Atomic Skipperインタビュー|欠けていたピースを埋める3曲とともに一歩先の景色へ

Atomic Skipperが8月31日に新曲「アンセムソング」を配信リリースする。

「アンセムソング」はAtomic Skipperが6月にスタートさせた3カ月配信リリース企画の第3弾で、6月リリースの「tender」、7月リリースの「ブルー・シー・ブルー」に続く作品。キャッチーなサウンドに葛藤や焦燥感を表現した歌詞が乗せられた、バンドの最新のモードが反映された楽曲に仕上がっている。

音楽ナタリーでは「アンセムソング」のリリースを記念して、Atomic Skipperにインタビュー。1月から4月にかけて行われたツアー「Atomic Skipper 1st EP『KAIJÛ』Release Tour」の振り返りや、「アンセムソング」、そして「tender」「ブルー・シー・ブルー」の制作エピソードについて聞いた。

取材・文 / 沖さやこ撮影 / 永田拓也

ステップアップできた「KAIJÛ」リリースツアー

──今年1月リリースのEP「KAIJÛ」はメンバーの皆さんの人間性や2021年に感じたことがコンパイルされた作品になりましたが、同作のリリースツアー「Atomic Skipper TOUR 2022 “怪獣たちのいるところ”」ではどんな実りがありましたか?

中野未悠(Vo) 自分の深層心理を知れる瞬間がすごく多かったです。ライブ中に湧き上がってくる自分のふとした言葉に「自分はこんなことを思っていたんだ」と気付かされたり、ライブをすることで救われたりして。自分にはライブしかないかもしれないけど、自分にはライブがあるからそれでいいと思えたツアーでしたね。

松本和希(Dr) 僕はなきゃの(中野)さんの真後ろでドラムを叩いているので、毎回「なきゃのさんは今日どんなふうに歌を歌うんだろう? どんな言葉が出てくるんだろう?」と期待していました。今まではそういうところまで意識がいっていなかったけど、「KAIJÛ」のリリースツアーではなきゃのさんの思いをキャッチしたうえで、次の展開にどう持っていくかを瞬時に判断することができました。

中野 特に和希とは、セットリストへの解釈や曲と曲のつなぎ方について細かく意見交換をしたんですよね。その中で、想像してる以上に和希は自分のことを信頼してくれてるんだと感じて。だから私も安心して背中を預けられました。

中野未悠(Vo)

中野未悠(Vo)

──Atomic Skipperにおいて情熱や感覚で突き進むバンドマン気質を強く持っているのが中野さんと松本さんで、音楽家としてのセンスや知識を強く持っているのが久米さんと神門さんだと思うのですが、久米さんと神門さんはリリースツアーについてどのように捉えていますか?

神門弘也(G, Cho) 「KAIJÛ」では楽曲の作り方がそれ以前とだいぶ変わったのもあって、ライブにおけるそれぞれの立ち位置も柔軟になってきたと思います。ライブのサウンドメイクは久米がやってくれて、自分がセットリストの叩き台を作って、和希がなきゃのを立てながらどうやってスムーズにつないでいくかを考えて……というふうに、それぞれの役割がはっきりしてきたんです。ツアーの最初はそれをどう調和させたらいいんだろうと悩んでました。あと「KAIJÛ」の4曲をどうやったら生かせるかも悩んだね。

久米利弥(B, Cho) そうだね。「KAIJÛ」は4曲ともエネルギーが強いぶん自分たちを突き動かしてくれたけど、同時にライブでどういう面を引き立てたらいいんだろう? どういうタイミングで、どういう間で持っていったらいいんだろう?と悩んだんです。試行錯誤して、1人でふさぎ込んじゃうことも多かったです。

神門 バランスの取り方が難しかったり、楽曲の育て方に悩んだりもして、ライブにも正直波がありました。その原因にまず気付いたのが、言葉を発する立場のなきゃのと、カウントでライブを運んでいく和希だったんですよね。2人がグルーヴの基礎を作ってくれるから、僕ら竿隊はどれだけスケールを作れるかが重要だと思った。それらがうまく混ざったのが、ツアーファイナルの東京ワンマンでした。

久米 うん。ツアーファイナルでようやく「KAIJÛ」の4曲を自分たちのものにできた。

神門 そこでバンドがよりステップアップできましたね。ツアーファイナル以降でも自分たちの意識が変わってきていて、それでやっと俺らも「KAIJÛ」の4曲に、メンタルも技術も追いついてきたと感じています。

ライブは自分の居場所だし、なくてはならないもの

──前回のインタビューで神門さんが「1つの考え方を4人で表現するほうが芯が強いと思っていたけど、違う軸を持ちながら、同じ方向に進んでいけばいいんだと気付いた」とおっしゃっていましたが、それがライブでも実現できるようになってきたのかもしれませんね(参照:Atomic Skipperインタビュー|「正解は1つじゃない」4人で演奏する意味を見出した新作「KAIJÛ」)。

中野 確かに。その感じがライブにも色濃く反映されるようになりましたね。ツアーが終わったあともたくさん全国でライブをさせてもらっていて、これまでに立ったことがない野外や大きな会場のステージで「あのツアーでいろんな武器が増えたんだな」と実感しています。

神門 「KAIJÛ」のリリースツアーのあとに回った、ammoとのスプリットツアーも今につながっていますね。彼らは僕らの1個下の後輩なんですけど、僕らが持っていない色を持っているんです。そんなバンドと4本連続で全力を出し合ったライブをして、さらにリスペクトも高まったし、自分たちの「こうしたい」もよりはっきりと見えてきました。今年育んできたAtomic Skipperのスタイルを自分たちに馴染ませて確立させるうえで、欠かせないツアーになりましたね。

──ライブに対する考え方は4人それぞれ違うけれど、同じくらい深い解釈を持っていることが伝わるお話です。Atomic Skipperにとってライブは重要な場所なんですね。

神門 僕にとっては「あれがやりたい」「これがやりたい」が生まれてくる、発見の場所ですね。なきゃのにとってライブは表現の場なんじゃないかなと思うんだけど、どう?

中野 そうだね。ライブは自分の居場所だし、なくてはならないもの。自分の深層心理を知る瞬間が多いからこそ、「生きてるな」と感じられるんですよね。

松本 僕、人間がめっちゃ大好きなんです。ライブはメンバーだけじゃなくて、お客さんもライブハウスのスタッフさんもいる。だから人前でバンドができるライブという場所は、本当に最高なんです。

松本和希(Dr)

松本和希(Dr)

久米 ツアーが終わって暇な時期に入って、ライブをしてない時期の自分が空っぽすぎたんですよね。ライブでうまくいかないことも多くてすごくしんどかったのに、ないならないでつらくて。やっぱり大きい音を出すと、めっちゃ楽しい。ライブに依存してるのかも(笑)。

中野 うん、めっちゃわかるそれ。

松本 “依存”はいい表現だね(笑)。

神門 やっぱり曲は人に聴いてもらうことで初めて存在が証明できるし、ライブを観てもらうことで新しい側面が生まれるんじゃないかなと。ステージに立っている僕らも「この曲、あの日にあの会場で演奏したな」と忘れられなくなって、曲の価値がさらに上がっていくんです。やっぱり僕らにとって、ライブは大事な場所ですね。