麻倉もも特集|シュワワ!弾ける夏、到来!夏を全力で楽しむハッピーサマーソング (2/2)

嫌いになれないことが幸せ

──カップリング曲の「嫌いになれない。」は、過去の曲を引き合いに出すなら「あしあと」(2020年11月発売の8thシングル「僕だけに見える星」カップリング曲)を想起させるメロウなR&B、ヒップホップ系の曲ですね。爽快感のある「シュワワ!」との対比がきれいだなと思いました。

やった。そこは一応、狙っていたところではあって。夏のシングルということで、表題曲はまぶしくてポップな夏の日という感じで、カップリングはしっとりした夏の夜をイメージして曲を集めていただいたんです。「嫌いになれない。」の主人公は、たぶん年齢とかは「シュワワ!」の子とそんなに変わらないんですけど、ちょっとタイプの違う女の子ですね。

──作編曲は、過去に「トキメキシンパシー」(2020年4月発売の2ndアルバム「Agapanthus」収録曲)を書かれた宮川麿さんです。先ほどと同じことをお聞きしますが、なぜこの曲を気に入ったんですか?

今おっしゃった「あしあと」とか、その前だと表題曲の「Agapanthus」とか、ウィスパーボイスで歌う機会が増えていて。「こういう距離感で歌ったら、こんなふうに自分の声が聞こえるのか」ということがだんだんわかって、面白くなってきていたんです。そういう曲をまたやりたいなと思っていたところに、ちょうどこの曲が候補曲として来てくれたので「あ、いいな」と。もちろんメロディや構成が好きというのが前提にあるんですけど。

──とてもいい選択だと思います。作詞のM!SATOさんは、麻倉さんの楽曲に関わるのはこれが初めて。歌詞の内容も「シュワワ!」とは異なり直球のラブソングで、しかもわりとしんどいやつですね。

重めなやつです。この曲は、候補曲としていただいた時点でワンコーラスだけ仮の歌詞が付いていて。仮歌詞がある場合、歌うことが決まってから書き換えることのほうが多いんですけど、今回は事前に私がスタッフさんにお伝えしていた歌詞のイメージとぴったり重なっていたので「このままいきましょう」と。

──「嫌いになれない。」の主人公は、パートナーに対してだいぶ疑心暗鬼になっているというか。

うんうん。いろんな解釈があっていいんですけど、私の解釈としては「私があなたを愛しているほど、あなたは私を愛してくれていない」みたいな。相手のことが好きすぎるあまり、相手からもらっている愛が、自分が与えている愛より少ないんじゃないかと勝手に不安になって、空回りしちゃっている女の子ですね。例えば1番Aメロで「ご機嫌取りの限定チョコレート 騙される私じゃないの」と歌っていますけど、相手にそんなつもりは全然なくて。単に「お、これ限定だ」と、今しか買えないから買ってきただけなのに、それに対して「ご機嫌取ってる!?」「何か隠し事でもあるんじゃないの!?」と疑っちゃう。でも、嫌いになれないんですよ。

──麻倉さんは、勝手に空回ってしまうタイプの人は好きですか?

ええと、友達としてってことですか?

──あ、それでもいいんですけど、恋愛に対する「嫌いになれない。」のようなのめり込み方を肯定できるのか、あるいは「ちょっと冷静になりなよ」みたいに思うのか。

ああー。気持ちはあまりわからないですけど、かわいいと思います。基本的に愛が重めな女の子が好きだから、こういう曲も楽しんで歌えるんじゃないかなあ。まあ、この子の愛は別に私に向けられているわけじゃないからというのもあるんですけど(笑)。

──パートナーの立場になったら「かわいい」では済まないかもしれない。

でも、この子もなんだかんだ言って、本気で自分のことを不幸だと嘆いているわけではないと思うんですよ。相手のことを嫌いになれない状況をある意味で楽しんでいるというか、嫌いになれないことが幸せみたいな。逆に言うと、彼女が本当に不幸になるのは、彼のことを嫌いになってしまったときなのかなって。

麻倉もも

「ほにゃーん、へにゃーん」みたいな歌い方

──先ほどウィスパーボイスで歌う曲をまたやりたくて「嫌いになれない。」を選んだというお話がありましたが、トラックも音に隙間があって、麻倉さんの静かな歌声がうまくハマっていると思いました。

そう言っていただけてうれしいです。どれぐらいの声量で歌うか、マイクとの距離はどれぐらいにするか、本番のレコーディングに入る前に何回も試させてもらいまして。試しては聴き、試しては聴きを繰り返す中でちょうどいいポイントを探っていったんですけど、その工程をかなり丁寧にやっていただけたのがよかったと思います。

──「シュワワ!」では気持ちのままに歌ったとのことでしたが、「嫌いになれない。」では何か具体的なボーカルプランがあったんですか?

歌としては、相手に直接訴えかけるというよりは、部屋の中で1人でモヤモヤしているような感じにしたかったので、頭の中で独り言をつぶやいているようなイメージで歌いました。実際に口に出す言葉ではなくて、自分の頭の中をぐるぐる巡っている言葉たちみたいな。ただ、「嫌いになれない。」は盛り上がるタイプの曲ではないので、あんまりボソボソ歌いすぎても曲全体が沈んじゃう。それも含めてどうやってメリハリをつけるか、すごく悩んで。あくまで独り言の範疇で、自分の内に秘めた声を表現するために、今までやったことがない歌い方にも挑戦したんですよ。ちょっと舌足らずな感じで「ほにゃーん」って歌ったり。

──「ほにーゃん」。

「ほにゃーん、へにゃーん」みたいな。特にサビがそうなんですけど、音をあんまり切らずに、ふにゃふにゃと。そういう歌い方がこの曲の雰囲気に合うんじゃないかと思ったんですけど、初めてのことだったので、納得いくまで何回もやらせてもらいました。

──「嫌いになれない。」のボーカルが頭の中の独り言であればこそ、カギカッコ付きの「ねえ ズルいよ」という歌詞はつい口から漏れてしまった言葉のように聞こえて、いい効果を上げていると思いました。

そう、ここは本当にポロッと言っちゃった感じにしたくて。なので、最初はけっこう声を作っていたというか、もっと感情を込めていたんです。でも、スタッフさんから「もうちょっと無機質な声で」「ほかのパートよりも大人っぽい感じがいいかもしれない」とアドバイスをいただいて。確かに感情を込めるというよりは、ボソッと、意図せずこぼしてしまった言葉のように聞こえたほうが、等身大のこの子を表現できるのかなと思い直しました。ここは自分でも不思議なパートというか、ずっと頭の中にあった言葉が、一瞬だけ現実に顔を出して、また頭の中に戻っていくみたいな。そういうギャップも面白いんじゃないかなと思います。

「早くライブをしてくれ!」とめちゃくちゃ言われます

──先ほどの「ほにゃーん」もそうですが、リリースを重ねるたびに歌唱表現も更新されている感じがして、いいですね。

結果的になんですけど、毎回新しいことに挑戦できているという感覚はあるかもしれません。これからも自分が「いいな」と思うものを、ファンのみんなの「これをやってほしい」という意見も取り入れつつ、自分が納得できる形で出していけたらいいですね。

──最近、ファンからはどんな意見が多いですか?

最近に限ったことではないんですけど、「早くライブをしてくれ!」とめちゃくちゃ言われますね。私のライブが2年に1回ぐらいのペースだからなのか、ライブが終わった瞬間から「早く次のライブを!」って。

──その気持ち、わかります。僕も昨年の「Piacere!」ツアーのファイナルを拝見して、圧倒されましたから(参照:麻倉ももが全国5カ所回った初ライブツアー終幕、バンド編成でパフォーマンス)。

ありがとうございます。あの、すごく大変でしたけど……。

──いや、むしろあれを楽にこなしていたとしたら怖いです。

やっぱりツアーが始まるまでは、スタッフさんと一緒にセットリストや演出を考えておきながら「これ、私にできるの?」「この曲をライブで歌うの? 踊りながら?」と追い詰められていたんですけど、いざ始まってみたらけっこう楽しくて。あと、初めてバンド編成で回ったというのも大きくて、ミュージシャンの皆さんが融通を利かせてくださったおかげで、ツアーを通していろんなことを試せたんです。そもそもツアー自体が初めてだったので、「初日と最終日で全然違うものになった!」「これがツアーなのか!」と驚いたし、みんなで一緒にツアーを作り上げていく楽しさも味わうことができました。

──今後のライブでやってみたいことや試したいことなど、何かアイデアがひらめいたりしました?

あー、私はそれがあまり得意ではないというか。例えば楽曲でも、事前に「次はこういうことがやりたい」的なアイデアがあるというよりは、デモをいただいてメロディを聴いたときに「こんな歌詞はどうかな?」「こういうMVにしたら面白そう」みたいなアイデアが湧いてくるんですよ。ライブも同じで、セットリストが決まって、どんな順番でどんな曲を歌うのかが決まってから「この流れならこういうことができそう」とか「この前のライブでやったあれが使えそう」とか、そういうことを思いつくんです。逆に「こういうことがやりたいから、こういう曲順にしよう」という発想はなくて。

──具体的、あるいは現実的なトリガーが必要なんですかね。

そう、手元に何もないところからだと、ちょっと難しくて。だから、もし今ここに次のライブのセットリストがあったら、何かしらアイデアが湧いてくると思います(笑)。

──セットリストといえば、「Piacere!」ツアーのセットリストもいいバランスだったのでは。新旧織り交ぜつつ、終盤は怒涛の展開で。

「楽しかった!」と言ってくださる方が多くて、がんばってよかったと思いましたし、そうした反応があるおかげでまたがんばれます。アイデアとはちょっと違うんですけど、もし次のライブをするときにお客さんの声出しができる状況だったら、“それ用”のセットリストに変わってくるかもしれないですね。私の曲の中にはお客さんのコール込みで完成させたい曲もあるんですけど、それは「Piacere!」ツアーでは叶わなかったので。

──今回の新曲2曲もライブで聴きたいです。どちらもタイプが違うので、ライブで違う方向に化けそう。

そうですね。特に「嫌いになれない。」は今までよりも凝った演出とかをしても、曲の雰囲気的に合うかもしれない。

──「シュワワ!」は間違いなく盛り上がるでしょうし。

うんうん。みんなで踊っている光景がすでに見えています。具体的なアイデアは何もないけど、「次が楽しみ」という気持ちだけはありますね。

プロフィール

麻倉もも(アサクラモモ)

1994年6月25日生まれの声優アーティスト。2011年に開催された「第2回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、翌年に声優デビュー。2015年に同じミュージックレインに所属する雨宮天、夏川椎菜とともに声優ユニット・TrySailを結成した。2016年11月に1stシングル「明日は君と。」でソロデビュー。2018年10月には1stアルバム「Peachy!」を発表した。2020年4月に2ndアルバム「Agapanthus」をリリースし、11月に千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールでワンマンライブ「LAWSON presents 麻倉もも Live 2020 “Agapanthus”」を開催。同年11月に8thシングル「僕だけに見える星」、2021年8月にテレビアニメ「カノジョも彼女」のエンディングテーマを表題曲とした9thシングル「ピンキーフック」をリリースした。2022年3月に10thシングル「彩色硝子」をリリースし、7月に3rdフルアルバム「Apiacere」を発表。10月より初のライブツアー「LAWSON presents 麻倉もも Live Tour 2022 “Piacere!”」を全国5カ所で開催した。2023年8月に11thシングル「シュワワ!」をリリース。