音楽ナタリー Power Push - ASH DA HERO
クソみたいな未来を迎えに行こうぜ! 自らのストーリーを描く壮大なロックオペラ完成
2015年12月にミニアルバム「THIS IS A HERO」でメジャーデビューを飾ったASH DA HEROが、1stフルアルバム「THIS IS LIFE」を完成させた。彼自身の人生のストーリーをロックンロール、ブルース、ソウルミュージックなどを織り交ぜながら表現した本作は、ASH DA HERO流のロックオペラと言うべきコンセプチュアルな作品に仕上がっている。
音楽ナタリーではASH DA HEROにインタビューを実施。「このタイミングで自分自身をストーリーにした作品を作りたかった」という「THIS IS LIFE」について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 後藤倫人
これはロックオペラの名盤に対する自分なりの回答
──1stフルアルバム「THIS IS LIFE」は、ASH DA HEROというアーティストの人生と奥深い音楽性がリアルに体感できる作品ですね。ここまでコンセプチュアルなアルバムになるとは、まったく予期していませんでした。
実は半年前に「THIS IS A HERO」をリリースした時点で、このアルバムはほとんどできていたんですよ。楽曲はすべて完成していて、あとはそれぞれの配置だったり、1枚の盤としての意味をまとめることに時間を費やしていました。
──明確なビジョンのもとで制作されたアルバムなんですね。
そうですね。自分としては「THIS IS ROCK AND ROLL」「THIS IS A HERO」「THIS IS LIFE」は3部作で、21曲の3枚組という感覚で作っていたんですよ。「THIS IS LIFE」は言ってみれば“エピソードゼロ”なんです。「THIS IS ROCK AND ROLL」はロックンロールという意志を持ったASHというヤツが突然現れて、何かを救ったのかどうかはわからないけど、嵐のように去っていくというストーリー。「THIS IS A HERO」はその流れを汲みながら、もっと現実の世界のことをテーマにしていたんです。今回の「THIS IS LIFE」はそもそもASHとは何者で、どこから来たのか?ということを描いているんですよね。ロックオペラのように組曲になっていて、1曲1曲は音楽的には違うジャンルだったりするんだけど、聴き終わったときには「このアルバムの全部がASHなんだな」ってわかるというか。たぶん「日本のアーティストで、こういうアルバムって聴いたことないな」って思ってもらえるんじゃないかな。
──ロックオペラは、海外では1970年代から脈々と受け継がれている伝統的なスタイルですよね。
そうですね。The Whoの「Tommy」とか、デヴィッド・ボウイの「Ziggy Stardust(The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars)」とか、アルバム1枚を通して、1つの世界観を描くっていう。自分の世代でいうと、Green Dayの「American Idiot」、My Chemical Romanceの「The Black Parade」がド真ん中で、すごく影響を受けているんです。特に「The Black Parade」は素晴らしいと思いますね。「Tommy」やThe Beatlesの「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」を上手にオマージュしたうえで、独自の世界を表現しているというか。「THIS IS LIFE」はそういう作品に対する自分なりの回答でもあるんですよね。ただ、サントラっぽくなるのはよくないと思ったし、今は何でもファストな時代から、1曲1曲を切り取っても成立するものを目指してました。そこもうまくいった気がするんだけどな。
メジャーデビューしたばかりでも、自分自身をストーリーにするのは意味がある
──今挙げてもらった海外のロックオペラの名盤は、架空のキャラクターを主人公にした作品が多いですが、「THIS IS LIFE」は“ASH”自身が主人公。いわばノンフィクションに近い作品ですよね。そういう選択をしたのはどうしてですか?
それはすごく単純な理由で、僕がアーティストとして成熟していないからです。たとえばThe Beatlesは「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」という架空のバンドを設定して、当時の音楽業界を風刺したわけですけど、そういうことができたのはバンドが成熟していたからですよね。The WhoやGreen Dayも5~6年のキャリアを重ねた後、まったく違うコンセプトを持ってきて次なる傑作を作ったわけじゃないですか。そういう場合は架空の主人公を据えるほうが効果的だし、メッセージも重みが出ると思うけど、僕はそこまで成熟していないし、キャリアもないですからね。だから今回はロックオペラのスタイルを取り入れて、自分自身を表現したということだと思います。もともとプロットを作ってから制作に入るのが僕のスタイルなので。
──なるほど。
あとね、アーティスト自身を主人公にしたほうが、もっとブルースだし、もっとソウルだと思ったんですよ。僕はダニー・ハサウェイも大好きなんですが、彼も音楽的にはいろんなことをやりながら、いつも自分のこと、家族のこと、街のことを歌っていたわけじゃないですか。そういう手法も取り入れたかったんですよね、このアルバムでは。自分の身を切り売りするということも、このタイミングで1回やっておきたかったし……。自分のことをまったく見せないカッコよさもあると思うけど、僕が幼少の頃からインスパイアされてきたブルース、ソウルミュージック、ヒップホップはそうではなかったので。まだ20数年しか生きてないですけど、メジャーデビューしたばかりのこの時期に、自分自身をストーリーにした作品を発表するのは意味があるんじゃないかなって。そう考えると、偉大な先人たちのおかげで、2016年に僕が「THIS IS LIFE」というアルバムが作れるんだと思いますね。僕らは長い音楽の歴史の中にいるし、「今を生きているロックンロールアーティストとして何を刻むべきか?」ということはいつも考えているので。このアルバムを聴いて戸惑う人もいるかもしれないけど、そういう人には「だからこそ“ASH”なんだよ」って言いたいですね。黒も白もあるから灰色になれるので。
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収録曲
- Overture
- You Gotta Power
- Anchor
- Everything
- いつかの街で
- 上京難民
- Never ending dream
- 生命のリレー
- One Hundred Years Later
- HELLO NO FUTURE
ツアー情報
ASH DA HERO「ASH DA HERO ONE MAN TOUR 2016『THIS IS LIFE』」
- 2016年7月27日(水)
- 東京都 TSUTAYA O-WEST
- 2016年8月19日(金)
- 大阪府 OSAKA MUSE
- 2016年8月26日(金)
- 愛知県 ElectricLadyLand
OPEN 18:00 / START 19:00 (全日程共通)
インストアイベント情報
アコースティックライブ+サインセッション
- 2016年6月18日(土)
- 愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店
- START 15:00
- 2016年6月19日(日)
- 大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
- START 16:00
サインセッション
- 2016年6月15日(水)
- 東京都 タワーレコード新宿店 7F特設カウンター
- START 14:00 / END 14:30
- 2016年6月15日(水)
- 東京都 タワーレコード池袋店 5F特設コーナー
- START 16:00 / END 16:30
ASH DA HERO(アッシュダヒーロー)
「ロックンロールに夢と希望を。ロックンロールに栄光の光を。」という目標を掲げて活動する男性ロックボーカリスト。10代の頃から地元・愛知で音楽活動を行い、2013年まで在籍していたバンドでは海外のフェスにも出演した。2014年春よりASH DA HEROとしての活動を始め、VAMPSが所属する音楽事務所・VAMPROSEに所属。2015年12月にミニアルバム「THIS IS A HERO」で日本クラウンからメジャーデビューし、2016年6月に初のフルアルバム「THIS IS LIFE」を発表した。