ギターで伝えるガールズパワー
──今回、MIYAVIさんが提供した楽曲「Snakes - feat. Pvris, MIYAVI」は、どのように制作されたのですか?
この曲は、ヴァイがジェイス(古の魔法を科学に応用する研究をする発明家。その功績によりピルトーヴァーの評議会の一員となる)と一緒に戦うシーンで使われています。プロデューサーのクリスチャンからもらったキーワードは「ガールズパワー」で、「強い女性を象徴するようなギターリフやメロディが欲しい」と。そのためビートを軽快にしたり、迫力あるサウンドの中にもポップな要素も加えたりしながら、女性の持つ繊細さや強さ、ある種のカラフルさを出そうと思いました。できあがるまで、かなり何度もブラッシュアップしていきましたね。実は、最初はもっとポップな雰囲気だったんですけど、クリスチャンからは「ダークな部分をもっと引き出してほしい」と言われました。確かに、暗い闇の中からどうやって光を見つけ、その方向へと進んでいけるか?は「Arcane」の作品全体のテーマの1つですよね。
──サントラに参加しているほかのアーティストの楽曲もお聴きになりましたか?
はい。Imagine Dragons & JIDの「Enemy」や、Sting ft. Ray Chenの「What Could Have Been」は痺れましたね。「すげえなあ!」って。あと同じくサントラに参加しているBones UKとも僕は親しくて。日本に来たときに一緒にプレイしたり、僕のアメリカでのプライベートパーティで、ボーカルの子に飛び入りで参加してもらったりしたこともあるんですよ。アーティストのチョイスも、バラエティに富んでいながらもどこか闇を感じるというか、そういう世界感が統一されてますよね。
──楽曲のテーマとなった「ガールズパワー」について、MIYAVIさんはどんな見解をお持ちですか?
昨今、「ジェンダーイコーリティ」が謳われ、女性らしさ、男性らしさをなくしてイーブンにしようという風潮があります。もちろん僕も、「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」といった考え方はなくていいと思ってはいますが、「男らしい」「女らしい」の定義は、否定する必要はないのかなと。そのバランス、配分をそれぞれ自由に決めればいいだけの話であって。そもそも男性、女性がそれぞれ担う役割も決めなくていい。それこそが本来の「ジェンダーイコーリティ」だし、それを踏まえたうえで「ガールズパワー」を定義すると、やはり「男とは違う強さ、魅力」になるのかなと。実際、男性よりも女性のほうが「肝が据わっているな」と思う瞬間はたくさんあるし、出産含め、女性にしかない強さってたくさんあると思うんです。男と女、男らしさと女らしさ、お互いが持っていない部分、足りない要素を補い合うように、僕ら人間はデザインされたんじゃないのかなと思います。
──ちなみに、「ガールズパワー」と聞いてMIYAVIさんが思い浮かべる人は?
最近はカッコいい女性が増えましたよね。「東京2020オリンピック」では卓球や体操の選手が活躍する姿が印象的だったし、アメリカ副大統領のカマラ・ハリスさんや、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんも思い浮かびますが、個人的にはアンジェリーナ・ジョリーさんとの出会いも大きかった(参照:MIYAVI、アンジェリーナ・ジョリー監督映画で役者デビュー)。最初に出会った“カッコいい女性”といえば、やはり母親になりますけどね。日本人で初めての国連難民高等弁務官となった緒方貞子さんや、シリア出身の競泳選手ユスラ・マルディニさん、アフガニスタン生まれのラッパーのソニータ・アリザデさんも戦う女性。そういうたくましい女性に僕は惹かれる傾向がありますね。単純に見ていて頼もしいし、そこに美しさを感じます。
MIYAVIが感じる大きな希望
──今回、MIYAVIさんは楽曲提供だけでなく、声優としても本作に参加したそうですね。
ほとんどノリというか……悪ノリで決まりました(笑)。「Arcane」に参加する前、コロナ禍でツアーができなくなったり、映画の撮影も延期になったりしている中、「ブライト:サムライソウル」という、ウィル・スミスの主演映画「ブライト」のスピンオフアニメで声優に初挑戦する機会があって。その作品でのアフレコ経験について「Arcane」のプロデューサーのクリスチャンに話したら、「実はこういう役があるんだけど、やってみる?」と声をかけてもらいました。ちょうど映画の撮影で地方にいたのですが、そこでデモを録音して送って。「どうせ通らないだろうな」と思っていたんですけど、受かっちゃいました(笑)。
──やってみてどうでした?
正直、非常に難しかったです。普段はどちらかというと全身でパフォーマンスをしているので、声のみで表現することの大変さを身に染みて思い知らされました。しかも英語ですから。例えていうなら、ブラジルでサッカーに明け暮れていた少年が、正座で生花をいきなり習い始めさせられたような感じというか。
──え、そんなに違いますか?(笑)
違いますよ(笑)。めちゃくちゃ緊張したし、めちゃくちゃ練習して挑みました。やっぱりどうしたってネイティブのような英語のニュアンスは出せないし、海外で勝負するときはいつもそこで負けてきたので、そういう意味でも挑戦したかったし、やってみてある種乗り越えたかったんです。もしまた海外で声優をやる機会があったら、もっとやれる自信もありますけど、今回は今回でベストは尽くせたかなと思いますね。
──MIYAVIさんが演じた“フィン”というキャラクターも、ただの悪役ではなくて。
実際にゲームには出てこないし、そんなにセリフが多いわけでもないんですけど、そういうキャラクターにもちゃんと制作陣の思い入れが注ぎ込まれていて、細かい設定があることに驚きましたね。フィンも組織というものに対して彼なりの正義や信念に基づいて行動しているのですが、そこにある彼の持つ脆さについても考えさせられました。しかもそういう脆さや弱さが美しかったり、人である所以だったりするわけです。
──コロナ禍で配信による映像コンテンツが飛躍的に進化し、最初にMIYAVIさんがおっしゃったように、ゲームというインタラクティブなレイヤーが加わったことで、また新たな体験ができるようになりました。この先の展開に期待することを最後に聞かせてもらえますか?
そうですね。今、ローカルコンテンツがローカルではなくなってきていることに面白さを感じます。「イカゲーム」(Netflixで配信されている韓国のサバイバルテレビドラマシリーズ)がその最たる例ですよね。英語作品じゃなくても世界的な大ヒットにつながる時代になった。その要因として、完成されたものが上映されるまでの期間や、字幕が付くスピードなどが著しく速くなったことは大きいと思います。そうしたテクノロジーの進化に伴うドラスティックな変化により、「ハリウッド作品」「インターナショナル作品」などという垣根はもうすぐなくなるのではないでしょうか。
──なるほど。
こうした環境は、音楽も含めてもっとスタンダードになっていくでしょう。僕自身、東京にいながら世界に向けてリアルタイムで発信することができる。自分の作品が常に世界中の人たちに聴かれる可能性があることを常に意識しながら作品を作っていきたいし、新しい時代のエンタテインメントにおいて、そこに大きな希望を感じています。
- MIYAVI(ミヤヴィ)
- 1981年大阪府出身のアーティスト / ギタリスト / 俳優。エレクトリックギターをピックを使わずにすべて指で弾くという独自の“スラップ奏法”でギタリストとして世界中から注目を浴び、これまでに約30カ国350公演以上のライブ、8度のワールドツアーを成功させている。近年ではコロナ禍の2020年4月にアルバム「Holy Nights」をリリースした。また、エンタテインメント活動を停滞させない強い思いから、「Virtual LIVE」プロジェクトを始動させ、VRやXRなどを駆使した5本のバーチャルライブを精力的に展開。多彩な活動でも注目され、アンジェリーナ・ジョリー監督の映画「不屈の男 アンブロークン」(2016年日本公開)で俳優としてハリウッドデビューを果たしたのち「BLEACH」「ギャングース」「キングコング:髑髏島の巨神」「マレフィセント2」にも出演した。またYOHJI YAMAMOTO、Y-3、Monclerなどでモデルとしても活躍。Gucciの広告キャンペーン「Gucci Off The Grid collection」に日本人アーティストとして初めて選ばれ、昨年6月よりブランドアンバサダーを務める。音楽活動や俳優業、モデル業のかたわら、難民問題への知識を深め、2017年には日本人として初めてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)親善大使に就任した。2021年9月にはアルバム「Imaginary」をリリースし、9月から10月にかけて北米ツアー「MIYAVI North America Tour 2021 "Imaginary"」を完走。2021年11月配信開始のNetflixアニメシリーズ「Arcane(アーケイン)」のサウンドトラックに参加し、日本語および英語で声優出演している。12月には国内ツアー「MIYAVI Japan Tour 2021 "Imaginary"」、2022年1月にはハワイでライブを開催する。