[Alexandros]川上洋平&リアド偉武インタビュー|夢を語り合って、4人の周波数を合わせて

[Alexandros]が2月26日にニューシングル「SINGLE 3」をリリースした。

本作は昨年5月と9月にリリースされた「SINGLE 1」「SINGLE 2」に続く、「SINGLE」シリーズの完結編。あえて収録曲を冠さなかったこのシリーズの最後を飾る「SINGLE 3」には、テレビ朝日系のドラマ「プライベートバンカー」の主題歌「金字塔」をはじめ、新曲「Coffee Float」や2013年発表のアルバム「Me No Do Karate.」に収録されている人気曲の再録バージョン「Stimulator (:D)」がパッケージされている。

本作のリリースを記念して、音楽ナタリーでは川上洋平(Vo, G)とリアド偉武(Dr)にインタビュー。「SINGLE 3」の制作秘話やこだわりはもちろん、2021年4月のリアド正式加入から“周波数合わせ”をしてきたというバンドの現状など、たっぷりと話を聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / 伊藤元気

昔もらったレコーダーから発掘したリズム

──[Alexandros]にとって2025年最初のリリースはこの「SINGLE 3」になります。「SINGLE 1」「SINGLE 2」に続く、シングル3部作の完結編です。

川上洋平(Vo, G) 去年から「シングルを何作か出してから、次のアルバムにつなげたい」と計画していて、結果的に3部作になりました。

──楽曲のタイトルではなく、「SINGLE 1」「SINGLE 2」「SINGLE 3」という作品名にしたのはどうしてなんですか?

川上 単純に1曲目をシングルの冠にするのは違うなと思ったんです。「SINGLE 1」の「冷めちゃう」と「アフタースクール」、「SINGLE 2」の「Backseat」と「Boy Fearless」もそうなんですけど、メインをどちらにするか決められなかったし、決めたくなかった。なので、パッケージ全体を受け止めてほしいという気持ちもあってこのような形になりましたね。

──今回の「SINGLE 3」の収録曲も1曲1曲が際立ってますからね。1曲目の「金字塔」はドラマ「プライベートバンカー」の主題歌です。

川上 ドラマのスタッフの方と打ち合わせしたときに、どういう曲にするかというところから任せてもらって。候補としてはいろいろあったんですよ。もう少しポジティブな曲やスローテンポの曲、ちょっとコミカルな感じも考えていたんですけど、「金字塔」の元になるデモができたときに、こういうものがドラマに一番ハマるのかなと。

リアド偉武(Dr) 「THIS FES '24」(2024年10月に相模原で開催された[Alexandros]主催の野外フェス)が終わって、タイに旅行に行ってたときに洋平から「こういうリズム、面白くない?」と突然音源が送られてきたんです。本当になんの説明もなく音源が届いて「なんだこれ?!」って浮かれながら聴いてました(笑)。

川上 あのときリアドがタイにいたの、今知ったんだけど(笑)。昔、メンバーからボイスレコーダーを誕生日プレゼントでもらったことがあって、その中に曲の元になるようなものを録音してたんです。部屋の整理をしたときにそれが出てきて、「いいネタあるかな?」と聴いてみたら、1つだけ「このリズムパターンはいいな」と思うドラムの音源があって。たぶんサトヤス(前ドラマーの庄村聡泰)が適当に叩いたやつだと思うんですけど、そこからBPMを上げて、リアドにフレーズを解析してもらいました。

リアド うん。日本に戻ってから洋平と2人でスタジオに入って、リズムをさらに練ったんですよ。それがこの曲の大事な部分になっているし、すごく有意義な時間でした。[Alexandros]に入ってから、そういう作り方をしたことはあまりなかったので。

川上 うん。四つ打ちを入れてみたり、いろんなパターンを試せたのもよかったです。リズムの感じがちょっと「Waitress, Waitress!」に近くて、オマージュっぽくなっているのも興味深いですね。

左から川上洋平(Vo, G)、リアド偉武(Dr)。

左から川上洋平(Vo, G)、リアド偉武(Dr)。

──ベースやギターに関しては?

川上 まず自分でフレーズを入れて、デモ音源を作って。そこからマーくん(白井眞輝 / G)とヒロ(磯部寛之 / B, Cho)にも入ってもらって形にしていきました。みんなでスタジオに集まって……そうだ、俺、最近自宅にスタジオを作ったんですよ。集中してやれる一方で、いつまでもできるから終わりがないんですけど(笑)、ミュージシャンとしては最高です。

リアド リズムのアレンジにしても、もっと複雑なものを試してみたり、一番いいパターンを探して。イントロのドラムパターンも最初から決めていたわけではなくて、いろんなやり方を試す中で「これがカッコいいじゃん」って、今のものになりました。

川上 あとはメロディもこだわりましたね。メロディや歌ができないと「この曲を本当に形にするべきかどうか」というのも見えてこないので。あまり時間がなかったんですけど、スタッフの皆さんに無理を言って、締切をちょっと伸ばしてもらいました。

──クオリティを上げるための時間が必要だと。

川上 そうですね。ちょっとだけ裏話をすると、タイアップはすごくありがたいんだけど、完全に自分たちのペースや感覚で作れるわけではないし、テーマもあって。そこに向けて強制的に自分を追い込む能力と体力、精神力がすごく必要になってくるんです。すごくキツいし、自分にはあまり向いてないのかもしれないけど、制作はやっぱり楽しいんですよね。そうやって追い込まれないとできないものもあるし。あと僕はタイアップをコラボだと思っていて。台本を読んだり映像を観たりすることでいろんなインスピレーションを受けて、メロディや歌詞を書く。「Baby's Alright」(ドラマ「六本木クラス」主題歌)は自分のエゴがもっと強く出ていた気がして、それはそれでよかったんですけど、「金字塔」は“エゴ+co-working”をしっかり意識しながら作りました。

欲望とはとても美しく、ピュアでカッコいいもの

──歌詞についてはどうですか?

川上 いつもそうなんですが、自分としてはとても普遍的なことを書いたつもりです。ドラマの台本を読んだときにも感じたんですけど、お金絡みのことで何か事件が起きたとき、その発端になった人のことを「こいつ、悪いやつだな」と思うじゃないですか。でも、その人の深層心理を考えていくと、もともとは純粋や欲望というピュアな気持ちから始まってるというか。

リアド うん。

川上洋平(Vo, G)

川上洋平(Vo, G)

リアド偉武(Dr)

リアド偉武(Dr)

川上 ちょっと話がずれちゃうかもしれないけど、例えば子供が騒いでいると、親に対して「うるさい」ってクレームが来たりするじゃないですか。「注意していない親が悪い」という見方もあるけど、親のほうからしたら「子供をのびのび育てていきたい」という思いがあるかもしれない。そうやって考えていくと、実は悪いことをしようと思って悪いことをしている人なんていないんじゃないかと思うし、そうやって歴史を重ねて、今の社会が成り立ってるんじゃないかなと。

──まさに「金字塔」の歌詞にある「我々の歴史はいつもそう 夢で出来ていく」ということですね。

川上 そうですね。ちょっとクサいかなと思いつつ、やっぱりそれでしかないなと思ったので、そのまま書きました。

リアド 洋平って、メロディだけじゃなくて歌詞も何パターンも考えるんですよ。歌入れしているときも「こっちのほうがいいかな」ってアイデアが出てくることがあって、最後の最後までいろんなことを試して、それが曲の説得力につながるんです。音としてのハマりもそうですけど、そばで見ていてその姿勢はすごいなといつも思います。タイトルもいくつも候補があったんですよ。

──「金字塔」、[Alexandros]によく似合うタイトルだと思います。ドラマ「プライベートバンカー」には「人間にとってお金とは?」というテーマがありますが、お二人は“金を稼ぐこと”についてどう考えていますか?

川上 昔は「金持ちになって、いい車に乗って……」みたいなロックスターライフを夢見てましたけど(笑)、結局は音楽が好きですからね。もちろん家族がいれば、お金があることが安心につながるし、人によって使い方はいろいろでしょうけど、自分の場合はスタジオを作って、好きなように音楽を鳴らしたいとか、「あのギターが欲しい」とかそんな感じで。そういう欲望はとても美しいし、僕にとってはすごくピュアでカッコいいものなんですよ。そのために稼ぐ、自分たちが作った作品の対価を得ることは、とても素敵なことだなと思っています。

リアド 僕も洋平の考えに同調しますね。お金を稼ぐとか、日本ではそういう話をすること自体がタブー視されがちじゃないですか。別にそうじゃなくてもいいのにと思う。使い方に人柄が現れるにしても、お金を稼ぐこと自体は悪いことじゃない。ロックスターだけじゃなくて、どんな仕事でも、投資でも……自分自身は投資とかそういうのに興味はないんですけどね。

川上 俺も全然興味ないですね。

──では、音楽の話に戻って(笑)。「金字塔」はすでにライブでも披露されていて、洋平さん、ライブではアコギを弾いてますね。

川上 今のところはそうですけど、今後はもしかしたら弾かないかもしれないです。ライブハウスではギターを弾きながら歌っていても、もっと大きいステージではハンドマイクで歌うこともあって。自分の気持ち的なことなんだけど、もっとお客さんの近くに行きたいと思ったときにギターが邪魔に思えたりもするんですよね(笑)。僕のリズムギターを楽しみにしている、ちょっと変わった人もいらっしゃるかもしれないけど。

リアド 俺のことだ(笑)。「金字塔」を初披露したのはフェスだったんですけど、セットリストの最後に置いたんです。それを任せられるだけの曲だと思ったし、実際にやってみて「やっぱりその通りだった」という実感がありました。新曲を初めてやるときはどうしても一生懸命になりがちなんだけど、最初からこの曲の持つパワーをドン!と押し出せた。メンバーみんながオープンな感じで演奏できて、気持ちよかったですね。

──今後のライブでも活躍しそうな1曲ですね。

川上 そうなるといいですけどね。ライブは自分たちが好きな曲をやるだけではなくて、オーディエンスと作り上げていくものだし、お客さんの感触も大事なので。演奏したときのお客さんの反応次第で、バッターボックスに立てるかが決まってくるというか。「金字塔」、俺らの曲の中ではまだ新人ですからね。

川上洋平(Vo, G)

川上洋平(Vo, G)

リアド偉武(Dr)

リアド偉武(Dr)

自分にしか書けない「絶対、誰にも邪魔させない」ということ

──2曲目の「Coffee Float」はアレンジ、サウンドデザインが素晴らしくて。すごく独創的ですね。

川上 ありがとうございます。この曲はちょっと面白い作り方をしていて。作り始めたのは2年くらい前だよね?

リアド 2023年だね。

川上 「todayyyyy」(2024年12月配信)と同じ時期だったんですけど、UK.PROJECT([Alexandros]の所属事務所)のオフィスで作ったんです。ここ数年、事務所の会議室に小さいスピーカーを置いて、楽器を持ち込んで曲作りをするっていうのをよくやってるんですけど、その部屋に窓があって、気持ちいいんですよ。

リアド いいよね。

川上 場所代もかからないしね(笑)。事務所でリラックスしながら作れるのがすごくよくて、「Backseat」と「アフタースクール」もそこで生まれました。「Coffee Float」は作り始めたときから「シングルのBサイドにしたい」というイメージがあって。「金字塔」ができたときに、すぐに「『Coffee Float』とペアで出したい」と思いました。サウンドプロダクション的には、ギターのコードが最初だったかな? 確かMULLON(サポートギタリスト)が弾いてた気がする。

リアド リズムパターンもその場でサンプリングしたよね。

川上 そうそう。とりあえずデモを作ったんですけど、そのときのチープさだったり、枯れた感じの音がすごくよかったんです。「いずれはきれいな音で録りましょう」ということになってたんだけど、会議室で作ったときの雰囲気があまりにもよかったから、「これは変えないほうがいいな」と思って。その後、僕は「金字塔」のメロディ作りに集中しなくちゃいけなかったから、「後は3人(磯部、白井、リアド)で作ってください」と任せたんですけど、磯部スタジオでやってたんだっけ?

リアド うん。3人で形にして、さらに洋平のスタジオに行って。

──メンバーのスタジオを行ったり来たりしながら制作した、と。

川上 楽しかったです(笑)。

リアド よかったよね。この曲でドラムは生で叩いてなくて、全部プログラミングなんですけど、そういう作り方も好きなので。

左からリアド偉武(Dr)、川上洋平(Vo, G)。

左からリアド偉武(Dr)、川上洋平(Vo, G)。

──ドラムンベース的なテイストもあって、カッコいいですよね。この曲、ライブでやったらどうなるんでしょう?

川上 すごくいいと思いますよ。

リアド 洋平から「とりあえず3人でよろしく」と連絡が来たときも、「ライブでもやれるようにしたい」という伝言があったので、ライブのことを念頭に置いて制作を進めました。

川上 生ドラムを叩いたり、生ドラムにトリガーを噛ませたり、いろいろやってみたいですね。「Coffee Float」はライブで化ける曲だと思ってます。でも音源もカッコいいんですよ。ミックスは「Boy Fearless」と同じイギリスのLiam Nolanにやってもらったんです。すごく洗練されているし、バスドラの音もよく出てる。ボーカルもシャープに聞こえてくるんだけど、しつこくなくていいんですよね。

──歌詞も素晴らしいです。「僕らの時間は独創 他と一緒にしないで」という芯の強いフレーズもあって。

川上 自分でもいいフレーズが書けたと思ってます。「金字塔」はもっとオープンというか、関わっている人たちの気持ちも考慮して制作したんですけど、「Coffee Float」は自分にしか書けないこと、「絶対、誰にも邪魔させない」というところを出したくて。