海の満ち引きと男女の気持ち
──「ブルー・シー・ブルー」は、テーマも技法も神門さんのロマンチシズムが前面に出ている印象がありました。
神門 夏の曲を書きたいなと思って。あと僕は今まで失恋を経験してこなかったのでフィクションで書いてみたら、その直後にノンフィクションになっちゃいました……(笑)。
松本 バンドのグループLINEにも、「『ブルー・シー・ブルー』がフィクションからノンフィクションになりました」という連絡が届きました(笑)。
神門 曲が僕をノンフィクションの失恋へ連れてってくれましたね……。絶賛傷心中です(笑)。
──(笑)。歌詞には男女別の解釈と、2つの時間軸が存在しているというのも、神門さんのロジカルなセンスが反映されていると思います。
神門 歌詞は工夫しましたね。冒頭から読むと男の子側の視点、末尾から読むと女の子視点になっていて。男の子は女の子が自分に気がなくなってきてるのを気付いてそこから思いを募らせて、逆に女の子視点は気持ちがある状態から離れていくまでの心の変化を描いてるんです。2人の思いは海の満ち引きと似ていて、どちらかが満ちているときはどちらかが引いている。その感じを歌詞でも表現したかったんです。だから最初の「連れて行ってくれどこか遠く」は女の子が別れてから言っている言葉で、男の子にとっては気持ちが離れていることに気付いたときの言葉です。そのバランスを考えながら歌詞を書いたので、我ながら器用なことをしたなと思っています。
──この緻密に練り込まれたソングライターの美学を、メンバーがしっかりと理解したうえで表現なさっているんだろうなと感じる歌と演奏でした。
久米 最初デモをもらったときは、もういっそのこと自分は何もしないほうが、神門のやりたいことは表現できるんじゃないかと思いました。でも自分なりに神門の表現したい世界に寄り添える方法はなんなのかものすごく考えましたね。
神門 和希と久米は、演奏がめちゃくちゃうまいんですよ。だからデモをちゃんとなぞることもできるし、自分の理想を追求することもできる。でもそうすると、2人ならではの心地いいグルーヴは出ないんですよね。それで僕が意見を言ったんですけど、そこからの立て直しはすごく早かったです。2人ともポテンシャルが高いからものすごいスピードで吸収できるし、それを自分なりの方法でアウトプットできるんです。
松本 音符にばっかり集中しちゃってたんですよね。神門さんからの意見をきっかけに歌詞やストーリーに目を向けてみたら、そこからはスムーズに進んで。そういう方法もあるんだと勉強になりました。
中野 今までは神門が書いてきた歌詞に対して自分の経験を重ねて歌っていたんです。ロックバンドのボーカルなら自分の経験に落とし込んで歌ったほうがいいんじゃないかという気持ちがあって。でも「ブルー・シー・ブルー」では主人公2人のロマンチックなムードは出したかった。なので自分に主人公2人の感覚を宿すように歌いました。
自分がニュートラルでいるための「アンセムソング」
──「アンセムソング」は神門さんの本音が赤裸々に描かれているような印象を受けました。ユーモアを交えながらも、繊細で複雑な感情を表現している、とても絶妙な楽曲だと思いました。
久米 初めて歌詞が届いたとき、神門のメンタルが心配になりました(笑)。
神門 (笑)。ライブやツアーで、曲を書けなかった時間が長くて。でも自分は曲を書かないと気持ちが消化できないんですよね。そんな時期に「自分は曲を書いている間はニュートラルでいられるんだ」と気付いて。だから「アンセムソング」は自分がニュートラルでいるために作った歌なんです。誰かに文句を言いたいわけではないし、自分の葛藤をまるごと吐露するのも違うなと思ったので、和希と久米にはなるべくキャッチーになるようなサウンドメイクを考えてもらいました。なきゃのは歌うの難しかっただろうなあ……。
中野 難しかったねえ(笑)。ラップ調ではあるけどラップではなく歌にしたいから、ボーカルの先生と一緒に「この曲調でどうやってちゃんと言葉を伝えよう?」と頭をひねって、ブロックごとに丁寧に歌い方を考えました。
──リズム隊はいかがですか?
久米 この曲のベースは難しいんですけど、3曲の中で一番好き勝手できたんですよ。それが許される曲だと思ったので。「こっちのほうがカッコいいかな?」と楽しくフレーズを考えられました。
神門 久米はソウルやファンクに精通しているので、そのエッセンスを全部盛り込んでほしいと頼んだんです。そしたらドンピシャすぎるものが返ってきました。
松本 この曲では久米さんが僕にドラムについてのアドバイスをくれたんですよね。ひさしぶりに2人でドラムフレーズを作りました。
──ライブバンドとしての体力と、音楽的な美学がどちらも体感できる3曲だと思いました。またバンドにたくさん新しい感覚を連れてきてくれる楽曲になりそうですね。
久米 僕らもライブハウスだけでなくいろんなシチュエーションでライブをすることが増えてきて、キャンプ場でライブをしたときは「もうちょっとメロウな曲があってもいいよね」と話していたんです。今回の3曲はライブハウス以外の場所で聴いても気持ちがいいと思うし、いろんなところで演奏できたらなと思いますね。
神門 今まで俺らに欠けていたピースがこの3曲で埋まったと思います。なきゃのも前よりもステージで自分のことを解放できるようになっているし、いろんなステージでやる機会も仲間も増えたし、ようやくピースがそろった感覚があるんです。だからここからみんなでアクセルをちゃんと踏んでいきたいですね。
松本 自分たちの制作への向き合い方がライブに反映されているのも面白いし、ライブに来てくださるお客さんもありがたいことに増えてきたので、このサイクルをもっと大きくしていけそうな予感がしていますね。もっといい循環ができそう。
中野 本当にそうだね。この3曲が連れてってくれるところはどんな景色なのか楽しみなんですけど……私はすごく負けず嫌いなので、自分が曲をいい景色の場所に連れて行きたいって思うんです。
松本 「自分で連れて行きたい」、すごくいいですね。感心しちゃった。
神門 今なきゃのの頭の中には、ライブのMC中みたいにギターが鳴ってたのかもね(笑)。
中野 (笑)。ライブも自分が話す言葉で曲の聞こえ方が変わったりする瞬間を実感しているから、自分自身でこの曲たちをどこまで連れていけるのかがすごく楽しみなんです。だからこれからもしっかりライブをやっていけたらなと思っています。
イベント情報
サンクリ夏休み'22
2022年8月18日(木)大阪府 なんばHatch
<出演者> Atomic Skipper / ofulover / カライドスコープ / SHE'S / SCANDAL / ハク。 / Hump Back / ヤバイTシャツ屋さん
“ホープニングアクト”:ベルマインツ
MC:FM802樋口大喜 / サンクリ夏休み小僧
プロフィール
Atomic Skipper(アトミックスキッパー)
中野未悠(Vo)、神門弘也(G, Cho)、久米利弥(B, Cho)、松本和希(Dr)からなる、2014年に静岡で結成されたロックバンド。2020年1月には初のミニアルバム「思春を越えて」、2021年4月には2ndミニアルバム「人間讃歌」を発売。2022年1月にCD+DVD作品「KAIJÛ」をリリースした。3カ月連続リリース企画として、同年6月に「tender」、7月に「ブルー・シー・ブルー」を発表。企画ラストとなる第3弾楽曲「アンセムソング」を8月31日にリリースする。
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