音楽ナタリー Power Push - ART-SCHOOL

B面集で見えた本質

ここで俺の本当の姿が歌われている!

──先ほど「映画的」という表現がありましたが、実際ART-SCHOOLの歌は木下さん個人の体験や人生をどれぐらい反映してるんでしょうか?

木下 「シャーロット.e.p」(2002年発売のミニアルバム)は、ちょうど母親が死んだ頃に作った作品だったので、全部母親に捧げるという気持ちで作りましたね。

──「シャーロット.e.p」からは「プール」「I hate myself」が選ばれています。

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木下 若いバンドが「ちょっとモヤモヤしてるけど……でもなんかいいぜ!」みたいなことを明るく歌ってるのを聴くと、僕は「そう言われても実際はなあ……」ってその歌で歌ってる内容が全部嘘っぽく聞こえちゃって。

──なるほど。これを聴いて私も遠い昔の10代の頃を思い出したんですよ。モヤモヤした気持ちの捌け口はないし、友達が少ないからいつも1人で部屋にこもって鬱々として音楽ばかり聴いてた頃。そんなときにここに収められているような曲を聴いたら、「ああ俺のことが歌われてる」と感じたかもしれないなって思いました。

木下 それは本当にうれしいですね。僕も中学の頃は友達がいなくて、帰宅すると1人で部屋にこもってずっと音楽を聴いてたから。極端に言っちゃうとほかの人とどう接したらいいのかよくわからなかったんです。当時はまだSNSもなかったから、簡単に人とつながることができなかったし。そういうときに僕は音楽を聴くことで外の世界とつながったような気がしたんですよね。NirvanaとかAlice in Chainsとかを聴いて「ここで俺の本当の姿が歌われている!」とか錯覚したものですよ(笑)。

上京した途端に青春が終わった

──ちなみに戸高さんは福岡にいた頃、どんなバンドをやっていたんですか?

戸高 僕はいろんな音楽を聴いていたから、それを全部ごちゃ混ぜにしたようなものをやってましたね。当時やってたバンドのデモをART-SCHOOLが福岡にツアーで来たときに彼(木下)に渡して、ART-SCHOOLのメンバーが抜けるタイミングで声をかけてもらって上京して、今に至ります。

──その当時、ART-SCHOOLの状況はどういうものだったんですか?

木下 全員が辞めるっていうんだったら、もう解散しようってことになったと思うんですよ。でも桜井(雄一)さんが続けると言ってくれたので、新しいメンバーを入れようと思ったんです。そのときにトディ(戸高)のことを思い出して誘って。

──わざわざ福岡にいる人を誘ったんだから、よほど気に入ったんですね。

木下 ほかにもギターやってる友達は何人もいたはずだけど、なんかそのときはトディしかいないと思ったんですよね。

戸高 福岡からわざわざ呼ばれた理由は僕もわかりません。2003年の年末くらいに2日間ぐらい東京に滞在して、そのとき一緒にセッションしましたよね。スタジオを出て、朝方の新宿LOFTにTHA BLUE HERBのライブを観に行ったことを覚えてる。

木下 最初、怯えてたよね(笑)。

戸高 怯えてましたよ! 20歳そこそこの若者が自分がライブを観に行ってたバンド、ましてやメジャーデビューしてるバンドから「メンバー抜けるからちょっと東京で一緒にやってみない?」って誘われて怯えないわけがない(笑)。でもチャンスが舞い込んできたのかなと思って、一度しかない人生だからやってみようと決めて親に電話して。年末で部屋も引き払って、当時やってたバンドのメンバーにもゴメンって言って、東京に出てきた。それが苦しみの始まりになろうとは……(笑)。

──戸高さんの加入でバンドはどう変わりましたか?

木下 トディが入ったことが理由ではないんですけど、僕の歌詞がどんどん酷いことになっていった時期ですね。

戸高 たぶん僕が入った頃が、リッキーがMAXにやさぐれてた頃なんじゃないかな。抜け殻みたいな状態で酒ばかり飲みまくってたし。ヤな時期に入っちゃったなあってあとから思いました。

──以前のインタビューで、第1期のメンバーが抜けたときに、自分の中のイノセントな部分をなくしてしまったという話をされてましたよね(参照:ART-SCHOOL「The Alchemist」インタビュー)。

木下 僕の中で1つの青春が終わってしまったんですよ。曲は作っていたし気は張っていたけど……2年ぐらいはけっこうしんどかったですね。メジャーを離れてインディーズという状況になってしまって、タワレコ限定でCD(「SCARLET」「LOST IN THE AIR」)を出したりとかして。でもトディを福岡から呼んでるし、ベースも宇野剛史くんに決まってるし、桜井くんも叩くと言ってくれてる。そこで妙な責任感を感じて、それが悪い方向に行っちゃった時期ですね。

──どん底の時期を経て、木下さんの作る曲や歌詞の内容も変わっていきましたよね。

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戸高 そうですね。「肉食いたいなぁ」(「SCARLET」収録の「RAIN SONG」)とか、「マンガで観た あの世界 その中で暮らしたい」(「LOST IN THE AIR」収録の「LOST IN THE AIR」)みたいな、身も蓋もない、空虚で希望のない言葉が並ぶ感じになって。

木下 あと「小三で終わった」とかね(「LOST IN THE AIR」収録の「羽根」)。どうかしてると思う(笑)。

戸高 そんな中で高いモチベーションでバンドをやるのは過酷でしかないですよね。今考えても可哀想ですもん、当時の僕。ART-SCHOOLに加入した途端、僕の青春が終わった気がしました(笑)。

──さすがにその2作からは今回選ばれてませんね。

木下 確かにそうですね(笑)。そのあとポニーキャニオンさんが拾ってくれて「PARADISE LOST」(2005年発売のアルバム)を出したあたりから、またちょっと楽しくなってきたかなあ……。

戸高 むしろそのときが一番?

木下 楽しかったなあ。

B SIDES BEST「Cemetery Gates」 / 2017年1月25日発売 / 2700円 / Warszawa-Label / UK.PROJECT / WARS-003
「Cemetery Gates」
収録曲
  1. ニーナの為に
  2. ステート オブ グレース
  3. 1965
  4. プール
  5. I hate myself
  6. レモン
  7. LILY
  8. SKIRT
  9. LOVERS
  10. MEMENT MORI
  11. JUNKY'S LAST KISS
  12. LUCY
  13. カノン
  14. LITTLE HELL IN BOY
  15. LOVERS LOVER
  16. それは愛じゃない
  17. その指で
  18. Ghost of a beautiful view

ART-SCHOOL B SIDES BEST「Cemetery Gates」発売記念インストアイベント

2017年2月18日(土)
東京都 タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
START 21:00
<出演者>
木下理樹(ART-SCHOOL)
内容:弾き語りミニライブ&サイン会
2017年2月25日(土)
大阪府 FLAKE RECORDS
START 20:00
<出演者>
木下理樹(ART-SCHOOL)
内容:弾き語りミニライブ&サイン会
2017年2月26日(日)
愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店 イベントスペース
START 18:00
<出演者>
木下理樹(ART-SCHOOL)
内容:弾き語りミニライブ&サイン会

ART-SCHOOL LIVE 2017 B SIDES BEST「Cemetery Gates」

2017年3月25日(土)
大阪府 Shangri-La
2017年3月30日(木)
東京都 WWW X