Atomic Skipperインタビュー|「正解は1つじゃない」4人で演奏する意味を見出した新作「KAIJÛ」

Atomic SkipperのCD+DVD作品「KAIJÛ」が1月12日にリリースされた。

本作のタイトルは「怪獣」「懐柔」「改重」のトリプルミーニングになっており、概念の破壊や新たな視点の提案、リスナーを一歩先の景色に引き込みたいという思いを込めた4曲が収められている。音楽ナタリーでは「KAIJÛ」の発売を記念して、メンバー全員にインタビュー。結成の経緯やメンバー間の関係性、「KAIJÛ」の制作エピソードについて語ってもらった。

取材・文 / 沖さやこ撮影 / 後藤壮太郎

Green Dayのコピーバンドがやりたかった

──Atomic Skipperは2014年4月に、同じ高校の軽音楽部の同級生で結成され、2019年に2歳下の松本(和希)さんが加入し現体制になったそうですね。まずは結成の経緯を教えていただけますか?

神門弘也(G, Cho) ベースの久米(利弥)と、僕、初代ドラマーが、軽音楽部に入った1年生で唯一楽器を触れる人間だったんです。久米くんは中学のときからバンドを組んでいたので、出会ったときからベースがうまくて。

久米利弥(B, Cho) 僕はその初代ドラマーと一緒に、中学のときにちょっとだけバンドをやっていたんです。

神門 それで一緒に組むことになりました。共通の好きなアーティストであるGreen Dayのコピーバンドをやりたかったんですけど、3人ともボーカルをやりたくなくて(笑)。それで「歌のうまいやつを入れよう!」ということで、なきゃの(中野未悠)に入ってもらいました。なきゃのが軽音楽部に入部してすぐお試しで一緒に組んだとき、めっちゃ歌うまいなと思ってたんです。

中野未悠(Vo) うちの高校は軽音楽部のことを「ギター部」と呼んでいて、ギターで弾き語りをするつもりで入部したら、実は中身が軽音楽部で。だからもともとバンドをやるつもりはなかったんです。でも話しかけやすそうな人たちではあったから、一緒にやってもいいかなって。

中野未悠(Vo)

中野未悠(Vo)

久米 めちゃくちゃ陰気に見えたからでしょ(笑)。

中野 棘がなさそうな人たちだなと思ってたよ!(笑)

神門 Green Dayのコピバンをやりたくて歌のうまいボーカルを入れたはいいけど、彼女にGreen Dayを歌わせるのもなと思って、YUIさんやUNISON SQUARE GARDENみたいになきゃのの声のキーに合ったバンドのコピーをしていました。

中野 最初私はギターボーカルだったんですけど、SUPER BEAVERに出会ってからギターを持たないボーカルの魅力を知って、「ボーカルだけでやりたい」とメンバーに打診して今の編成になりました。

久米 その後、高2の終わりくらいに「自分たちで作ったほうが早くない?」と神門が曲を作るようになったんです。オリジナル曲を作る先輩も多かったので、神門はそれに感化された部分もあったと思います。

中野 最初は私が歌詞を書いていたんですけど、どうもうまいこといかなくて。そんなときに神門の書いた歌詞を読んだら「めっちゃいいじゃん。これを歌ったほうがいいな」と思って、それからは作詞も神門がしています。

メンバーと一緒だと居心地がいい

──松本さんは高校1年生のとき、地元にある静岡のライブハウス・磐田FMSTAGEで高校3年生のAtomic Skipperのライブをご覧になったとのことですが、どんなところが魅力的でしたか?

松本和希(Dr) ちょうどAtomic Skipperが1枚目のデモCDを出した頃で、当時から“自分たちの歌”を持っている、オリジナリティのある人たちだなと思っていて。自分と年齢の近い人が自分たちで作ったものを売って、発信している姿を見たのは初めてだったから、すごく衝撃的でした。今でも鮮明に憶えています。

──松本さんが加入してもうすぐ3年になりますが、この4人で音楽活動をすることの醍醐味とはどんなものでしょうか。

久米 友達同士でバンド活動ができていることですね。前のドラマーの時代も仲よくやっていたんですけど、この4人になってからプライベートなことからライブのことまで、よりいろんな話をするようになりました。メンバーと一緒だと居心地がいいんです。

松本 オフも一緒に遊びますしね。これだけ一緒にいるのに、みんなまだまだ「そんな一面あったんだ!」という面白さを秘めてるんですよ(笑)。時間を経ていくごとに個人個人で感じることや考えることも変わっていくし、ツアーを回る中でそれが見えることも多いので面白いです。

松本和希(Dr)

松本和希(Dr)

──メンバー間の結束の強さが、ライブや楽曲のグルーヴに反映されているところも大きいとお見受けしますが、いかがでしょうか。

中野 お客さんやいろんな人に「いいライブだね」と言ってもらうのもうれしいんですけど、私はメンバー全員が「今日のライブよかったね!」と言い合える瞬間が、バンドをしている中で一番幸せで。そのいい空気が自ずと観てくださっている人にも伝わっているのかなと思います。

神門 あと、全員出し惜しみをしないんです。ライブも楽曲制作も、今やりたいことは次に持ち越さずにトライする。それぞれのやりたいことに全員が肯定的な姿勢で臨んだときに、いいものが生まれると思っていますね。音楽への熱量のかけ方が同じだから、仲よくやれてる気がします。

松本 ほかの楽器のフレーズで気になるところがあったら「こうしてみたらどう?」と提案し合うことも多いし、全員それを嫌がらないから。

久米 うん。メンバー全員が素直なバンドです(笑)。

ライブハウスという場所に救われた

──新作の「KAIJÛ」は、今おっしゃっていただいたようなバンドの性質や4人の人間性はもちろん、2021年に感じたことやライブの熱量がコンパイルされたロックナンバーがそろっている印象がありました。どういう方向性のもと楽曲制作をされたんでしょう?

神門 前作のミニアルバム「人間讃歌」(2021年4月リリース)はコロナ禍ということもあって、自分がDTMでほとんどのアレンジを構築したんです。だから自分のやりたいことや今できることを全部出し切った感覚があって、普段は月3、4曲書いているのに、「人間讃歌」を作ったあとは半年くらい曲が書けなかったんです。

──スランプということでしょうか。

神門 というより、どんな曲を作っても「聴いたことがある気がするなあ」「このコード進行ならああいう着地点になるなあ」みたいに思ってしまって。曲はできるけど、この曲をメンバーに聴かせたいと思えない。この4人で演奏するための意味や喜びを持ち合わせていない曲ばかりが生まれていたんです。

──そこから抜け出せたきっかけは?

神門 ライブですね。ライブをやること、対バン相手のライブを観ること、そしてライブハウスという場所に救われたんです。そのエネルギーの蓄積から曲が書けるようになって、「この曲に和希のドラムが欲しいな」「久米がベースを弾いてほしいな」「なきゃのが歌うから意味のある歌詞だな」と思える曲が生まれてきました。1コーラス作ったあとは楽器隊3人で集まって、PCを触りながら「ライブだったらこうしたいよね」や「こういう流れにしたらドラムとベースがめっちゃ生きるよね」みたいに話し合って、そのまますぐスタジオに入って実際に演奏して詰めていって。

神門弘也(G, Cho)

神門弘也(G, Cho)

──今までの作り方を総動員し、さらに新しいやり方も加えたと。

神門 そうです。だからよりパワフルな音になったし、音楽的な部分を突き詰められました。あと楽器隊だけで集まってオケを作ったことで、なきゃのがそのオケの第一印象で歌入れできたんです。なきゃのは「ここの部分は和希と僕がケンカした結果、こっちの意見を採用した」という情報を知るとそこに情が移っちゃうので、このやり方もよかったのかなと。

中野 3人ががんばってオケ作りをしている中、家にいる罪悪感はありましたが(笑)、その分できあがったオケに真摯に向き合いました。3人が作ったオケはどれもすごくカッコよくて……ライブでやったらどうなるかな、自分が歌ったらどんな曲になるのかなとワクワクしましたね。

──「KAIJÛ」の制作方法に対して、リズム隊のお二人はどう感じましたか?

久米 「人間讃歌」のときに届いたデモは、聴くだけで「やっと理想のものを作ることができた!」という神門の思いが伝わってきたんです。自分が手を加える必要がないくらい完成されていた。今回はツアーを経ての曲作りで、前作よりも圧倒的にメンバー4人で一緒にいる時間や話す時間が増えたあとの状態だったんですよね。だから自分の意見を言う機会が自然と増えたというか。「このほうがいいんじゃない?」とか「こっちのパターンを試してみようよ」みたいなディスカッションがたくさんできました。めちゃくちゃいい作り方だと思いましたね。

久米利弥(B, Cho)

久米利弥(B, Cho)

松本 今までにやったことがないことに挑戦できました。とにかく目の前にある曲が求めている音、その曲に最大限似合うフレーズを付けることにして。そうしたら1曲通して叩くのが難しすぎて練習で泣きそうですが(笑)。デモから受け取ったイメージが新鮮な状態でオケにできたと思いますね。