ナタリー PowerPush - あらかじめ決められた恋人たちへ

池永正二が語る「DOCUMENT」劔樹人が語る「劔樹人」

ヘンな符割と、ヘンなテンポでオチを付ける

──ここからは少し収録曲の個別的な話をさせてください。「ヘヴン」って川上未映子の同名小説のアンサーソングなんですよね?

アンサーソングっていうかエンドロールって感じですね。「ヘヴン」って読みました?

──読みました。だから「ポジティブに向かいたい」っていう池永さんの言葉とこの曲ってちょっと矛盾する気がしたんです。あれってイジメを題材にしているけど「イジメ、ダメ、ゼッタイ」なんてことは言わない。もっと善悪の彼岸みたいなことを描いたお話ですよね。

うん。オチに救いがないでしょ。女の子と斜視の男の子っていう2人のイジメられっ子が「ヘヴン」っていう絵を観に行こうとするんだけど、結局2人では観られなかった。で、最終的に男の子は斜視を治したことで美しい世界を見ることができました、ってことになるんだけど、それじゃかわいそすぎますよね。斜視を治したことで大切なものがゴッサァッて失われてる感じだから。もちろん斜視が治ってこそ見える景色もあるんだろうけど、それを美しいと言っていいんだかよくないんだか。それこそシューゲイズノイズに近くって、歪んでてグオォォッていう美しさっていうか。

──確かにあの本を読んでると、斜視だったからイジメられてはいたんだけど、だからこそ見えていた景色ってあった気がしますよね。

そういうひと言では言えない感情や違和感に対してエンドロールを付けたかったんです。歩く速度で延々と続くドラムとベースに、ヘンな符割のギターを乗せて。ときどきその2つのテンポが合ったりとか、わからないくらいの不協音が入ったりとか、ヘンなことはしてるんだけど、でも最終的には優しい目線の曲を作ることでエンドロールを付けたかった。「たどり着けなかったね」って。

──そういう意味ではほかの曲同様、やはり救済の音楽だと。

そうですね。

ドーンとやってポーンとやったeastern吉野とのコラボ

──あとアルバムからは少し離れちゃうんですけど、8月末に先行配信された「Fly feat. 吉野寿」(アルバムにはインストバージョンを収録)では、なぜあら恋始動16年目にして初のボーカル作品を作ろうと?

別にボーカル曲を意図的に避けてたわけじゃないんですけどね。ただ、何回か自分であら恋に歌詞を付けたりしてみたんですが、ものすごく安っぽくなって。だから自分で作るならやっぱりインストだと思うんですが、フィーチャリングっていう形でほかの人の味を加えるのであれば、ギタリストであれ、ボーカリストであれ、それは同じことだと思ってて。コラボレーションでイメージが膨らむわけですから。何も歌だから言葉だからダメってことは絶対ないんです。

──ではなぜボーカルはeastern youthの吉野さんだったんですか?

この前、eastern youthのイベント「極東最前線」に呼んでいただいたときにライブを観たんですけど、やっぱりものすごいグッと来たんですよ。今もなおそこで歌い続けている感じというか。あと、吉野さんの言葉ってけっこう具体的じゃないんですよね。

──抽象的な言葉で、池永さん言うところの「ハッキリとした灰色」のような感情を描こうとしますよね。

方法は違うけど、根本はとても似ていると思うんです。僕が影響を受けたってのが大きいんですが。それで、ぜひ「Fly」って曲で歌ってもらいたい!と思って吉野さんに電話をしたら「了解!」って引き受けてくださって。僕が言うことじゃないですが、吉野さんはやっぱり素晴らしい歌手なんですよね。素晴らしい歌手って、ピッチとか、リズムの取り方とか、そんな技術的なところ以前に、第一声でグッて惹きつける何かを持ってる。雰囲気というか、立ち姿っていうか。声の含みも、ものすごく凛々しくて優しいんだけど、厳しくて激しい。その両側の感じがあら恋の激しくて切ない感じとぶつかりながら絡めば、いい物語になるんじゃないかと思って。

──確かに吉野さん、あら恋ともに1曲の中に揺るぎなく立ってはいるんだけど、ケンカしてはいない。アルバム収録の「Fly」とはまた別のエモさが生まれていますよね。

あんまりうまく言葉にできないんですけど、吉野さんは吉野さんでドーンとやって、ウチはウチでポーンとやったのが、よかったんでしょうね。やっぱり考えすぎるとスピードが落ちちゃいますから。

The Cureに飽きて、レゲエにハマる

──「DOCUMENT」って本当にストロングなアルバムだから、今後あら恋は、ロックバンド目当てにフェスに行くような人たちから一層愛される存在になると思うんですよ。

ホントいろんな人に聴いてほしいです。やっぱりウチらはマイナーなジャンルだから。だからこその自分らの居場所もあると思うので、その場所をもっと広げたい。こんなバンドがおってもいいと思うんですよね。だからなんとかして、次の何かをつかみたいです。

──じゃあ「何かをつかむ」ために何をしましょう?

まずはライブですよね。レコ発ツアーやるので。ライブの"DOCUMENT"です。記録です。音楽的には、次はレゲエがしたいんですよ。

──へっ? ダブでもなければ、横浜レゲエ祭的なレゲエでもなく、もっとルーツ寄りのレゲエ?

池永正二

うん。ルーツといっても、ダブ寄りのレゲエですけど。というのも、この前フジロックの3日目に行ってThe Cureを観たんですよ。大好きだから出てきた瞬間は感極まってたんですけど、なんか1時間で飽きちゃって(笑)。

──36曲やったんでしたっけ?

らしいですね。で、裏でやってたThe xxを観に行って。これがムチャクチャよくて。ショーとしてしっかりしてるし、クオリティも高いし、すごくカッコよかった。ただ、The xxを観終わったあとに苗場食堂に寄ったら、DJがレゲエ流してて、カレーの匂いに混じって、みんなホント楽しそうに踊ってたんですよ。それがものすごくいいなって思ったんですよね。だから今は「レゲエを作りたいな」って思ってます。まあ僕が勝手に思ってるだけですけど(笑)。

"Dubbing 06" あらかじめ決められた恋人たちへ Release TOUR 2013

2013年9月22日(日)
京都府 京都METRO
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / LAGITAGIDA
2013年11月1日(金)
大阪府 梅田Shangri-La
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ
2013年11月2日(土)
愛知県 池下CLUB UPSET
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ
2013年11月9日(土)
東京都 代官山UNIT
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ
2013年11月16日(土)
福岡県 天神graf
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / LAGITAGIDA / チーナ / 百蚊 / Hearsays
2013年11月23日(土・祝)
岡山 YEBISU YA PRO(オールナイト)
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / and more
あらかじめ決められた恋人たちへ
(あらかじめきめられたこいびとたちへ)
あらかじめ決められた恋人たちへ

1997年、池永正二(Track、鍵盤ハーモニカ)のソロユニットとして活動をスタートしたエレクトリックダブユニット。当時の池永の勤務先、大阪・難波ベアーズを中心としたライブハウスやカフェ、ギャラリーなどでライブ活動を開始し、2003年アルバム「釘」をリリースする。2005年のアルバム「ブレ」のリリースを経て、2008年に拠点を東京に移すと、クリテツ(テルミン、Per、鍵盤ハーモニカ)、元ズボンズのキム(Dr)、元ミドリの劔樹人(B)を迎えたバンド編成でのライブを積極的に展開。同年に3rdアルバム「カラ」を、2009年にはライブ音源をエディットしたフェイクドキュメンタリー的アルバム「ラッシュ」を発表する。そして2011年に全曲バンドレコーディングによる「CALLING」を発売。これと前後して“叙情派轟音ダブバンド”としてその名を広く知らしめ「FUJI ROCK FESTIVAL」「BAYCAMP」「RISING SUN ROCKFESTIVAL」「朝霧JAM」など、大型ロックフェスにも多数招へいされる。2012年、30分2曲のミニアルバム「今日」をリリースし、2013年9月には5枚目のオリジナルアルバム「DOCUMENT」を発表した。