Atomic Skipperインタビュー|欠けていたピースを埋める3曲とともに一歩先の景色へ (2/3)

苦労した3つ子の育児

──3カ月連続リリース企画のデジタルシングル「tender」「ブルー・シー・ブルー」「アンセムソング」は、バンドの強みであるエネルギッシュなロックサウンドをキープしながら、新しいチャレンジが多く投入された3曲だと思いました。

神門 「KAIJÛ」の4曲が全部シンガロング曲になったのが反省点だったんですよね。もちろんシンガロングは好きだけど、それがバンドの特徴になるのは違うなと。だからこの3曲では、より音楽的な部分を追求したかったんです。あと「KAIJÛ」は1つのコンセプトでまとめすぎちゃった気もしていて。3カ月連続リリースをするならば、全曲リードのつもりで作らなきゃなと思っていました。

──だから3曲について神門さんは「三つ子」とツイートしてらっしゃったんですね。

神門 そうです。3人ともまったく違う個性を持っているから、3人の個性を最大限に生かしたうえで全員いい大学に行かせたい!と思っていました(笑)。手のかかる3つ子でしたね……。この3曲の制作期間では自分と向き合う時間が長かったので、僕の「これやりたい!」欲がいろいろ湧いてきて。それを和希と久米が「そのやりたいことを叶えるためにはどうしたらいいんだろう?」と考えてくれました。

久米 今回の3曲はこれまでで一番フレーズを考えるのに苦労しましたね。神門の作った3曲がいいものになるかどうかは和希と俺の手にもかかっているので、気負いすぎちゃったのか和希とスタジオに入って「難しいフレーズを詰め込もう」という変なマインドになっていって……(笑)。途中から神門に入ってもらって、一緒に精査していきました。そういう作り方は今までになかったので面白かったですね。

──神門さんにはやりたいイメージはしっかりあったけれど、2021年にリリースしたミニアルバム「人間讃歌」のように、デモの段階からDTMでしっかりとアレンジを組み上げたわけではなかったと。

神門 和希と久米もどういうふうに曲を運ばせたいか、アレンジしたいかをものすごく考えてたし、俺は2人が俺の期待に応えなきゃと思っているように感じたんですよね。2人とも悩みながらアレンジを考えていて、それを3人で1つひとつ精査する引き算の作業が多かったんです。でも引き算って、もとになる数字がないとできないじゃないですか?

──そうですね。

神門 つまり和希と久米は、膨大な時間をかけて引き算できるほどたくさんのアイデアを出してくれたということなんですよね。それはバンドにとって今後プラスになるし、曲を作っている立場からすると、安心して曲を任せられる、信頼できるメンバーだなとも思いました。それが「人間讃歌」のときの制作と全然違うかな。

松本 僕らとしては神門さんが出産した3曲の育児を任されたという感覚があって。でもいざ抱っこしてみると「この子めっちゃ夜泣きするやん! この子は熱出してるし、どうする!?」みたいな感じだったんです(笑)。特に僕はドラムのフレーズをぐつぐつ煮詰めて、ひたすらこだわっていくタイプなので、考えすぎると「なんで俺はこんなことしかできないんだ」とメンタルがどんどん落ちてくんですよね……。けど、できあがったものを聴いて、制作中の苦労や時間は必要なものだったんだと思えて安心しました。

神門 デモと完成版を聴き比べると、ドラムとベースが違うだけでこんなに曲が変わるんだなと思うんです。彼らがどんなふうに曲を理解しているのかが、プレイやフレーズから伝わってくる。「tender」だけ、なきゃのがオケの制作の現場を見に来たんですよ。

中野 そうそう、社会科見学みたいに。聞いたことのない単語が飛び交ってました(笑)。これまでは楽曲そのものに集中するために、バンドの方針としてあえて私はオケ作りの現場には行かないようにしていたんですけど。

神門 でもメンバーなんだから、その現場を知らないのも違うかなと思って。僕ら3人も「なきゃのが見に来てくれるんだからしっかりやらないと」と気合いが入ったんですよね。

中野 音に対して真剣な3人の姿を見て、尊敬しましたね。私が意見を出すことは特にないんですけど、その現場を見るだけでも歌への向き合い方が変わったし、より「自分の歌でこの曲たちを届けたい」という気持ちが増しました。

Atomic Skipper

Atomic Skipper

──となると、今回の3曲は神門さんの描いた理想と、メンバーそれぞれの曲の育て方、どちらも反映された曲になったということですね。

神門 だから現時点での僕らの集大成感がある3曲だと思います。歌も相当難しかったと思う。

中野 各曲に課題がありましたね……。だから今回初めて、レコーディングに向けてボーカルの先生と一緒に練習をしたんです。

神門 えっ、そうなんだ。知らなかった(笑)。

松本 俺も知らなかった(笑)。

──中野さん、メンバーさんに言ってなかったんですか?

中野 あえて言わなかったんです(笑)。歌詞を読んで「人間讃歌」のときよりも神門が曲を届けたいと思っている人が増えたのかな、見ている景色が広がっているなと思って。自分もより多くの人に届けるためにどうしたらいいか考えてたどり着いた方法の1つが、レッスンに通うことだったんです。先生からアドバイスをもらって、それを自分の中に取り込むことを繰り返す中で、なんでもっと早くレッスンに通っておかなかったんだろうと思いました。

神門 4人全員、曲の向き合い方が変わったのかもね。4人それぞれのできることや得意なことが合体した感じがする。一体感も上がったし、ブレスやフレーズ、スライドの1つを取っても、ぐっとくる瞬間が増えたのはそういうことが関係しているのかも。

久米 全員が前よりもインプットとアウトプットをできるようになったところも大きいかもね。

「幸福論」を超えたかった

──「tender」はリズムに特化したサウンドメイクでありながら、歌詞には神門さんの等身大の思いや美学がつづられています。

神門 「tender」という言葉には気遣いや優しさという意味だけでなく、敏感や過敏という意味もあって。その相反する感情を日本語ではひと言で表現できなかったので、初めて英語をタイトルに使いました。レーベルの社長の慎(BUNS RECORDS代表でLUCCIのドラマーの長崎慎)さんにデモを送ったときに「歌詞の感じ、変わった?」と言われて。そこで「確かに変わったような気がする」と思って、そこからどんどん自分を見つめ直していったんです。そこから歌詞を2回書き直しました。

──「tender」は力強さと繊細さが両立されている楽曲で、展開もドラマチックだと感じました。

神門 メンバーが「サビに行くのが早すぎるから最初のほうに間奏を入れよう」と提案してくれて。「人間讃歌」あたりまでの自分なら自分の意見をゴリ押ししてたけど、「KAIJÛ」でアイデアを出し合う楽しさを覚えたから、メンバーのその意見を取り入れたんですよね。デモを作り始めたのは早かったんですけど、「tender」は3曲の中では最後に完成した曲で。「ブルー・シー・ブルー」と「アンセムソング」を形にできたから、「tender」が集大成的な楽曲になったのかなと思っていますね。というのも、僕は「幸福論」を超えたかったんですよ。「幸福論」という初期衝動に勝てる作品を作りたいという気持ちがすごく強くて。「tender」を作ってるときにやっと「幸福論」に勝てる作品かもしれないと思えたんです。「この曲は俺たちを一歩先の景色まで連れてってくれるかも」と。

神門弘也(G, Cho)

神門弘也(G, Cho)

──Atomic Skipperは皆さんよく「曲が自分たちを連れてってくれる」とおっしゃいますよね。冒頭でも久米さんがそういうニュアンスを話してくださいましたし。

神門 ああ、そうかも。やっぱり僕にとって曲は子供で。よく子供が親を育てるって言うじゃないですか。それと同じ感覚で、子育てをする中で新しい自分と出会えてるんだと思います。だから手のかかる子供たちを同じ熱量で一緒に育ててくれるメンバーがいることが、本当にありがたいですね。