大事なのはひらめきをいかにキャッチするか
──アルバムの新曲についても聞かせてください。「WITH ALL DUE RESPECT」は本作の中でもっと激しいロックチューンですね。
川上 オープニングの「PROVOKE」、2曲目の「JULIUS」の次にはアルバムの中でも一番激しい音が欲しくて。ヤバいくらい歪んだサウンドにしたかったし、まくしたてるように歌う曲にしたかった。[Champagne]時代からそうなんですけど、僕らの曲にはラップなのか早口で歌ってるのかわからない曲がけっこうあって、「WITH ALL DUE RESPECT」はその最新版という感じです。今まではギターのコードに沿ってメロディを作ることが多かったけど、この曲はバンドの演奏で歌う中でメロディが生まれていった。Rage Against the Machineのザック・デ・ラ・ロッチャのように、サウンドに乗って歌えたのがよかったのかなと思います。
磯部 この曲では「Boy Fearless」と同じベースを使いました。洋平の兄ちゃんが使ってた通称“お兄ちゃんベース”。すごく特徴的な音なので、スタンダードな曲だと音が浮いちゃうんですけど、「WITH ALL DUE RESPECT」にはめっちゃハマるんですよね。ほかのベースも試してみたんですけど、やっぱりこの曲に合うのは“お兄ちゃんベース”だなと。リズムのアレンジも面白くて、歌やギターにガチで合わせにいったので、バシッとハマると超気持ちいいんです。レコーディングのときもめちゃくちゃ気持ちよく弾いてて、別に必要はないのにコーラスまで入れさせてもらいました(笑)。
──このリズムで歌ってみたかった、と(笑)。ドラマー的にも見せ場が多いですよね。
リアド そうですね。洋平のデモを聴いたときから「すげえな」って興奮したし、その時点でリズムのカッコよさがはっきりわかった曲です。攻撃的にワーッと叩くのではなくて、自然に叩くことを意識しながらレコーディングしました。
白井 ギターリフが曲を引っ張っていますけど、このリフは洋平が作ってくれました。けっこう[Alexandros]ではよくあることですけど、デモ音源やプリプロで録った音のほうがよかったパターンの曲です。ドラムはスタジオでちゃんと録った音のほうがいいんだけど、ギターの場合はそうとは限らないし、むしろ音が痩せてしまうこともある。「WITH ALL DUE RESPECT」もそうで、「デモ音源を再現するよりは、そのまま使ったほうがいいんじゃない?」という結論にたどり着きました。
──楽曲が生まれた瞬間のひらめきや、きらめきを大事にしたと。
白井 やっぱり初期衝動は大事だと思うんですよ。デモ音源に入れてる音は“なんとなく”で弾いてたりするんだけど、それがすごくよかったりするので。「WITH ALL DUE RESPECT」はまさにそれを生かした曲ですね。洋平が弾いたリフがそのまま残ってます。
川上 もうちょっとうまく弾けばよかった(笑)。白井くんもデモのギターに合わせてだいぶラフに弾いてくれてて。
白井 (笑)。
川上 白井くんが言ったように、初期衝動をどうコントロールするかはすごく大事なこと。ミュージシャンだけじゃなくて、クリエイターみんながそうだと思うんですけど、創造の始まりはひらめきからじゃないですか。それは計算して作れるものではないし、いつ思いつくかもわからない。だからこそ、最初に構成を決めておいて、ひらめきを出せる環境を作っておくことが必要だと考えた。全部行き当たりばったりでもダメだし、すべてをガチガチに決めてしまうのもよくなくて、そのどっちもがあるのが重要なのかなと。
──ある程度の枠を作っておいて、その中でクリエイティブを発揮するというか。
川上 そうですね。弾き方も音作りも歌詞もそうだけど、いつ、どんなものが出てくるかわからない。しっかり準備して、それをいかにキャッチするかが大事なんだと思います。
絶対に妥協しない洋平
──「超える」のレコーディングはどうでしたか?
川上 「超える」の制作は大きく2段階に分かれていて。最初は「いい曲なんだけど、もうちょっと何か欲しいよね」という感じだったので、「ひらめくまで時間ください」とメンバーにお願いして、ガーッと集中して作っているときにサビのメロディが出てきました。
リアド 最初にスタジオで合わせたときはもっとテンポも遅くて、今とは全然印象が違う曲だったんです。それはそれでよかったんですけど、形が変わって、今のようなスピード感のある曲になりました。
──いろんなトライ&エラーがあったんですね。
川上 そうですね。ほかの曲もそうなんですけど、自分が満足できるまで、完成を急がないようにしていたので。
磯部 洋平は自分の満足のボーダーラインを超えるまで、絶対に妥協しなかったんですよ。「完成を急がないようにしてた」とサラッと言いましたけど、近くで見ていて完成間近の曲をこんなに容赦なくぶっ壊せるってすごいなと思いました。
川上 もちろん周りに気も使ってるけどね(笑)。
磯部 わかってるわかってる(笑)。こだわればこだわるほど周りを巻き込むことになるし、その自覚は洋平もあると思うんですよ。それでも絶対に妥協しない。いいものを作ることに対する思いが本当に強いから。今作は特にそうでしたね。昔から彼のクリエイションは信用してるけど、今回はそれをよりよくするために俺は何をできるかを考えましたね。[Alexandros]のクリエイションに自分はどう関わるのか、どんな形で寄与ができるのかを改めて見つめ直したし、そこで見出したものもたくさんあって。今回の制作はそういう機会がたくさんありました。
白井 最初の形を壊して、また作って……というのは僕らがずっとやってきたことなんですよ。昔はその作業をする中で迷宮入りすることもありましたが、今作に関しては、建設的にそれができた。しっかり先を見ながら壊せているというか、客観的に見て「これもいいけど、こういうやり方もあるよね」という感じでやれているので、やり直すことへの怖さがあんまりないんですよね。
川上 そうかもね。
白井 長くやっているといろいろわかってきて、「こういう道をたどれば便利だし楽だな」ということもある。でもあえてそれを壊すことも大事だし、そういうやり方もキャリアの中で会得してきたのかなと……ロジックではそうなんですけど、渦中にいるときはそんな甘いもんじゃないな(笑)。現場のエネルギーって、やっぱりすごいんで。
機を待っていた「EVERYBODY KNOWS」
──「EVERYBODY KNOWS」もアルバムのポイントになる曲だと思います。ロックバラード的な楽曲ですが、とにかくメロディが素晴らしくて。
川上 ありがとうございます。この曲もだいぶ前からあったんですよ。アルバムの中では一番古いかも。前のアルバムに入れるかどうか迷ったんですけど、そのときは「ただグッドメロディなだけだな」と思っていて。でもずっとこの曲が頭の中にあって、今回新たにアレンジしてみて「これなら行ける」というところまで来たので、みんなにシェアしました。
磯部 俺は3年前からこの曲をやりたくてしょうがなかったんですよ。だって、めちゃくちゃいいじゃないですか。こんな曲が送られてきたら「洋平、すぐやろう!」って気持ちになって。
川上 実際、そのときもみんなで合わせたしね。
リアド そうだよね。
磯部 思い返せば、あの段階では“ただのロックバラード”だったかもしれないし、すぐに形にせずに時間を置いた洋平の判断は正解だったよね。ただ、俺は単純だから「いい曲だから早くやろう」という感じだったけど(笑)。
川上 機を待っていた感じですかね。「よし、この曲を完成させよう」という自分の気持ちも大事なので。
次のページ »
「お邪魔します」って入ってきたら面白いかな