ナタリー PowerPush - あらかじめ決められた恋人たちへ

池永正二が語る「DOCUMENT」劔樹人が語る「劔樹人」

「秋本武士さんって猪木イズムですよね」

──大阪で充実したバンド活動、アイドルファン活動をしていたのに東京に来た理由って?

また「流されて」なんです。メジャーまで行きかかったバンドを僕1人だけ挫折して辞めちゃって、もう音楽は完全にあきらめようと思ったんです。で、大阪の会社に再就職するんですけど、例えば自分が演奏してた曲がラジオから流れるのを聴いてしまったりしたときは、やっぱり堪えがたい悔しさが湧き上がるわけですよ。友達のおかげで精神的に持ちこたえてたんですけど、すごくしんどい時期で。バンドしてた頃、忙しかったからアイドルへの熱も冷めていたので、20代後半にしてまたぼんやりモードに戻っちゃって。そうこうしてたら、当時付き合ってた女の子が東京に転勤することになって、自分としてはこのまま大阪にいてもしょうがなかったから、じゃあ付いていこうかなって。それだけといえばそれだけです。ただ東京に行くからにはもう1回挑戦したいって気持ちはあったので、なるべく音楽に関わる仕事をしようと思ってライブハウスで働くことにしたんです。

──あら恋は東京に来てすぐに参加したんですか?

劔樹人

最初はライブサポートでしたけどね。ちょうど池永さんも上京してきたので声をかけてもらって。でも実は僕、ダブって音楽はほとんど通ってこなかったんですよ。昔フィッシュマンズを聴いてたくらい。あとイデストロイドをやってたときに「レゲエを弾けるようになれ」って言われて、ボブ・マーリーのリズム感を勉強したことはあったんですけど。

──じゃあ、初めのうちはなかなか勝手がわからなかったのでは。

もともと僕の音作りはハイをカットしてローをグッと上げるセッティングで、どんなバンドやってもずっとモコモコした音だったから、そこはあら恋でもあんまり変わらないような気はするんですが。ただ、先入観でなんですけど、レゲエってもの自体が苦手だったんですよ。ライブハウスでバイトしてたときにいっぱいレゲエのイベントを見てたんですけど、レゲエの人たちってみんなお酒飲んで「イエーイ!」って感じで、店もひときわ汚くなるし、女の子にだらしないし、全然僕の性に合わなかったんですよ。

──わはは(笑)。

そういうこともあって、あら恋をやるために僕の演奏にレゲエの要素が必要なら、そういうレゲエとは一線を画すことをやらないと気持ちが収まらなくて。ストラップを長くしてみたり、ジャンプしてみたり。

──「お前らみたいなレゲエとはちょっと違うんだぞ」って(笑)。

最初のうちはそうでしたね。今となっては、その自意識もどうなんだろうって思いますけど(笑)。でもその後、DRY&HEAVYの秋本武士さんにすごい興味が出たんです。まず音がすごい。初めて秋本さんを観たのは、大学を卒業する頃。REBEL FAMILIAのライブなんですけど、スピーカーの近くにいると脳が震えて鼻血が出そうなベースで「世の中にこんなすごい音があるのか」って鮮烈に覚えてはいて。あら恋でご一緒する機会があったんですけど、そのときに感じた、ただならぬ殺気にその訳を知りたくて、秋本さんについて研究しまして。インタビューを読むと秋本さんって、10代の頃にレゲエの洗礼を受けるんですけど、ヒッピーでヤーマンなほうには行かずに、レゲエの攻撃性とメッセージ性だけにシンパシーを受けて、それ以来、誰に頼まれるでもなく修行を積んできたそうなんですけど、これは本当に“武士”の世界だと思いまして。ストロングスタイル、猪木イズムですよね。あとやってることはまったく違うんですが、求道者としての秋本さんの姿に杉作さんと同じものを感じて、自分の中でバシッとハマったんです。それからは一気にレゲエに対しての考え方が変わりましたね。

バンドのイメージと全然違うことをしてるのは申し訳ない

──具体的に秋本さんから受けた影響はなんですか?

演奏することに賭ける意気込みや集中力、1音1音に乗せてる気持ちとか。30歳過ぎてここまで影響されるかっていうくらいの衝撃でした。それで自分のプレイスタイルについて悩むようになって、それまでのやり方を全部変えることにしたんです。ルイズルイス加部の影響を受けたかつての自分は捨てようと(笑)。もう野球選手がバッティングフォームを変えるような気持ちですよね。

──それをここ何年か続けてきて、何が身に付きました?

劔樹人

いやこれがね、わかんないんですよ。テクニックっていうより気持ちの問題なんで。とりあえず昔よりうまくなっていないことは間違いなくて。「倍音が一番いい感じに響く弾き方」よりも「効率を度外視しても一番気合いが入る弾き方」に興味が向いてるから、たぶんベースの先生だったら「ただ疲れるだけだし、音もよくないからやめなさい」って言うだろうし、誰にも理解されないかもしれない。ただ、これって杉作さんの「ムダなことを大事にする」みたいな美学とか、根本敬さんの「でも、やるんだよ」と通じてるんですよね。自分が若い頃に影響を受けたそういうものが、ベースを弾くスタイルとすごく辻褄が合ってきたってことは感じますね。

──なるほど。

まあ、秋本さんがやってきたことはそういうことでもないことはわかっているんですが(笑)。でも仕事で長距離トラックを運転するときもベースを持って行くとか、彼女と旅行に行ったときも彼女が寝てる間に練習するとか、もうちょっと面白い話になっているようにも思いますが、それがカッコいいんですよ。そんなわけで、最近はものすごくムダな力を込めまくって演奏しようとしてるんですよ。本気で「指がもげちゃってもいい」っていう気持ちでライブをやろうと思ってて。

──それを聞いてすごく腑に落ちました。「あら恋のベーシスト」という活動と「エアセックス選手権世界チャンピオン」という肩書きは、傍目から見ると対極みたいなイメージですけど、実はあまり遠くないところでつながっていたという。

秋本さんと杉作さんをつなげるというムリヤリなやり方で(笑)。ただ、バンドのイメージと全然違う活動をほかでやってるのは、すごく申し訳ないと思ってるんですよ。池永さんがそんなに細かいこと気にしないから何も言わないけど、たぶん別のバンドだったらやめろって言われると思う(笑)。

──まあ、何も知らなかったら「エアセックス世界王者として知られる劔樹人(神聖かまってちゃんマネージャー、あらかじめ決められた恋人たちへ)」みたいに紹介されたときに、「あら恋ってそういうバンドなのか」って思われかねないですからね(笑)。

「あらかじめ決められた恋人たちへ」ってバンド名もちょっと誤解を生みがちですしね。邦画のタイトルのパロディだって前提を知ってればすごくイメージが伝わる名前だと思うけど、字面だけ見るとなんか厨二病的な曲をやってそうな感じで。神聖かまってちゃんの仕事をするようになって僕の名前が世に出たときに、あら恋のお客さんが全然増えなかったのはそういう変な誤解を与えてたからかもしれないですね。僕個人のキャラと、あら恋ってバンドの世界観がいくらなんでも離れすぎていたっていう(笑)。

"Dubbing 06" あらかじめ決められた恋人たちへ Release TOUR 2013

2013年9月22日(日)
京都府 京都METRO
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / LAGITAGIDA
2013年11月1日(金)
大阪府 梅田Shangri-La
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ
2013年11月2日(土)
愛知県 池下CLUB UPSET
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ
2013年11月9日(土)
東京都 代官山UNIT
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ
2013年11月16日(土)
福岡県 天神graf
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / LAGITAGIDA / チーナ / 百蚊 / Hearsays
2013年11月23日(土・祝)
岡山 YEBISU YA PRO(オールナイト)
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / and more
あらかじめ決められた恋人たちへ
(あらかじめきめられたこいびとたちへ)
あらかじめ決められた恋人たちへ

1997年、池永正二(Track、鍵盤ハーモニカ)のソロユニットとして活動をスタートしたエレクトリックダブユニット。当時の池永の勤務先、大阪・難波ベアーズを中心としたライブハウスやカフェ、ギャラリーなどでライブ活動を開始し、2003年アルバム「釘」をリリースする。2005年のアルバム「ブレ」のリリースを経て、2008年に拠点を東京に移すと、クリテツ(テルミン、Per、鍵盤ハーモニカ)、元ズボンズのキム(Dr)、元ミドリの劔樹人(B)を迎えたバンド編成でのライブを積極的に展開。同年に3rdアルバム「カラ」を、2009年にはライブ音源をエディットしたフェイクドキュメンタリー的アルバム「ラッシュ」を発表する。そして2011年に全曲バンドレコーディングによる「CALLING」を発売。これと前後して“叙情派轟音ダブバンド”としてその名を広く知らしめ「FUJI ROCK FESTIVAL」「BAYCAMP」「RISING SUN ROCKFESTIVAL」「朝霧JAM」など、大型ロックフェスにも多数招へいされる。2012年、30分2曲のミニアルバム「今日」をリリースし、2013年9月には5枚目のオリジナルアルバム「DOCUMENT」を発表した。