「prompt αU」所長・PIEDPIPERインタビュー|テクノロジー×コンテンツで生み出すエンタテインメントの新たな可能性 (2/2)

展覧会「prompt αU」の見どころ

──では、展覧会の具体的な内容や見どころについてお聞かせいただけますか?

個人的には、まず会場が面白いと思うんですよ。ベルシュカ渋谷店の跡地をリノベーションした会場で開催するんですけど、もともとの建物の質感を生かす空間デザインを施したことによって、ちょっと怪しい雰囲気になっていて。廃墟……と言ってしまうとアレですけど、一度閉鎖された空間ならではの独特なムードを味わえるんです。

──展示内容はもちろんだけど、まず会場自体が空間として面白いものになっているんですね。

そうです。そこはぜひ注目していただきたいですね。

──先ほどから話題に上がっているイマーシブライブについて、もう少し詳しく教えてください。実際の会場でどういうふうに鑑賞できるものなのか、いまいち想像がついていないんですけども……。

今回の展示で最もスペースを広く取っているのがイマーシブライブのコーナーになっています。ワンフロア全面を使って、いくつもの大画面モニタを点々と配置しまして、そこで10分尺くらいのライブ映像がループ再生されているイメージですね。そのうち半分がte'resa、もう半分が花譜のイマーシブ映像になる予定です。で、それぞれのモニタにスマートフォンとヘッドフォンが接続されていて、そのスマホを操作することで自由視点でのライブ鑑賞を体験してもらえる……という形になると思います。

──なるほど、スマホと大画面モニタを連動させるんですね。

本来は「スマホでバーチャルライブを体験できますよ」というサービスを想定した技術なんですけど、それだけだと展覧会の展示としてはちょっと地味なので(笑)。

──確かに(笑)。そして、資料にあるものでいうと「VH(バーチャルヒューマン)花譜」という展示がとても気になります。

バーチャルシンガーとして活動している花譜をVH化した、新たな3DCGモデリングのアバターを展示します。今までの花譜のビジュアルは、どちらかと言うとアニメ的な、セルルックな表現でしたよね。ファンの皆さんにはその姿に愛着を持ってもらってきたんですが、VH化することによって、例えばファッション性の高い活動であったり、リアルのアーティストとのコラボレーションなどがやりやすくなる。そういう新しい可能性を増やす試みの第一歩という感じになります。VHとしての活動はまだ手探りなのですが、ビジュアルに関してはかなり意外性があると思うので、ぜひ見ていただきたいですね。

──展示の形としては? モニタが置いてあって、ある意味美術館で絵を観るような感覚で鑑賞できるイメージでしょうか。

そうですね。あともう1つ、te'resaをバーチャルシンガーとリアルアーティストに分岐させる発表をここで行います。リアルのほうはエレナという本人名義でアーティストとしてリスタートし、バーチャルのほうは音声合成ソフトウェア形態に移行して、いわばAI化していくことになるんです。これもぜひ見てほしいですね。

──今さらっとおっしゃいましたけど、けっこうな重大発表ですよね(笑)。それも映像として展示される?

まずはそうです。それから……MRっていうんですけど、3Dフィギュアなどの展示コーナーもありまして。そのMR体験もけっこう面白いんじゃないかなと思ってます。

──それは、いわば彫刻を観るような感覚で楽しめるものと思っていいですか?

彫刻というよりは……そうだなあ、ARとかに近い感じですかね。Meta Quest的なヘッドセットを装着することで、現実空間の中に3Dグラフィックが合成されて見えるっていう。それがMixed Reality=MRという概念なんですけど。今回の展覧会のバーチャルアンバサダーであるV.W.Pのデジタルフィギュアであったり、いろんなグラフィックアーティストとコラボレーションした作品などを楽しめる一角になっています。

これが完成形ではない

──ほかにもさまざまな展示が用意されていますが、目玉になりそうなのはおおむねそのあたりですかね?

そうですね。あとは、展覧会のテーマソングになる「あるふぁYOU」という曲が重要かもしれない。すでに公開している「あるふぁ」(カンザキイオリ feat. 可不)と「YOU」(カンザキイオリ×雄之助 feat. 可不)という2曲が合わさったものなんですけど、これが花譜とEMA(DUSTCELL)の初コラボレーションになるんですよ。両者ともにうちの所属アーティストで、けっこう長いこと活動してきている者同士なんですけど、基本的にDUSTCELLとバーチャル系アーティストが交わることはこれまでなかったんです。それが、今回はちょっと特別なイベントということもあって初めての掛け算に挑戦するので、これもすごく見てもらいたいところではありますね。

──そのミュージックビデオが会場で流れるわけですか?

そうです。まず展覧会の中で観ていただいて、会期が終わったらYouTubeなどにも公開しようかなと思っています。つまり会場ではひと足先に観られることになるので、それを目当てに来たいと思ってくれる方もいるかもしれないですね。

──いろいろと解説いただき、ありがとうございました。prompt αUとしては、今後もそうした最新技術とエンタメを掛け合わせた新しい見せ方を恒久的に模索していくことになるわけですよね。

もちろんこの展覧会が終わったあとも、αU researchチームとKAMITSUBAKI STUDIOのコラボレーションは続けていきます。今回の展覧会でお見せできるものは現在地に過ぎないので、これが今後どういうふうに拡張されていくのか、どんな新機能が追加実装されていくのかは、ちょっと僕もまだ言いきれない部分があるんですけど……「これが完成形ではない」ということは言っておきたいですね。技術というのは日々進化していくものなので。

──この展覧会は「未来の一端を体感しに来てよ」という場ですもんね。

そうですね。あまり普段自分たちがやらないような立地での開催ということもありますし、さっきも言ったように印象的な空間での本格的なエキシビションになっているので、まずは来てもらって、見て、体験していただきたいです。

花譜コメント

花譜

自身のイマーシブライブの感想

もともと私のライブは何度観ても、観れば観るほど微細な、緻密な作りに気付けてとても楽しいと思うのですが、ここでは自分の観たい角度に好きなときに変えられて、さらにその探索意欲が湧くと感じました! ほかにも、カメラマンに自分がなれるみたいな体験もできて楽しかったです!

バーチャルヒューマン化した自身の感想

現実世界でお洋服を変えるように、姿をいくつも持てる可能性があるということは、バーチャルな者の特徴であって、すごく面白いと思います。人が見た目に対して抱く印象とか得る情報量ってわかりやすくて多いと思うのですが、花譜のそれが変わったときに、自身の、もしくはそれを見るみんなの、何が変わるのか、すごく興味があって、ワクワクしています。

EMAと歌唱するテーマ曲「あるふぁYOU」の聴きどころ

激しさと静寂が同時に存在しているようで、恐ろしく美しい感じや、いつ消えてしまうかわからないけれど、力強く鮮やかである思いが、音に混ざって滲むようにあふれてくるのが、すごく素敵な曲です。初めてのEMAちゃんとのデュエットなので、私たちの声の重なりや混ざり合うところをしかと感じてほしいです。

展覧会概要

prompt_αUロゴ

αU research × KAMITSUBAKI STUDIO presents prompt αU

2023年3月8日(水)~31日(金)東京都 渋谷ZERO GATE

プロフィール

花譜(カフ)

2018年10月からYouTubeやInstagramで活動を展開しているバーチャルシンガー。作詞作曲は「命に嫌われている。」などで知られるボカロPのカンザキイオリが手がけ、キャラクターデザインはイラストレーターのPALOW.が担当している。2019年9月に1stアルバム「観測」をリリース。2022年8月にバーチャルシンガーとして初の日本武道館ワンマン「不可解参(狂)」を成功させ、2023年3月には3rdワンマンライブ「不可解参(想)」をバーチャルライブとして開催した。同3月に3rdアルバム「狂想」を発表。現在YouTubeの総再生回数は2億回を超え、国内外に熱狂的なファンコミュニティを持つ。

KAMITSUBAKI STUDIO(カミツバキスタジオ)

KAMITSUBAKISTUDIO

多種多様な次世代クリエイターたちとともにネットカルチャーの最先端を生み出す、YouTube発のクリエイティブレーベルおよびアーティストマネジメント。アーティストの育成と、オリジナルストーリーの原作開発を通じて、IPやエンタテインメントの未来の研究開発を目的としている。バーチャルシンガーの花譜やte’resa、カンザキイオリといったアーティストが所属している。