニアックな整合性を細かく調整していきました。そして、その上での歌唱表現で出来映えがfixしたと言えます。
歌えば難度は高くても、それをリスニングとして小難しく聴かせないよう、自然にノれるリスナーフレンドリーな楽曲にブラッシュアップしていくことも意識しました。
張り詰めた詩の世界から少しだけ離れて、作品群の中のバリエーションという立ち位置で、結果、耳にたのしい仕上がりになったかなと思います。
「天球のMúsica」
フィクションやファンタジーに於けるリアリズムを大事に考えました。
「歪み=らしさ」を理解したとき、己を知り、やがて届きそうなとき、目前に最後の痛みが訪れるという現実を強調しています。
人は生きる中であらゆる闘いに挑み、感情を抱き、やがて忘れていく、そして人も何も形あるものはすべて消えていくという摂理は、とても自然で、ある種「良いこと」にも思えるので、やはりこの曲に於いても、人間的な部分の表現と併せて、循環、調和、というこれまでと共通のテーマ性も描いています。
命あるものすべて、その命の讃歌を奏でられるときまで懸命に奏で、ただ確かにそうである、ということをうたっています。
「Ave Mujica」については、禍々しい世界観の中に「美しい詩」を考える機会が多いですが、他、例えば「セクシーな詩」や、ときにどうでもないような「ふざけた詩」など、どんな詩世界を紡ぐ中でも共通して、どこかしらで、性(さが)や本当の感情に密着しているもの、ある意味心臓部をえぐるような生々しさや、ハッとするような真実を置いていくことは大切かなと思って意識しています。
人の、「本当に言いたいのは本当のことだ」というのが、「詩的である」の中にちゃんとある、といった感じでしょうか、このバンドに於いても、ストーリーや世界観を作っていく中でそれをそれで終わらせない観測を描けて、そこに、未来、展望然り、「人はなぜゆえ」に紐づくような共感など、なにかしらオチまで持っていけたら理想です。
そして、そういうものが、歌詞の本当のおもしろさや「中身」になっていくかなと考えています。
「天文学はいまだ芸術」という観念に基づいて、「音楽の鳴る美しい天球」を想像し、タイトルにしています。
おわりに
パッと想像を掻き立てられるようなストーリー、そのコアにあるメッセージ性、安定性の中でHookしていける音楽的な可能性、という最もシンプルな成り立ちを考えて、そこに相互的な「機能美」を作れるよう意識しました。
そんな中で、さらに「見えるようで見えない、よく見れば見えないようで見えてくる補助線のようなものを多数潜ませ、仕掛けて」も創作の一興で、余白にそういったものも見つけてたのしんでいただけたら本望です。
公演情報
MyGO!!!!!×Ave Mujica 合同ライブ「わかれ道の、その先へ」
- DAY1:Petrichor
2025年4月26日(土)神奈川県 Kアリーナ横浜 - DAY2:Geosmin
2025年4月27日(日)神奈川県 Kアリーナ横浜
プロフィール
佐々木李子(ササキリコ)
小学5年生のときにミュージカル「アニー」の主役を約9000人の応募の中から勝ち取った。2016年にNHK東北復興アニメ「想いのかけら」で声優デビュー。同年6月にシングル「カサブタ / 想いのかけら / ドリームクライマー」でアーティストとしてもメジャーデビューを果たした。2024年に所属レーベルをランティスに移籍。テレビアニメ「リンカイ!」のオープニングテーマ「Windshifter」を表題曲としたシングルをリリースした。2025年2月にテレビアニメ「日本へようこそエルフさん。」のオープニング主題歌「Palette Days」をシングルとして発表。ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」から生まれた5人組バンド・Ave Mujicaのボーカルであるドロリス役としても活動している。
Sasaki Rico(佐々木李子)Official Website
羊宮妃那(ヨウミヤヒナ)
2020年4月に青二プロダクションにジュニアとして所属。2021年放送のアニメ「SELECTION PROJECT」で八木野土香役を務める。ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」から生まれた5人組バンド・MyGO!!!!!のボーカルである高松燈役を担当している。2024年3月に「第18回声優アワード」で新人声優賞を受賞した。
Diggy-MO'(ディギー・モー)
1999年、SOUL'd OUTを結成。2003年1月にシングル「ウェカピポ」をリリースしメジャーデビュー。2007年のツアーファイナルでは「日本武道館」でのライヴを成功させた。2008年11月、Diggy-MO'としてシングル「爆走夢歌」を発表しソロデビュー。2009年3月には1stアルバム「Diggyism」をリリースした。2014年にSOUL'd OUTが解散。以降ソロ活動を行い、2018年11月、ソロデビュー10周年を記念したベストアルバム「DX - 10th Anniversary All This Time 2008-2018 -」を発表した。2019年、「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」に楽曲提供。2022年、ミュージカル映画「シング・フォー・ミー、ライル(日本語吹替版)」の全挿入歌の訳詞を担当。2024年にはディズニー映画「モアナと伝説の海2」の全新曲挿入歌の訳詞を担当。現在、2023年より進行中の「BanG Dream!」発のヘヴィメタルバンド「Ave Mujica」のサウンドプロデューサーとして、作詞、作曲を手がけている。