会って話してる自分が一番リアル
──ここからは、昨年9月発表のデジタルシングル「18の東京」を皮切りにスタートした、7作品連続配信リリース企画のお話を。最初に7作連続リリースと聞いてどう思われましたか?
すごく楽しみでした。「キミとボクの歌」(2021年2月発表)以来、約7カ月ぶりのリリースだったし、それまでいい意味で立ち止まって、いろんなものと向き合うことができたので。だから7作連続リリースでは、これまでの安斉かれんとは違う側面を一気に見せたいなと思ってました。
──現在連続リリース真っ只中ですが、すでにどの曲も安斉さんの新たな一面を見せてくれていて、とても聴き応えがあります。
うれしい! ありがとうございます。私も制作現場で新しい曲に出会うたびに「いいじゃん!」と思ってました。第1作「18の東京」の歌詞は、18歳で上京してきた人をイメージしながら書いたんですけど、私自身も18歳で上京したので、作詞しながら自分がだんだん東京に染まっていく感じを思い出しましたね。
──第2作「夜は未完成」は、アレンジにAwesome City Club「息させて」や伶「宝石 feat. 幾田りら」などを手がけたサウンドプロデューサー / シンガーソングライターのESME MORIさんが参加。そして12月15日に配信リリースされたばかりの第3作「現実カメラ」は、イギリスのポップアイコン・チャーリーXCXさん、Rina Sawayama「Chosen Family」を手がけたダニー・L・ハールさんも制作に参加しています。
チャーリーXCXさんが曲を作ってくれるという話は1年ぐらい前から聞いていたので、ずっと楽しみにしていました。音源を聴いて、音数がすごく多いキラキラした曲だなと思ったので、詞も曲の世界観に合わせてかわいらしく仕上げました。
──80's風な音色が心地いいミディアムエレクトロポップですが、タイトルの「現実カメラ」というユニークな言葉にはどんな思いが込められているんですか?
これはスマートフォンの無加工カメラという意味で。現実そのままを写し出すカメラと、今流行ってる加工アプリとのギャップに戸惑う女の子のことを書きました。最近はインスタに出てくるキラキラした光景を見て病んじゃう子もいるって聞いて。例えば今日はクリスマスイブだけど(取材は2021年12月24日に実施)、クリスマスに1人ぼっちでいる人にとってはキラキラしてる人のSNSを見るのがつらい、みたいな。でも、それは当たり前で、みんなSNSにはキラキラしてるところしか載せないんだもんって話なんですよね。顔も何もかも加工してるし。そういう現実とSNSの境目が曖昧になっているところを書いてみようと思ったんです。
──なるほど。「“あなた”のシャッターだけ押しておいてよ」というフレーズが印象的でした。
この「“あなた”のシャッター」はカメラとかSNSじゃなく、心の目みたいなもので。やっぱり実際に会って話してる自分が一番リアルじゃないですか。「リアルな私のことは、大切なあなただけがわかってくれればいいよ」って意味です。
──今回の連続リリースでは、楽曲ごとに異なるイラストレーターの方とアートワークのコラボレートをしているのも見どころの1つです。「18の東京」では、YOASOBI「夜に駆ける」のキービジュアルを担当した古塔つみさん、「夜は未完成」では植物や建物のある風景に定評ある森田ぽもさんとご一緒されていましたね。
私はもともと絵も好きで、普段から美術館に行ったりイラストレーターさんたちのインスタを見たりしていたので、イラストを描いていただくというアイデアが上がったときは「やった!」みたいな(笑)。曲ごとに毎回イラストレーターさんが私を描いてくださるんですけど、その絵も私の特徴を捉えていながら、それぞれ描き方が全然違うんです。それがまた面白くて。
──「現実カメラ」のイラストは、サイバーパンクな画風で注目を集めるがーこさんが担当。楽曲のテーマに合わせて、リアルと“ミラーワールド”にいる2人の安斉さんが描かれています。
がーこさんのイラストは、かわいさとポップさとカッコよさがあって……いいところを挙げたらキリがないくらい、とっても魅力的で。「現実カメラ」のMVには実写の私も登場してるんですけど、ツインテールに初挑戦してみたんですよ。今まで表に出したことなかったので、それも新鮮でした。
安斉かれんのワードセンス
──そして1月19日リリースの第4作「一周目の冬」は、今の季節にぴったりな、柔らかいラブソングですね。
まずこの曲を聴いたとき、優しい感じの曲にしたいなと思ったんです。タイトルの通り、付き合って1年も経ってないぐらいのカップルが一緒に迎える初めての冬をイメージして。2人が過ごしている日常を切り取ったような歌詞にしようと考えました。
──「二人この季節には 広すぎているこの部屋で 毛布の取り合いをしたり」とか「いつも集め続けた 冷蔵庫のステッカー 一つ、二つ、増えて 日常が今日も温かい」といった描写ですね。
ドラマとか映画のワンシーンでそういう光景が出てくると素敵だなって思うし、日常感あふれる曲にしたかったんです。だから歌詞の中に素朴な単語を入れるように意識して。結果、全体的に曲がすごく丸くなったんじゃないかなと思ってます。
──幸福感があふれていると思います。ちなみにこういったラブソングの歌詞には、安斉さんご自身の恋愛観も反映されていますか?
そうですね。反映されるときもあるとは思うんですけど、まったくの妄想で書くこともあります(笑)。
──なるほど。この曲もESME MORIさんがアレンジで参加されていて、J-POPでは珍しいストリングスの使い方を聴かせてくれます。全体的にJamiroquaiの「Virtual Insanity」で有名なリズムパターンなので、懐かしく感じるリスナーもいるでしょうし、きっと広い世代に響くと思います。
そうだったらうれしいですね。歌詞に関しても、そんなに飾ったことは書いていないので、多くの方に共感していただける部分があると私も思っています。きっと長年付き合っている恋人たちって、相手と迎えた1周目の季節のことや、そのときの感情を忘れてしまっているんじゃないかな。なのでこの曲を聴いて、当時の気持ちに戻って思い出してもらえたらいいなと思いました。
──ちなみに“1周目”という言い方は、安斉さんの世代では普通に使うものなんですか?
どうなんですかね? 私、同世代の人たちともけっこうずれてるんですよ、ワードセンスが(笑)。
──いや、いいセンスだと思いますよ。“1年目”や“1度目”という言葉よりも、見えてくる景色が違う感覚がありますから。
よかった……(笑)。「これから何周も一緒に繰り返していきましょう」という気持ちを込めました。
バラバラな作品の中で探す新たな自分
──さて7作連続リリース企画も折り返し地点に来ましたが、現時点で振り返ってみていかがですか?
もともとこの連続リリースには、“安斉かれん第2章”として、これまでの安斉かれんっぽさをいい意味で壊していこうという思いがあって。だから意識的に、7作すべてバラバラなテイストで新しいことをたくさんしていこうと思っているんです。ある意味、自分探しみたいな感じ。まだまだやれることはたくさんあるし、ビジュアル面でも初めての髪型やスタイルにも挑戦していきたい。どんどん新鮮な私を出していきたいなと思っています。
──残り3作にも期待が高まります。コロナ禍に突入してからの2年間、思うように動けなかった場面もあったと思いますが、2022年の活動の目標は?
やっぱり一番は、ファンの方と直接会える機会が欲しいですね。実は私、ちゃんとしたライブをまだ1回もしたことがないので。みんなが安心して会いにきてくれるように、早くこの状況が落ち着けばいいなって思います。
──安斉さんのライブパフォーマンス、どういった形になるのかとても気になります。真夏の野外フェスでも観てみたいですが、体力には自信があるほうですか?
真夏のステージでも、歌うのはたぶん大丈夫なんですよ。でもダンスは……レッスンがあまり好きじゃないので(笑)。
──歌うことが好き。いいですね。そういえば、このインタビュー前、外での撮影時にB'zさんの「いつかのメリークリスマス」をずっと口ずさんでいらっしゃいましたね。
今日はクリスマスイブだし、つい歌っちゃいました(笑)。あの曲、すごくハマったんです。
──意外です。安斉さん、世代じゃなくないですか?
はい。最近初めて知りました。もともと私はクリスマスが大好きなんですけど、サブスクでクリスマスソングのプレイリストを流していたときに聴いて。歌詞では悲しいことを歌っているけれど、メロディがいいなと思って好きになりました。で、ハマったら同じ曲をずっと聴いちゃうタイプなので、リピートしまくってました(笑)。
──知らない曲とはプレイリストで出会うことが多いですか?
そうですね。プレイリストとか、YouTubeの関連動画に出てきて、とか。サジェストされたものの中から、自分が好きそうなものをパパパッと見てますね。探し始めると止まらなくて、途中で「あれ? どこから飛んでここにたどり着いたんだっけ?」みたいにわからなくなることもあります(笑)。
──音楽を直感的に楽しんでいるし、本当にお好きなんですね。ちなみに2022年はどんな音楽が世の中で聴かれると思いますか?
うーん、どうだろう? あまりワイワイしたキャッチーな曲じゃないほうが流行るんじゃないかなと思います。今の子たち、すごくおしゃれだから。私も昔のJ-POPっぽいものよりも、洋楽っぽさも感じられる曲のほうが好きなんです。BLOOM VASEさんとかは1曲目を出したときから気になってましたし、¥ellow Bucksさんもそう……なんとなくですけど、音の波がない曲のほうが、今の子たちは好きなのかなと思います。
──それはどうしてだと思いますか?
たぶん、バックに流しておきたいんでしょうね。何かしているときに聴ける音楽というか。実際に今は、Aメロ、Bメロ、サビとか、1番、2番とかなく、サビもメロも全部一緒、あんまり構成に境目がない曲が増えているし、人気になっているような気がします。優里さんの「ドライフラワー」とか、瑛人さんの「香水」は、ちゃんとした“歌の曲”って感じで、また別だと思うんですけど。
主人公になったつもりで
──作品をリリースする際、TikTokでの反響などは意識しますか?
一時期はしてましたけど、何がバズるかは本当にわからないので、今は意識してないですね。バズる曲って最新曲だけじゃなくて、リリースされたのが8年前の曲だったりすることがあるので、法則性があんまりわからないし。それに、バズることばかりに集中するのも、あまりよくないなって。バズる曲を作れる人がいるというよりは、曲を発見してそれを広めてくれる人がいるかどうかの話だと思いますし。
──なるほど。コロナ禍以降、作詞をするうえで変化はありましたか?
コロナ以前は自分の体験を歌詞に書くことが多かったんですけど、最近は家で映画を観て、その主人公になったつもりで詞を考えることもあります。映画の話を思い浮かべて「私だったら、こんなことを思うだろうな」と感情を想像したり、続きのストーリーを考えたりして歌詞を書くことが多いですね。
──映画はたくさんご覧になってるんですか?
めっちゃ観てます。ジャンル問わずですが、海外の作品が多いですね。最近は「ハリー・ポッター」シリーズを最初から観ていて、やっと5作目まで来ました(笑)。先日ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行ってアトラクションに乗ったのがきっかけだったんですけど、もともと「ハリー・ポッター」シリーズのことは好きで。ちっちゃいときに本も読んでたし、音楽も好きでエレクトーンで弾いたりしてたんです。だけど当時は子供だったから、ちゃんと内容を理解できていなかったんですね。今観ると、「こんなに面白かったんだ」と思って。
──ちなみに映画の中で一番好きな作品は?
一番は「ショーシャンクの空に」。私、脱獄ものが好きなんです。
──脱獄もの!(笑)
あと「千と千尋の神隠し」が大好きすぎて、セリフをほとんど言えます。いつかアニメ映画の声優もやってみたくて。主役じゃなくて、ちょっと出てくる役が理想で、「千と千尋」だったら絶対に青蛙役がいい。
──いつか安斉さんがアニメ作品に参加する日を楽しみにしています。最後に、2022年はどんな1年にしたいですか?
2022年はギターを始めてみようかなと思っています。ギターは持ってるんですけど、爪が長かったので全然弾いていなかったんです(笑)。アコギが弾けると曲も作りやすくなるかなって。2022年、とにかくいろんなことに挑戦して、いい年にしたいですね!
プロフィール
安斉かれん(アンザイカレン)
1999年8月15日生まれ、神奈川県出身の歌手。2019年5月リリースのデジタルシングル「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」でメジャーデビュー。以降コンスタントに作品を発表する傍ら、2020年4月から7月まで放送されたテレビ朝日とABEMAの共同制作ドラマ「M 愛すべき人がいて」にて主人公・アユ役を演じ、大きな話題となる。2021年9月より7作連続配信リリースを行っており、同年12月に第3作として「現実カメラ」、2022年1月に第4作として「一周目の冬」をそれぞれ発表した。
安斉かれん (@kalen_anzai) | Twitter