佐々木李子インタビュー|「BanG Dream!」異色のヘヴィメタルバンド、Ave Mujicaが放つ“闇の光”

キャラクターとリアルライブがリンクする次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」から生まれた、5人組ヘヴィメタルバンド・Ave Mujica。2025年1月からは彼女たちにスポットを当てた新作テレビアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」が放送される予定だ。

音楽ナタリーではアニメの放送に先駆けて、Ave Mujicaの音楽にフィーチャーした特集を展開する。本特集では、ドロリス(G, Vo)役の佐々木李子にインタビュー。「BanG Dream!」では異色とも言える重厚で耽美な音楽性に、佐々木はどのように向き合い、表現しているのだろうか? 10月2日にリリースされた最新ミニアルバム「ELEMENTS」の話を中心に、彼女たちの音楽を紐解いていく。

取材・文 / 杉岡祐樹撮影 / 星野耕作

暗い場所でしか輝けないものが絶対にある

──Ave Mujicaというバンドの登場から、すでに1年半ほどの時間が経ちました。そして来年1月にいよいよテレビアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」の放送がスタートします。

ここまで時間をかけて練って、満を持して世に出すことはなかなかないので、最初は不安でした。私たちも本気で命を懸けているので……。ただ、ライブを何度かやらせていただく中で、アニメの放送前だからこそできる表現や演出があって、そこを考察や深掘りしてもらえるのがAve Mujicaの面白いところだと思います。

佐々木李子

──2023年6月に開催された初ライブ「Ave Mujica 0th LIVE『Primo die in scaena』」でも、ローブをまといマスクをしたメンバー5人の姿が印象的でした。

得体の知れないAve Mujicaというバンドの世界観を皆さんによりわかりやすく伝えられたので、よい企みでした。目と耳と脳裏に焼き付くような光景をお届けすることができましたし、ただ演奏するだけではなく、いろいろな目論見や仕掛けも届けていくことを表現できたライブだったと思います。ローブってけっこう重いんですけど、それもライブの世界観に合っていましたし、音の重さを視覚的にも伝えられたと思います。Ave Mujicaの音楽は軽い気持ちでは絶対に演奏できない楽曲なんです。私たちも仮面を着けた瞬間からAve Mujicaの世界に入り込めるので、今では仮面もなくてはならないものになっています。

──2023年に放送されたテレビアニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」の13話にAve Mujicaのライブシーンがありましたが、イングランド民謡「Greensleeves」の独唱から寸劇に入るという、かなり独創的なステージでした。

Ave Mujicaは今までの「バンドリ!」シリーズの中でも異色だと思います。キラキラしているだけじゃなくて、人間のグレーな部分、白黒つけられない部分まで歌えるのがAve Mujicaで、もしかしたら「バンドリ!」ファンの方々をびっくりさせてしまっているかもしれないですが、刺さる人には刺さる、どんどん沼にハマッていくような感覚で浸れる世界観だと思います。「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」でメインになっているMyGO!!!!!には「コミュニケーションが苦手だけれども歌がある」という高松燈(Vo)ちゃんをはじめ、1人ひとり性格の違うメンバーがいて、それぞれ向いてる方向が違う。それでも、どんなに迷っても進んでいこうとする太陽のような存在でした。でも、Ave Mujicaは月の光だと思っていて。太陽のように自ら光を放つことはできないけど、ほかの人から見たら輝いて見えるかもしれない。その光を受け取り合いながら、お互いを照らし合って輝く月の光……。暗い場所でしか輝けないものも絶対にあると思うし、暗い感情だから伝わること、解放できることがあって、そこを表現しているのがAve Mujicaだと思います。

──テレビアニメ「It's MyGO!!!!!」の中でも、闇落ちしていく姿が描かれていたのがAve Mujicaのメンバーでした。

人に言えないような願いや、口にできない思いも飲み込んでくれるような闇を持っています。Ave Mujicaの音楽は、とにかく本能に従えと言われているような、本能のままに歌う楽曲が多いけど、重い、強いだけじゃなくて、すごく繊細で耽美な要素を兼ね備えているところが特徴です。メンバー同士でも、綿密に演奏やパフォーマンスについて話し合っていて。ただ、すべてを決め込んでしまうのはもったいないから、本能で感じたままに動いてもいい。私たちも音楽を感じて、楽しみながら世界観を作っています。私は役に入り込んだり、憑依させたりするのが大好きなので、とにかくやっていて楽しいです。演奏以外の部分でも、物語を紡いで表現できるのが私たちの強みで、いろいろな人の生き様を歌っているような感覚になったり……。Ave Mujicaのライブは映画を1本観ているような感覚になると思います。曲の持つそれぞれの性質を、楽しみながら伝えていきたいですし、今後も妥協せずに私たちにしか作れない世界観を届けていきたいです。

佐々木李子

知れば知るほど謎が出てくるドロリス

──佐々木さんのシンガーとしての特性の1つに、ご自身でも“憑依型”と表現されているように、雰囲気や声色を自在に変えられる点があると思います。そして今回、佐々木さんが演じる三角初華は、Ave Mujicaのギターボーカル・ドロリスだけでなく、エレクトロポップユニット・sumimiのメンバーでもあるなど、多面的な才気にあふれたキャラクターですよね。

私は小さい頃からミュージカルをやっていて、そのときに覚えた何者にでもなれる感覚が大好きなんです。演技を通して自分でも知らない自分に出会えるときもありますし。私も燈ちゃんのように、言葉を紡ぐのが苦手なタイプだからこそ、歌に全力で魂を込められるところがあるんです。私はステージに立つと曲の世界に入り込んで、トリップするような感覚に陥るときがあって、「初華もこういう気持ちなのかな?」と感じるんですよ。普段は解放できない魂を、ドロリスになってステージで解放させている。限界突破しているというか、それすらも楽しんでいる部分にシンパシーを感じますね。sumimiでは明るく、さわやかでフレッシュな雰囲気で歌っているけど、Ave Mujicaのドロリスになった瞬間からダークなキャラクターに豹変する。私もスイッチのオン / オフでガラッと雰囲気を変えるタイプなので、もしかしたら初華も一緒なのかもしれません。ずっとミステリアスで、知れば知るほど謎が出てきて引き込まれていく。もはや知っていくことが怖くなってくるような一面もあるキャラクターなので、今後を楽しみにしていてほしいです。

佐々木李子

──Ave MujicaのYouTube公式チャンネルのコメント欄では、さまざまな考察が行われているのも面白いですね。

SNSで「このパフォーマンスにはこういう意味があるんじゃないか?」と考察をしてくださるのもすごくうれしいです。まだまだいろいろな仕掛けを用意していますし、さらに進化します。

──Ave Mujicaの音楽は7弦ギターや5弦ベース、ツーバスなどを使用していることもあり、低音が強いサウンドになっています。

私はもともとギターをやっていたんですけど、7弦は初めてで。こんなに近い距離でツーバスや5弦ベースの音を聴くのも初めてだったので、「音楽ってまだまだ知らないことがたくさんあるな」と。小さい頃からずっと歌ってきたことは自分の強みだけど、こういうサウンドの中で歌うのは初めてだから、うまくできなくて悔しくなるときもあるし、自分の甘いところにも気付けました。本当に人生の学びを得られています。ギターも魂を込めたうえで努力しないと指が動かないし、弾きながら歌えない。衝動的な気持ちは大切ですけど、ロジカルなメタルの様式美を基調に、テクニックを駆使していろいろ考えながらも演奏することがすごく楽しいですし、達成感もあります。メンバーのがんばりも見えるから、自分も奮い立たせてもらえます。

──佐々木さんはかつて「Ave Mujicaは成長を見せるのではなく、完成された世界観を届けるバンド」とおっしゃっていましたが、確かに未熟であることが許されにくい世界観になっていますよね。

常に妥協せず、Ave Mujicaの世界観を届けていきたいです。もしかしたら明日終わるかもしれない。それでも、今しかないこの瞬間に命を賭けてともに楽しみたい……。そのくらい本気で、いつもライブやレコーディングに臨んでいます。「バンドリ!」のアニメとも関連するところではありますが、“人生を預ける”ってすごく重いですよね。だからこそ、その音楽に説得力が増していくと思うので、たとえ爪が割れても肩を壊しても、とにかく全力で楽しんでいきたいです!

佐々木李子

──確かに7弦ギターを弾くとなると、爪は……。

爪はギターに捧げました(笑)。長く伸ばせないし、かわいいネイルやパーツもできないけど、やっぱり演奏に命を懸けたい。ただ、若葉睦(モーティス / G)役のゆずむん(渡瀬結月)とか八幡海鈴(ティモリス / B)役の岡田夢以ちゃんともいろいろ情報交換しながら、短いけどかわいくするネイルをやってみたりとかはしています(笑)。みんなでAve Mujicaにすべてを捧げながら、工夫してやっています。やっぱりみんな音楽が好きだからできることですね。

──テレビアニメ「It's MyGO!!!!!」ではギスギスした人間関係もストーリーの魅力で、MyGO!!!!!はそれを直情的に表現する歌詞や歌が武器になっていました。一方のAve Mujicaも、彼女たちと同じ経験やストーリーを共有するキャラクターがいながら、ヘビーなサウンドでの表現に挑戦するバンドです。

“闇”に救われる人がいるかもしれない。私もそちら側なんですけど、Ave Mujicaは「ありのままでいいよ」と肯定するんじゃなくて、「仲間だよ、同じだよ」と寄り添ってくれるんです。例えば、「自分の人生のすべてをあなたに話したら、あなたは自分のことを好きでいてくれるかな」って、不安になるときがあるかもしれないけど、そんな過去は誰にでもあるし、言いたくないことは言わなくていい。私も同じだから。今このときを一緒に楽しもう。進まなくてもいいから、この一瞬に身を委ねて……っていうような、そんなバンドだと思うので、この闇の光が皆さんに届いたらうれしいなと思います。