蒼井翔太|自分の壁を破って、その先へ

蒼井翔太が10月2日にニューシングル「Harmony」をリリースする。

10月5日(土)放送開始のテレビアニメ「この音とまれ!」第2クールのオープニングテーマとして書き下ろされた表題曲は、大切な仲間との絆をバンドサウンドに乗せてさわやかに歌うアップテンポな1曲。カップリングには、ブラスサウンドが艶やかな世界を描き出す蒼井自身の作詞作曲による「SPOTLIGHT」と、蒼井が出演するオリジナルドラマ「REAL⇔FAKE」のエンディングテーマとなる「Fake of Fake」の2曲が収録されている。

音楽ナタリーではニューシングルの制作にまつわるエピソードをはじめ、自身のブログで吐露した過去への思い、そしてそれを乗り越えたからこそ手に入れた今の蒼井翔太のアイデンティティについてじっくりと話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 塚原孝顕

イメージしたのは“解放”

──新曲「Harmony」はテレビアニメ「この音とまれ!」第2クールのオープニングテーマです。前作「Tone」に続き、2クール連続での主題歌担当となりましたね。

「Harmony」は、前回の「Tone」が持っていた疾走感や青春感を受け継ぎながらも、さらに大きく進化した曲にしようと思ったんです。アニメの第2クールでは登場人物たちのさらなる成長も描かれていくことになると思うので、1人ひとりの個性豊かな“音色(Tone)”が重なって“ハーモニー”として広がっていくような、そんなイメージですね。

──サウンドは流れるようなストリングスを盛り込んだピアノロックといった印象です。

蒼井翔太

はい。「Tone」はダンスチューン寄りのサウンドだったので、今回はまたいい意味で違った印象を与えられるんじゃないかなと思います。バンドサウンドになったことで、さわやかさがより強くなったところもありますし。箏の音色を使ったのもポイントですね。

──「この音とまれ!」は箏曲部の物語ですからね。

「Tone」のときはサウンドとのマッチングを考えてあえて使わなかったんですけど、今回はバンドサウンドだから絶対に箏の音を入れたかったんです。ギターやベース、ストリングス、そして箏というさまざまな弦楽器の音が交じり合うところもこの曲の魅力だと思います。

──歌に関してはどんな思いを持ってレコーディングに臨みましたか?

この曲は基本的に主人公の(久遠)愛くんをはじめとした時瀬高校箏曲部のみんなのことが描かれているとは思うんです。ただ、2番のAメロでは僕が演じさせていただいている(神崎)澪くんの要素がちょっと汲み取れたところがあって。なので、そのパートに関しては、ほんの少し澪くんっぽさを出させていただきましたね。まあでも全体的には疾走感のあるバンドサウンドに乗って、歌詞のメッセージをしっかり届けるということを考えてはいたかな。きれいに歌うだけではなく、感情を大事にしながらいつも以上に喉をかっぴらいて歌ったというか。イメージしたのは“解放”という感情です。

──解放ですか。それは具体的にどんな感情なんでしょう?

最初に言ったように「Tone」からひと回り大きく進化した曲にしたかったわけだから、今までの自分のまま歌ってもダメだと思ったんです。だからこの曲から受け取ったイメージを解放して、歌い方も解放して、自分の想像以上の境地、世界、空間を目指したかったんですよね。例えばサビで声を伸ばすところなんかにしても、いつもだったらここまでだなというなんとなくのイメージがあるんだけど、今回はそれ以上、もっともっと先まで声を響かせるように意識したんです。それは言い換えるならば、自分の壁を1つ破ったということでもあるし、これまでの自分を包んでいた薄い皮を1枚脱ぎ去ったということになるのかもしれないですね。

自分を貫き通す覚悟

──今回ほど強くは意識されていなかったのかもしれないですけど、これまでも蒼井さんは楽曲ごとにご自身の中にあるさまざまな可能性、才能を解放してきましたよね。毎回違った表情を見せてくれていますから。

ああ、確かにそうかもしれないですね。完全に“蒼井翔太”じゃなくなってしまうのはダメだとは思いますけど、それぞれの楽曲が持つ色に思い切り染まって歌うことがすごく楽しいし、好きなんです。楽曲を自分色に染めていくというやり方もあるんでしょうけど、僕の場合は曲に染まることでいろいろな“蒼井翔太”を見せていきたい願望が強いというか。

──それはどんな曲の色に染まったとしても、蒼井翔太としての核が揺らがないからできることでもありますよね。

うんうん、確かにそうかもしれないですね。僕がいつも思うのは、たくさんの声優アーティストの方がいるシーンの中で、誰も見たことのない花を咲かせていきたいなということなんですよ。だからいろいろな楽曲に染まっていくことで、自分だけにしか咲かすことのできない花を見つけようとしているというか。

蒼井翔太

──その結果、浮き彫りになる蒼井さんの唯一無二の個性こそが、アーティストとしての重要な核になっているのは間違いないと思います。

みんなを驚かせたい、驚いてもらいたいという気持ちは強いけど、憧れられたいみたいな気持ちは一切ないですからね。むしろ僕の場合、簡単に目指されても困るようなことをしているところもあるし(笑)。そういう意味ではほかにはいないのかも。

──ほかの人じゃ目指しようがないポジションにいるというか(笑)。

そうそう(笑)。もちろん僕が歩いてる道はまだまだすごく細いものだし、僕なりのアイデンティティを貫き通すことは綱渡りのような感覚でもあるんですよ。でも、生まれてきたときから僕は僕でしかないわけですからね。それを貫き通す覚悟が今はあります。そこが僕の揺るがない核、前に進んでいく理由になっているような気がしますね。