秋山黄色|今、もっとも救われにくい人間に刺さる1stアルバム

終わってみたら、やっぱり楽しかった

──そのような試行錯誤を経て、ドラマ主題歌のオファーがあったわけですよね。脚本を読み、締め切りを守り……。

いや、守ってなかったです(笑)。その節は本当にすいませんって感じなんですけど(笑)。

──いわゆるタイアップって、アーティストに対する“お題”みたいなところもあると思うんです。このテーマ、こういうモチーフで曲を書いてほしいという話を受けて、最初はどういうふうに感じましたか?

秋山黄色(撮影:鈴木友莉)

最初は「じゃあ簡単じゃない?」と思いました。まったくのゼロから作るよりいいじゃん、って。でも実際は「自分、アホだったな」という感じですね。根本的な話として、1人を納得させればいいって話でもないことが抜けてました。結局自分の名義で出すわけだから、どうあっても自分の曲として出さないといけない。答案用紙があって、こういう問題が出てきて、それを全部クリアしたからといって100点の曲ができるわけじゃない。それは最初からわかってたことなんですけど、難しかったですね。

──どのあたりが大変でした?

「モノローグ」は一発でできた曲じゃないので……何曲作っても、ポイントは押さえているのに決定打にならないみたいなことの繰り返しで。結局もともとの自分と、プロフェッショナルになろうとしている自分とのせめぎ合いなんですよね。作品にすり寄せなきゃいけないし、その結果として削れていく部分が自分の譲れないものだったりする可能性もなくはないわけで。そういうのをなんとかすることを大人の言葉で「折り合いをつける」っていうんですけど、それでも100点にならないことが制作の途中で何度もありました。ベランダでゴローンって寝転がって星を見上げて「はあ……歌詞降ってこないかなあ……」みたいなことを思ったり。慣れないコーヒーを飲んで、カフェイン弱いんで、手がブルブル震えたりして(笑)。でも終わってみたら、やっぱり楽しかった。全部できあがってから言えることですけどね。

自宅スタジオを建てて大名曲を作る

──去年は大きなフェスに出たり、初ワンマンライブがあったり、それまでにない形での楽曲制作があったりと、いろんな経験があったと思います。振り返って、どういう時期だったと思いますか?

なんだろう。言葉はよくないけど“確かめてる期間”だったという感じがありますね。こういうことをやり始めて、いろんなアーティストと会って話したりする機会があるんですけど、圧倒的に僕がイメージする「これがアーティストだ」っていう感じの方が大多数で。「自分はやっぱりしょうもないやつなんだな」っていうのを最初に実感したんです。地元でずっと文句ばっか言いながら、ただ曲をたくさん作ってるっていうだけの人間だったんだって。そこから自分の本心では今後どうしていきたいんだろう、これからどんな作品を作りたいんだろうというのを、1つひとつ全部確かめていっている1、2年だったのかなと思います。やっぱり「だてに虐げられてきてないぞ」という意識があるんですよね。僕はただ文句を言って生きてきたわけじゃなくて、とにかく退屈していたので。それをなんとかしようと足掻いてきたクズだと思うんですよね。それがどれくらい本気で足掻いていたのか、そこで生まれた反骨精神だとか、目にもの見せてやるっていう意識がどれだけちゃんと自分の技術として身に付いているのか。それを確認していく時期でした。

──そして今は足掻いてきた中でつかんだものを世に問いかけているという感じですか?

秋山黄色(撮影:鈴木友莉)

結果的にそうなっているんですけど、結局、当時から今までずっと自分がやっていることが正しいと思っていたんです。なので、地元でこんなに虐げられているのはおかしいと思っていて。だから、どれだけ僕が正しいのかっていうのを確認している感じですね。結果、聴いてもらえる曲だったし、やる意味のあることをちゃんと考え続けてきたんだっていう。ただ文句言っているだけじゃないんだっていうのを確かめている感じですね。

──ライブに関してはどうでしょう? ライブは好きですか?

ライブは好きですね。想像してたよりも全然楽しい。大観衆の前で演奏しているっていうのを誰でも夢に見ると思うんですけど、実際に大きいフェスとかに出てみたら、現実のほうが全然楽しいという。演奏も好きなんですけど、なんて言うのかな、気合いの応酬みたいなところがあるじゃないですか。演奏して、レスポンスが返ってくる。スポーツ的な側面があって楽しいなって思います。昔、そんなことを言ったら「音楽もライブもスポーツじゃねえ!」って関係者にめっちゃ怒られたんですけど(笑)。

──この先についてはどうでしょう? 秋山黄色というアーティストが進んでいく道のりに関しては、どういうことを考えていますか?

例え砂漠にいても僕は同じことをやっていると思います。録音機材を用意してもらえればですけどね(笑)。聴いてくれる人がいなくても、おそらく曲を作っていると思う。結局自分はどこまでいっても退屈で、退屈しのぎに曲を作っていて、明日退屈しないための曲を今日書くという毎日を続けてきたので。作曲家としては、いつか大名曲を生みたいというのはありますね。

──名曲を作るために自分に必要なものはなんだと思いますか?

秋山黄色(撮影:鈴木友莉)

僕が言う“名曲”って、地元にいた頃と意味合いが変わってきているんですよね。地元にいた頃は、退屈しのぎに最適な曲が作れればほかはどうでもよかった。でも今は人に聴いてもらえる立場になってるので、ただ自分が好きな曲を作って終了だと嘘になる。評価も伴わなきゃいけない。だから今思うのは、自分がそれを好きだと思う感覚を誰よりも鋭くするということかなって思います。自分の深層心理との対話というか。

──ちなみに自宅スタジオは建てましたか? 話を聞いていて、そういう野望があるんじゃないかと思ったんですけど。

今はまだ建ててないですけど、絶対作ります! 音楽を作るときって、機材をつないだり、いろいろ面倒くさいことが多いんですよ。自宅スタジオがあれば思い付いたものをすぐに録れるから絶対よくなるし、建てたいですね。

──それはモチベーションになりますよね。お金が入ったらスタジオを建てる。

絶対に建てますね。あと、大きなお金をもらったら「お金もらった」って言いますよ。本心ではお金なんてどうでもいいって思ってるんですけど、今でも引くほど借金あるんで。それを全部返してスタジオを作ったら、たぶんめちゃくちゃ明るい曲ができると思います(笑)。「シャンパン飲んだぜ」みたいな。

──ははははは(笑)。

僕は嘘がつけないタイプなので。たくさんお金を持っているのに「♪胸の傷が」みたいな歌を歌っていたら「ふざけんな」って思うんですよ(笑)。なので、そういう呪いを込めた「From DROPOUT」を作りました。

ツアー情報

秋山黄色「一鬼一遊TOUR」
  • 2020年4月11日(土)愛知県 APOLLO BASE
  • 2020年4月12日(日)大阪府 Shangri-La
  • 2020年5月1日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
秋山黄色(撮影:鈴木友莉)