音楽ナタリー PowerPush - angela

すべては「K」のために

KATSUが提唱!「エリーゼのために」理論とは

──「K」というアニメに対してはもちろん、制作陣にまで愛情を傾けた「Different colors」が、「K」ファンでない人もいるだろうangelaファンをなぜ踊らせられるんだと思います?

KATSU それはたぶん「エリーゼのために理論」で作られた曲だからなんだと思います。

atsuko 何それ?

──あれっ? グループ内でその理論が共有されてないみたいなんですけど(笑)。

atsuko あはははは(笑)。で、どういう理論なの?

KATSU(G, Key)

KATSU これは僕の経験則から生み出した理論なんですけど、多くの人に愛される音楽って実は「for one」っていう気持ちで作られたものだと思ってるんです。というのも、インディーズ時代、まだ僕らが路上でライブをやっていた頃、そのライブを観ていたある人から「実は最近友達が亡くなったんだけど、ソイツのために曲を書いてくれないか」ってお願いされたことがあって。その人が言うには「その友達はオレと音楽センスが似ている」「で、オレはお前たちの音楽が好きだから、きっと友達も好きに違いない」……。

──「だから手向けの歌を書いてくれないか」と。

KATSU ええ。それって売れるための曲じゃないじゃないですか。「売れたい」「デビューしたい」みたいなモチベーションで書いた曲じゃない。本当にただ1人、誰かのために書いた曲なんです。でもその曲でオーディションに出ると必ず通るんですよ。それまで落ちに落ちまくってたのに。そういう経験があるから、野心や邪心抜きに、誰かを思いながら書いた曲のほうが実は多くの人に受け入れられるんじゃないかって思ってるんです。

──ベートーベンがまさに“エリーゼさんのために”書いたであろう「エリーゼのために」が全世界の人に愛される1曲になったように。

KATSU サザンオールスターズさんの「いとしのエリー」なんかもそうですよね。だからメジャーデビューしてからも実は「多くの人に受け入れてもらおう」とか「これでファンを増やそう」みたいな気持ちでは書いてないんです。アニメのテーマソングを担当させてもらうことが多いから、基本的に曲はその作品のためのもの。前のシングル「シドニア」なら「シドニアの騎士」っていうアニメのためだけに書いたんだけど、そうすると「シドニアの騎士」ファン以外の人たちからも面白がってもらえるんですよね。

「小松未可子のために」、そして「ネコのために」

──カップリングは小松未可子さんに提供したテレビアニメ版「K」のエンディング曲「冷たい部屋、一人」のセルフカバーバージョン。まさにこの曲を発表するタイミングで小松さんを取材したんですけど(参照:小松未可子「冷たい部屋、一人 / 夏至の果実」インタビュー)、そのとき小松さんは「新曲はワルツです」とは聞いていたけど、ここまでオーケストレーションを効かせた本気のワルツを作ってくるか、ってビックリしたと言っていて。

左からKATSU(G, Key)、atsuko(Vo)。

atsuko あはははは(笑)。この曲を作ってるとき、我がことながら「ほかのアーティストさんのシングル曲を3拍子のバラードにするってすごいな」って思ってました。

KATSU マイナーでテンポの遅い3拍子ってちょっと不気味だしね(笑)。

atsuko 途中で女の子たちが「ランララランラーン」って歌い出したり、なんか不思議というか、いい意味で気持ち悪いよね(笑)。

──なぜその“いい意味で気持ち悪い”曲を小松さんに?(笑)

KATSU 「エリーゼのために」理論でいうと、この曲って“小松さんのため”の曲というよりも、小松さんが「K」の中で演じている“ネコっていうキャラクターのため”の曲なんですよね。ネコっていうのは、「K」の世界で絶大な力を発揮する「王」でもなければ、王のために戦う「クラン」でもないし、普通に街で暮らす一般の人々でもない。王のなり損ないの「ストレイン」って言われる存在。どこにも属していないし、属せない人なんです。

atsuko しかも外の世界にはいろんな人がいっぱいいて、みんな明るく暮らしているのに、「K」の主人公のシロに出会うまでは、まさに“冷たい部屋”で“一人”ヒザを抱えてたんですよね、小松さん……じゃなかった(笑)、ネコは。

KATSU そういう人のことってなんて言えばいいんだろう?って考えたときに出てきたキーワードが“異国の人”。それも“どこにいても異国の人”。彼女がいるべき場所は日本でもなければ、アメリカでもないし、ヨーロッパでもないんですよね。

atsuko でも「じゃあどこだ?」って聞かれると……。

KATSU わからない。ここではないことはわかってるんだけど。そういう不安定な存在を描くなら、割り切れる4拍子じゃないだろうなってところから作曲が出発して、だんだんイメージが膨らんでいった感じですね。

atsuko あと、常にチャレンジを続けて新しい引き出しを開けたいなとは思ってるので。だからダークなワルツに挑戦してみたっていう面もあります。常に「何かしよう、何かしよう」って思いながら生きていくのと、「なんかこのままでいいや」って生きていくのでは、その先の未来って当然変わってくると思うので。であれば私たちは“何かしたい”。その先に何が待っているのかはわからないんだけど、そこに広がってるのが誰も見たことのない景色であることだけは間違いないじゃないですか。だったら、その景色を見てみたいんですよね。

angela(アンジェラ)
angela

岡山県出身のatsuko(Vo)とKATSU(G, Key)による2人組ユニット。それぞれ音楽を志し上京したのち結成し、2003年、テレビアニメ「宇宙のステルヴィア」のオープニングテーマ「明日へのbrilliant road」でメジャーデビュー。1stシングルながらオリコン週間シングルランキングで15位をマークし、瞬く間にアニメソングシーンで存在感を示すこととなる。以来「蒼穹のファフナー」シリーズ、「アスラクライン」、「K」シリーズなど、多くの人気アニメの関連楽曲を担当。また「Animelo Summer Live」やアメリカの「SAKURA-CON」、カナダの「CANADIAN NATIONAL EXPO」、フランスの「Japan Expo」など、国内外の大型アニメ系イベントにも多数招へいされる。2014年5月には11周年第1弾作品としてシングル「シドニア」、ベストアルバム「宝箱2 -TREASURE BOX II-」、同作と2007年のベスト盤「宝箱 -TREASURE BOX-」の楽曲を収録したBDM(Blu-ray Disc Music)盤「宝箱と宝箱2が入ったブルーレイで聞くやつ」を同時リリースし、その2カ月後となる7月には劇場版アニメ「K MISSING KINGS」の主題歌「Different colors」を発表した。