ナタリー PowerPush - ART-SCHOOL

木下理樹が抱える葛藤と希望

ART-SCHOOLのミニアルバム「The Alchemist」がリリースされた。ROVOの益子樹がエンジニアを担当している本作は、徹底してハードかつ生々しく硬質な音でロックの切羽詰まった危うい魅力を突きつけた前作「BABY ACID BABY」に対して、キャッチーかつ叙情的、さらにエモーショナルで広がりのある色彩感豊かな、いわばART-SCHOOLのポップサイドをリプレゼントすることに成功している。曲数は6曲と少ないが、聴き応え十分かつ長く聴き継がれ愛されるような作品だ。木下理樹(Vo, G)に話を聞いた。

取材・文 / 小野島大 撮影 / 高田梓

頭の中で鳴っている音を具現化できる確信

木下理樹

──前作から間がないリリースですが、これは予定通りなんですか?

いや。前作後にツアーをずっとやってたんですけど、すごく新鮮だったんですよ。昔の曲をやってても、中尾(憲太郎)さんや(藤田)勇さんとやるとぜんぜん違って聞こえる。それが大きかった。このグルーヴが固まってきてるうちに録りたいねえという話を12月ぐらいからしてて。曲はツアー中からちょこちょこ書いてたんですけど、リリースはそこからバタバタ決まっていった感じです。フルアルバムにするには曲が足りないけど、今のバンドで早くもう1枚出したかった。

──今のバンドの手応えは、具体的にはどんなものなんですか?

自分の頭の中で鳴っている音を具現化できる。自分が思っている以上のものを返してくれるんですよ、あのリズム隊は。それがすごいと思う。

──自分の頭の中に鳴っている理想の音と、実際に出てくる音のギャップのようなものを、今までは感じていた?

ずっと感じてましたね。それが理由で活動休止とかになっちゃったと思うんですけど。

──何が違うんですか。技術的なこと、センス、相性……。

うーん、何が違うんでしょうね。やっぱり1音1音の説得力が違いますよ。中尾さんの音をスタジオで聴いてるだけで興奮しますから。勇さんと2人が絡んだときに生じるエネルギーみたいなものがぜんぜん違う。

──その手応えは前作を作る前から感じていたと思うんですが、ライブをやることで一層強くなったということですか?

そうですね。ツアーをやっていくうちにすごい面白いし、カッコいいことになってるんじゃないかなと思って。

──できてくる楽曲も、それまでとは違う手応えがあった?

そうですね。こういうアプローチの曲をやったら面白いんじゃないかってアイデアが次々と出てきて。ネオアコっぽいギターポップとか、ダビーなものとか。このメンバーならいろいろ試せるし、そのアイデアをちゃんと消化できるんです。

エンジニアとスタジオ選びで音が9割決まる

──今回もうひとつ重要なのは、益子樹さんのエンジニアとしての起用です。「Flora」(※2007年リリースのアルバム)以来ということになりますが、今回レコーディング、ミックス、マスタリングまで担当していて、音周りのことはすべて委ねている形ですね。

はい。去年たまたま益子さんとライブで会って話をして、また一緒にやりたいですねって話をしたんです。今回の話が出たとき、じゃあお願いしようと。「Flora」の音もすごくよかったですから。

木下理樹

──前作のスティーヴ・アルビニのエレクトリカルオーディオスタジオの音と、益子さんの作る音はほとんど対極にあると言っていいと思うんですが、それが今作の狙いを表していますね。

そうですね。まず、アルビニのスタジオに行くっていうのは、こっちも振り切った状態で行くわけですよ。ヘビーな曲、鉛のような音を求めて。逆に言うと、アルビニのスタジオでネオアコースティックな楽曲をやっても……。

──殺伐とした感じになりそうですね(笑)。

殺伐としたネオアコなんて、想像できないですよね(笑)。それはそれで面白いかもしれないけど。エンジニアさんとスタジオ選びで、どういう音になるかって9割は決まりますよね。益子さんとやることになって、こういう立体的な音作りを……前作も違う意味で立体的だったんですけど、空間、余白を生かす音作りや、ダビーなアレンジも試せるなと。そういうことは考えましたね。だから益子さんとやることになって、アレンジを変えていった曲がけっこうある。ここはそんなにギター弾く必要ないな、とか。ここは余白を生かしてエコーがかかってるダビーな音にしようとか。それはアルビニのスタジオではできなかった。逆に益子さんのスタジオで全編ゴリゴリのアルバム作っても面白くない。それぐらいエンジニアさんによって、音って変わってくるから。そこを外しちゃうと、ものすごくダメな作品になっちゃう気がします。益子さんはリハーサルの段階からときどき見に来てくれて。ROVOもやってる方だし、アーティストでもあるから、すごくコミュニケーションがとりやすいですね。

──1曲目の「Helpless」の後半とか、すごくダビーでサイケデリックな雰囲気で、サックスもフィーチャーして、かなり攻めたアレンジになってますね。益子さんのアドバイスはあったんですか?

益子さんは自分の意見を押し付けてくる人じゃないから、こちらから希望を出すと、その通りにしてくれる。軽く希望を伝えるだけで全部わかってくれるんですよ。詳しく説明しないでも、こういう世界を狙っている、というのを察してくれるから。益子さんは音楽的なことというよりは、「ダリの絵っぽいよね」とか、そういう話をよくするんですよ。空間に何を配置するか、とかそういう話。それがすごく面白いし刺激的なんですよね。

──音を音楽以外のものに喩えていく。

そうですね。音を音としてしか聴いてない人ではないですね。音を視覚的に捉えることができるんだと思う。そういう意味で音の配置の仕方とか、僕と狙ってるところが似てる気がします。ベッタリとした平面的なもの──狙って作ってるならいいんですけど──じゃなく、もっと立体的に聞こえるようにするためにはどうすればいいか。そういうことを益子さんと話してましたね。

──「平面的に聞こえるもの」とは、例えば今のメインストリームのJ-POPとかJ-ROCKとか……。

そうですね。

──それはやはりミックスやマスタリングの問題?

うーん……いろんな要素が絡みあってると思うんですけどね。例えば、コンプ(※コンプレッサー)をかけるかかけないか。僕は一切かけたくないけど、コンプをかけて、ラジオで流れたときに音圧が稼げてボーカルが前に出てくるような派手な音作りを望むアーティストも多いから。結局音楽で何を表現したいのか、というところに行き着くと思うんですけど。いい悪いじゃなくてね。僕は音を立体的に感じたい。そこが益子さんと意見が一致してたから。

5000枚限定ミニアルバム「The Alchemist」 / 2013年3月13日発売 / 1800円 / Ki/oon Music / KSCL-2199
「The Alchemist」
収録曲
  1. Helpless
  2. フローズン ガール
  3. The Night is Young
  4. Dead 1970
  5. 光の無い部屋
  6. Heart Beat
ART-SCHOOL(あーとすくーる)

ART-SCHOOL

2001年に木下理樹(Vo, G)を中心に結成されたギターロックバンド。同年9月にインディーズレーベルからリリースした1stアルバム「SONIC DEAD KIDS」が好評を博す。その後もライブとリリースを重ね、2002年10月にシングル「DIVA」でメジャーデビュー。2003年12月に大山純(G)と日向秀和(B)が脱退し、翌年3月に戸高賢史(G)、宇野剛史(B)が加入する。2007年2月発売のアルバム「Flora」がロングヒットを記録したほか、2008年には初のベスト盤「Ghosts & Angels」をリリース。2009年5月、結成当初からのメンバーであった桜井雄一(Dr)が脱退したため、鈴木浩之(Dr)を新メンバーとして迎えた。2011年12月に宇野と鈴木が脱退し、バンドは木下と戸高の2人体制となる。2012年5月、所属レーベルをKi/oon Musicへ移籍し、8月にアルバム「BABY ACID BABY」を発表。2013年3月にROVOの益子樹をエンジニアに迎えたミニアルバム「The Alchemist」をリリースした。