安斉かれん「現実カメラ」「一周目の冬」インタビュー|色とりどりの音楽、新しい自分との出会い

安斉かれんの新曲「現実カメラ」が昨年12月15日、「一周目の冬」が1月19日に配信リリースされた。

2019年にメジャーデビューを果たし、2020年放送の連続ドラマ「M 愛すべき人がいて」で注目を浴びた安斉。以降テレビや雑誌などさまざまなメディアで活躍する傍ら、自身の作品をコンスタントに発表してきた。「現実カメラ」と「一周目の冬」は2021年9月に始動した7作連続配信リリース企画の一環として発表された楽曲。シリーズ第3作「現実カメラ」にはイギリスのアーティスト・チャーリーXCX、音楽プロデューサー / 作曲家のダニー・L・ハールら、第4作「一周目の冬」には編曲でESME MORIが参加している。

音楽ナタリーでは「現実カメラ」「一周目の冬」のリリースを記念して、安斉本人にインタビュー。ナタリー初登場となる彼女に、自ら作詞を手がけた2曲にまつわるエピソードや、音楽観のルーツ、いちアーティストとして今後挑戦していきたいことなどを聞いた。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 岩澤高雄

原体験はThe Rolling Stonesのライブ

──音楽ナタリーに登場いただくのは今回が初めてなので、まずはこれまでの足跡を振り返っていければと。安斉さんは音楽に囲まれたご家庭で育ったそうですね。

はい、小さい頃からエレクトーンとかお囃子を習っていました。父が趣味でギターを弾いていた影響で私もロックを聴くようになって、中学に入る前くらいに人生で初めてライブに連れて行ってもらったんですが、それがThe Rolling Stonesのライブだったんです。そこでバックバンドの方がサックスを吹いている姿を見てカッコいいなと思って、中学の部活でサックスを始めました。

安斉かれん

安斉かれん

──そのライブでサックスを吹いていた方って、1950年代から第一線で活動していたボビー・キーズだと思うんですけど、彼は数々の名演で知られる“6人目のストーンズ”と呼ばれた男ですよ。お目が高い。

そのときは何も知らなかったんですけど、ひと目見てボビーのこともサックスのことも大好きになりましたね。サックスは今でもたまに吹いてます。一時期、将来はサックスのインストラクターになりたいと思っていたくらい熱中していたんですけど、進学した高校の吹奏楽部の部員が8人しかいなくて(笑)、これじゃ大会に出られないなとあきらめました。でも音楽にはずっと関わっていきたかったので、そこから歌をやってみようと。で、avexのアカデミーに通い始めたんですけど、そこでたまたまプロデューサーさんに出会って、その場で「歌ってみなよ」みたいな感じで。

──そのとき歌った楽曲は覚えていますか?

大原櫻子さんの「瞳」でしたね。当時私の周りですごく流行っていた曲。洋楽ばかり聴いていてそんなにJ-POPの曲を知らなかったんですけど、洋楽っていきなり歌えないじゃないですか。だから唯一知ってる櫻子さんの曲を歌いました。

──なるほど。ちなみに安斉さんの世代だと配信やサブスクで音楽を聴く人が多いと思いますが、CDで聴くことは?

CD買ってますよ! あと私、レコードがめっちゃ好きで、今も集めてます。新宿のレコードショップにふらっと探しに行ったり、大好きなOasisのレコードを買ったり。あと最近ハマってるのは、ジャケ買い。ジャケットがかわいいレコードを見つけて、どんな曲なのか調べずに買って家で聴いてます。かけてみるまで中身がわからないのが、逆に楽しくて。

──どんなレコードのジャケットがお気に入りですか?

(スマートフォンを取り出して)インスタにもあげたんですけど、これとか。

──Superchunk(1989年、アメリカ・ノースキャロライナ州チャペルヒルで結成されたインディロックシーンの重鎮バンド)の「AF (Acoustic Foolish)」!

私、犬を飼ってるんですけど、このジャケットの犬がとにかくかわいいなと思って。家に帰って聴いてみたらヤバかったです(笑)。こういう音、大好きですね。

「出てみる?」「いいよ!」

──安斉さんは2019年5月にシングル「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」でメジャーデビューされました。令和元日にデビューすることが決まったとき、どう思われましたか?

デビュー日、覚えやすいなって(笑)。デビューの時点までにデモを100曲くらい作っていたんですけど、「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」はその中の1曲だったので、発表できてうれしかったですね。

──作曲はBOUNCEBACK、作詞は安斉さん自身です。デビュー曲でいきなり詞を書くのは大変じゃなかったですか?

全然苦じゃなかったです。難しいときもありますけど、基本的に作詞は好きです。

──これまでの楽曲の歌詞を拝見していて、安斉さん独特の言語センスを感じます。小さい頃から文章を書くのは好きだったんですか?

いえ、全然。本も読まないんです。眠くなっちゃうから(笑)。16歳で歌を始めるとなったときに、「歌うんだったら自分の歌詞かな」くらいの気持ちで作詞を始めました。その頃から自分が思ったことをiPhoneのメモに書くようにしていて、今でもそこから引っ張ってきて歌詞を考えている感じです。

──安斉さんの名前を一躍有名にしたのが、2020年4月期のドラマ「M 愛すべき人がいて」。1990年代激動の音楽業界を描いた作品で、いきなり三浦翔平さんとのダブル主演を務め、俳優デビューを果たしました。

これも、「(ドラマ)出てみる?」「いいよ!」みたいな感じで(笑)。それまで自分が演技に挑戦するなんてまったく想像してなかったんですけど、ドラマに出させていただけることはありがたいことだし、何より楽しそうだったので、やらせてもらいました。出演が決まってから半年くらい演技のレッスンに通ったんですけど、その時間も含め、いい体験になりましたね。実際ドラマの反響もすごかったですし、自分としてもいろいろ勉強になりました。

──同時期にリリースされた“リバイバル”をコンセプトにしたコンピレーションアルバム「avex revival trax」では、m-floの「come again」をカバーされています(参照:lol、Beverly、FAKY、FEMM、Yup'in、安斉かれんがavexヒット曲を“リバイバル”)。原曲が発表されたのは2001年なので、安斉さんが生まれて間もない頃の曲ですが。

「come again」のカバーもめっちゃ楽しかった! 音楽活動を始めるまで、あまりJ-POPを聴いてこなかったので、私の中では全然“新しい”って感じです。

安斉かれん

安斉かれん

できなかったことは、またいつかできればいい

──5作目のシングル「僕らは強くなれる。」(2020年7月発表)は、コロナ禍で中止となった「第102回全国高等学校野球選手権大会」の代替として各地方高野連が開催した都道府県別大会のテーマソングでした。ミュージックビデオでの京都橘高校吹奏楽部とのコラボレーションも話題になりましたね。

私も吹奏楽をやっていたので、曲にマーチングの音が入っていたのはすごく感動しましたし、懐かしい気持ちにもなりました。京都橘高校の皆さんがブラスバンドで演奏してくれて、MVの撮影のときも、皆さん夏休みの貴重な時間を削って協力してくれてると思うと、「本当にありがとうございます!」という気持ちでした。

──この曲の「現在(イマ)は未来(サキ)が見えないとしても 掴み取るまでは戦い続けよう 積み重ねてきた日々 大丈夫 裏切らないよ」という歌詞が、奇しくもコロナ禍と重なるようで。安斉さん自身も悔しい思いをされたんじゃないですか?

うーん、悔しい瞬間はあっても、そう思うのもみんな一緒だから全然大丈夫です。私1人だけそういう状況なら落ち込むけど。「しょうがない」「できなかったことは、またいつかできればいいな」って。

安斉かれん

安斉かれん

──6作目のシングル「GAL-TRAP」(2020年9月発表)は安斉さんが初めて作曲とプロデュースに携わった、記念すべき1曲です。

それまでの曲とはガラッと雰囲気が変わりました。制作自体はスタジオにこもって遊びながら作る感覚で、楽しくやらせてもらった感じです。最初からこういうことをやろうと決めていたわけじゃなく、「こういうメロディはどう?」「じゃあ、とりあえず1回作ってみようか」みたいなノリで、やりとりをして。完成した曲がよかったから、「これリリースしてみようよ」という話になりました。

──サウンドが安斉さんにとても合っているなと思いました。エレクトロポップな部分もありつつ、ヒップホップのトラップをこんなふうにかわいらしく歌う曲って、今まであまりなかったですし。

うれしいです。私自身もこういう系の曲は好きですね。まだ「GAL-TRAP」でしか作曲に参加していないんですけど、これからもクリエイターの方と一緒に曲を作っていきたいなと思っています。自分でもたまに家でちょっとやってみたりしますけど、DTMは難しいですねー。