生きていれば大丈夫、青山テルマが自らの人生を表す新アルバム「Scorpion Moon」 (2/2)

再び「自分が聴きたい音楽」を集めたアルバムを作りたい

──そんな中アルバムを完成させるのはかなり大変だったかと思います。「Scorpion Moon」は当初、どのタイミングでリリースする予定だったのでしょうか?

ちょうど1年前に発売する予定だったけど、コロナ禍ということもあり全然インプットする機会がなくて。いつも制作前には3、4カ月海外に行って、いろいろアイデアを練るんです。でも去年は海外に行けないだけでなく、ライブも一切できなくなってしまって。

──この期間、音楽以外の活動にもコロナ禍の影響はあったのではないでしょうか?

暇になっちゃうと思ったんですが、逆にテレビやラジオの出演は以前よりも増えましたね。ありがたいことに忙しかったです。「フリースタイルティーチャー」でMCを担当することもあれば、NHKのラジオ番組に出たり。ただ、休みなく仕事をしていくうち、アルバムのビジョンが浮かばなくなってしまったんです。

──番組出演の機会が増える反面、音楽活動のアウトプットが減ってしまったと。

無理やり作ることもできたけど、それだと中途半端な作品になる予感がして。何度か延期を重ね、最終的に今年の私の誕生日に決まりました。

──「Scorpion Moon」は前半がバラード、後半がヒップホップと、作風を振り分けるような構成になっています。コンセプトはどのような流れで決まりましたか?

今回もとにかく「自分が聴きたい音楽」を作ることに注力しました。曲順はサウンドではなく、歌詞の内容のつながりを意識して選んだら、偶然前半にバラードが固まって。「ちょっと重くなるかな」と思ったけど、通して聴いたらいい感じに締まりましたね。サブスクが普及して、アルバム単位で音楽を聴く人はかなり減ったけど、それでも流れは大事にしたかった。作品全体で「生きているといろんなことがある」ということを表現したかったんです。

青山テルマ

青山テルマ

青山テルマの人生観を示す「Scorpion Moon」

──本作は2人暮らしを始めるカップルの様子を描いたラブソング「1LDK」、嫌がらせをしてくる人に対する怒りを罵るような言葉を交えて表現した「KARMA KATRINA」、落ち込んでいる人に優しく寄り添う「No No No」など、さまざまなシチュエーションが描かれています。テルマさんの人生観を色濃く反映したようにも感じました。

確かにそうかも。「Scorpion Moon」は作品全体のストーリーラインがしっかりしてますね。セフレ関係だと思われる男女について歌った「F ME」があったと思いきや、その次の「BOi ByE」では男への愚痴を言っていたり。でも「KARMA KATRINA」はただ文句を吐露したかったわけじゃなくて、「お前らもナメられるなよ」というニュアンスを込めたかったんです。こういう態度のデカい曲は「Lonely Angel」から必ず1曲入れています。

──「KARMA KATRINA」のように、テルマさんのスタンスを強く表すような曲を入れ始めたのはなぜだったんでしょう?

きれいな雰囲気の曲だけでアルバムをまとめるのに違和感があったんですよね。もっと人間味を盛り込みたかった。だからストレートな表現を用いたり、人生観を強く反映するようになったのかも。「HIGHSCHOOL GAL」も「ナメられるんじゃねえ!」と「楽しんだもん勝ちだよ!」という2つのマインドを込めましたし。「Scorpion Moon」の中では「KARMA KATRINA」が特にその役割を担っていて、ある人に対して中指を立てるけど、本当は「また一緒に笑いたい」という気持ちもある。「相手のことを考えてみて?」と語りかけつつ「マジムカつくけど、また笑いたいよな」という内容に落とし込んでいます。

──ほかには「No No No」の「何度傷つけられても 憎むな」「ヘイトを愛に変えていこう」という歌詞が非常に刺さりました。傷付けられた相手をただけなすのではなく、リスペクトも示しているという。

この曲では「人生ってたまにだるいよね」みたいなヴァースを入れながらも「あいつらにも幸あれ」と人を憎まず、自分への期待も忘れない姿勢を表現しました。このスタンスは普段から考えていることで、今作で描きたかったテーマのひとつでもあります。特にコロナ禍では生きにくさを感じた反面、「生きててよかった」と思える瞬間もいくつかあって。悪いことは起こるけど、いいことも必ずあるから、「生きていれば大丈夫」という思いを伝えたかったんです。

フィーチャリングは1が100になるし、0にもなる

──「Yours Forever」はAisho Nakajimaさんをフィーチャリングゲストに迎えた楽曲になります。先日一緒に生配信も行っていましたが、すごく仲がよさそうでしたね。テルマさんがAishoさんを知ったのはインスタがきっかけだったそうで。

そうそう! 友達がインスタのストーリーでAishoを紹介していたんですけど、すごくいい声をしていて。フォローしたらすぐに「ありがとうございます!」ってDMを送ってくれたんです。

──この曲は2人のどこか憂いのある歌声が絶妙にマッチしていて、とても美しいバラードでした。「Yours Forever」は本作で唯一客演を迎えた曲になりますが、近年のアルバムではあまりゲスト参加曲は入れなくなりましたね。

最近ゲストを迎えるのは慎重になっていて。これまでたくさんの方に参加していただいたり、自分もいろんな曲に参加してきたけど、一時期フィーチャリングゲスト入りの曲がものすごく流行った時期、ありましたよね。

──確かにJ-POPシーンでは2000年代後半ごろ、一気に増えた印象があります。

「そばにいるね」もそうですしね。あの頃は「フィーチャリングを入れれば売れる」みたいな、安易な感じで使われていた気がして。1+1で2になるかもしれないけど、それが100になったり、0になってしまう場合もある。アーティスト同士の相性、お互いの声のなじみ具合によって全然違うと思うんです。

──そんな中、「Yours Forever」でAishoさんをゲストに迎えた決め手はなんだったんでしょうか?

Aishoはまず人として尊敬できるのが大きかったです。でも声の特徴をちゃんと捉えて、その魅力を崩したくなかった。一緒にいろんな曲を聴いたりして、ある程度お互いのことを知ってからオファーしたんです。Aishoの歌声は英語が特に映えるので、歌詞もすべて英語詞にしました。

──「Yours Forever」はクィアアーティストとして活動するAishoさんの力強さと繊細さ、2つの側面が的確に表現されていました。この魅力はテルマさんの歌声にも通ずるものを感じます。

そこまで感じてもらえたらありがたいですね。Aishoに限らず、若い子たちの音楽がもっともっといろんな人に届いてほしいです。音楽シーンは誰でも介入できるから、ジャンルや性別、セクシャリティを問わず、どんな人にとっても自由な場所であってほしい。だからこそ、後輩がさらに活躍できる環境を作っていきたいですね。

いよいよ15周年、青山テルマだからできること

──「life goes on」はテルマさんの幼少期から現在までを赤裸々に振り返るような曲で、シリアスな曲調も相まって非常に印象的な1曲でした。そして「電気消して明日にkiss いい日にしたい」という歌詞で終わり、その次に用意された「生きてるだけでご褒美」がアルバム最後の曲になります。この流れにも「生きていれば大丈夫」というメッセージが込められていますね。

当初は「life goes on」がラストになる予定で、「人生って続くよね」という余韻で締めくくろうと思ったんです。でも「life goes on」は決して明るい曲ではないから、あまりにも悲しい終わり方になってしまって。そのクッションとして「生きてるだけでご褒美」を入れてみたら、「life goes on」だけでなくアルバム後半の流れもきれいに収まったんです。

──「生きてるだけでご褒美」は2年前に発表されたシングル曲ですが、アルバムにも違和感なくなじんでいます。

この曲は発表してからかなり時間が経っていたし、最初は収録するつもりはなかったんです。でもアルバムの最後に入れて、マスタリング作業のときに通して聴いてみたら、もう泣きそうになっちゃって。「こうあるべきだな」とアルバムの完成を実感できたし、ぜひ通して聴いてもらいたいです。

──「Scorpion Moon」はこれまで発表してきた各アルバムの魅力を凝縮しつつ、今のテルマさんのモードを表した作品に感じました。テルマさんにとっても、次の活動への第一歩につながるアルバムになったのではないでしょうか?

まさにこのアルバムから次の活動につなげたい、という気持ちは強かったですね。「HIGHSCHOOL GAL」はライブを意識した作品だったけど、「Scorpion Moon」は「ライブで必ず歌わなくちゃいけない」「必ずこういう曲は入れないといけない」とか、そういう構成を一切気にせず作れたんです。しかもどの曲も素直な気持ちでスラスラ書けた。背伸びせず、プレッシャーを感じず、今までで一番楽しく作れたアルバムかもしれない。制作時間はあんまりなかったですけどね(笑)。

──作り始めるまで難航したとお話していましたからね(笑)。それでも、ご自身が楽しいと思えたのはとてもよかったです。今後の音楽活動はどのようになりそうですか?

来年はデビュー15周年なので、集大成となるライブは行いたいですね。次のアルバムのアイデアもある程度固まっているので、早めに制作できたらいいかな。15年間お世話になった人たちに「続けられてよかったね!」と思ってもらえるものを残したいです。それがどんなものになるかはまだわからないけど、音楽活動だけでなくテレビやラジオへの出演も含め、青山テルマだからこそできることを1つでも多く実現したいですね。

青山テルマ

青山テルマ

プロフィール

青山テルマ(アオヤマテルマ)

1987年生まれ、奈良県出身の女性シンガー。トリニダード・トバゴ人と日本人のクォーター。10歳の頃に歌う楽しさに目覚めてゴスペルを習い始め、12歳のときに家族とともにアメリカのロサンゼルスへ移住した。2002年冬に帰国してからは東京のインターナショナルハイスクールに通いつつ、ボイストレーニングを受ける日々を過ごす。デビュー前より童子-T、DS455、SoulJaらの作品に参加し、2007年9月にシングル「ONE WAY」でメジャーデビューを果たした。同年フィーチャリングゲストとして参加したSoulJaのシングル「ここにいるよ feat. 青山テルマ」のヒットを機に知名度が急上昇し、翌2008年1月にはSoulJaをフィーチャーしたシングル「そばにいるね」をリリース。2012年からはカルチャー、ファッションを題材にしたフリーペーパー「DREAM PAPER」の編集長を務め、音楽以外のジャンルでも活躍。近年はテレビのバラエティ番組への出演でも話題を集めている。2021年10月には9枚目のオリジナルアルバム「Scorpion Moon」を発表した。