土蔵は130年、スネアは100年
──「フジエダ EP」は文字通り、藤枝で録ること自体が一番のコンセプトだったと思いますが、作品の方向性についてはどのようなイメージがありましたか?
後藤 「いろんな音で録れたらいいね」というのは言ってました。レコーディングにおいてはドラムがメインのところもあったので、特に潔は曲ごとに違うアプローチの音作りをしてくれて、それがすごくありがたかった。で、最後に速い曲がないといけないなと思って「膝栗毛」を書き足して。
──ゴッチさんとスタジオの話をする中で、Foo Fightersのスタジオ(アメリカ・ロサンゼルスにあるStudio 606)に行ったときの話もよくしてたので、「膝栗毛」を聴いてFoo Fightersを連想しました。
後藤 「膝栗毛」のような速い8ビートのいい曲は、やっぱり必要だよなと思って。デイヴ・グロールが自分のガレージで作ったのが「Wasting Light」(2011年4月リリースのアルバム)だったと思うから、そのことも想像しつつ。藤枝の土蔵は音響にはこだわってますけど、サイズ感はガレージに近いですからね。
──ドラムの音作りについて教えてください。
伊地知 普段だったら自分のセットを使うんですけど、藤枝には屋敷豪太さんに貸与していただいたソナーのキットがあったので、それを使わせていただいたら、いい感じのいなたさで。それがめちゃくちゃよかった。ドラムテックの北村(優一)さんと、1曲ずつ“キャラ”を変えるためにいろいろ相談しながら音作りをしたんですが、「膝栗毛」は100年前のスネアで録ったんです。100年前のラディック社のスチールのスネアなので、そのサウンドは注目して聴いてもらいたいです。歌詞の1行目が「100年経って残るのはフィジカル」で始まってて……それは偶然なんですけど(笑)。
──偶然なんだ(笑)。
後藤 音で選びました。土蔵は築130年なんですけど……まあ、歌にするには100年くらいがちょうどいいですよね。130年って歌いにくいし(笑)。
──タイトルはもちろん「東海道中膝栗毛」から来ているわけですよね。
後藤 そうですね。東海道のことを歌にしようかなと。商店街はどこの町に行っても更地になってたりするけど、残すことの大切さや、このスタジオができるまでの道のりの中で考えたりしたことを歌にした感じですかね。「おかえりジョニー」が1曲目だとちょっとイメージが違う気がして。むしろ「膝栗毛」みたいな曲を作ってるバンドが来たほうがこのスタジオは合うような気がする。やかましくシンバルをひっぱたきたいようなやつらこそ、優しく包み込む構造のスタジオになってるんですよ。普段「お前うるさい」って言われて、泣きながら叩いてるドラマーが来ても、ここではうるさくないから。
──都内の天井の低いスタジオだと「うるさい」と言われちゃう人も許容してくれる。
後藤 「本当はもっとしばきたいのに」と思いながら、シンバルを60%ぐらいで叩いてるやつも、ここだったら全力でぶっ叩けます。ただ、割られたら困るので自分のものを持ってきてほしい(笑)。
桑田佳祐、くるりに続きジョニーを
──先行配信された「おかえりジョニー」にはクラムボンの原田郁子さんがコーラスで参加しています。原田さんとは以前から接点があったのでしょうか?
後藤 あんまりないです。でもthe chef cooks meの曲にゲストで参加したり、クラムボンがHUSKING BEEとも仲よかったりするので、そんなに遠くない場所にいるというか、親和性はきっとあると思っていて。クラムボンはフェスとかにバンバン出るバンドでもないから、会う機会は限られていたんですけど、今回お願いできてよかったです。
山田 「おかえりジョニー」のようなストレートなビート感とテンポの曲って、アジカンでやってそうでやってなかった気もする。そこに気持ちよさがあるんだよね。ゴッチはデモを作るときにベースを親指で弾くんですけど。
後藤 そう。細野晴臣弾きしかできなくて。
山田 そのノリがすごくよかったので、序盤だけ初めて親指でベースを弾いてみました。作る人がそうやって弾いてるから、親和性があるというか、普通に2本の指で弾くより意味がある気がして。
喜多 今回のEPはディレクターとして「エンパシー」以来、ひさびさにシモリョー(下村亮介 / ex.the chef cooks me)が入ってくれてたので、この曲もシモちゃんと相談しながらブラッシュアップしました。曲自体は「ジョニーが故郷に帰ってくる」っていうテーマだったので、最終的にThe Beatlesの「In My Life」をオマージュしたフレーズも入ってます。
後藤 歌ってて、歌詞に「ジョニー」が出てきたときに、くるりの「ハイウェイ」に登場するジョニーが思い浮かんで、「あのジョニーが帰ってくるんだな」みたいなことを思ったんです。あの曲は無鉄砲な時期の若者のことを歌った曲だと思うんですけど、岸田くんに「『ハイウェイ』のジョニーが戻ってくる曲もいいかなと思ったんだよね」みたいな話はしてて。でも「飛び出せよ海へジョニー」は違う気がして、「ここは今の時代は女性なんだよな」と思ったときに、エリーかなと思って、そうしたら「笑ってもっとベイビー」も出てきちゃったんです。なので、「おかえりジョニー」は響き的に「いとしのエリー」もちょっとかけてて、くるりとサザンオールスターズを意識しながら歌詞を書いたりしました。
──くるりは「かごの中のジョニー」、桑田さんは「波乗りジョニー」もありますね(笑)。
後藤 そうですね。俺たちもジョニーを使わせてもらいました。
──The Beatlesの「In My Life」も故郷がテーマの曲だし、もともとクラファンの特典として作った「ペダルボート」も藤枝にある蓮華寺池公園を連想させる曲で。
後藤 そうですね。今回は静岡、自分の故郷に戻ることが1つのテーマになっていて、「ペダルボート」も蓮華寺池公園でパンダのレジャーボートを見たのがきっかけで書いたし、「藤の花の咲く頃」もあそこが藤の花の名所なので。で、「道が曲がりくねっても 君のこと忘れないって 彼らが歌ってる」は「チェリー」ですね。
──確かに! それで言うともちろん「ナンプラー日和」のことも聞いておかないとで。スピッツの三輪さんと田村さんが静岡出身ということもあって、今回カバーすることにしたそうですね。
後藤 そうです。みんなで何がいいかね?って話をする中で、山ちゃんからは「『夢追い虫』がいいな」みたいな意見もあったり。
山田 もともと好きだったし、みんなで聴いてみたときに、ギターの感じとか合いそうだなと思ったんです。
後藤 あとは「8823」とかね。「ペダルボート」も「おかえりジョニー」もちょっとゆっくりめのBPMなので、テンポがあるやつがいいなと思って。「ナンプラー日和」はリズムの跳ね方がパンクっぽいので、ほかの曲と差別化できると考えて選びました。本当はもっとターンスタイルみたいにやりたかったんですよ。もっとキックバチバチの、マイクもバウンダリーとかで録って、ギターもマーシャルみたいな歪みでゴンゴンやるのもありだったかなと。ただやっぱりスタジオがオーガニックなので、もう少しパワーポップ寄りの解釈でやりました。これはこれで素敵だなと思います。
──途中で喜多さんのボーカルが出てくると、一瞬「マサムネさんかな?」と思いますよね(笑)。
後藤 ジェネリックマサムネさん。まあ、じゅんいちダビッドソンみたいなもんですけどね(笑)。
喜多 本田圭佑でいうところの(笑)。
後藤 でもハッとしますよね。これを聴いてると、建ちゃんはずるいなと思います。すごい抜けてくる声なんですよ。独特な声だなと改めて思いました。
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